【調査発表】高いワーク・エンゲージメントは、離職意向低下や個人の幸福感向上につながることが明らかに「ワーク・エンゲージメント」実態調査 結果を発表
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ(本社:東京都品川区、代表取締役社長:藤島 敬太郎)組織行動研究所は、従業員規模300名以上の企業において、20~40代の会社員624名に「ワーク・エンゲージメントに関する実態調査」を実施し、「高いワーク・エンゲージメントは、個人と組織の両方に良い影響を与える」ことや「ワーク・エンゲージメントを高める職務・職場の特徴や制度・仕組み」など、調査結果から見える実態について公表しました。 詳細は4月16日に公表した当社Webサイトの調査レポート(
https://www.recruit-ms.co.jp/issue/inquiry_report/0000000842/)からもご参照いただけます。
https://www.recruit-ms.co.jp/issue/inquiry_report/0000000842/)からもご参照いただけます。
1.調査実施の背景
『エンゲージメント』は、人事領域において「社員と会社との間での確固たる信頼関係」を意味しており、現在大きな注目を集めています。注目を集める理由としては、2019年12月末に、経団連・中西宏明会長が「働き手がやりがいをもって仕事に打ち込める『エンゲージメント』を高めることが、日本経済にとって重要だ」との考えを示したことと、調査「人事・人材管理市場2019」によると、国内の従業員エンゲージメント市場は2017年度から2018年度の1年で約3倍拡大、今後も成長は加速し2022年度には市場規模が120億円になる見込みである*こと等が挙げられます。
エンゲージメントは、大きく分けると「組織に対するもの」と「仕事に対するもの」がありますが、今回は、個人と組織の両方にポジティブな影響がより大きい「仕事に対するエンゲージメント」、すなわち『ワーク・エンゲージメント』に焦点をあてて調査を行いました。
今般、ワーク・エンゲージメントの実態調査に加えて、ワーク・エンゲージメントが高い状態を生み出すにはどのような組織的サポートが有効か等について調査を実施し、分析・考察しています。
*出典:ITR Market View:人事・人材管理市場2019(2019年8月)
2.結果のポイント
3.組織行動研究所のコメント
■ワーク・エンゲージメントを高める2つのデザイン
リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所 所長 古野庸一
一つめのデザインは「仕事のデザイン」です。本人が持っている技量に対して、簡単すぎず、難しすぎない程度の仕事で、プロセスに創意工夫の余地があり、結果のフィードバックがある仕事が理想です。さらに、その仕事に意味・意義があると思えるようになれば、本人の内発的動機が高まり、WEも高まります。
WEを高める、もう一つのデザインは「コミュニケーションのデザイン」です。経営や同僚とのコミュニケーションの質を高めることで、居場所感を高め、仕事そのものを楽しくさせ、仕事の意味づけを喚起することができます。私たちの調査でも、経営や同僚とのコミュニケーションが、WEを高めることに役に立っていることがわかります。
「仕事のデザイン」も「コミュニケーションのデザイン」も、WEを高めるための環境づくりです。そのやり方は、まだまだ工夫の余地があり、よりよい方法を模索していくことは、これからの経営施策のコアになっていくと考えられます。
4. 調査結果
●仕事に熱意があるのは全体の約4割、仕事から活力を得ているのは約2割
<ワーク・エンゲージメントの測定>
ワーク・エンゲージメントとは、「仕事から活力を得ていきいきとしている」(活力)、「仕事に誇りや
やりがいを感じている」(熱意)、「仕事に熱心に取り組んでいる」(没頭)の3要素が揃った状態。
測定にあたっては、いくつかのよく使われる尺度があるが、今回はユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度の9項目版を使用。活力、熱意、没頭の各要素3項目ずつについて、「最近1年くらいにおいて、どのくらいの頻度で感じているか」を、0.まったくない~6.いつも感じる、の7段階で聞いている。
