【調査リリース】サービス業離職経験者へのアンケート
~離職経験者の4割は時給アップで踏みとどまった可能性あり。「仕事がきつい」職場で離職させないためには883円昇給、もう一人分の時給が必要。時給に依存せず、職場改善により年間54%の離職を防げる可能性~
生活密着型のサービスを提供する店舗や拠点などの現場では深刻な人手不足が課題となっています。企業側の努力により賃金を引き上げる施策が行われているほか、外国人の採用拡大、ロボットやIT機器を活用した省人化施策が進められています。一方で、物価上昇を受けて厚生労働省が最低賃金の大幅な引き上げを決めたことにより、企業では更なる負担が求められることになりました。このような状況において、当事者となるサービス業従事者が本当に求める時給はいくらなのか、また時給以外に離職の原因となっている事象は何かを明らかにするため、このたび、サービス業の離職経験者を対象にアンケートを実施しました。
■調査結果ハイライト
■経済価値試算
■調査概要
調査企画 :ClipLine株式会社
調査委託先 :マクロミル
調査対象 :全国の過去1年以内にサービス業(外食、小売、運輸、介護)で非正規社員として勤務し離職を経験した1,033名
・学生、主婦/主夫、フリーター、シニア(65歳以上)から均等に25%ずつ回収
・従事していた業種の割合は、外食(29%)、小売(29%)、運輸(24%)、介護(18%)
調査方法 :オンライン上でのアンケート調査
調査期間 :2023年7月28日~8月1日
主な調査内容:サービス業における離職理由と時給などについて
※それぞれ、数字の丸めにより合計が100%にならない場合があります。
Q1.職場を選ぶ際に重視した点は何でしたか(複数回答可)。
給与や待遇よりも通いやすさや自分の都合に合わせられることの方が上位となりました。職業属性別の傾向は以下の通りです。
・学生:他の属性に比べて「給与・待遇」を重視する割合が高い。「自分の都合に合わせて働けること」「長く働けること」は重視する割合が低い。
・主婦/主夫:他の属性に比べて「自分の都合に合わせて働けること」「交通アクセス」を重視する割合が高い。
・フリーター:他の属性に比べて「自分の都合に合わせて働けること」「交通アクセス」を重視する割合が低い。
・シニア:他の属性に比べて「長く働けること」を重視する割合が高い。「給与・待遇」を重視する割合が低い。
Q2. もっとも離職に影響した理由はどれですか。
勤続期間別に離職理由を集計したところ、勤続期間に関わらず「仕事がきつかった」が最も多い理由でした。ただしその中でも勤続期間が短い人ほどその割合が高くなっており、入社前のイメージとのギャップがあったり、なかなか仕事に慣れることができなかったなどの理由が考えられます。ただし、1年以上勤続している場合でも最も回答率の高い離職理由であり、自身の役割の変更や店舗の人手不足などで仕事の負荷が上がった場合、ベテランスタッフであっても離職の可能性となり得るため、注意が必要と言えそうです。また、2位以降の要因が重なって「きつい」と感じる遠因になっている可能性もあります。
反対に、「上司や同僚と気が合わなかった」など職場環境を理由とする離職は勤続期間が長い人ほどその割合が高くなっています。長く働く中で、店長の異動や同僚の離職などにより自身の居心地が悪くなるとそれが離職のトリガーになることが伺えます。
※上記のグラフでは「転居、卒業、結婚、介護など生活の変化があった」「通勤が大変だった」「学業や生活との両立について理解がなかった」の3項目を「自主的なコントロールが難しい離職項目」と判断して除外しています。すべての項目を含む結果はこちらです。
※以降の設問では、離職理由で「転居、卒業、結婚、介護など生活の変化があった」「通勤が大変だった」「学業や生活との両立について理解がなかった」の3項目を選択した回答者を「自主的なコントロールが難しい離職」と判断して調査から除外しています。
Q3. 離職したとき、理由を正直に伝えましたか。
離職理由を正直に伝えているのは42%で半数に満たず、何も言わずに離職するケースも17%あるという結果になりました(図1)。
勤続期間別にみると、1年以上働いていると離職理由を正直に伝える割合が若干高くなっていますが、それでも46%です。また、1ヶ月以内で離職する早期離職者は何も言わずに離職する割合が32%と他に比べて高くなっています(図2)。
Q4. 実際の離職理由に関わらず、もし時給が当時もらっていた金額より高かったら、離職しなかったと思いますか。
全体の6割は時給の水準によらず離職を選ぶが、残りの4割は条件によっては離職を踏みとどまった可能性があるという結果になりました(図1)。
離職理由別に時給次第で離職を踏みとどまった可能性の割合を見てみると、時給や交通費、希望通りのシフトに入れないなど、収入に関する理由の場合は割合が高くなっており、金銭面の条件次第で解消されるケースが高いことがわかります(図2-①)。
次いで、やりがいを感じられない、希望する仕事内容ではない場合も金銭面の条件次第で離職を踏みとどまる可能性が高くなっています。これらは、もちろん満たされていることが望ましいですが、無くてもある程度妥協できる条件と考えられます(図2-②)。
一方、上司や同僚と気が合わなかった、理不尽な指導があった、職場の雰囲気が悪かったといった、店舗の人間関係、職場環境に関する設問は、金銭面の条件では離職を踏みとどまることが難しいようです(図2-③)。離職理由としては最も高い「仕事がきつかった」よりも踏みとどまる可能性が低くなっており、人間関係・職場環環境の観点で信頼が失われると取り返すのは難しいことが伺えます。
Q5. 離職したときの時給はいくらでしたか。
時給1,000円強までは人数が逓増していて1,050円以上になるとまばらな分布になっており、近年の最低賃金の引上げを反映している傾向が見られます。ただし、勤続年数の長いスタッフは最新の最低賃金改定が反映しきれていない可能性や、最低賃金を超える水準での時給アップが難しい状況であると考えられます。
Q6.(Q4で時給が大幅に/少しでも高ければ辞めなかったと答えた人へ)
あといくらもらっていたら辞めなかったと思いますか?
