水に溶ける1ナノメートルの球状粒子、水溶性フラーレンを開発。銅ウエハのCMP研磨で1ナノメートル以下の平坦性を実現。【産技助成Vol.76】
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
大阪大学大学院工学研究科
ナノテク、生命科学での幅広い応用が期待される
水溶性フラーレンナノ粒子を簡便に合成する手法を開発した。
大阪大学大学院工学研究科
ナノテク、生命科学での幅広い応用が期待される
水溶性フラーレンナノ粒子を簡便に合成する手法を開発した。
【新規発表事項】
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合機NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、大阪大学大学院工学研究科の講師、小久保 研氏は、ナノテク、生命科学等での幅広い応用が期待される、水溶性フラーレン(球状炭素分子)ナノ粒子を簡便に合成する手法を開発しました。
これまでの水酸化フラーレンの合成は2段階合成法によりおこなっていましたが、本技術は1段階合成法を確立することに成功し、これにより大幅な製造コストの低減と量産化への道を拓きました。
本技術は、フラーレンに化学修飾によって水溶性を付与することで、水中で単分子として分散するようにする材料技術です。半導体研磨に使われる砥粒としてこの水溶性フラーレンを使うと高い平坦性が得られることを確認しました。またラジカル捕捉能(注1)や抗菌活性の特徴も見出されていることから、ナノテクからライフサイエンスまで、広範な分野でのフラーレンナノ粒子の利用が期待されます。
(注1)ラジカル捕捉能:化学的活性に富む遊離基、活性酸素等を捕捉し抗酸化剤として使われる。
1.研究成果概要
フラーレンは、発見以来、多くの可能性を期待された物質ですが、水や有機溶媒に難溶性であることが応用を妨げていました。2003年に工業スケールでの大量生産が開始され、カーボンや樹脂等と混ぜると性能が向上するとしてスポーツ用品等の材料へ使われてきましたが、特に水には不溶であることが課題となり、応用先用途は限定されていました。
本研究は、フラーレンの炭素骨格表面に多数の水酸基を導入することで水溶性の大幅な増加が得られることから、安価な過酸化水素水を用いて平均36〜44個程度の水酸基をもつ「水溶性フラーレン」を簡便に合成する方法を開発しました。
従来技術の2段階合成法ではフラーレンC60に発煙硫酸を反応させて12個程度のOH基を導入した後、さらに30%過酸化水素水を4日間作用させてOH基を36個程度導入していましたが、本研究の1段階合成法では相間移動触媒(TBAH)を用いて30%過酸化水素水を含む有機溶媒を直接フラーレンC60に作用させて16時間で44個のOH基を導入することに成功しました。
2.競合技術への強み
2段階合成法と1段階合成法による従来技術と本研究の比較
【2段階合成法(従来法)】
製造コスト(円/g):△数万円/g
反応時間(h):△96時間
量産性:△中間原料誘導体の合成が困難である
【1段階合成法(本研究)】
製造コスト(円/g):○数千円/g
反応時間(h):○16時間
量産性:◎混合フラーレンも使用可能、操作容易である
3.今後の展望
実用化に向けて、C60(OH)44・8H2Oの合成プロセスのさらなる低コスト化をはかっていきたいと考えています。用途やニーズに応じた水酸基数の自在なコントロール、広範なサンプル提供を考えています。また、並行して、生体に対する安全性試験や細胞レベルでの分子挙動の解明、環境毒性試験、長期安定性試験を進め改善を目指していきます。すべての安全性をクリアできれば、コストに見合う用途から順次、実用化を目指したいと考えています。
4.参考
成果プレスダイジェスト:大阪大学講師 小久保 研氏
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合機NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、大阪大学大学院工学研究科の講師、小久保 研氏は、ナノテク、生命科学等での幅広い応用が期待される、水溶性フラーレン(球状炭素分子)ナノ粒子を簡便に合成する手法を開発しました。
これまでの水酸化フラーレンの合成は2段階合成法によりおこなっていましたが、本技術は1段階合成法を確立することに成功し、これにより大幅な製造コストの低減と量産化への道を拓きました。
本技術は、フラーレンに化学修飾によって水溶性を付与することで、水中で単分子として分散するようにする材料技術です。半導体研磨に使われる砥粒としてこの水溶性フラーレンを使うと高い平坦性が得られることを確認しました。またラジカル捕捉能(注1)や抗菌活性の特徴も見出されていることから、ナノテクからライフサイエンスまで、広範な分野でのフラーレンナノ粒子の利用が期待されます。
(注1)ラジカル捕捉能:化学的活性に富む遊離基、活性酸素等を捕捉し抗酸化剤として使われる。
1.研究成果概要
フラーレンは、発見以来、多くの可能性を期待された物質ですが、水や有機溶媒に難溶性であることが応用を妨げていました。2003年に工業スケールでの大量生産が開始され、カーボンや樹脂等と混ぜると性能が向上するとしてスポーツ用品等の材料へ使われてきましたが、特に水には不溶であることが課題となり、応用先用途は限定されていました。
本研究は、フラーレンの炭素骨格表面に多数の水酸基を導入することで水溶性の大幅な増加が得られることから、安価な過酸化水素水を用いて平均36〜44個程度の水酸基をもつ「水溶性フラーレン」を簡便に合成する方法を開発しました。
従来技術の2段階合成法ではフラーレンC60に発煙硫酸を反応させて12個程度のOH基を導入した後、さらに30%過酸化水素水を4日間作用させてOH基を36個程度導入していましたが、本研究の1段階合成法では相間移動触媒(TBAH)を用いて30%過酸化水素水を含む有機溶媒を直接フラーレンC60に作用させて16時間で44個のOH基を導入することに成功しました。
2.競合技術への強み
2段階合成法と1段階合成法による従来技術と本研究の比較
【2段階合成法(従来法)】
製造コスト(円/g):△数万円/g
反応時間(h):△96時間
量産性:△中間原料誘導体の合成が困難である
【1段階合成法(本研究)】
製造コスト(円/g):○数千円/g
反応時間(h):○16時間
量産性:◎混合フラーレンも使用可能、操作容易である
3.今後の展望
実用化に向けて、C60(OH)44・8H2Oの合成プロセスのさらなる低コスト化をはかっていきたいと考えています。用途やニーズに応じた水酸基数の自在なコントロール、広範なサンプル提供を考えています。また、並行して、生体に対する安全性試験や細胞レベルでの分子挙動の解明、環境毒性試験、長期安定性試験を進め改善を目指していきます。すべての安全性をクリアできれば、コストに見合う用途から順次、実用化を目指したいと考えています。
4.参考
成果プレスダイジェスト:大阪大学講師 小久保 研氏
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