・約4割が1週間に1度以上の頻度で「仕事に熱心だ」、3割強が「仕事に誇りを感じる」「仕事をしているとつい夢中になってしまう」と回答。一方で、「活力がみなぎるように感じる」「さあ仕事へ行こう、という気になる」と回答した人は全体の約2割だった。(下図/図表2-①)
・性別、年代、職種ごとの平均点に有意な差は見られなかったが、この3属性をかけ合わせた24群別にみると、スコアが高いのは営業職の20代男性(3.05)、40代女性(3.03)、低いのはサービス職の30代女性(1.98)、40代女性(2.33)であり、小さくない差が見られた(図表3左列)。
自由記述回答をみると、多いのは「仕事が前に進む時」「役に立っていると思ったとき」「集中しているとき」「成果が出たとき」「良いものを目指して工夫しているとき」などだった(図表4)。
⇒「貢献」「達成」といった場面に加え、「仕事が段取り通りに進む」「作業に集中している」といった日常的な場面が、仕事へのポジティブな感情につながっていることがわかる。
●約4割の人が週に1度以上、「仕事のために心にゆとりがなくなった」「心身ともに疲れ果てた」と感じている
<バーンアウトの測定>
「バーンアウト(燃え尽き症候群)」とは、ワーク・エンゲージメントの対義語で、「自分はこれだけ頑張っているのに、これだけ尽くしているのに、なぜ成果が上がらないのだ」という思いが募った結果、何かの引き金によって燃え尽きてしまい、突然休職したり、重い場合には離職したりうつ病になってしまったりすることを指す。本調査では、ワーク・エンゲージメントの実態と共に、仕事に熱心に取り組みすぎるあまりに心身が疲弊してしまうことへの懸念も鑑み、バーンアウトの実態についても調査を実施した。日本版バーンアウト尺度で使われる項目のうち情緒的消耗感に関する3項目を用い、ワーク・エンゲージメントと同様に最近1年間の状況を0.まったくない~6.いつも感じる、の7段階で尋ねた。
・「仕事のために心にゆとりがなくなった」「心身ともに疲れ果てた」と1週間に1度以上の頻度で感じている人は約4割だった(下図/図表2-②)。
・また、5項目の平均スコアは3.26で、ワーク・エンゲージメントのスコアよりも高かった。
・バーンアウトは特にヒューマンサービス従事者に多くみられるとされるが、本調査でも職種別に差が見られ、サービス職でバーンアウトのスコアが高く、技術職、事務職では低かった。(図表3右列)
⇒「仕事の裁量の低さ」「仕事の負荷に対する報酬の不足」が、疲弊感をひきおこすと考えられる。
⇒仕事のやりがいにつながる側面もある「責任」や「権限の重さ」も、許容範囲を超えるとバーンアウトにつながり得ることが示唆される。
●ワーク・エンゲージメントのプラスの効果
・ワーク・エンゲージメントは、心身の健康、仕事や組織に対する態度、仕事のパフォーマンスなどにプラスの影響を及ぼすとされている。そこで、個人の幸福感(「毎日の活動を楽しんでいる」「有意義な生活を送っている」など8項目)、組織や仕事への適応感(「高い業績をあげている」「他社でも通用する専門性が身についている」など8項目)、離職意向(「今の職場をやめたい」など2項目)の3つとワーク・エンゲージメントとの関係を確認したところ、「個人の幸福感」「組織や仕事への適応感」「離職意向」のいずれも、ワーク・エンゲージメント高群(上位33%)と低群(下位33%)間に有意な差が見られ、ワーク・エンゲージメントが個人と組織の両者によい影響を与えることが明らかになった。(図表7)
⇒ワーク・エンゲージメントは組織の目的に対するコミットメントと強い関係があることが示唆された。
・規範的コミットメント(社会規範的なニュアンスを含むコミットメント)、功利存続的コミットメント(損失を回避/利益を重視するコミットメント)は、ワーク・エンゲージメント高低群で有意な差が見られなかった。
●ワーク・エンゲージメントを高める要因
個人と職務・職場の特徴とワーク・エンゲージメントとの関係から、ワーク・エンゲージメントを高める要因を分析した。ワーク・エンゲージメントを高める要因のひとつと考えられるものに、自己や仕事に関する本人の肯定的な態度や仕事のスキルがあり、本調査では、ジョブ・クラフティングやキャリア適応への認知に関する6項目について調査した。
また、職務のアサインの仕方や上司・同僚の支援、制度・仕組みといった物理的・組織的環境のあり方も、ワーク・エンゲージメントを左右すると言われており、本調査では、ハックマン・オルダムのモチベーションを高める職務特性の5側面、心理的安全性・成果志向などの職場風土6項目、意味づけ・個別配慮などの部下に対する上司支援5項目についても調査を実施した。(図表9)
