計算力は高いのに、自信がない日本の子どもたち 〜小4・中2 国際調査からわかった 意識と実力のギャップ〜
スプリックス教育財団 基礎学力と学習の意識に関する保護者・子ども国際調査2025
2025年12月4日
概要
公益財団法人 スプリックス教育財団(本部:東京都渋谷区/代表理事:常石 博之)は、基礎学力に対する意識の現状を把握することを目的に、「基礎学力と学習の意識に関する保護者・子ども国際調査2025」を実施しました。今回の第5回目の報告では、子どもの「計算への自信」および「計算が好きか」の国際比較に焦点を当てます。調査結果のポイントは以下のとおりです。
調査結果のポイント
(1) 日本国内での学年変化:「好き・自信」は中学で急落
日本国内の傾向を見ると、小学4年生では「計算が好き」で「自信がある」という肯定的な回答が大多数を占めました。しかし、中学2年生になると、「計算が好き」「自信がある」という肯定的な回答が激減することが明らかになりました。
(2) 計算に対する意識の国際比較:「好き」「自信」は他国より低く、中学でさらに急落
アメリカ、イギリス、フランス、南アフリカ、中国と比較すると、日本の小学4年生は「好き・自信」の肯定的な回答の平均値が低いことがわかりました。中学2年生になるとその意識はさらに急落し、6カ国の中で唯一否定的な領域にまで低下することもわかりました。
(3) 計算力の国際比較:意識とは対照的に、計算力は高い水準を維持
計算テストの結果を見ると、日本の小学4年生は、他国と同等に高い正答率を示しました。さらに中学2年生では、他国と比較しても高い水準の正答率となりました。これは、計算に対する否定的な意識とは対照的に、日本には基礎学力が着実に定着する土壌があることを示唆しています。
調査の背景
PISAやTIMSSに代表される国際的な学力調査において、日本の子どもたちは長年にわたり、算数・数学分野で世界トップレベルの学力を示してきました。しかし、これらの調査は同時に、算数・数学に対する「自信」や「楽しい」といった肯定的な意識が、国際平均と比べて低いという課題も浮き彫りにしてきました。「能力は高いが、自信はない」というこの相反する傾向は、日本の教育における長年の課題となっています。
これまでの調査の多くは、算数・数学という広い領域を対象としていました。そこで本調査では、より基礎的なスキルである計算に焦点をあてました。算数・数学の基礎的な土台である計算においても、「自信」や「好き」といった肯定的な意識をもつ子どもが国際的に低いままなのでしょうか。本調査では、この計算に対する意識が、小学4年生から中学2年生にかけて、他国と比較してどのように変化するのかを検証しました。
調査方法

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調査テーマ |
基礎学力と学習の意識に関する保護者・子ども国際調査2025 |
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調査時期 |
2025年4月~7月 |
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調査対象 |
世界6か国の小学4年生および中学2年生相当の子ども |
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調査方法 |
(1) インターネットパネル調査 [アメリカ、イギリス、フランス、南アフリカ、中国] (2) 調査参加校の教室での実施 [日本] |
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調査主体 |
スプリックス教育財団が以下に委託して実施 (1) 株式会社クロス・マーケティング (2) 株式会社スプリックス |
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回答者数 |
(1) 各学年150人 [アメリカ・イギリス・フランス・南アフリカ・中国] (2) 小4: 300人程度、中2: 100人程度 [日本] |
留意事項
・ 日本国内の調査では、ある特定の地域に注目し、子どもたちの意識や学力の「経年変化」を継続して追跡することを目的としています。そのため、日本の調査対象は、無作為抽出によるものではありません。しかし、小学4年生・中学2年生ともに同地域内の学校を対象としているため、本レポートで示す学年間の変化は、調査地域の違いによる影響を排除したものとなっています。
・ 日本のデータは匿名性保持のため、正確な調査対象者数を非公表としています。
