津南醸造、第78回日本生物工学会大会の本部企画シンポジウムで「生成AIを活用した食用米ブランド日本酒の開発」を講演

食用米・魚沼産コシヒカリ100%の純米大吟醸を、生成AIと杜氏の協働で設計。発酵カーブの提案から、味わいの可視化、宇宙を見据えた次世代の酒造りまでを報告

津南醸造株式会社

津南醸造のスマート醸造

津南醸造株式会社(TSUNAN SAKE BREWERY、新潟県中魚沼郡津南町、代表取締役社長:鈴木健吾)は、2026年9月16日、北海道大学 札幌キャンパスで開催された第78回日本生物工学会大会の本部企画シンポジウム「微生物インタラクションと生成AI技術を融合させた、革新的な発酵・醸造の未来への挑戦」において、代表取締役社長の鈴木健吾が「生成AIを活用した食用米ブランド日本酒の開発」と題して講演しました。

講演では、2023年12月から蔵で運用している生成AI「スマート醸造」の仕組みと、酒造好適米ではない食用米・魚沼産コシヒカリ100%の純米大吟醸「郷(GO)GRANDCLASS 魚沼コシヒカリEdition」の開発への適用を報告しました。AIによる発酵カーブ(ボーメ曲線)と低温長期の温度経過の提案、AIによる醪データの比較評価、味わいの数値化と可視化といった具体的な使い方を示したうえで、この酒がKURA MASTER 2024 金賞、ミラノ酒チャレンジ2025 プラチナ賞を受賞したことを紹介しました。さらに、生成AIで目指す次世代の酒造りとして、月面での酒造りを見据えた試作酒、ユーグレナを用いた「グリーン日本酒」、日本酒由来ナノ粒子「SAKESOME」、酒粕から新素材をつくる研究まで、発酵技術の広がりを示しました。

講演概要

学会名

第78回日本生物工学会大会

主催

公益社団法人 日本生物工学会

会期

2026年9月15日(火)〜17日(木)

会場

北海道大学 札幌キャンパス

シンポジウム

本部企画シンポジウム「微生物インタラクションと生成AI技術を融合させた、革新的な発酵・醸造の未来への挑戦」

講演日時

2026年9月16日(水)午前

演題

生成AIを活用した食用米ブランド日本酒の開発(Development of premium sake using table rice through generative AI technology)

講演者

鈴木健吾(津南醸造株式会社 代表取締役社長)

講演は「津南醸造について」「スマート醸造について」「生成AIで目指す次世代の酒造りについて」の三部構成で行いました。

講演内容① 津南醸造について:理念から生まれた「食用米で酒を醸す」挑戦

津南醸造は、令和6酒造年度越後流酒造技術選手権大会で新潟県知事賞(第1位)を受けた酒蔵です。経営理念「Brew For Future ―共生する未来を醸成する―」を、スローガンにとどめず具体的な事業運営の枠組みとするため、次の三つの仮説を立てました。

  • 資源循環(Circular Economy):現地の資源を活かし、酒粕をアップサイクルするなど、高付加価値でロスのない生産

  • 地域最適化(Local Optimization):豪雪地帯の清冽な水や、地域が誇る魚沼産コシヒカリといった固有の資産を最大限に活かす

  • 多様な価値への開放(Open to Diverse Values):従来の酒米以外からの酒造りなど、伝統的な日本酒の概念を打ち破る挑戦

2月に4メートル近くの積雪を記録する津南町
津南で得られる雪解け由来の軟水

この枠組みのもと、2021年から、食べるための米(飯米)である魚沼産コシヒカリでの酒造りに取り組んでいます。

講演内容② スマート醸造について:生成AIと杜氏の協働2023年12月、「スマート醸造」の運用を開始

津南醸造は2023年12月、生成AIを蔵の酒造りに組み込んだ「スマート醸造」の運用を始めました。蔵人が入力した問いに対し、津南醸造がカスタマイズした生成AI「津南醸造スマート醸造AI」が、持続可能な酒造りに必要な提案を返します。AIが参照する知識は次の三つです。

  • パートナー企業の調査データや開発結果

  • 津南醸造が蓄積してきた醸造のノウハウ

  • 論文データやインターネット上の公開情報

講演要旨では、これを「学術層(醸造学の論文・教科書などの普遍的な科学知)」「企業層(過去の製造日誌・成分分析データ)」「コンテキスト層(蔵固有の環境情報や現場の知恵)」の三層の知識ベースとして整理し、大規模言語モデル(LLM)に検索拡張生成(RAG)を組み合わせたドメイン特化型AIエージェントとして位置づけています。意思決定はHuman-in-the-Loop(人間が最終判断する方式)を徹底し、AIの提案を杜氏が醸造学的な妥当性に照らして評価・選択することで、生成AI特有の誤った出力(ハルシネーション)のリスクを管理しています。

