<開催レポート>「違いは、コストではなく力になる」宮森千嘉子 × 佐宗邦威氏が語る、BANI時代の組織文化

〜心理的安全性だけでは組織は成長しない。知的誠実性、CQ(文化の知能指数)そして"複数コミュニティ"の時代へ。青山ブックセンターにて特別対談を開催〜

アイディール・リーダーズ株式会社

アイディール・リーダーズ株式会社(東京都千代田区、代表取締役CEO 永井 恒男)は、2026年4月14日(火)、青山ブックセンター本店にて、弊社CCO(Chief Culture Officer)の宮森千嘉子と、戦略デザイナーの佐宗邦威氏(株式会社BIOTOPE 代表)を迎えた特別対談イベントを開催しました。テーマは、不確実性が増す"BANI時代"における組織文化のあり方です。AIの台頭と社会の急速な変化が重なるなか、組織のなかで個人の"妄想(ありたい姿)"をどう活かし、違いをどう力に変えていくのか──。両氏は、心理的安全性と知的誠実性の両立、CQ(文化の知能指数)の重要性、そして「違いは力(Difference is Power)」という視座から、これからの組織文化を語り合いました。会場には約50名の人事・組織開発・経営企画の実務家が集まり、活発な質疑応答が交わされました。

<開催レポート>「違いは、コストではなく力になる」宮森千嘉子 × 佐宗邦威氏が語る、BANI時代の組織文化

◾️ 開催背景:なぜ今、"組織文化"なのか

冒頭、佐宗氏は今回のテーマ設定の意図について「AIの時代に突入しつつあるなかで、人間は何をするのかを考えさせられている。そのなかで自分たちの"らしさ"をつくる場所に、組織文化があるのではないか」と語りました。組織文化はしばしば、不正や硬直化の文脈で「課題」として語られています。しかし佐宗氏は、新しいものを生み出すため、自社のパーパスや理念に近づくための"使い方"こそ、これから問われていくと指摘しました。宮森もまた、文化を「組織のなかで個人の内発的動機、すなわち"妄想"を活かし、その人自身の幸せにつなげていくための土台」と位置づけ、二人の対話は始まりました。

◾️ サマリー1.BANI時代に、なぜ"妄想"が必要なのか

宮森はまず、現代を「VUCA」を超えたBANI時代として整理しました。

Brittle(脆い):外側は整って見えても内側から崩壊する脆弱性

Anxious(不安):理由のない不安が常にまとわりつく

Non-linear(非線形):原因と結果がつながらない

Incomprehensible(理解不能):そもそも何が起きているか分からない

このような時代に、個人の「ありたい姿(妄想)」を語ることは容易ではありません。佐宗氏は次のように述べました。

「自分の立ち位置自体がすごく不安になる時代。いきなり妄想せよと言われても、そんなに簡単には湧いてこない。」(佐宗氏)

ゆえに、両氏が一致して指摘したのは「順序」の重要性でした。まず、チームや組織でお互いの不安を受け入れ合う場をつくること。その上で初めて、個人の"妄想"を引き出していく。このプロセスを飛ばすと、組織は前に進めません。

組織は今、"成果を最大化する装置"から、"個人の不安を吸収するコミュニティ"としての役割を併せ持つ存在へと、その本質を更新しつつあります。

◾️ サマリー2.心理的安全性だけでは、組織は成長しない ── 知的誠実性との両立

対談の中盤、宮森は「心理的安全性 × 知的誠実性」の二軸マトリクスを提示しました。

心理的安全性 × 知的誠実さのマトリックスと組織文化(出典:Ideal leaders)

・心理的安全性:何を言っても責められない、ここにいていい、と感じられる環境

・知的誠実性:間違っているかもしれないと思っても、相手が上司であっても、自分が真実だと考えることを声に出せる文化

「心理的安全性は重要です。しかしそれだけでは、組織は"居心地の良いぬるま湯"に陥り、成長が止まる」と宮森は語りました。両軸を満たした右上の象限こそが、共創(イノベーション)が起こる組織です。会場では参加者にQRコードからの簡易セルフ診断が行われ、多くの参加者が、自社が「最小化」や「心地よい停滞」の象限に位置しているという気づきを共有しました。


佐宗氏は、自身が経営するBIOTOPEでの実体験を率直に語りました。心理的安全性を重視するあまり、メンバー同士が忖度し合い、予定調和に落ち着いてしまう時期があったとのことです。

「そこから一歩出るために、パーパスとバリューを明確にしました。バリューさえ守っていれば何をしてもいい、という状況をつくったとき、メンバーが自律的に提案や議論をするようになった」(佐宗氏)

