人的資本理論の実証化研究会、日経225企業の人的資本開示を評価|能力の到達レベルまで目標を示す企業は4%
~有価証券報告書を3年度比較。人材戦略の数値目標を示す企業は64.1%、開示評価の変化と株式リターンの関係も検証~
人的資本理論の実証化研究会(共同座長:小野浩 一橋ビジネススクール教授、福原正大 慶應義塾大学経済学部特任教授)は、日経225構成銘柄のうち3月期決算の170社を対象に、有価証券報告書の人的資本開示を評価したレポート『有価証券報告書における人的資本の投資対効果に関する開示レーティング(日経225版・2026年3月期決算企業対象)』を公表しました。
本研究会は、ノーベル経済学賞受賞の故ゲーリー・ベッカー教授の人的資本理論に基づき、人的資本を人が持つ知識や技能などの「能力」と捉えています。
経営目標と人材戦略を結びつけ、将来の数値目標を示す企業は109社(64.1%)に達しました。一方、必要な能力の到達レベルまで目標を示す企業は7社(4.1%)でした。「何のために人に投資するのか」の説明は広がる一方で、「どのような能力をどこまで高めるのか」を定量的に示す開示は、まだ限られています。
『有価証券報告書における人的資本の投資対効果に関する開示レーティング(日経225版・2026年3月期決算企業対象)』レポートダウンロードはこちら【無料】: https://hc-cv-research.jp/rating_form

■調査結果:日経225企業170社の人的資本開示の現状
開示は「人材戦略と経営目標のつながり」では広がりましたが、「必要な能力の具体化」は一部の企業にとどまります。本研究会は、①人的資本投資の評価指標(経営成果とのつながり)、②人的資本投資対象の明示(必要な能力の具体化)の2つの軸で、各社の開示を1~5点で評価しています。
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開示の内容 |
評価の基準 |
2025年度 (2026年3月期) |
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人材戦略の指標に将来の数値目標を示す企業 |
軸①4点以上 |
109社(64.1%) |
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必要な能力に対応する目標を示す企業 |
軸②3点以上 |
62社(36.5%) |
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必要な能力の到達レベルまで目標を示す企業 |
軸②4点以上 |
7社(4.1%) |
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前年度から評価が上がった企業 |
軸①・軸②の合計点 |
54社 |
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必要な能力の具体化の平均点 |
軸②(5点満点) |
2.35点 |
注:評価は「経営成果とのつながり」(軸①)と「必要な能力の具体化」(軸②)の2つの軸で、各1~5点。
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能力の具体化は徐々に前進:必要な能力の具体化の評価は42社で上がり、平均点も2.18点から2.35点に上がりました。ただし、能力の到達レベルまで目標を示す企業の数は、前年度と同じ7社でした。
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高く評価された開示:両軸が4点以上、またはいずれかの軸が5点となったのは8社です。経営目標と人材施策のつながり、将来の数値目標、必要な能力の定義と到達水準を、それぞれ具体的に示しています。各社の開示の特徴はレポート4章に掲載しています。
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エンゲージメントとの区別:多くの企業がエンゲージメントスコアを開示しています。本研究会はこれを人的資本(能力)そのものではなく、能力の発揮度を示す指標と位置づけています。
■運用検証:人的資本開示の評価の変化と株式リターンの関係
開示評価の変化を投資判断に取り入れた試算では、2年間の年率超過収益率(5%の期待アクティブリスク)は、経営成果とのつながりの評価を使った場合で+1.59%、必要な能力の具体化の評価を使った場合で+1.04%となりました。複数年度の評価がそろったことを踏まえ、運用会社が一般的に行うアクティブ運用の考え方に沿って検証したものです。
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検証の方法:同じ170社を対象に、前年度からの評価の変化に応じて、日経225に連動する比較指標に対する各銘柄の配分を調整しました。業種や企業規模などへの偏りを抑え、毎年7月に配分を更新しています。
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検証期間:2024年7月~2026年6月の2年間(487営業日)
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結果:年率超過収益率は、経営成果とのつながりの評価を使った場合が+1.59%(インフォメーション・レシオ0.28)、必要な能力の具体化の評価を使った場合が+1.04%(同0.19)でした。いずれも年ごとにみてもプラスでしたが、その大きさは年によって異なります。
本結果は過去データによる試算であり、将来の成果を保証するものではありません。評価は事後的に整備したもので、採点の対象は開示の内容であり、従業員の能力を直接測ったものではありません。
■経営者・機関投資家への示唆:人への投資を「能力のレベル」で示す開示へ
人的資本開示の次の課題は、人への投資を、経営戦略に必要な能力とその到達水準という形で定量的に示すことです。本レポートは、各社の開示が外部からどのように読まれ、どう評価されているかを、共通の基準で示しています。
企業の経営者・開示担当者の方へ
自社の有価証券報告書が次の問いに答えているかを、経営部門と人事部門で確かめることを提案します。
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利益率の向上や新規事業の拡大といった経営目標に、採用・育成・配置がどう寄与するのか
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事業に必要なのはどのような能力で、どの水準まで、いつまでに何人育てるのか
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すでに達成した実績と、これから目指す数値を区別して示しているか
研修の受講人数などの指標を並べるだけでなく、能力を測り、その変化を数値で示すことが、投資家に伝わる開示につながります。
機関投資家の方へ
本レポートの2つの評価軸と年度ごとの点数の変化は、投資先企業との対話で人的資本を取り上げる際の共通の物差しとして活用できます。開示の到達段階を確かめ、必要な能力の具体化を促すための材料としてご活用ください。
共同座長コメント
小野 浩(一橋ビジネススクール 教授)

