メンタルヘルス×エンゲージメント×人事評価制度=生産性向上!?
〜「従業員のメンタルヘルス対策とエンゲージメント向上に対する人事評価制度の機能」レポート発表〜
正しい人事評価の普及により、働く個人の給与アップと中小・ベンチャー企業の業績アップを目的として活動している一般社団法人スマートワーク推進機構(所在地:東京都中央区、代表理事:髙橋恭介、以下「スマートワーク推進機構」)は、「従業員のメンタルヘルス対策とエンゲージメント向上に対する人事評価制度の機能」と題したレポートを発表いたしましたので、お知らせいたします。
- ⒈ はじめに
2018年、一般社団法人健康職場推進機構が、産業医・精神科医師らによるアンケート調査とストレスチェック制度[1]で収集した約1300名のデータを基に、「人事評価制度・エンゲージメント」とストレスとの相関を分析した。 [健康職場推進機構, 2018] この研究結果を踏まえ、メンタルヘルス対策とエンゲージメント向上に対し、どのような条件を満たした人事評価制度が有効かを考察する。
1-2. 考察の結果
ストレスに関与する要因のうち、「意欲・キャリア向上」「評価の説明」「職責・責任の明確化」への取り組み不足が特に見出された。また、エンゲージメントの要素である「企業の理念・目標への理解」「仕事への貢献意欲」等がメンタルヘルスに好影響を与えており、これらを意図した人事評価制度を機能させれば、メンタルヘルスとエンゲージメントの相乗効果による生産性の向上が見込まれる。さらに、不安の抑制には、職責を明確化し、人と比較しないで行う評価制度に効用が期待できる。
1-3. 背景
1-3-1. 従業員の健康管理の重要性の高まり
厚生労働省は6月、2019年度の精神疾患の労災申請(2060件)、労災認定(509件)が共に過去最多であったと発表した。認定原因では、「ひどい嫌がらせ、いじめ、暴行」というパワーハラスメント関連が1位であり、次が「仕事内容・量の変化」であった。また、女性と20代からの申請が大幅に増加したことを公表している。 [厚生労働省, 2020]
<図表1> 精神障害に関する事案の労災補償状況
[1] ストレスチェック制度:労働安全衛生法第66条の10に定める「心理的な負担の程度を把握するための検査等」の通称。2015年12月から、労働者が50 人以上の事業所では、毎年1回、全ての労働者に対して実施することが義務づけられた。
いわゆるパワハラ防止法[1]が2020年6月(中小企業は2022年4月)に施行され、パワハラ防止対策が企業に義務づけられた。従業員のハラスメントに対する意識は今後も高まると考えられる。
1-3-2. エンゲージメントへの注目度の高まり
エンゲージメントの国際調査では、かねてより日本の順位が極めて低い。たとえば、米ギャラップ社2017年調査では世界139カ国中132位であった。しかも、国際調査「働きがいのある会社ランキング(Great Place To Work)」の2020年版では、日本企業による働きがいが「低下傾向」との回答は42.5%で、「改善傾向」26.6%を大きく上回ると報告されている。 [日本経済新聞, 2020/3/24]
経団連の中西宏明会長は、1月の労使フォーラムで、「エンゲージメント向上」を労使で取り組むべき最重要課題と位置づけた。 [日本経済団体連合会, 2020]
企業経営にとっては、従業員の健康が最終目的ではない。従業員の健康管理を労災防止・リスク回避の観点だけではなく、生産性向上、ひいては企業価値(株価)の向上につながる要素として捉え始めている。経済産業省と東京証券取引所が2015年から「健康経営銘柄」を公表し始めたように [経済産業省, 2020]、企業が戦略的に従業員の健康に配慮した経営をしているかどうかが、企業評価を左右する潮流となっている。 [日本経済新聞, 2020/7/7] [日本経済新聞, 2020/7/18] [日本経済新聞, 2020/7/28]
- 2. 研究報告書の内容
2-1. 研究の目的
「人事評価制度」と「エンゲージメント」に関する要因が就労者のメンタルヘルスに関与すると仮定し、それらの要因と、ストレスチェック制度におけるストレス判定との相関関係を検証する。
検証に基づき、「人事評価制度」と「エンゲージメント」が関与する「ストレス要因」や「緩衝要因」を特定して就労者のメンタルヘルス支援に役立てることを目的とする。
2-2. 研究の方法
医療法人社団平成医会が2017年8月から2018年3月にかけて実施した「ライフ&ワークリサーチ調査」の受検人数1,371名のうち、ストレスチェックも受検した1,322名のデータを対象とする。