・個人と職務・職場の特徴とワーク・エンゲージメントとの関係を見ると、いずれもワーク・エンゲージメント高群が低群に対して有意に高かった。特に、職務や職場に「先々やってみたいことを具体的にイメージできる」「環境変化にストレスを感じるよりも、それを楽しんでしまうほうだ」という特徴があてはまるかどうかという回答における差が大きかった。
⇒個人がキャリアの見通しを持ち、仕事の捉え方を変化させていくことはワーク・エンゲージメントを高めることにつながることが示唆された。
・一方、職務のアサインの仕方や上司・同僚の支援、制度・仕組みといった物理的・組織的環境のあり方のいずれの項目も、ワーク・エンゲージメントの高低群で有意な差が見られた。特に、上司による仕事の意味づけ(「担当する仕事の意味や意義に関する話をする」「職場や会社の将来に関する意見交換をする」)や、職場における質の高い成果を志向する風土(「質の高い仕事をしようとする」「互いに切磋琢磨する」)という特徴が当てはまるかどうかという回答における差が大きかった。
●制度・仕組みとワーク・エンゲージメント(図表10)
・ワーク・エンゲージメント高群で導入が多かったのは、処遇・配置に関する「自己申告、社内公募など、本人の希望をできるだけ尊重される配置を実現する制度や仕組み」「評価結果とその理由の本人へのフィードバックと説明」、次いで人材育成の「自分の希望に応じ、特定のスキルや知識を学べる研修」だった。これらはワーク・エンゲージメント低群においても導入が多い。
・高群と低群で導入度の差が大きかったのは、経営とのコミュニケーションに関する「経営の重要な情報の従業員への開示」「朝礼や社員全体会議を通じた会社のビジョンの共有」や、職場での「仕事上の成功事例を共有する機会」で、経営や仕事に関する情報の共有に関するものであった。
・導入ありと回答したもののうち「あなたの仕事のやりがいや意欲を高めると思うもの」を選んでもらったところ、「お互いの良いところやお互いへの感謝を伝え合う仕組み」「自分の希望に応じ、特定のスキルや知識を学べる研修」「従業員が幅広いスキルを獲得できるようなジョブローテーションの機会」と、自信やスキルといった個人の資源向上につながるものが上位に並んだ。
●働き方改革とワーク・エンゲージメント
・働き方改革の進展とワーク・エンゲージメントの関係については、「労働時間削減」「生産性向上」「働き方(時間・場所)の柔軟化」のいずれも、ワーク・エンゲージメント高群が低群に比べて進展しており、中でも両群の差が大きいのは「働き方の柔軟化」だった。
⇒働き方改革は、ワーク・エンゲージメントの向上にプラスの影響を与えていると言えそうである。
働く時間や場所の選択肢が広がることで、職務のコントロール感が高まったり、意味がないと感じる会議や移動を最小化したりでき、それがワーク・エンゲージメントを高める方向に影響すると推測できる。
・私生活の快感情が仕事に良い影響を与えることも知られており*2、本調査でも、バーンアウトせずに高いワーク・エンゲージメントを保つには、私生活の充実(「仕事以外に打ち込めるものがある」など3項目)が重要であることが示唆された。
⇒さらなる働き方改革がワーク・エンゲージメントの向上に寄与する可能性がある*3。
*2 同(2018)RMS Message vol.51 「ワーク・ライフのポジティブな関係性」
*3「『働き方改革』と組織マネジメントに関する実態調査 2019」参照
https://www.recruit-ms.co.jp/research/inquiry/0000000833/
5. 調査概要
・調査対象:会社勤務の正社員
※勤務先の従業員規模は300名以上、管理職・役員・経営者は除く。勤務先企業での在籍移管は1年以上
※性別、年齢層(20代/30代/40代)、職務系統(営業/サービス/事務/技術)がそれぞれ均等になるように回収
・調査内容:
どの程度仕事に熱中したり喜びを感じたりするか、またそれはどのようなときか、どの程度仕事が面白くない、意味がないと感じるか、またそれはどのようなときか、仕事や職場・上司の状況、適応感など
・実施期間:2019年11月
・実施方法:インターネット調査
・有効回答数:624名
・回答者の属性:製造業25.6%、非製造業73.7%、その他・不明0.6%
従業員規模:
300名以上1000名未満30.4%
1000名以上3000名未満20.5%