さらに重要だったのは、創業者である自分自身が"弱さ"を見せたことでした。完璧なリーダーの前では、メンバーは率直な意見を出しにくいものです。ファウンダーが万能ではないと共有された瞬間、組織の知的誠実性は一段と上がったといいます。

◾️ サマリー3.「メガネ」を掛け替えるということ ── CQ(文化の知能指数)の時代へ

宮森は、組織が違いと向き合うCQの発達段階を5つのステージとして提示しました。これは異文化感受性研究の世界標準である Intercultural Development Inventory(IDI) をベースに、宮森自身が日本の組織文化に翻訳した枠組みです。

無知・無関心(Denial) :違いに興味がない

二極化・防衛(Polarization) :違いに感情的に反応する

最小化(Minimization) :違いを過小評価する(「理念は同じだから分かり合える」)

受容(Acceptance) :違いを理解し、相対化する

共創(Adaptation) :違いに橋を架け、新しい価値を生み出す

そしてこの5段階は、ひとつの方向性をもって走っています。


Difference is Cost(違いはコスト)→ Transition(移行期)→ Difference is Power(違いは力)


最小化までの段階では、違いはマネジメントすべき「コスト」として扱われます。しかし受容と共創の段階に至ると、違いはイノベーションを生む「力」へと反転する ー。本イベントの通底メッセージ「違いは、コストではなく力になる」は、この発達勾配そのものを言い表したものです。

「IDIの調査によれば、世界の一般人口の 約68% が"最小化"の段階に留まると報告されています※1。日本企業の現場感覚も、それに近い、あるいはそれ以上に最小化が広いと感じています」(宮森)

しかしBANI時代を生き抜くには、この最小化の段階を越えなければなりません。そのために必要なのが、宮森の言う「メガネを掛け替える力」です。

「自分のメガネを外して、相手のメガネをかけて世界を相対的に見る。これができるかどうかで、知的誠実性と心理的安全性が両立できるかが決まります」(宮森)

複数の視点を持ち、異なる文化的文脈を行き来できる力──

これは近年、IQ・EQに続く「第三の知能」として注目されるCQ(文化の知能指数)の核心でもあります。

宮森は、AIをこの"メガネを掛け替える訓練"のパートナーとして使う方法も紹介しました。「もし○○さんならどう考えるか」をAIに問いかけることで、自分とは異なる視点を意図的に取り込むことができます。AIは画一化を加速させる道具にもなり得ますが、使い方次第ではメタ認知を鍛える強力な味方にもなります。

宮森が拠って立つCQ理論は、Drive(やる気)/Knowledge(知識)/Strategy(戦略・メタ認知)/Action(行動)の4要素で構成されます。「メガネを掛け替える力」はそのうちのStrategy(メタ認知)に対応しています。AIの活用は、この最も鍛えにくいStrategyを意図的に鍛えるための実践的な方法でもあるといいます。

※1: Hammer, M.R., Intercultural Development Inventory (IDI) — 一般人口分布:Denial / Adaptation 合計約4%、Polarization / Acceptance 合計約28%、Minimization 約68%(idiinventory.com )

◾️ サマリー4.渡り鳥と"撹乱" ── 多様性が組織を強くするメカニズム

佐宗氏は、組織の本質を渡り鳥の群れに喩えます。鳥たちが一つの方向にまとまって飛べるのは、3つの感覚があるからです。

方向感覚 = ビジョン(どこに向かうか)

距離感覚 = バリュー(隣との距離をどう取るか)

中心感覚 = ミッション・パーパス(群れの中心はどこか)

それでは「もしこの群れに、別の種の鳥が紛れ込んだら、何が起こるのか」──。

佐宗氏は、自然農業や複雑系研究で語られる「撹乱」の概念を引用しました。
「自然は放っておくだけでは生態系が強くなりません。適度に人間が手を入れ、異物を入れることで、全体が強くなる。組織も同じです」(佐宗氏)

2010年代、日本企業はオープンイノベーションの名の下に、この"撹乱"を取り込もうとしていました。しかしコロナ以降、組織は内向きになり、効率性の追求に揺り戻されました。両氏の見立てでは、いま再び、意図的に異物を取り込み、共創の段階へと組織を押し上げる動きが必要とされています。

ただし、組織の準備ができていない状態で多様な人材を受け入れると、せっかくの異物は弾き出されてしまいます。多様性を経営戦略として活かすには、受容の土壌そのものを設計することが先決です。

◾️ サマリー5.個人のレジリエンスと"複数コミュニティ"

不確実な時代を、個人はどう生き抜けばよいのか。佐宗氏のメッセージはシンプルでした。

「セーフティーネットを、自分の生活のなかで複数持つこと。家庭、仕事、それ以外の第三のコミュニティ。それぞれである程度自分らしくいられる場をどれだけ持てるか。"金持ち"よりも"人持ち"が豊かさになる時代です」(佐宗氏)