「ライフ&ワークリサーチ調査」の設問は、平成医会の精神科専門医と産業医経験者が就労者のメンタルヘルスに関わる要因を抽出した「個人の特性/習慣(ライフリサーチ)」85問と、「職場/職業/環境因子(ワークリサーチ)」50問の合計135問で構成される。ワークリサーチの中から「人事評価制度」と「エンゲージメント」に関係する14問を抽出し、4つの回答群(そうだ、まあそうだ、ややちがう、ちがう)別に、設問ごとにストレスチェックの判定結果と比較分析を実施した。
2-3. 結果分析
2-3-1. 結果
全体のストレスチェック判定の分布は、高ストレス者17%、健康者52%であった(図表2)。
<図表2> ワークリサーチ受検者のストレスチェック判定
[1] パワハラ防止法:「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(略称:労働施策総合推進法)第30条の2
2-3-1. 全般的な分析
抽出した14問中、12問で「ややちがう」「ちがう」の回答(否定的回答)者に高ストレス者が多く、健康者が少ない[1]。高ストレスを招く否定的回答者が65%以上を占めた設問は図表3に示す4問であった。
<図表3> 否定的回答者が多い設問
[1] 例外は、「そうだ」と「ちがう」の両方に高ストレス者が多い「W20.評価が気になるか」と、「そうだ」「まあそうだ」に高ストレス者が多く、「ややちがう」「ちがう」に健康者が多い「W40.仕事の出来に不安があるか」である。
2-3-2. 設問ごとの分析
「ちがう」との回答者に「高ストレス者」が50%以上を占める設問は、図表4のとおりである。
<図表4> 「ちがう」回答に高ストレス者が多い設問
一方、「そうだ」との回答者に「健康者」が顕著に多い設問は、「ややちがう」「ちがう」という否定的な回答の占める割合が多かった図表3の設問と全く一致する。
- 3. 人事評価制度の要件の考察
メンタルヘルス対策の2本の柱は、「組織的な予防」と「不調者の早期発見」であると言われている。これは、「組織(人員、業務の配置)」と「ライン(目配り、声かけ、助け合い)」の両面での対応が欠かせないということである。
ストレスチェック制度は、回答結果の集団分析を通じて組織的な予防対策に利用できる。一方で、結果分析であるためラインでの早期発見には適していない。日常的にラインで機能させるという観点から、(内容や運用の良し悪しは別として)どの会社にも存在するはずの、人事評価制度の活用を提案したい。直属部下やラインメンバー同志の働きぶりに常日頃から関心が向くような評価制度であれば、不調サインの発見につながるからである。部下の育成やチームワークの効率が評価対象となるような制度であれば可能である。
3-2. 研究報告書の調査結果からの考察
調査設問に対し「ややちがう」「ちがう」という否定的な回答者に高ストレス者が多く、否定的回答が多かった設問に「そうだ」と回答した者に「健康者」が顕著に多いことから、否定的回答の割合をいかに減らし、「そうだ」の回答率を上げるかが、課題であるとわかる。
否定的回答の割合が高い設問は図表3に掲げた4問であるが、その中で次の2つは具体的な問いかけであるため、対応を比較的導き出しやすい。
W13.「意欲を引き出したりキャリアに役立つ教育が行われている」
W10.「人事評価の結果について十分な説明がなされている」
さらに、「ちがう」という回答者に「高ストレス者」が50%以上を占める図表4の設問も、問いかけは具体的であった。
W1. 「自分の職責や責任が何であるかわかっている」
W6. 「私は上司からふさわしい評価を受けている」
まずはこれら4問に「そうだ」と回答してもらえる対策を優先的に打てば、高ストレス予防への大きな効果が期待できる。つまり、人事評価制度において「職責の明確化」「評価への納得性」「結果への十分な説明」を確保し、評価に基づく適切な「意欲・キャリア向上のための教育」を実施することである。
3-3. 研究報告書のクロス分析からの考察
図表3に掲げた否定的回答が多かった4問のうち残りは次の2つの設問で、対策を簡単には編み出せない。
W14.「仕事でエネルギーをもらうことで自分の生活がさらに充実している」
W16.「仕事をしていると活力がみなぎるように感じる」
この2問には、「そうだ」の回答者が少ない一方、「そうだ」に占める健康者の割合は、抽出した14問中の1位と2位である。
研究報告では、多様な個人特性との関連を検証する目的で、ライフリサーチも含めた全135問とのクロス分析も実施している。このクロス分析から上記2問への対応を考察した結果、この2問への「そうだ」回答グループの特性は、次のとおりであった。