3000名以上5000名未満9.0%
5000名以上10000名未満12.5%
10000名以上27.5%
勤務先企業での在籍期間:
1年以上3年未満16.2%
3年以上5年未満17.1%
5年以上10年未満28.5%、
10年以上38.1%
未婚50.5%、既婚49.5%
『エンゲージメント』は、人事領域において「社員と会社との間での確固たる信頼関係」を意味しており、現在大きな注目を集めています。注目を集める理由としては、2019年12月末に、経団連・中西宏明会長が「働き手がやりがいをもって仕事に打ち込める『エンゲージメント』を高めることが、日本経済にとって重要だ」との考えを示したことと、調査「人事・人材管理市場2019」によると、国内の従業員エンゲージメント市場は2017年度から2018年度の1年で約3倍拡大、今後も成長は加速し2022年度には市場規模が120億円になる見込みである*こと等が挙げられます。
エンゲージメントは、大きく分けると「組織に対するもの」と「仕事に対するもの」がありますが、今回は、個人と組織の両方にポジティブな影響がより大きい「仕事に対するエンゲージメント」、すなわち『ワーク・エンゲージメント』に焦点をあてて調査を行いました。
今般、ワーク・エンゲージメントの実態調査に加えて、ワーク・エンゲージメントが高い状態を生み出すにはどのような組織的サポートが有効か等について調査を実施し、分析・考察しています。
*出典:ITR Market View:人事・人材管理市場2019(2019年8月)
2.結果のポイント
- 仕事に熱意があるのは全体の約4割、仕事から活力を得ているのは約2割
約4割が1週間に1度以上の頻度で「仕事に熱心だ」、3割強が「仕事に誇りを感じる」「仕事をしているとつい夢中になってしまう」と回答。一方で、「活力がみなぎるように感じる」「さあ仕事へ行こう、という気になる」と回答した人は全体の約2割であった。【図表2-①】 - ワーク・エンゲージメントが高いのは「営業職の20代男性と40代女性」、低いのは「サービス職の30代女性と40代女性」という結果に【図表3 左列】
- ワーク・エンゲージメントが高まるのは、「仕事が前に進む時」「役に立っていると思ったとき」「集中しているとき」「成果が出たとき」「よいものを目指して工夫しているとき」。【図表4】
一方で下がるのは、「仕事が誰のためにもならないと感じるとき」「誰でもできる仕事だと感じるとき」「上司から理不尽な扱いを受けたとき」【図表5】 - 約4割の人が週に1度以上「仕事のために心にゆとりがなくなった」「心身ともに疲れ果てた」と感じている【図表2-②】
職種別に結果に差が見られ、サービス職ではスコアが高く、技術職や事務職では低かった。【図表3 右列】
また、その理由は「仕事の裁量の低さや仕事の負荷に対する報酬の不足が疲弊感をひきおこすこと」と考察できた。【図表6】 - 高いワーク・エンゲージメントは、「個人」と「組織」の両方に良い影響を与える
「個人の幸福感」「組織や仕事への適応感」「離職意向」の3つとワーク・エンゲージメントとの関係は、ワーク・エンゲージメント高群(上位33%)と低群(下位33%)間に有意な差が見られた。【図表7】 - ワーク・エンゲージメントを高める職務・職場の特徴は、「先々やってみたいことを具体的にイメージできる」「環境変化を楽しめる」。また、職務のアサインの仕方や上司や同僚の支援は、「上司が、担当する仕事の意味や意義に関する話をする」「職場や会社の将来に関する意見交換をする」ことや「職場における質の高い成果を志向する風土」【図表9】
- ワーク・エンゲージメントを高めるための制度・仕組みとして有効なのは、経営や仕事に関する情報の共有(「経営の重要な情報の従業員への開示」「朝礼や社員全体会議を通じた会社のビジョンの共有」や職場での「仕事上の成功事例を共有する機会」)、また働き方改革の施策としては「働き方(時間・場所)の柔軟化」であることが示唆された。
自信やスキルなどの個人の資源向上につながる「お互いの良いところやお互いへの感謝を伝え合う仕組み」「自分の希望に応じ、特定のスキルや知識を学べる研修」「従業員が幅広いスキルを獲得できるようなジョブローテーションの機会」も、ワーク・エンゲージメントを高めることに効果がある可能性が高い。【図10、図11】
3.組織行動研究所のコメント
■ワーク・エンゲージメントを高める2つのデザイン
リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所 所長 古野庸一
