「経営チーム内の対話の促進」が「経営成果」につながる:定量・定性的調査の結果で明らかに
二松学舎大学とコーチング研究所の共同研究レポート
組織変革を実現するエグゼクティブ・コーチング・ファーム、株式会社コーチ・エィ(東証スタンダード9339)の研究開発部門「コーチング研究所」は、二松学舎大学の小久保欣哉教授との共同研究による調査レポート「『対話の促進』は『経営成果』にどのように影響するか?~ 量的データと質的データによる研究:『対話の促進』が『パーパスの浸透』『経営チームの戦略的意思決定能力』『経営成果』へ及ぼす影響〜」を発表しました。
経営学の領域では、長きにわたり、企業内での「対話」が組織の知識創造に不可欠な要素とされてきました。そこで、今回のレポートでは、「対話」に注目し、対話の促進と経営成果の関係について、定量・定性的な調査を行いました。その結果、経営チームや会社全体での対話の促進が組織全体の活性化にポジティブな影響を与え、ひいては経営成果につながる可能性があることが示されました。
サマリー
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上場企業に勤務する約550名を対象とした調査で、経営チーム内の対話促進が経営成果に影響を与えると判明した。
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「対話を促進している企業」は、パーパス浸透度、経営チームの戦略的意思決定能力、経営成果が「対話を促進していない企業」よりも高い結果となった。
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経営者3名へのインタビューによる定性調査で、経営チーム内の対話の促進が、個々の暗黙知の形式知化や部門を超えた多様な連携を生み出すなど、経営成果の向上に寄与すると考えられる具体的な変化をもたらしていることが明らかになった。
本調査の前提と目的
コーチング研究所は、二松学舎大学の小久保欣哉教授とともに、「対話の促進」と「経営成果」の関係性を明らかにするための調査を継続的に実施してきました。過去に共同執筆した2本のレポートでは、次の2点を報告しています。
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組織に企業理念やパーパスを浸透させるためには、経営チームにパーパスが十分に浸透することが重要である。
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経営チームおよび会社全体の対話の促進度は、「経営チームおよび会社全体へのパーパス浸透度」および「経営チームの戦略的意思決定能力の高さ」と相関がある。
今回の調査では、「対話を促進している企業」と「対話を促進していない企業」と比較し、「経営成果」に定量的な違いがあるのか、明らかにします。
加えて、経営チームおよび会社全体の対話の促進が、パーパス浸透や戦略的意思決定、経営成果にどのような影響を与えるかを、経営者インタビューによる定性的な情報によって、定量的事実との関連を確認しています。
約550名の上場企業社員調査が示す:「経営成果」への重要な出発点は「経営チーム内の対話の促進」
上場企業に勤務する約550名の社員(経営層含む)を対象にアンケートを実施し、【対話を促進している企業】と【対話を促進していない企業】における経営チームと全社それぞれのパーパス浸透度、経営チームの戦略的意思決定能力、経営成果に関する定量的な差を分析しました。
図1. 経営チーム(TMT)内の対話促進と経営指標との関連
図2. 会社全体(全社)の対話促進と経営指標との関連
分析の結果、【対話を促進している企業】では、経営チームと会社全体ともに、パーパス浸透度、経営チームの戦略的意思決定能力、経営成果が【対話を促進していない企業】よりも統計的に有意に高いことが示されました。
コーチング研究所の2024年1月のレポートでは、「経営チーム内の対話の促進」と「会社全体の対話の促進」に強い相関があることが報告されています。
従って、経営チーム内での対話が会社全体に影響を与える可能性が高いため、「経営チーム内の対話の促進」が「経営成果」向上の重要な出発点であるといえます。
定性調査で判明:経営チーム内の対話の促進がもたらす具体的な経営成果
