【2025年を振り返る】首都圏中古マンション市場「高騰」の裏で進んだ構造分化の実態

マンションリサーチ株式会社

首都圏中古マンション市場は本当に「一様な高騰局面」なのか

東日本不動産流通機構(レインズ)によれば、2025年に入って以降、現行の首都圏中古マンションマーケットを「1990年代後半の価格水準」と表現する場面が多く見られるようになりました。すなわちバブル過渡期の水準という事です。実際、各種統計を見ても首都圏の中古マンション価格は高値圏で推移しており、表面的な価格だけを見れば歴史的高騰局面と捉えられても不思議ではありません。

しかしながら、市場をもう一段階ミクロな視点で観察すると、このマーケットが必ずしも均質な上昇局面ではなく、極めていびつで偏りの大きい構造の上に成り立っていることが浮かび上がります。すなわち、「首都圏全体が一様に強い市場」であるかのような見方は、実態を正確に捉えているとは言い切れないのです。

2025年も年末を迎えた現在、本稿では首都圏(一都三県)中古マンションマーケットを、価格動向だけでなく、販売行動や成約構造といった複数の指標から立体的に整理し、その実像を明らかにしていきます。

都県別に見た成約坪単価の二極化

出典:福嶋総研

まず、首都圏中古マンションの成約坪単価の推移を都県別に確認すると、その構造的な違いは明確です。神奈川県・千葉県・埼玉県では、成約坪単価は横ばい、もしくは直近ではやや下落傾向を示しています。一方で、東京都のみが他県とは明らかに異なる動きを見せており、現在に至るまで急激な右肩上がりの価格上昇が続いています。

東京都が独走する市場構造

この東京都の価格高騰は、単なる一時的な需給の偏りではなく、市場参加者の行動データからも裏付けられます。具体的には、中古マンションの「販売日数」と「値下げ回数」にその特徴が如実に表れています。

出典:福嶋総研

販売日数とは、物件が市場に出てから成約に至るまでに要した日数を指し、一般的にはこの期間が長いほど売却が難航している、すなわち購入需要が弱い状態を意味します。一方、値下げ回数は売主が当初設定した価格からどれだけ価格調整を行ったかを示す指標であり、回数が少ないほど売主が強気の姿勢を維持できている市場環境だと解釈できます。

東京都では売主優位の市場環境が継続

一都三県を比較すると、東京都ではこの「販売日数」「値下げ回数」の双方が明確な減少傾向を示しています。これは、買い手が積極的に市場へ参入し、売り出された物件が短期間で成約に至っていること、そして売主側も価格を下げる必要性を感じていない状況が続いていることを意味します。つまり、東京都の中古マンション市場には依然として非常に強い実需・投資需要が存在しており、価格高騰が続いていることは、需給関係から見ても合理的な結果だと言えます。

東京都23区で進む需要構造の変化

こうした東京都の中でも、特に23区では他のエリアでは見られない、より特徴的な現象が確認されています。それが「面積帯別成約坪単価」の逆転現象です。

出典:福嶋総研

東京都23区における中古マンションの面積帯別成約坪単価の推移を見ると、2021年1月時点では「80㎡以上」「50㎡以上80㎡未満」「50㎡未満」のいずれの面積帯においても、坪単価に大きな差は見られませんでした。一般的に、住戸面積が大きくなれば総額が上がり、購入できる層が限られるため、坪単価はむしろ抑えられる傾向があります。

しかし、2025年中旬時点のデータを見ると、この常識は完全に覆されています。「80㎡以上」の住戸の成約坪単価が、他の面積帯を大きく引き離し、著しく高騰しているのです。これは、富裕層や国内外の投資家による取引の活発化により、「広さ」「眺望」「ブランド性」を兼ね備えた大型住戸に需要が集中しているためであり、価格よりも資産性や象徴性を重視する層が市場を押し上げていることを示しています。