過去の研究や事例を俯瞰すると、ワーク・エンゲージメント(以下WE)を高めるためには、二つのデザインから考えるとよいでしょう。
一つめのデザインは「仕事のデザイン」です。本人が持っている技量に対して、簡単すぎず、難しすぎない程度の仕事で、プロセスに創意工夫の余地があり、結果のフィードバックがある仕事が理想です。さらに、その仕事に意味・意義があると思えるようになれば、本人の内発的動機が高まり、WEも高まります。
WEを高める、もう一つのデザインは「コミュニケーションのデザイン」です。経営や同僚とのコミュニケーションの質を高めることで、居場所感を高め、仕事そのものを楽しくさせ、仕事の意味づけを喚起することができます。私たちの調査でも、経営や同僚とのコミュニケーションが、WEを高めることに役に立っていることがわかります。
「仕事のデザイン」も「コミュニケーションのデザイン」も、WEを高めるための環境づくりです。そのやり方は、まだまだ工夫の余地があり、よりよい方法を模索していくことは、これからの経営施策のコアになっていくと考えられます。
4. 調査結果
●仕事に熱意があるのは全体の約4割、仕事から活力を得ているのは約2割
<ワーク・エンゲージメントの測定>
ワーク・エンゲージメントとは、「仕事から活力を得ていきいきとしている」(活力)、「仕事に誇りや
やりがいを感じている」(熱意)、「仕事に熱心に取り組んでいる」(没頭)の3要素が揃った状態。
測定にあたっては、いくつかのよく使われる尺度があるが、今回はユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度の9項目版を使用。活力、熱意、没頭の各要素3項目ずつについて、「最近1年くらいにおいて、どのくらいの頻度で感じているか」を、0.まったくない~6.いつも感じる、の7段階で聞いている。
・約4割が1週間に1度以上の頻度で「仕事に熱心だ」、3割強が「仕事に誇りを感じる」「仕事をしているとつい夢中になってしまう」と回答。一方で、「活力がみなぎるように感じる」「さあ仕事へ行こう、という気になる」と回答した人は全体の約2割だった。(下図/図表2-①)
・また、9項目を平均したワーク・エンゲージメントのスコアは2.62(活力2.35、熱意2.92、没頭2.57)であった。
・性別、年代、職種ごとの平均点に有意な差は見られなかったが、この3属性をかけ合わせた24群別にみると、スコアが高いのは営業職の20代男性(3.05)、40代女性(3.03)、低いのはサービス職の30代女性(1.98)、40代女性(2.33)であり、小さくない差が見られた(図表3左列)。
・具体的にどのような仕事の場面でワーク・エンゲージメントが高まるか(仕事が楽しくて知らないうちに時間が過ぎているように感じたり、仕事に喜びを感じたりするのは、どのようなときか)という設問の
自由記述回答をみると、多いのは「仕事が前に進む時」「役に立っていると思ったとき」「集中しているとき」「成果が出たとき」「良いものを目指して工夫しているとき」などだった(図表4)。
⇒「貢献」「達成」といった場面に加え、「仕事が段取り通りに進む」「作業に集中している」といった日常的な場面が、仕事へのポジティブな感情につながっていることがわかる。
・一方、「仕事が面白くない、仕事がくだらない、意味がない仕事だ、と感じるのはどのようなときか」という設問への自由記述回答では、「誰のためにもならないと感じるとき」「誰でもできる仕事だと感じるとき」「上司からの理不尽な扱い」などが見られた(図表5)
●約4割の人が週に1度以上、「仕事のために心にゆとりがなくなった」「心身ともに疲れ果てた」と感じている
<バーンアウトの測定>
「バーンアウト(燃え尽き症候群)」とは、ワーク・エンゲージメントの対義語で、「自分はこれだけ頑張っているのに、これだけ尽くしているのに、なぜ成果が上がらないのだ」という思いが募った結果、何かの引き金によって燃え尽きてしまい、突然休職したり、重い場合には離職したりうつ病になってしまったりすることを指す。本調査では、ワーク・エンゲージメントの実態と共に、仕事に熱心に取り組みすぎるあまりに心身が疲弊してしまうことへの懸念も鑑み、バーンアウトの実態についても調査を実施した。日本版バーンアウト尺度で使われる項目のうち情緒的消耗感に関する3項目を用い、ワーク・エンゲージメントと同様に最近1年間の状況を0.まったくない~6.いつも感じる、の7段階で尋ねた。