コーチ・エィのクライアント企業にて「経営チーム内の対話の促進」に取り組む経営者3名へのインタビューによる定性的情報を収集し、統計結果の解釈と背景を明らかにしました。
インタビュー回答の要約は下記のとおりです。
①「経営チーム内の対話の促進」がなされている状態とは、具体的にどのような状態か? |
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経営チーム内で「対話が大事だ」という意識が浸透し、会話から始まり徐々に対話の質が高まると、メンバー間での質問や要望のやりとりが増え、縦横斜めの対話が活性化し、リーダーシップが発揮されるようになった。 |
経営チームメンバーがお互いにリクエストや期待を伝え、全員で共有する場を持つことで、異なる視点や考え方の理解が深まり、個人の暗黙知が形式知化され、対話の促進につながった。 |
②「経営チーム内の対話の促進」は、「経営チームへのパーパス浸透」にどのような影響や作用があったか? |
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中期経営計画の達成には、強い意欲を持ち続けることが重要であり、そのためには「なぜ?」「どうする?」と問いかけながら対話を続けることが不可欠だと考えている。 |
「パーパスが浸透している集団」とは、単に言われたから行動するのではなく、パーパスに共感し自発的に行動する集団である。パーパスを間に置いた対話により、理解が深まり共感が進んだと感じている。 |
理念・パーパスの初期概念はトップが作るが、重要なのはパーパスの「Why」を伝え、社員や顧客と対話を通じて具体化すること。この対話のプロセスそのものが、パーパスの浸透につながると考えている。 |
③「経営チーム内の対話の促進」は、「経営チームの戦略的意思決定能力」の向上にどのような影響や作用があったか? |
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これまで経営チームは社長の意思決定に追随するのが主流だったが、対話の促進に取り組んだ結果、経営チームメンバーによる前向きな意思表示が増えてきた。現在、経営チームは「本当の意味でのチーム」として醸成されている段階にある。 |
経営チーム内の対話が促進されてから、多面的で双方向的なコミュニケーションが行われ、会社の方向性を決定するプロセスが向上した。自らの意思決定のスピードが迅速になり、経営判断が後手に回ることが少なくなっている。 |
経営会議の時間が良い意味で長くなり、経営チームメンバーから意見や考えが多く語られるようになった。今後は、発言の量だけでなく、会議の内容の質も高め、さらなる戦略的意思決定力の向上を目指す。 |
④「経営チーム内の対話の促進」は、「経営成果」の向上にどのような影響や作用があったか? |
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対話の促進が経営成果に表れるのはまだ先だと感じている。経営チーム構築当初は社長が意思決定し、メンバーは従うだけだったが、1年後の現在では対話をベースに物事を決定する機会が増え、「本当の経営チーム」となれたと実感している。今後1〜2年以内に具体的な経営成果が現れると信じている。 |
近年の業績は右肩下がりだったが、経営チーム内の対話促進により業績が反転し、利益率が向上している。昨年度は利益率は過去最高を達成した。エンゲージメントサーベイの結果も改善しており、これは対話を通じた企業文化の変化が影響していると感じている。 |
経営チームの活動量は増加し、対話の促進により、以前は個々で厳しい目標に取り組んでいたメンバーが互いにフォローし合うようになった。対話を通じて、事業の背景や文脈を理解したことが協力体制の強化につながったと考えている。 |
「経営チーム内の対話の促進」は、「経営チームへのパーパス浸透」や「経営チームの戦略的意思決定能力の向上」といった変化をもたらします。具体的には、対話を通じて経営チームメンバー間の理解が深まり、縦の管掌事業の域を超えて、縦横かつ多様なつながりが生まれるなど、関係性の変化が見られました。また、リクエストや期待を互いに伝え合うプロセスを通して、個々の異なる視点や経験が共有され、経営チームメンバー個々の暗黙知が形式知化されることも明らかになりました。