一つの組織に過度に依存することは、それ自体がリスクになります。会社が万一傾いても、家族関係が一時的に揺れても、自分を保てる場所を別に持っていること──これがレジリエンスの源泉となります。宮森はこの議論をさらに進めました。

会社の外で安心感が確保されているからこそ、会社のなかで知的誠実性を発揮できる


という逆説です。「他の場で受け入れられている」という確信が、職場で異論を口にする勇気を生みます。組織文化を語る対談が、いつしか個人の生き方の話へと繋がる──。両氏の議論は、組織と個人を分離して考えること自体の限界を示唆していました。

◾️ サマリー6.理念を"身体化"する ── 儀式とナラティブの力(と危うさ)

会場からは、「パーパスやミッションを社員の行動に落とし込むには?」という実務的な問いが投げかけられました。

佐宗氏のキーワードは「身体化」です。理念は言葉で語られますが、行動として体現されて初めて文化になります。例として挙げられたのが、スープストックトーキョーの「七草粥」の事例でした。

毎年1月7日に七草粥を提供する際、店舗スタッフは「世の中の体温を上げる」というミッションをどう体現するかを各自で考えます。"いつもの接客"を一段越えて、「今年も健康にお過ごしください」といった一言を添える。こうした儀式(リチュアル)が、抽象的な理念を現場の行動レベルに翻訳していきます。

もう一つの強力なツールがナラティブ(物語)です。
感性的な理念は、概念のままでは伝わりません。物語の形を取ることで、論理を重視する人にも届きます。だからこそ多くの企業がカルチャーデックを物語形式で編んでいます。

ここで宮森は、知的誠実性をもって佐宗氏に問いかけました。


「ナラティブは美しいです。でも、その美しさが何かを隠してしまうことはないでしょうか」(宮森)


戦争において、それぞれの国がそれぞれのナラティブを語ることで自らを正当化していくように、ナラティブは本質的な対立や矛盾を覆い隠す装置にもなり得ます。

ナラティブは諸刃の剣です
──その両義性を理解した上で活用することが、リーダーには求められます。

◾️ 総括:対談を貫いていた視座「違いは、力になる」

2時間にわたる対話を貫いていたのは、シンプルかつ根源的な視座でした。

「違いは、コストではなく、力になる。」


これまで多くの日本企業は、違いを「マネジメントすべきコスト」として処理してきました。属性を揃え、考え方を揃え、効率を最大化する。その先に、最小化の段階に留まる組織が生まれました。

しかしBANI時代において、違いは組織の生存戦略そのものへと変わります。心理的安全性のうえに知的誠実性を重ね、メガネを掛け替える力(CQ)を磨き、適度な"撹乱"を恐れず受け入れ、儀式とナラティブで理念を身体化していく──。

そしてその全ての土台にあるのが、「個人が会社にすべてを求めず、複数のコミュニティで自分らしくいられること」という、組織と個人の新しい関係性でした。組織文化は、空気のように当たり前にそこにあります。だからこそ、それを意図して設計することは、これからのリーダーにとって最も戦略的な仕事の一つになる。両氏の対話は、そう静かに告げています。

< 登壇者プロフィール >

宮森 千嘉子

宮森 千嘉子 アイディール・リーダーズ株式会社 CCO(Chief Culture Officer)

「文化と組織とひと」に橋をかけるファシリテータ、リーダーシップ&チームコーチ。 サントリー広報 部勤務後、HP、GEの日本法人で社内外に対するコミュニケーションとパブリック・アフェアーズを統括し、 組織文化の持つビジネスへのインパクトを熟知する。 また50カ国を超える国籍のメンバーとプロジェクトを推進する中で、 多様性のあるチームの持つポテンシャルと難しさを痛感。 「違いに橋を架けパワーにする」を生涯のテーマとし、日本、欧州、米国、アジアで企業、地方自治体、プロフェッショナルの支援に取り組んでいる。英国、スペイン、米国を経て、現在は東京在住。ホフステードCWQマスター認定者、CQ Fellows、米国Cultural Intelligence Center認定CQ(Cultural Intelligence)及びUB(Unconscious Bias)ファシリテータ、 IDI(Intercultural Development Inventory) 認定クォリファイドアドミニストレーター、 CRR Global認定 関係性システムコーチ(Organization Practitioner, Gallup認定ストレングスコーチ。著作に「強い組織は違いを楽しむ CQが切り拓く組織文化」、共著に「経営戦略としての異文化適応力」(いずれも日本能率協会マネジメントセンター)がある。 一般社団法人CQラボ主宰。 