・「仕事のために心にゆとりがなくなった」「心身ともに疲れ果てた」と1週間に1度以上の頻度で感じている人は約4割だった(下図/図表2-②)。
・また、5項目の平均スコアは3.26で、ワーク・エンゲージメントのスコアよりも高かった。
・バーンアウトは特にヒューマンサービス従事者に多くみられるとされるが、本調査でも職種別に差が見られ、サービス職でバーンアウトのスコアが高く、技術職、事務職では低かった。(図表3右列)
・バーンアウトの理由を選択肢で尋ねたところ、バーンアウト高群(上位33%)で多かったのは、「賃金の低さ」「突発的な業務の多さ」「顧客対応の大変さ」だった(図表6)。
⇒「仕事の裁量の低さ」「仕事の負荷に対する報酬の不足」が、疲弊感をひきおこすと考えられる。
・今回の対象者のなかには、バーンアウト高群のうち、ワーク・エンゲージメント高群も一定数存在した。バーンアウト高群のうちワーク・エンゲージメントも高群である51名では、「仕事そのものの面白さ」や「昇進の見込み」の不足を選ぶ人は少なく、仕事や処遇に対する満足度は低くないが、「仕事の責任・権限の重さ」の選択率が高かった。
⇒仕事のやりがいにつながる側面もある「責任」や「権限の重さ」も、許容範囲を超えるとバーンアウトにつながり得ることが示唆される。
●ワーク・エンゲージメントのプラスの効果
・ワーク・エンゲージメントは、心身の健康、仕事や組織に対する態度、仕事のパフォーマンスなどにプラスの影響を及ぼすとされている。そこで、個人の幸福感(「毎日の活動を楽しんでいる」「有意義な生活を送っている」など8項目)、組織や仕事への適応感(「高い業績をあげている」「他社でも通用する専門性が身についている」など8項目)、離職意向(「今の職場をやめたい」など2項目)の3つとワーク・エンゲージメントとの関係を確認したところ、「個人の幸福感」「組織や仕事への適応感」「離職意向」のいずれも、ワーク・エンゲージメント高群(上位33%)と低群(下位33%)間に有意な差が見られ、ワーク・エンゲージメントが個人と組織の両者によい影響を与えることが明らかになった。(図表7)
・ワーク・エンゲージメントは組織コミットメントを高めるとも言われており、2015年に『RMS Message(Vol.38)』で実施した「組織コミットメント実態調査」*1で確認された組織コミットメントの4因子とワーク・エンゲージメントとの関係を検証したところ、目的的コミットメント(「この会社の理念や目的を実現したい」など、組織の理念や目的へのコミットメント)、功利愛着的コミットメント(「この会社を選んでよかった」など、愛着感情に功利的なニュアンスを含むコミットメント)について、ワーク・エンゲージメント高群と低群間に有意な差がみられ、特に目的的コミットメントで差が大きいことが明らかになった。(図表8)
⇒ワーク・エンゲージメントは組織の目的に対するコミットメントと強い関係があることが示唆された。
・規範的コミットメント(社会規範的なニュアンスを含むコミットメント)、功利存続的コミットメント(損失を回避/利益を重視するコミットメント)は、ワーク・エンゲージメント高低群で有意な差が見られなかった。
●ワーク・エンゲージメントを高める要因
個人と職務・職場の特徴とワーク・エンゲージメントとの関係から、ワーク・エンゲージメントを高める要因を分析した。ワーク・エンゲージメントを高める要因のひとつと考えられるものに、自己や仕事に関する本人の肯定的な態度や仕事のスキルがあり、本調査では、ジョブ・クラフティングやキャリア適応への認知に関する6項目について調査した。
また、職務のアサインの仕方や上司・同僚の支援、制度・仕組みといった物理的・組織的環境のあり方も、ワーク・エンゲージメントを左右すると言われており、本調査では、ハックマン・オルダムのモチベーションを高める職務特性の5側面、心理的安全性・成果志向などの職場風土6項目、意味づけ・個別配慮などの部下に対する上司支援5項目についても調査を実施した。(図表9)
・個人と職務・職場の特徴とワーク・エンゲージメントとの関係を見ると、いずれもワーク・エンゲージメント高群が低群に対して有意に高かった。特に、職務や職場に「先々やってみたいことを具体的にイメージできる」「環境変化にストレスを感じるよりも、それを楽しんでしまうほうだ」という特徴があてはまるかどうかという回答における差が大きかった。
⇒個人がキャリアの見通しを持ち、仕事の捉え方を変化させていくことはワーク・エンゲージメントを高めることにつながることが示唆された。
