2023年入社の新入社員の意識調査〈卸売業・小売業編〉……不安・キャリア志向・理想の上司
身に着けたいスキル「ビジネスマナー」8割以上、他業種より関心高く
(参考)2023年4月19日に公表した速報値版の結果 https://www.learningagency.co.jp/topics/20230419
背景
2023年入社の新入社員はZ世代と呼ばれ、物心ついたときからすでにデジタル技術が発達している社会で育ってきました。幼少期から高速通信環境が存在し、学生時代には4G・5Gが整備され、YouTubeなど個人発信のエンタメの発展と共に育ってきました。また、学生時代は、新型コロナウイルス感染症の影響によりコミュニケーションの大部分がオンラインへと移行。組織を意識することや、集団行動が求められる機会が減少したことにより友好関係も縮小傾向にありました。さらに、近年はロシア・ウクライナ戦争の長期化による経済の縮小、原材料価格や物流費の高騰や円安など、様々な外部環境の変化に翻弄される企業を、メディアを通じて見てきたことでしょう。
そこで、今回の調査では、このような外部環境の大きな変化と共に育ってきた今年の新入社員が、仕事に対してどのような価値観をもっているのかを明らかにすべく、「新入社員の意識調査」を行いました。
調査結果の概要
入社式後の新人の気持ち、半数以上が「不安」「緊張」と回答
特に「仕事についていけるか」「基礎的なマナーの習得」に不安を抱える傾向に
身につけたいスキル、8割以上が「ビジネスマナー」と回答。他業種よりも「マナー習得」に不安を感じる傾向に
昨年より「リーダー志向」が5.2ポイント減少。一方、「楽しく仕事したい」「まだわからない」が増加する結果に
今後していきたい仕事、7割以上が「楽しくてやりがいのある仕事」と回答
「自分のペースでやり切れる仕事」は4年連続増加傾向
今の会社で働き続けたいと思える状況、「職場の人間関係が良い」が7割を超え最多に
理想の上司は「間違いを指摘して正してくれる上司」「よく見て声かけてくれる上司」
調査結果の詳細
1.入社式後の新人の気持ち、半数以上が「不安」「緊張」と回答。特に「仕事についていけるか」「基礎的なマナーの習得」に不安を抱える傾向に
2023年4月、入社式を終えたばかりの新入社員5,623人に、現在の気持ちを単一選択で質問しました。結果、卸売業・小売業の新入社員は、「不安」と回答した新人が33.1%と最も高くなりました。次に、「緊張」が26.0%、「期待」が14.8%と続きました。「緊張」に関しては、卸売業・小売業界を除く全業種(以下、『他業種』と記載)よりも5.1ポイント高い結果になりました。(図1)
さらに、卸売業・小売業の新入社員が現時点で「不安」に感じることは何か質問したところ、「仕事についていけるか(仕事の難易度)」が最も高く63.1%となりました。次に「社会人の基礎的なマナーの習得」が47.3%、「生活リズムや社会人としての考え方の習得」が43.2%と続きました。
他業種との比較においては「社会人の基礎的なマナーの習得」が他業種よりも7.0ポイント高い結果となり、卸売業・小売業の新入社員は、他業種よりも社会人としてのふるまいに不安を感じていることがわかります。(図2)
2.身につけたいスキル、8割以上が「ビジネスマナー」と回答。他業種よりも「マナー習得」に不安を感じる傾向に
また、マナーの習得に関して不安を感じていることは、こちらの質問への回答結果からも見受けられました。社会人1年目で身につけたいスキルは何かを質問したところ、「ビジネスマナー」が85.5%と最も高い割合となりました。
他業種との比較においても「ビジネスマナー」を身につけたいと回答した割合は、他業種より9.4ポイントと1割近く高い結果となりました。なお、卸売業・小売業と他業種とで回答結果に最も差が出た項目は「ITリテラシー」です。こちらは逆に他業種よりも身につけたいと回答した割合は22.6ポイント低く、3.3%の結果となりました。(図3)
3.昨年より「リーダー志向」が5.2ポイント減少。一方、「楽しく仕事したい」「まだわからない」が増加する結果に
次に、キャリア志向についてみていきます。将来会社でどのような役割を担いたいかという質問に対する回答を、2019年からの5年間で比較したところ、卸売業・小売業の新入社員は5年連続で「組織を率いるリーダーとなり、マネジメント行いたい」が最も高い割合となっています。今年も「組織を率いるリーダーとなり、マネジメント行いたい」が31.8%と最も高い割合となりましたが、昨年より5.2ポイント減少。