佐宗 邦威

佐宗 邦威  株式会社BIOTOPE代表/チーフ・ストラテジック・デザイナー 多摩美術大学 特任准教授

東京大学法学部卒業、イリノイ工科大学デザイン研究科(Master of Design Methods)修了。 P&Gマーケティング部で「ファブリーズ」「レノア」などのヒット商品を担当後、 「ジレット」のブランドマネージャーを務める。その後、ソニーに入社。 同クリエイティブセンターにて全社の新規事業創出プログラム立ち上げなどに携わる。 ソニー退社後、戦略デザインファーム「BIOTOPE」を創業。

山本山、ソニー、パナソニック、オムロン、NHKエデュケーショナル、クックパッド、 NTTドコモ、東急電鉄、日本サッカー協会、KINTO、ALE、クロスフィールズ、白馬村など、 バラエティ豊かな企業・組織のイノベーションおよびブランディングの支援を行うほか、 各社の企業理念の策定および実装に向けたプロジェクトについても実績多数。

著書に、『理念経営2.0─会社の「理想と戦略」をつなぐ7つのステップ』(ダイヤモンド社)、『模倣と創造 13歳からのクリエイティブの教科書』(PHP研究所)、『ひとりの妄想で未来は変わる VISION DRIVEN INNOVATION』(日経BP)、『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN 』(ダイヤモンド社)、『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』(クロスメディア・パブリッシング)。他

【CQトレーニングに関するお問い合わせ】

アイディール・リーダーズでは、CQへの理解を深めながら組織文化を醸成することを目的とした組織のリーダー層対象のCQトレーニングや、パーパスの実現に向けた組織文化を戦略的に変えていくためのコンサルティングを提供しています。(お問い合わせフォーム https://ideal-leaders.co.jp/contact/

【アイディール・リーダーズ 関連書籍】

『強い組織は違いを楽しむ CQが切り拓く組織文化』(著者:宮森 千嘉子/監修:ディヴィッド・リヴァモア、2025年4月26日発行)

『強い組織は違いを楽しむ CQが切り拓く組織文化』

著者:宮森 千嘉子/監修:ディヴィッド・リヴァモア、2025年4月26日発行

不確実性の時代において、組織の成長や競争優位性を確立するためには、組織文化を意図的に醸成し文化を戦略の"良きパートナー"とすることが必要不可欠です。本書では、組織文化を戦略の推進力として捉え、強い組織を築くために必要になるのはパーパスだけでなく、個人の価値観と一人ひとりの違いを活かすことだと提唱します。そのために必要なのが、リーダーの CQ(文化の知能指数)です。カルチャーの専門家として多くの組織文化変革を実現した宮森千嘉子の体験や、組織文化変革を実現した企業のインタビューを基に、数々の事例と共に明日から使える実践的アプローチを紹介します。

『経営戦略としての異文化適応力 ホフステードの6次元モデル実践的活用法』(著者:宮森千嘉子・宮林隆吉、2019年3月20日初版発行)

『経営戦略としての異文化適応力 ホフステードの6次元モデル実践的活用法』

著者:宮森千嘉子・宮林隆吉、2019年3月20日初版発行

国民文化・組織文化研究の世界的権威が生み出したフレームワークによる多様性マネジメントの実践書。組織心理学・人類学の教授で、「文化と経営の父」と呼ばれるヘールト・ホフステード博士が考案した「6次元モデル」は異文化間だけでなく、多様な国籍や性格の人材間コミュニケーションの問題を解決するフレームワークです。本書では、職場でコミュニケーション問題を抱えている経営者・管理職の方を対象に、「ホフステードの6次元モデル」を用いながら、その対応策を紹介します。


【会社概要】
会社名:Ideal leaders(アイディール・リーダーズ株式会社)
代表取締役:永井恒男
所在地:東京都千代田区丸の内2-2-1岸本ビルヂング6F
設立:2015年4月
URL:https://ideal-leaders.co.jp/
事業内容:エグゼクティブコーチング、経営コンサルティング(パーパス・マネジメント・コンサルティング、組織文化変革コンサルティング、ウェルビーイング経営支援):組織のパーパス・ビジョン構築、展開/経営・事業チームの合意形成支援/組織文化の変革支援/中長期経営計画・戦略策定、実行支援/次世代リーダー育成/リーダーシップ開発、人材育成/CHO(Chief Happiness Officer)プログラム/1on1プログラム等

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会社概要

URL
http://ideal-leaders.co.jp
業種
サービス業
本社所在地
東京都千代田区丸の内2-2-1 岸本ビルヂング6階
電話番号
-
代表者名
永井恒男
上場
未上場
資本金
700万円
設立
2015年04月