・仕事への誇りを持っている
・社会から受ける評価や感謝へ満足している
・夢や目標がある
・収入や処遇を上げたい気持ちが強い
人事戦略コンサルティングのグローバル企業、ウイリス・タワーズワトソンは、従業員エンゲージメントを「従業員それぞれが、企業が実現しようとしている戦略や目標を理解し、腹落ちして、そこに向かって自らの力を発揮しようとする自発的な貢献意欲」と定義している。 [ウイリス・タワーズワトソン, 2012]
この定義と、上述の「そうだ」回答グループの特性を照らせば、適合性が高いことがわかる。したがって、否定的回答が多かった上記2問の「そうだ」の回答比率を上げれば、メンタルヘルスとエンゲージメントの双方への好影響が見込まれる。
方策には、目標管理制度があげられる。この制度は、会社全体の理念や目的を組織へ順次ブレークダウンし、各人の職責に応じた目標を設定する仕組みであるため、仕事の意義への理解・共感を深めることができる。ただ、目標管理制度を真に機能させるためには、経済環境や経営戦略に即した進化が不可欠である。従業員各自の目標が全社目標につながることを実感でき、結果のフィードバックを受け、やりがいが高まる制度であってこそ、効果が発揮される。
3-4. 研究報告書の不安要素の考察
新型コロナウイルス拡大に伴い在宅勤務をする人が増える中、仕事の出来や評価などに対する不安の高まりから、「テレワークうつ」という言葉も聞かれるようになった。 [日本経済新聞, 2020/7/8] [日本経済新聞, 2020/7/27] そこで、研究報告書中の、仕事にかかわる不安に関連する設問に着目し、クロス分析からその対策の糸口を探った。
まず、「評価が気になる」「上司からふさわしい評価を受けていない」と考える者には高ストレス者が多く、そのグループの特性は「人をうらやんだり、ねたんだりする」「よく人と比較する」との回答率が相対的に高いことであった。評価への不信や不満を抱いている高ストレス者は、人と比較する傾向が強いようである。
また、「自分の仕事がきちんと出来ているか不安がある」としながらも健康者に分類されたグループは、「上司は誠実な態度で対応してくれる」「努力して仕事をすれば、ほめてもらえる」と回答する割合が相対的に高かった。不安があっても、上司が仕事のプロセスを見守り、評価してくれれば、ストレスがかかりにくいことがわかった。
テレワーク推進が避けられない状況にあって、従業員の不安を払拭し、かつ生産性を上げるためには、各人の仕事の見える化を実施し、遠隔であっても適時の声かけや指導・サポート、適正な処遇が必須である。それを実現する鍵の一つが人事評価制度である。 (了)
- 引用文献
厚生労働省: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11975.html
- 参照文献
経済産業省: https://www.meti.go.jp/press/2019/03/20200302002/20200302002.html
日本経済新聞: https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61639190X10C20A7PPE000/
日本経済新聞: https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61934230X20C20A7DTA000/
日本経済新聞: https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61888540T20C20A7TJC000/
日本経済新聞: https://www.nikkei.com/article/DGKKZO61250520X00C20A7TCN000/
日本経済新聞: https://www.nikkei.com/article/DGKKZO57132760T20C20A3TJ1000/
日本経済新聞: https://r.nikkei.com/article/DGKKZO61934230X20C20A7DTA000?s=3
日本経済団体連合会: http://www.keidanren.or.jp/journal/times/2020/0130_03.html
- <別添>
1.「そうだ」に健康者が多い設問W14. とW16.の考察
W14.「仕事でエネルギーをもらうことで自分の生活がさらに充実している」×「そうだ」×健康者