一方、「特にキャリアについての志向はなく、楽しく仕事をしていたい」が27.6%、「まだはっきりしておらず、今後決めていきたい」が25.5%と、それぞれ昨年より4.5ポイント、3.7ポイント増加する結果となりました。リーダー志向が高い傾向にあった卸売業・小売業の新入社員ですが、今年はキャリアについて明確な志向を持っていない割合が増加していることが特徴と言えるでしょう。(図4)
4.今後していきたい仕事、7割以上が「楽しくてやりがいのある仕事」と回答。「自分のペースでやり切れる仕事」は4年連続増加傾向
次に、今後どのような仕事をしていきたいかについて、2020年からの4年間で比較しました。結果、「楽しくてやりがいのある仕事」と回答した割合が70.1%と最も高い割合となり、多くの新入社員が仕事に楽しさややりがいを求めてることがわかりました。しかし、過去の結果と比較すると「楽しくてやりがいのある仕事」は3年連続減少していることがわかりました。次に、「自身の成長につながる仕事」が46.4%、「楽しく取り組める仕事」が38.5%と続きました。こちらの項目も、昨年よりそれぞれ5.8ポイント、1.0ポイント低くなりました。
一方、「自分のペースでやり切れる仕事」は昨年より5.6ポイント高い割合となり、2019年から4年連続増加する結果となりました。(図5)
5.今の会社で働き続けたいと思える状況、「職場の人間関係が良い」が7割を超え最多に
「やりがい」や「自分のペースで仕事ができる」ことを求める卸売業・小売業の新入社員はどのような状況であれば、今の会社で働き続けたいと思うのでしょうか。
結果、「職場の人間関係が良い」が71.4%と最も高い割合となりました。この割合は、昨年よりも3.1ポイント高い割合となり、2020年から4年間で最多の結果となりました。次に、「高い給与・賞与をもらえる」が63.1%と続きました。こちらも2020年からの4年間で増加し続けており、他業種よりも2.4ポイント高い割合となりました。(図6)
6.理想の上司は「間違いを指摘して正してくれる上司」「よく見て声かけてくれる上司」
卸売業・小売業の新入社員は、人間関係を重視する傾向が高まっていることがわかりましたが、具体的にどんな上司が自分のキャリアアップにつながる理想の上司なのか質問してみました。
結果、「間違いを指摘して正してくれる」と回答した割合が56.1%と最も高い割合となりました。次に、「自分のことをよく見てくれ、声をかけてくれる」が44.5%と続きました。
他業種と比較すると、「自分のことをよく見てくれ、声をかけてくれる」が3.4ポイント、「具体的に手順を細かく教えてくれる」が3.0ポイント高い割合となりました。
卸売業・小売業の新人は、(図6)の結果からもわかる通り、「職場の人間関係が良好であること」が会社で働き続ける上で重要です。理想の上司の条件は、「間違いを指摘する」だけでなく、よく見て声をかけてくれ、手順を細かく教えてくれるなど、密にコミュニケーションをとることも含まれていると推察できるでしょう。(図7)
まとめ
昨年実施した新入社員意識調査*1では、「将来組織を率いるリーダーとなりたい」と回答した割合が他業種より高い結果となった卸売業・小売業の新入社員。今年の新入社員はどのような特徴があるのかを明らかにすべく、2019年からの5年間の調査結果を比較し、分析しました。
結果、今年の卸売業・小売業の新入社員は、「リーダー志向」の割合は減少し、「楽しく仕事をしたい」「まだわからない」と将来のキャリアについて明確な志向を持っていない方の割合が高まりました。卸売業・小売業を取り巻く環境は、大きく変化しています。例えば、消費者は「モノからコトへ」と表現されるように経験価値やサービスを重視するようになり、安全・安心への志向や環境意識が高まる傾向に。また、大手EC事業者による市場の寡占化は、中小企業にとって大きな脅威にもなっています。このような変化の激しい卸売業・小売業では、今後のキャリアが見えにくくなっていることが推察できます。
今後やりたい仕事については「楽しくてやりがいのある仕事」と回答した割合が約7割と最多となりました。特徴的だった項目は「自分のペースでやり切れる仕事」を求める声が年々増加している点です。働き方改革やリモートワークなど、近年の「労働者を取り巻く価値観や環境」の変化は、まだ働いた経験のない新入社員の意識にも影響を与えているのかもしれません。