・ 本レポートでは分析の便宜上「日本」と表記していますが、これは日本全体を代表する結果ではなく、あくまで当該地域の結果である点にご留意ください。
・ 計算テストの内容は後述の「備考:計算テストの内容」をご参照ください。
・ 本リリースに関する内容をご掲載の際は、必ず「スプリックス教育財団調べ」と明記してください。
調査結果
(1) 日本国内での学年変化:「好き・自信」は中学で急落
はじめに、日本国内の傾向として、小学4年生から中学2年生にかけて、計算に対する意識がどのように変化するのかを見ます。

図1(a)は、日本の小学4年生による、「計算が好き (縦軸)」および「計算に自信がある (横軸)」に対する、5段階評価の回答の組み合わせが、それぞれ全体の何パーセント(%)を占めるかを示した分布です。 色が濃いマスほど、その回答を選んだ子どもの割合が高いことを意味します。例えば、右上の最も色が濃いマスは26.1%となっており、これは小学4年生の4人に1人以上が「計算が好き(そう思う)」であり、かつ「計算に自信がある(そう思う)」と回答したことを示しています。このように、回答は肯定的な意識を示す右上の領域に集中しており、小学4年生の時点では計算に対して前向きな意識が大多数を占めていることがわかります。
一方、図1(b)の中学2年生の結果を見ると、その傾向は一変します。小学4年生では26.1%を占めていた右上の最も肯定的な領域(「好き」かつ「自信あり」)は9.7%へと大きく割合を減らしました。代わりに回答が集中したのは「どちらともいえない」の中間層(15.1%)や、左下の否定的な領域です。この2つの回答分布の比較から、中学に進む過程で、計算に対する前向きな意識が急速に失われ、否定的・中間的な意識へと大きく分散していく様子がわかります。
(2) 計算に対する意識の国際比較:「好き」「自信」は他国より低く、中学でさらに急落
日本国内で見られた、計算に対する意識の低下傾向は、他国と比較してどうなのでしょうか。

そこで、計算への意識の変化を6カ国で比較するために、「あなたは計算が好きですか」「あなたは計算に自信がありますか」という2つの質問に対する5段階評価を数値化しました[注1]。そして、この平均値を散布図としてプロットしたのが図2(a)です。横軸に「計算への自信」、縦軸に「計算が好き」をとり、小学4年生(●:始点)から中学2年生(×:終点)への意識の変化を、国別の矢印で示しています。グラフの右上(5点に近い)ほど、肯定的(好き・自信がある)な状態を意味します。
[注1] 「そう思う」を5点、「ややそう思う」を4点、「どちらともいえない」を3点、「あまりそう思わない」を2点、「そう思わない」を1点として換算し、国・学年ごとに「好き」「自信」それぞれの平均値を算出。
まず、日本だけでなく、調査したすべての国で、矢印が左下(否定的な回答)へ向かっていることがわかります。これは国際的に共通した傾向であり、学年が上がり学習内容の難易度が上がるにつれ、「好き」「自信」といった肯定的な意識が保ちにくくなるためだと考えられます。
次に、日本の結果(赤色の矢印)に注目します。小学4年生(●)の時点で、すでに他5か国と比較して「好き」および「自信」がともに低い位置していることがわかります。中学2年生(×)になると、日本は「好き」「自信」ともに大幅に低下(矢印が長い)しています。 さらに、日本は6カ国の中で唯一、「どちらともいえない」にあたる平均値3.0を下回る「否定的」な領域に位置しており、国際的に見ても計算に対して否定的な意識を持っていることが分かりました。
(3) 計算力の国際比較:意識とは対照的に、計算力は高い水準を維持
計算への意識に関しては、他国に比べて日本の子どもは否定的な傾向にあることがわかりました。では、客観的な「計算力」についてはどうでしょうか。
図2(b)は、小学4年生および中学2年生の各国の「計算テストの平均正答率」を示したものです。問題内容は学年に合わせた別の難易度となっています(備考参照)。なお、日本と他5カ国では実施形式や解答形式が異なるため単純な比較はできませんが、本分析ではすべての国に共通して出題された以下の15問を使用しました。
<小学4年生>
3桁どうしの足し算(2問)/ 2桁どうしの引き算(1問)/ 3桁どうしの引き算(2問)/ 2桁以上の数を使った掛け算(5問)/ あまりのある割り算(1問)/ 分数の足し算(2問)/ 小数の足し算(2問)
<中学2年生>
正の数・負の数の計算(6問)/ 文字式の計算(4問)/ 一次方程式(5問)