「経営チーム内の対話の促進」がなされるためには、お互いの価値観について知ることや、互いへの興味関心や敬意を持つことが必要です。そして、その状態を定常化できると、「経営チーム内のパーパス浸透」や「経営チームの戦略的意思決定能力の向上」につながり、最終的には「経営成果」につながると考えられます。
調査概要
【① 定量調査】
上場企業で働く約550名の社員(経営層含む)を対象にアンケートを実施。
調査対象企業を「対話を促進している企業」と「促進していない企業」に分類し、それぞれの企業で「パーパスの浸透度(経営チーム内/会社全体)」、「経営チームの戦略的意思決定意思決定能力の高さ」、「経営成果」という3つの項目における両者それぞれの差についての仮説を立て、定量的な結果分析を行った。
調査期間 |
2023年8月4日〜8月24日 |
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調査対象 |
東京証券取引所に上場する各種上場企業所属の 「会長・社長・CEO・取締役・執行役員」「本部長・部長」 「課長・係長・主任・一般社員」 |
有効回答 |
36業種、562サンプル |
調査項目 |
1.対話の促進度(経営チーム内/会社全体) 2.パーパス浸透度(経営チーム内/会社全体) 3.経営チームの戦略的意思決定能力の高さ 4.経営成果 |
調査内容 |
「経営チーム内の対話促進度」「会社全体の対話促進度」 「経営チームへのパーパス浸透度」「会社全体へのパーパス浸透度」 「経営チームの戦略的意思決定能力」「経営成果」の6つの構成概念に ついての調査。各項目は表4に記載の研究を基に、 リッカート尺度(「あてはまらない」~「あてはまる」の5段階)で 定量的に調査。全ての項目でクロンバックのα係数が0.9を超え、 信頼性が確認されていること。 |
【② インタビュー】
インタビュー実施期間 |
2024年4月8日〜5月17日 |
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インタビュー対象 |
コーチ・エィのコーチングを受けた経営者3名(インフラ業、倉庫・運輸関連業・金融業) |
インタビュー項目 |
①「経営チーム内の対話の促進」がなされている状態とは、具体的にどのような状態か? ②「経営チーム内の対話の促進」は、「経営チームへのパーパス浸透」にどのような影響や作用があったか? ③「経営チーム内の対話の促進」は、「経営チームの戦略的意思決定能力」の向上にどのような影響や作用があったか? ④「経営チーム内の対話の促進」は、「経営成果」の向上にどのような影響や作用があったか? |
コーチング研究所とは
コーチング研究所は、株式会社コーチ・エィの研究開発部門です。コーチ・エィが長年培ってきた「組織開発に向けたコーチング」の豊富な経験とリサーチ実績をもとに、人と組織の状態を可視化し、コーチングの可能性を科学的な視点から読み解く活動をしています。また、コーチング研究所のリサーチデータは新商品の開発や既存のサービスの品質向上に活用されています。
株式会社コーチ・エィ
コーチ・エィは、組織変革を実現するエグゼクティブ・コーチング・ファームです。
人と人との関係性に焦点をあて、システミック・コーチング™というアプローチで、組織全体の変革を支援する対話を通じた組織開発を推進しています。
1997年の創業(当時はコーチ・トゥエンティワン)以来、パイオニアとして日本におけるコーチングの普及・拡大に貢献してきました。クライアントの約8割がプライム市場に上場している大企業です。また、コーチ人材の開発にも力を入れており、今まで1万人以上のコーチを輩出してきました。
2008年にはコーチング研究所というリサーチ専門の部署を構え、世界に先駆けてエビデンス・ベーストのコーチングサービスを提供してきました。豊富なコーチング実績の分析データをもとに、コーチングに関する学術研究や成果の可視化に向けた研究に取り組んでいます。
東京のほか、ニューヨーク、上海、香港、バンコクに拠点を構え、日本企業の海外拠点はもとより、海外現地企業にもコーチングを提供しています。世界的なコーチ養成機関の草分けであるCoach Uを2019年に子会社化するなど、さらなるグローバルネットワークの拡大を図っています。
本件に関するお問合せ
株式会社コーチ・エィ IR・広報部 広報グループ
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