・一方、職務のアサインの仕方や上司・同僚の支援、制度・仕組みといった物理的・組織的環境のあり方のいずれの項目も、ワーク・エンゲージメントの高低群で有意な差が見られた。特に、上司による仕事の意味づけ(「担当する仕事の意味や意義に関する話をする」「職場や会社の将来に関する意見交換をする」)や、職場における質の高い成果を志向する風土(「質の高い仕事をしようとする」「互いに切磋琢磨する」)という特徴が当てはまるかどうかという回答における差が大きかった。
●制度・仕組みとワーク・エンゲージメント(図表10)
・ワーク・エンゲージメント高群で導入が多かったのは、処遇・配置に関する「自己申告、社内公募など、本人の希望をできるだけ尊重される配置を実現する制度や仕組み」「評価結果とその理由の本人へのフィードバックと説明」、次いで人材育成の「自分の希望に応じ、特定のスキルや知識を学べる研修」だった。これらはワーク・エンゲージメント低群においても導入が多い。
・高群と低群で導入度の差が大きかったのは、経営とのコミュニケーションに関する「経営の重要な情報の従業員への開示」「朝礼や社員全体会議を通じた会社のビジョンの共有」や、職場での「仕事上の成功事例を共有する機会」で、経営や仕事に関する情報の共有に関するものであった。
・導入ありと回答したもののうち「あなたの仕事のやりがいや意欲を高めると思うもの」を選んでもらったところ、「お互いの良いところやお互いへの感謝を伝え合う仕組み」「自分の希望に応じ、特定のスキルや知識を学べる研修」「従業員が幅広いスキルを獲得できるようなジョブローテーションの機会」と、自信やスキルといった個人の資源向上につながるものが上位に並んだ。
●働き方改革とワーク・エンゲージメント
・働き方改革の進展とワーク・エンゲージメントの関係については、「労働時間削減」「生産性向上」「働き方(時間・場所)の柔軟化」のいずれも、ワーク・エンゲージメント高群が低群に比べて進展しており、中でも両群の差が大きいのは「働き方の柔軟化」だった。
⇒働き方改革は、ワーク・エンゲージメントの向上にプラスの影響を与えていると言えそうである。
働く時間や場所の選択肢が広がることで、職務のコントロール感が高まったり、意味がないと感じる会議や移動を最小化したりでき、それがワーク・エンゲージメントを高める方向に影響すると推測できる。
・私生活の快感情が仕事に良い影響を与えることも知られており*2、本調査でも、バーンアウトせずに高いワーク・エンゲージメントを保つには、私生活の充実(「仕事以外に打ち込めるものがある」など3項目)が重要であることが示唆された。
⇒さらなる働き方改革がワーク・エンゲージメントの向上に寄与する可能性がある*3。
*1 リクルートマネジメントソリューションズ(2015)RMS Message vol.38「組織コミットメント実態調査」
*2 同(2018)RMS Message vol.51 「ワーク・ライフのポジティブな関係性」
*3「『働き方改革』と組織マネジメントに関する実態調査 2019」参照
https://www.recruit-ms.co.jp/research/inquiry/0000000833/
5. 調査概要
・調査対象:会社勤務の正社員
※勤務先の従業員規模は300名以上、管理職・役員・経営者は除く。勤務先企業での在籍移管は1年以上
※性別、年齢層(20代/30代/40代)、職務系統(営業/サービス/事務/技術)がそれぞれ均等になるように回収
・調査内容:
どの程度仕事に熱中したり喜びを感じたりするか、またそれはどのようなときか、どの程度仕事が面白くない、意味がないと感じるか、またそれはどのようなときか、仕事や職場・上司の状況、適応感など
・実施期間:2019年11月
・実施方法:インターネット調査
・有効回答数:624名
・回答者の属性:製造業25.6%、非製造業73.7%、その他・不明0.6%
従業員規模:
300名以上1000名未満30.4%
1000名以上3000名未満20.5%
3000名以上5000名未満9.0%
5000名以上10000名未満12.5%
10000名以上27.5%
勤務先企業での在籍期間:
1年以上3年未満16.2%
3年以上5年未満17.1%
5年以上10年未満28.5%、
10年以上38.1%
未婚50.5%、既婚49.5%
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