値下げ率が示す東京都の価格決定力

出典:福嶋総研

次に、新規売出から成約に至るまでに、平均してどの程度の値引きが行われたかを示す指標を見ると、ここでも東京都の強さは際立っています。一都三県を比較した場合、東京都は値下げ率が最も低く、他の三県との差は年々拡大しています。

値下げ率が低いということは、売主が当初設定した価格に近い水準で成約していることを意味し、「多少高くても売れる」という成功体験が市場に蓄積されやすい環境だと言えます。この成功体験は、次の売主の価格設定をさらに強気にし、結果として価格水準を押し上げる要因となります。

神奈川県・千葉県・埼玉県に見る価格停滞の正体

一方で、神奈川県・千葉県・埼玉県では、成約坪単価が横ばい、もしくはやや下落傾向にあることは冒頭で述べた通りです。しかし、この動きも「市場が弱含んでいる」と単純に解釈するのは適切ではありません。

出典:福嶋総研

築年帯別に成約坪単価を分析すると、「2006年以降築」「1983年~2005年築」「1982年以前築」という区分の中で、明確な差が見えてきます。いずれの地域においても、「2006年以降築」の築浅マンションは依然として価格上昇を続けており、耐震性能や設備水準、資産性評価の高さから需要が安定しています。

一方で、「1983年~2005年築」「1982年以前築」の物件は全体として横ばい傾向にありますが、駅近や生活利便性の高い立地を中心に、底堅い実需が価格を一定水準で支えています。

成約構成の変化と購入者の現実的判断

出典:福嶋総研

さらに注目すべきなのは、築年帯ごとの成約件数の「割合」の変化です。坪単価が高騰している「2006年以降築」のマンションは、価格水準の上昇とともに成約件数のシェアが徐々に低下しています。裏を返せば、比較的価格が抑えられている「1983年~2005年築」や「1982年以前築」のマンションの成約割合が増加しているということです。

これは、多くの購入者が「築浅物件を選びたい」という理想を持ちながらも、総額の高さによって断念し、立地や広さを優先して築年数の古い物件へとシフトしている現実を示しています。

平均価格に表れない市場の実像

この成約構成の変化は、全体の平均坪単価にも影響を与えます。坪単価が高くなりやすい築浅物件の比率が下がり、相対的に坪単価の低い築古物件の比率が高まることで、統計上の平均坪単価は横ばい、あるいはやや下落して見えることになります。つまり、数字上の「価格下落」は、必ずしも個々の物件価格が下がっていることを意味しないのです。

 まとめ──首都圏中古マンション市場は高度に分化している

このように、同じ首都圏という枠組みの中でも、東京都とその他三県ではマーケット構造が大きく異なり、さらに東京都内でもエリアや面積帯、築年帯によって需給環境は大きく分化しています。「中古マンション価格は高騰し続けている」という一面的な情報だけを鵜呑みにするのではなく、その背後にある構造的な歪みや需要の偏りに目を向けることが、これからの不動産判断においてますます重要になっていくと言えるでしょう。

福嶋 真司(ふくしましんじ)

マンションリサーチ株式会社

データ事業開発室 

不動産データ分析責任者

福嶋総研

代表研究員

早稲田大学理工学部卒。大手不動産会社にてマーケティング調査を担当後、

建築設計事務所にて法務・労務を担当。現在はマンションリサーチ株式会社にて不動産市場調査・評価指標の研究・開発等を行う一方で、顧客企業の不動産事業における意思決定等のサポートを行う。また大手メディア・学術機関等にもデータ及び分析結果を提供する。

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代表取締役社長: 山田力

所在地: 東京都千代田区神田美土代町5-2 第2日成ビル5階

設立年月日: 2011年4月

資本金 : 1億円

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業種
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本社所在地
東京都千代田区神田美土代町5−2 第2日成ビル 5階
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代表者名
山田 力
上場
未上場
資本金
1億円
設立
2011年04月