時給で考えたときに不足していたと思われる金額をお答えください。
離職を踏みとどまらせるだけの時給アップの金額は、50円、100円、150円、200円といったきりの良い金額レンジで回答者数が多くなっています。200円アップまでで約50%に達していますが、520円以上のアップを望む声もありました(図1)。
金額の昇給率でみると、30%未満で全体の7割に達することがわかります(図2)。
離職理由別の昇給希望額
離職理由1位に選んだ理由別に時給アップの金額を見ていくと、「仕事がきつかった」を理由に挙げた回答者の平均希望昇給額は883円となり、離職を踏みとどまるのに必要な時給の昇給額が最も高いという結果になりました(図3)。「仕事がきつかった」は離職理由として最も多かったため、踏みとどまらせるのに必要な金額も考えると金銭条件で引き止めるのはかなりハードルが高いと言えます。離職防止には、従業員に「仕事がきつい」と感じさせない工夫が必要です。
■総括と離職防止の経済価値試算
今回の調査で確認した離職理由のうち、以下の場合は職場改善で防げる可能性があると考えられます。
①現場の教育・指導の改善・・・離職理由の4%
・上司や同僚から理不尽な指導があった
・研修やサポートが不十分だった
②期待値調整、やりがい増進・・・離職理由の34%
・仕事がきつかった・希望する仕事内容ではなかった
・成長ややりがいを感じられなかった
③職場風土改善…離職理由の16%
・上司や同僚と気が合わなかった
・職場の雰囲気が良くなかった
これらを離職の主な理由として選択した人が、職場改善により離職せずに済んだと仮定すると、年間の離職者の約54%の離職を防げることになります。
■考察:離職を防止することの経済効果
1.採用教育費の試算
1店舗当たり20人のアルバイトを雇用している飲食店を100店舗運営する外食企業の場合、年間の離職率を23%(※1)とすると、年間で採用するアルバイトは460人。アルバイト一人あたりの採用費を70,000円(※2)、教育費を90,000円(※3)とすると年間で約7,360万円。離職者を54%防ぐことが出来れば、その分採用・教育が必要なアルバイトの数も比例的に少なくすることができるため、7,360万円の54%、つまり年間で約4,000万円のコストを抑制することができると考えられます。
2.離職防止のための追加人件費が売上額に占める割合の試算
1店舗当たり20人のアルバイトを雇用している外食企業の場合、年間の離職率を23%(※4)とし、23%のうちの30%は時給が1,800円であれば離職せずにとどまる(※5)と仮定、一人あたりの就業時間は月間70時間、月次売上高人件費率を30%とします。
引き留めるために時給を800円多く出すと、追加人件費は77,280円、月次での合計は140万円となります。ここから算出できる月次売上は、140万円÷30%≒467万円。よって、追加人件費が売り上げに占める割合は77280円÷467万円≒1.65%。
「仕事がきつい」人たちの時給を800円増額して引き留める場合、売上額の1.65%に相当すると考えられます。
(※1)令和2年 厚生労働省 雇用動向調査「パートタイム労働者の離職率」より
(※2)株式会社マイナビ アルバイト1名あたりの平均採用単価アンケート(2022年)より
(※3)アルバイト一人あたりの教育時間を30時間、教える側の時給を2,000円、教わる側の時給を1,000円として試算
■本調査の総括責任者
「できる」をふやす研究所 所長
ClipLine株式会社 執行役員 植原 慶太
三菱総合研究所において、産官学のクライアントへのコンサルティング業務に従事。三菱地所へ出向し、再開発エリアのマネジメントなども手掛けた。
2018年にClipLine株式会社に参画。カスタマーサクセス部門でコンサルタント、導入支援部長を務める。その後、カスタマーサクセス全体統括を経て執行役員に就任。横浜国立大学大学工学府 社会空間システム学専攻修士課程修了。
■ClipLine株式会社について
ミッション:「できる」をふやす
代表者 :代表取締役社長 高橋 勇人
設 立 :2013年7月11日
所在地 :〒101-0035 東京都千代田区神田紺屋町15 グランファースト神田紺屋町5F
資本金 :7億4,063万円(資本準備金含む 2022年3月31日現在)
企業URL :https://corp.clipline.com/
サービスサイト :https://clipline.com/service/
事業内容 :多拠点ビジネスの潜在力を引き出す「ABILI(アビリ)」の開発・運営、及び経営コンサルティング
■本件に関するお問い合わせ
ClipLine株式会社 担当:井上
TEL:03-6809-3305 Email: pr@clipline.jp
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