小学4年生の時点では、日本の正答率は75%と、他国と比較しても標準的な水準でした [図2(b)左]。 注目すべきは中学2年生の結果です [図2(b)右]。学習内容が難しくなる中学2年生の計算問題において、他国の正答率が50%程度にとどまりましたが、日本の正答率は80%と、相対的に高い正答率を示しました。このように、意識面では否定的な傾向が見られる一方で、実際の計算力においては、学習内容が高度になっても基礎学力が着実に定着していることがうかがえます。
まとめと考察
今回の調査では、特定の地域に限られますが、日本の子どもたちの「計算に対する意識」と実際の「計算力」との関係を、他の5か国と比較しました。その結果、「計算が好き」「自信がある」と答えた割合は、日本の小学4年生では他国と比べて低い水準にあることが明らかになりました。中学2年生になると、その割合は一段と下がり、6か国の中で唯一、否定的な領域に入ることが分かりました。一方、計算テストの成績に着目すると、小学4年生の時点では他国と比較して際立って高い水準ではありませんでしたが、中学2年生では相対的に高い正答率を示しました。
このような「能力は高いが、自信は低い」という傾向は、PISAやTIMSSなど他の国際調査で指摘されてきた、日本の算数・数学全般に共通する特徴とよく似ています。今回の結果から、算数・数学の基礎的な土台である「計算」においても、同様の傾向が確認されました。
以上の結果からは、日本の子どもたちの計算に関して、主に2つの点が示唆されます。
第一に、小学校から中学校にかけて、日本の学校教育が十分に機能し、高い計算力が着実に定着しているという肯定的な側面です。実際、小学4年生の時点では正答率が他国より高くなかったにもかかわらず、学習内容が難しくなる中学2年生の段階で他国に比べて高い正答率を示しました。
第二に、その高い能力とは対照的に、「好き」「自信」といった肯定的な意識は国際的に見ても極めて低く、これは改善すべき課題であるという点です。計算に対する自信の欠如は、将来的に学習意欲や進路選択の幅を狭めてしまうおそれがあります。
このように本調査結果は、計算力を確実に身につけさせると同時に、その能力に見合った「自信」や「学ぶ意欲」といった肯定的な意識をいかに育むかが、今後の日本の教育における重要な課題であることを示しています。例えば、本調査を含む様々な国際調査で明らかにされてきた「世界トップ水準の算数・数学力」という強みを、客観的な事実として子どもたち自身や周囲の大人が再認識し、肯定的に捉えていくことが重要かもしれません。課題だけでなく、こうした「良い点」にも目を向けることが、自信を回復し、学ぶ意欲を育むきっかけになる可能性があります。
本報告は、「基礎学力と学習の意識に関する保護者・子ども国際調査2025」に基づく第5回目の報告です。今後も継続的に調査結果を公表し、国や学年ごとの特徴を明らかにしていく予定です。
備考:計算テストの実施概要
本調査で実施した計算テストの形式は、参加国によって内容が異なります。
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インターネットパネル調査のグループ:TOFASの問題を一部抜粋した短縮版(全32問)を実施しました。回答形式は4肢択一の選択式です。
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教室で参加したグループ:学校の教室において、国際基礎学力検定TOFASの計算テストを受験しました。回答形式は、選択式と記述式を併用しています。
本レポートにおける6か国・2学年(小4・中2は学年に合わせた別の難易度)の計算習熟度の比較では、両グループに共通して出題された問題15問の平均正答率を用いて行っています。比較で用いた15問のほとんどは、当該学年の前学年で学習する基礎的な計算問題(問題構成は本文参照)です。例えば、小学4年生では「43×2」、中学2年生では「(5x−9)−(−x−4)」といった内容が含まれます。
なお、TOFAS(国際基礎学力検定)の詳細は下記よりご確認ください。
備考:関連調査一覧
国際調査
・ OECD生徒の学習到達度調査2022年調査(PISA2022)
・ 国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)2023
■公益財団法人スプリックス教育財団 概要
公益財団法人スプリックス教育財団は、社会的支援を必要とする学生に対して奨学金の支給を行うほか、教育に関する調査研究を行いその成果を広く一般に公表し、もって青少年の健全な育成に寄与することを目的としています。
名 称:公益財団法人スプリックス教育財団
設 立:2023年4月
代表理事:常石 博之
事業内容:奨学金の支給、調査研究
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