繊細な一面が見えた部分としては、入社時に感じた気持ちに「不安」「緊張」と回答した割合が約6割にのぼった結果です。その中でも特に、卸売業・小売業は、「社会人としての基礎的なマナーが習得できるか」に不安を抱く割合が他業種より高くなりました。今後、身につけたいことには「ビジネスマナー」と回答する割合も最多に。卸売業・小売業は人と人、及び会社と会社との繋がりを重視する業界だからこそマナー習得に対して危機感を感じやすい一面があるのでしょう。
また、マナーに対して習得したい意欲はあるものの、「ITリテラシー」を身につけたいと回答した割合がわずか3%となったことも特徴的でした。卸売業・小売業でも、生産性向上や業務効率化を見据えたデジタル化の推進が加速し、ITリテラシーが求められることもあるでしょう。今後は、ITリテラシーの必要性についての意識を高めていけるような施策も必要かもしれません。
人とのつながりを重視し、自分のペースで楽しく仕事をしていくことを求める卸売業・小売業の新入社員が、現場で活躍する人材になるためには、まずは彼らが不安と感じているビジネスマナーや社会人としての立ち居ふるまいなどの、社会人基礎力を身につけていくことが最重要課題です。それに加え、変化の激しい市場に対し、即戦力の一員となるためには、業界の知識をインプットしていくこと、また上司・先輩に間違いを適切に正してもらうこと、特性やキャリア志向を明確にしていくことなどが必要なのではないでしょうか。
*1 2022,07,19 新入社員意識調査(卸売業・小売業編) https://www.learningagency.co.jp/topics/20220719
参考資料
調査対象者 | 当社が提供する研修の受講者 |
調査時期 | 2023年4月1日~5月25日 |
調査方法 | 自記式またはWEBでのアンケート調査 |
サンプル数 | 5,623人<卸売業・小売業>338人、<他業種(卸売業・小売業以外の全業種)>5,278人 |
属性 | <卸売業・小売業> ① 1人~50人:4.2%(14人) ② 51人~100人:16.9%(57人) ③ 101人~300人:44.4%(150人) ④ 301人~1,000人:26.3%(89人) ⑤ 1,001人~5,000人:1.8%(6人) ⑥ 5,000人以上:4.4%(15人) ⑦ 不明:2.1%(7人) ⑧ 無回答:0.0%(0人) <他業種(卸売業・小売業以外の全業種)> ① 1人~50人:5.7%(299人) ② 51人~100人:11.7%(615人) ③ 101人~300人:28.5%(1,499人) ④ 301人~1,000人:14.9%(782人) ⑤ 1,001人~5,000人:23.8%(1,251人) ⑥ 5,000人以上:10.3%(541人) ⑦ 不明:5.2%(276人) ⑧ 無回答:0.3%(15人) |
*本調査を引用される際は【ラーニングエージェンシー「新入社員意識調査(卸売業・小売業編)」】と明記ください
*各設問において読み取り時にエラーおよびブランクと判断されたものは、欠損データとして分析の対象外としています
*構成比などの数値は小数点以下第二位を四捨五入しているため、合計値が100%とならない場合がございます
株式会社ラーニングエージェンシー 当社は、設立以来、定額制集合研修「Biz CAMPUS Basic」、ライブオンライン研修「Biz CAMPUS Live」、ビジネススキル学習アプリ「Mobile Knowledge」、10万人以上が受検するビジネススキル診断テスト 「Biz SCORE Basic」など、人と組織の成長を支援する業界初*、特許取得のサービスを多数開発・提供しています。「LEARNING」の可能性を探求し続け、「人と組織の未来創り」を真にリードできる伴走者、ラーニングコアパートナー®として、お客様に長く貢献してまいります。 ラーニングイノベーション総合研究所 ラーニングエージェンシーの研究機関であるラーニングイノベーション総合研究所(以下、LI総研)は、人と組織の未来創りに関する様々な調査・研究活動を行っています。LI総研はデータに基づいた最適な解決策もご提供し、お客様の組織開発をサポートしています。 代表取締役社長 眞﨑 大輔 |
お問い合わせはこちら 株式会社ラーニングエージェンシー
企画グループ 松浦・加藤
la-press@learningagency.co.jp 03-5222-5111(代表)
すべての画像