現場の試行錯誤と、AIとの相談を往復させる

コシヒカリは食べておいしい米ですが、酒造りには扱いにくい原料です。

  • アミロペクチンが多く蒸した米の粘りが強いため、製麹で米粒同士がくっつき、麹菌の菌糸が入り込みにくい。その結果、酵素の弱い麹になりやすい

  • 酒造好適米に比べてタンパク質・脂質が多く、雑味やオフフレーバーのもとになりやすい

  • 粘りが強いために醪(もろみ)の中で米が溶けにくく、糖化と発酵の釣り合いが崩れやすい

津南醸造は、現場での試行錯誤と生成AIへの相談を往復させながら、この課題に取り組みました。AIには、酵母に関する情報、低温で醸造したときのローデータ、日本酒以外の醸造酒に関する論文などを入力し、現場では次の三点を課題解決の柱としました。

  • 超低温の三段仕込みで、ゆっくりと熟成させる

  • 低温でも雑味を立たせずに発酵する、蔵独自の酵母を使う

  • 吟醸香を高めるよう、酵母の改良を進める

実装① 発酵カーブの提案

日本酒の醪は、発酵が進むにつれて比重の指標であるボーメが下がり、0付近が上槽(搾り)の目安になります。講演では、食用米を一般的な方法で仕込んだ場合と、AIが提案した仕込みとを、ボーメ曲線で比べて示しました。

  • 食用米をそのまま仕込んだ場合(酵素の弱い麹・最高15℃):糖化が足りず発酵しない糖が残り、ボーメが0に届かないため上槽の目安が立たない。日本酒度は−8.9の、だれた甘さになる

  • AIの提案(酵素力価の高い麹・最高11℃):糖化の力を補い、留添(とめぞえ)後16.8日でボーメ0に到達する理想的な曲線を描く。日本酒度±0のバランスに着地する

実装② 低温長期の温度設計と、仕上がりの予測

AIが提案した温度経過は、最高11℃に抑えた低温長期型です。コシヒカリの高いタンパク質・脂質に由来する雑味のもとが生じるのを抑え、吟醸香を伸ばす澄んだ発酵へ導くことを狙っています。実際の醸造では、懸念された米の溶け残りは生じず、雑味の客観的な指標であるアミノ酸度も予測した範囲内に収まりました。

実装③ AIによる味わいの評価

AIは、醪の最終データをもとに複数の酒を比べて評価することもできます。講演では、二つの純米酒の最終データ(日本酒度・アルコール分・酸度・アミノ酸度・追水量)をAIが比較し、共通点と相違点、それぞれのスタイルと合う料理、飲み頃の温度帯、さらにブレンド・熟成・火入れと生酒の比較といった次の展開までを提案した例を紹介しました。

味わいを数値で見る:ProfilePrintによる可視化

コシヒカリの酒づくりで目指したのは、とにかく雑味を立たせない、フレッシュな酒です。津南醸造は、シンガポールのProfilePrint社の官能評価システムを用いて、日本酒の香り4項目・味4項目を数値化し、可視化しています。「郷(GO)」の各銘柄を「苦み」と「フレッシュさ」の二軸でプロットすると、GRANDCLASS 魚沼コシヒカリEditionは、ラインナップの中で苦みが最も低く、フレッシュさが最も高い位置にあります。数値化した品質指標は、AIが参照するデータにも組み込んでいます。

製造に対する三つのこだわり

蔵の現場では、豪雪地帯ならではの環境を活用していて、その利点もAIを用いて整理をしています。

  1. 厳密に管理した米麹づくり:精米歩合が小さい米ほど水を吸うのが速くなります。吸水の速いコシヒカリの吸水率を均一に精密制御するため、麹米から仕込みに使う米まで全量を手で洗い、麹が適切に育つ環境を整えています

  2. 雪中蔵での長期低温発酵:1月の津南町は積雪が3mにもなり、気温が低い状態で安定します。低温・高湿度の安定した環境が、想定外の代謝や雑菌の繁殖を抑えます。GRANDCLASSはこの時期にしか造りません

  3. 酵母の最適化:香りの成分を生む酵母に、ゆっくりと時間をかけて発酵させることで、豊かな吟醸香をともなう洗練された酒質を実現しています

津南醸造での麹造り
津南醸造で低温で調整する酒母

成果:国内外の品評会で受賞

こうして生まれたのが、純米大吟醸「郷(GO)GRANDCLASS 魚沼コシヒカリEdition」(新潟県魚沼産コシヒカリ100%、精米歩合50%、アルコール分16度)です。華やかな香りと、ふくよかで甘みも感じられる口当たり、コシヒカリの旨味が長く続く余韻を持ちます。フランスで開かれるKURA MASTER 2024では純米大吟醸酒部門で金賞を、ミラノ酒チャレンジ2025ではプラチナ賞を受賞しました。酒造好適米ではない食用米でも、適切なバイオプロセスの設計と制御によって最高品質の酒造りが実現できることを示した事例です。

津南醸造のフラグシップの一つであるテーブルライス日本酒「郷(GO)GRANDCLASS 魚沼コシヒカリEdition」
魚沼産コシヒカリ100%の純米大吟醸 「郷(GO)TERRACE」