「『人的資本』とは、人が持つ能力や知識のことです。能力は投資によって高まる一方、放置すれば陳腐化するストックであり、どのような能力に投資し続けるかが問われます。今回の評価では、人材戦略と経営目標を結びつける開示が広がる一方、必要な能力とその水準まで示す企業はまだ少数でした。『人的資本』を正しく理解したうえで、能力への投資を具体的に語る開示が広がることを期待しています。」

「有価証券報告書は、投資家が企業の将来価値を読み解くための基本資料です。今回は複数年度の評価がそろったことから、運用会社が用いる手法で、開示評価の変化を投資判断に取り入れた場合の結果も検証しました。企業には開示を見直す手がかりとして、投資家には対話の共通言語として、本レポートを活用していただきたいと考えています。」
■レポート概要:有価証券報告書における人的資本開示レーティング(2026年3月期)
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項目 |
内容 |
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レポート名 |
有価証券報告書における人的資本の投資対効果に関する開示レーティング(日経225版・2026年3月期決算企業対象) |
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対象企業 |
2023年度~2025年度の各時点で日経225構成銘柄だった企業のうち、3月期決算で3年度を継続して比較できる170社 |
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対象資料 |
各社の有価証券報告書(2024年3月期~2026年3月期) |
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評価軸 |
軸①人的資本投資の評価指標、軸②人的資本投資対象の明示(各軸1~5点) |
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評価方法 |
2024年度・2025年度は、人手による評価基準をもとに構築したAI採点モデルで評価。2023年度は2024年3月期版で公表した評価を使用 |
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運用検証 |
2024年7月~2026年6月、比較指標は日経225連動ETF3本の平均 |
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入手方法 |
研究会ウェブサイトからダウンロード【無料】: https://hc-cv-research.jp/rating_form |
2025年度は2026年3月期を指します。本研究会によるレーティングの公表は、「2023年3月期決算企業対象」「2024年3月期決算企業対象」に続き3回目です。
<「人的資本理論の実証化研究会」について>
人的資本理論を体系化したノーベル経済学賞受賞の故ゲーリー・ベッカー教授の理論に基づき、人的資本を「能力」と捉え、それが企業価値の向上にどうつながるのかを定量データで検証する研究会です。2022年10月に活動を開始し、産学連携で実証研究を進めています。
人的資本と企業価値の関係:研究会の考え
本研究会は、人的資本と企業価値の関係を次の3つの要素で整理しています。
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人的資本(能力):知識や技能など、人が持つ能力そのもの。経営戦略上重視するスキルと、それを習得する力・活用する力を含みます。
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人的資本(能力)の発揮度:エンゲージメントやウェルビーイング、心理的安全性、ダイバーシティなど。能力を企業価値に効果的につなぐための、組織の内側の条件です。
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人的資本(能力)起因のリスク:コンプライアンスや人権意識など。欠けると企業価値にマイナスの影響を与える、外からの制約です。
能力は、その発揮度と掛け合わさることで企業価値の向上につながります。一方、人的資本起因のリスクは、その効果に外から制約を加えます。そのため、持続的な企業価値の向上には、能力とその発揮度などを合わせた「Human Capital Potential Factor(人的資本の潜在ファクター)」を定量化し、企業価値への寄与、すなわち投資対効果(ROI)を検証することが重要だと考えています。

研究会ではこのほか、ベッカー教授のもとで学んだ小野教授とともに、IGSが提供する「GROW360+(グロー・サンロクマル・プラス)」で得られた人材の能力データや財務データなど、参画企業の実データを用いた実証研究も進めています。
開示レーティングの目的:有価証券報告書の人的資本開示を同じ基準で評価する理由
有価証券報告書は、2023年3月期から人的資本に関する記載が求められるようになった法定開示であり、企業間・年度間で比較できる共通の資料です。開示レーティングは、そこから「経営成果につながる人材戦略と、その実現に必要な能力への投資」が読み取れるかを、同じ基準で評価するものです。「人的資本と企業価値の関係」図の枠組みでいえば、人的資本(能力)への投資と、それが企業価値につながる道筋の開示を対象にしています。評価結果は、人的資本と企業価値の関係を確かめる検証の基礎データとなると同時に、企業の経営部門・人事部門と投資家が対話する際の共通の物差しとなることを目指しています。
点数は有価証券報告書の開示内容を評価したもので、企業の人材施策の優劣や、従業員の能力そのものを測ったものではありません。
<研究会概要>
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共同座長:小野浩(一橋ビジネススクール 教授)、福原正大(慶應義塾大学 経済学部 特任教授 兼 Institution for a Global Society株式会社 代表取締役会長CEO)
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運営事務局:Institution for a Global Society株式会社(IGS)
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研究会ウェブサイト:https://hc-cv-research.jp
■本件の問い合わせ先
〇入会等についてのお問い合わせ(企業・団体等): 「人的資本理論の実証化研究会」運営事務局(中西・西野)
E-mail: hc-cv-research@i-globalsociety.com
〇取材に関するお問い合わせ(メディア): 「人的資本理論の実証化研究会」運営事務局 広報担当(川村)
E-mail: pr@i-globalsociety.com
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