ウェアラブルデバイスによる生理指標が双極性障害の気分エピソード予測に有用である可能性を確認
心拍変動(HRV)と睡眠データを用いた症例報告を論文発表

株式会社テックドクター(代表取締役:湊 和修、本社:東京都中央区、以下、テックドクター)は、双極性障害における気分エピソード予測に関する研究成果が、精神医学領域の国際学術誌 Frontiers in Psychiatry に掲載されたことをお知らせします。本研究は、ウェアラブルデバイスから取得される心拍変動(HRV)および睡眠データが、気分エピソードの発現に先立つ生理学的変化をとらえる可能性を示した症例報告です。
■背景と研究概要
双極性障害は、躁症状とうつ症状が周期的に生じる慢性精神疾患であり、しばしば再発を繰り返すことで社会生活や生活の質(QOL)に大きな影響を及ぼします。そのため、気分エピソードの早期予測と再発予防は重要な臨床課題とされています。しかし、気分エピソードの発症は突然であることも多く、患者自身が変調を病的変化として認識しづらい場合もあります。また、気分エピソードは心理社会的ストレス、睡眠覚醒リズムの乱れなど、さまざまな要因が引き金となるため、その予測と管理は依然として困難です。
従来、気分状態の把握は問診や自己申告式質問票に依存することが多く、記憶の正確性や自己評価の偏りといった主観的要因の影響を受けやすいため、兆候の見落としや介入の遅れにつながるという課題がありました。
このような背景から、客観的かつ継続的に取得できる生理指標の活用が注目されています。近年、ウェアラブルデバイスから得られる生理学的・行動学的データ、特にHRVと睡眠パラメータは、より客観的な臨床評価を可能にするデジタルバイオマーカーとしての応用が期待されています。
<研究概要>
本症例報告では、双極性障害と診断された40代男性を対象に、約8ヶ月にわたるウェアラブルデバイスからのデータなど、以下のデータが取得されました。
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研究期間:2024年2月~11月
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対象者:双極性障害と診断された40代男性1名
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客観データ:Google Fitbit Charge6から取得される心拍数、睡眠、活動量
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主観評価:eMoodsアプリによるスコア
次の4つの気分状態について、1(なし)〜4(重度)の4段階で日々の自己評価を記録:
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Depressed Mood(DM) 抑うつ気分
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Elevated Mood(EM) 気分高揚
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Irritability 易刺激性
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Anxiety 不安
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この継続記録により、気分エピソードに先行する生理学的変化が捉えられるかを検証しました。
■主な研究成果
解析の結果、以下の関連が明らかになりました。
● 1. 夜間RMSSD(心拍変動)の低下は、抑うつ症状の出現に先行
夜間RMSSDが個人のベースラインから1.5標準偏差以上低下した場合、約87% の確率(14日中13日)で7日以内に抑うつスコア(Depressed Mood)が悪化
● 2. 睡眠時間が短いほど、気分が高揚した症状の重症度が上昇
気分高揚スコア(EM/elevated mood)は睡眠時間の減少と並行して増加する傾向があり、EM = 1群とEM ≥ 2群の間にはベッドにいる時間に有意差が認められた(Welchのt検定、平均差 = 60.6分、95%信頼区間 [31.7, 89.6]、Hedgesのg = 0.80)
● 3. 日中のHRV・活動量と気分の間には明確な関連はなし

■社会的意義と今後の展望
本研究は、市販のウェアラブルデバイスとスマートフォンアプリを組み合わせ、約8ヶ月にわたり継続的にデータを収集し、気分スコアと関連した個人内変化を分析した点に特徴があります。双極性障害の同一症例において、抑うつ症状と高揚気分症状の双方に関連する生理学的パターンを示した報告は限られており、日常環境下で得られるHRVや睡眠データが気分変動の手がかりとなり得る可能性を示すものです。特に夜間RMSSDの変動は、自己申告では捉えにくい気分エピソード前の変化を示唆しており、早期の気づきに寄与する指標となる可能性があります。
今後は、より大規模な症例を対象とした追跡研究や予測モデルの開発を通じて、こうした生理指標の臨床的な有用性をさらに検証し、精神科臨床への応用可能性を明らかにしていく必要があります。
テックドクターは、ウェアラブルデバイスを活用した生理学的データの解析を通じて、精神疾患領域における客観的評価手法の可能性を探り、データに基づく医療の発展に貢献してまいります。
■ 論文情報
掲載誌:Frontiers in Psychiatry
出版社:Elsevier B.V.
論文タイトル:Wearable-Derived Heart Rate Variability and Sleep Monitoring as Predictors of Mood Episodes in Bipolar Disorder: A Case Report
DOI:10.3389/fpsyt.2025.1695158
URL:https://doi.org/10.3389/fpsyt.2025.1695158
Eto A, Mochizuki K, Fukami T, Sakakibara W, Izumi K. Wearable-derived heart rate variability
and sleep monitoring as predictors of mood episodes in bipolar disorder: a case report.
Frontiers in Psychiatry. 2025;16:1695158.
【 テックドクターについて 】
株式会社テックドクターは「データで調子をよくする時代へ」をビジョンに掲げ、ウェアラブルデバイスをはじめとした日常のセンシングデータから健康に関するインサイトを導く「デジタルバイオマーカー*」の開発と、その社会実装を進めています。医療・製薬・食品関連企業や研究機関と連携し、データに基づくAI医療の実現を目指しています。
代表者 :湊 和修
代表医師 :泉 啓介
本社 :東京都中央区京橋二丁目2番1号 京橋エドグラン4階
設立 :2019年6月21日
事業内容 :デジタルバイオマーカー開発プラットフォーム「SelfBase」の開発および運用、デジタル
医療ソリューションの提供
URL :https://www.technology-doctor.com/
* デジタルバイオマーカー
デジタルバイオマーカーとは、スマートフォンやウェアラブルデバイスなどから取得される日常的な生体データをもとに、疾患の有無や病状の変化、治療の効果を連続的かつ客観的に評価する指標です。
従来のバイオマーカーは、医療機関で一時的に測定される「点のデータ」でしたが、デジタルバイオマーカーは日常生活の「線のデータ」を継続的に取得できる点が特徴です。運動、睡眠、心拍などの指標をもとに、病気の早期発見や治療モニタリング、さらには薬剤開発における新たなエンドポイントとしても期待されています。海外では2019年頃から開発が進み、国内でも注目が高まっています。
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