生成AIを、届ける力にも

講演では、酒の魅力を届ける側の取り組みとして「酒蔵プロモーションAIエージェント」も紹介しました。商品の情報や画像、想定するターゲット、酒質の分析データを入力すると、KGI・KPIの設計案、ランディングページやパンフレットの原稿案、キャンペーンの企画案を出力します。2025年にはシンガポールで津南醸造の日本酒を紹介するイベントを開き、海外への展開も進めています。また、コメの需給に対応するブランド日本酒の新しい提案として、魚沼産コシヒカリ100%の純米大吟醸「郷(GO)TERRACE」も展開しています。

講演内容③ 生成AIで目指す次世代の酒造り発酵技術は宇宙へ

鈴木は、月面などでの長期滞在を支える資源循環型の食料供給システムの研究開発に、以前から関わってきました。講演の最後のパートでは、地域の特産物と発酵技術、生成AIを組み合わせた次世代の酒造りの構想を紹介しました。

純米大吟醸「GO LUNAR」の試作:あえて酒米ではなく地元の魚沼産コシヒカリを使い、ユーグレナを活用した発酵技術で低温でじっくりと発酵させ、ワイン樽で熟成させた試作酒です。2040年に月面に津南醸造の生産拠点を建てたときの姿をメタバース空間に再現し、酒造りのイメージも見学できるようにしています

魚沼産コシヒカリで作った飯米日本酒 純米大吟醸「GO LUNAR」

グリーン日本酒:自社酵母にユーグレナエキスを加えて仕込んだ試験醸造酒です。化学分析では、通常の仕込み(コントロール)と比べて有機酸の組成はほぼ変わらない一方、吟醸香の成分であるカプロン酸エチルが0.2mg/Lから0.9mg/Lに増えました。AIによる香りの解析でも、従来の6銘柄とは異なる位置に表れています

日本酒由来ナノ粒子「SAKESOME」:日本酒の中に含まれるナノサイズの粒子を、グループ会社の株式会社リジェネソームが「SAKESOME」と名づけ、マイクロ流路を使った分離技術とあわせて研究を進めています

「SAKESOME」のナノトラッキング画像イメージ

酒粕から新素材を:岡山理科大学で開発中の次世代の焼結装置(SPS)を用いて、酒粕由来のグラファイトを軸に、酒粕由来のダイヤモンドなど新しい素材の開発を検討しています。

未来への想い

講演の結びでは、地域特産物と発酵技術と生成AIを掛け合わせて、宇宙へ生活圏が広がるような新しい地域振興の可能性を探っていきたいという展望を語りました。あわせて、生成AIで作成した事業の俯瞰図や、短編映像の取り組みも紹介しました。

代表コメント

津南醸造 代表取締役 鈴木健吾

「日本酒は、麹菌と酵母がひとつのタンクの中で同時に働く、とても複雑な生物プロセスです。その複雑さを杜氏は経験で読み解いてきました。私たちのAIは、その経験を置き換えるものではなく、論文の知識と蔵の記録と現場の知恵を一度に引き出して、杜氏の判断を支える道具として活用することを目指しています。

また、食べる米として愛されてきたコシヒカリで純米大吟醸が醸せたことは、原料の制約はプロセスの設計で越えられるということを示しています。この考え方は日本酒に限らず、味噌や醤油、焼酎やビールといった発酵食品、さらにはバイオ医薬品の生産にも広げられると考えています。雪国の蔵で磨いた発酵の技術を、いつか月面に人の生活圏が広がった際にも現地で役立てたいと思っています。」

今後の展開

津南醸造は、スマート醸造の知識ベースと蔵の実績データの蓄積を続け、仕込みの設計から上槽の判断まで、AIと杜氏の協働の範囲を広げていきます。あわせて、グリーン日本酒やGO LUNARなどの試作、SAKESOMEや酒粕由来素材の研究を通じて、発酵副産物のアップサイクルと、宇宙での暮らしを見据えた発酵技術の開発を進めていく予定です。

津南醸造について

豪雪地にある津南醸造の酒蔵

津南醸造株式会社は、新潟県中魚沼郡津南町に本社を構える日本酒を生産する酒蔵で日本有数の豪雪地帯に位置し、標高2,000m級の山々から湧き出る天然水を仕込み水として活用しています。

「Brew for Future〜共生する未来を醸造する〜」をブランドコンセプトに、地元産の酒米「五百万石」を活用した伝統的な酒造りとともに、地元の食用米ブランドである「魚沼産コシヒカリ」を用いたテーブルライス日本酒の生産と販売を行っています。

津南醸造のWebページ: https://tsunan-sake.com/

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会社概要

津南醸造株式会社

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URL
http://tsunan-sake.com/
業種
製造業
本社所在地
新潟県中魚沼郡津南町秋成7141
電話番号
025-765-5252
代表者名
鈴木健吾
上場
未上場
資本金
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設立
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