クロス「L24.夢や目標がありますか?」→「明確な夢や目標がある」59%(一般回答:15%)
クロス「L25.理想の自分になるために、どのくらい努力しますか?」
→「非常に辛くても努力する」31%(同:5%)
クロス「W16.仕事をしていると活力がみなぎるように感じる」→「そうだ」65%(同:4%)
クロス「W17.自分の仕事に誇りを感じる」→「そうだ」71%(同:11%)
クロス「W43.感謝されることが多い仕事ですか?」→「そうだ」39%(同:8%)
クロス「W44.現在の仕事や職場が社会的に認められ(地位、信用、社会貢献など)満足していますか?」
→「そうだ」45%(同:5%)
W14.「仕事でエネルギーをもらうことで自分の生活がさらに充実している」×「ちがう」×高ストレス者
クロス「W17.自分の仕事に誇りを感じる」→「ちがう」44%(一般回答:12%)
クロス「W43.感謝される事が多い仕事ですか?」→「ちがう」37%(同:16%)
クロス「W44.現在の仕事や職場が社会的に認められ(地位、信用、社会貢献など)満足していますか?」
→「ちがう」43%(同:14%)
W16.「仕事をしていると活力がみなぎるように感じる」×「そうだ」×健康者
クロス「L24.夢や目標がありますか?」→「明確な夢や目標がある」66%(一般回答:15%)
クロス「L25.理想の自分になるために、どのくらい努力しますか?」
→「非常につらくても努力する」32%(同:5%)
クロス「L26.友人や仲間が自分よりも高い地位やお金を手にしたとき、どう感じますか?」
→「くやしいと感じる」14%(同:25%)
クロス「L27.収入や地位をあげたいという気持ちが強いですか?」
→「非常に強い」42%(同:17%)
2.不安要素の設問W6. W20.W40.のクロス分析
W6. 「私は上司からふさわしい評価を受けている」×「ちがう」×高ストレス
クロス「L28.人をうらやんだり、ねたんだりする気持ちが、どのくらいありますか?」
→「非常にある」14%(一般回答:6%)。
クロス「L31.人と比較することがどのくらいありますか?」
→「よく人と比較する」16%(健康グループ:0%)
W20.「お客様や利用者、営業先、および上司からの評価が気になりますか?」×「ちがう」×高ストレス者
クロス「L25.理想の自分になるために、どのくらい努力しますか?」
→「努力をするくらいなら現状のままでよい」30%(一般回答:7%)
クロス「L27.収入や地位をあげたいという気持ちが強いですか?」
→「全くない」35%(同:5%)
W20.「お客様や利用者、営業先、および上司からの評価が気になりますか?」×「そうだ」(注)×高ストレス者(注:この設問は「ちがう」と「そうだ」の両方に高ストレス者が多い)
クロス「L28.人をうらやんだり、ねたんだりする気持ちが、どのくらいありますか?」
→「非常にある」31%(一般回答:6%)
W40.「自分の仕事がきちんと出来ているか不安がありますか?」×「そうだ」×高ストレス者
(注:この設問は「そうだ」との回答者に高ストレス者が多い)
クロス「W25.いつも責任が重いと感じていますか?」→「そうだ」41%(一般回答:10%)
クロス「W26.わずかなミスも許さないと感じていますか?」→「そうだ」45%(同:10%)
W40.「自分の仕事がきちんと出来ているか不安がありますか?」×「そうだ」×健康者
(注:「そうだ」との回答者でも30%は健康者に属した)
クロス「W4.上司は誠実な態度で対応してくれる」→「そうだ」43%(一般回答:19%)
クロス「W5.努力して仕事をすれば、ほめてもらえる」→「そうだ」37%(同:15%)
以上
- 【一般社団法人 スマートワーク推進機構 概要】
所在地 :〒104-0061東京都中央区銀座6-10-1 GINZA SIX 11F(株式会社あしたのチーム内)
理事 :代表理事 髙橋 恭介(株式会社あしたのチーム 代表取締役社長)
理事 島田 潔(医療法人社団 平成医会 理事長)
理事 島田 慎二(株式会社千葉ジェッツふなばし 代表取締役社長 / Bリーグ チェアマン /
日本トップリーグ連携機構 理事)
理事 田中 道昭(立教大学ビジネススクール教授)
理事 新田 信行(第一勧業信用組合 会長)
理事 元榮 太一郎(参議院議員 法律事務所オーセンス代表弁護士/
弁護士ドットコム株式会社代表取締役会長)
URL :https://smartwork.or.jp/
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