【在庫増=需要減ではない】築年の浅いマンションで進む流動性低下―在庫増加から見える東京23区市場の変化
成約件数の減少と在庫増加から見える市場の変化
【調査概要】
対象期間:2022年1月期〜2026年8月期
実施主体:マンションリサーチ株式会社
分析範囲:東京都に所在する中古マンションの販売事例
抽出データ数:338,169件
集計手法:市場に流通している既存住宅の売り出しデータを系統的に取得・解析し、統計的調整を経て算出
東日本不動産流通機構によると、直近の首都圏中古マンション市場では、「成約件数は埼玉県と千葉県以外の地域で減少」という動きが見られています。特に東京都では前年比18.7%減と大きな減少となりました。一方で、在庫については東京都で前年比21.3%増加しており、成約件数の減少と在庫の増加が同時に進んでいる状況です。
一般的に、このような数字を見ると「東京の中古マンション需要が大きく減少している」と考えたくなります。しかし、実際の市場をもう少し細かく見ていくと、必ずしも東京23区全体の需要が一律に弱くなっているわけではないことが分かります。
重要なのは、どのようなマンションの在庫が増えているのかという点です。
マンション市場では、価格帯や立地だけでなく、築年数によって購入者層や投資需要、住宅ローンの利用可能性、さらには売却時の競争環境が大きく異なります。そのため、「東京の在庫が増えている」という市場全体の数字だけでは、現在起きている変化を十分に捉えることができません。
築年帯別に見ると明確なコントラストが生まれている
昨今の都心エリアにおいて、中古マンションの築年帯別の在庫推移を見ると、非常に明確な変化が起こっていることが分かります。
以下のグラフは、東京都23区全域における中古マンションの在庫推移を築年帯別に整理したものです。

1982年以前築、いわゆる旧耐震マンションについては、微小ながら在庫が減少する傾向が見られます。一方、1983年~2005年築については、微減から横ばいに近い動きとなっています。
これに対して、2006年以降築のマンションについては、明らかな在庫増加傾向が確認できます。
つまり、東京23区全体の在庫が増加しているとはいっても、その増加はすべての築年帯で均等に発生しているわけではありません。むしろ、築年の浅いマンションを中心に在庫が積み上がっていることが現在の市場の大きな特徴となっています。
この違いは、マンション市場を見る上で非常に重要です。
都心3区では築浅マンションの在庫増加がより鮮明に
このコントラストを千代田区、中央区、港区の都心3区に絞って見ると、さらにその傾向が明確になります。
2006年築以降の中古マンションについては、千代田区、中央区、港区で大きく在庫が増加しています。一方で、1982年以前築については、比較的横ばいに近い推移となっています。
特に都心3区では、2000年代後半以降に供給されたタワーマンションや大規模マンションなど、比較的新しいマンションのストックが多く存在します。これらの物件は、立地や建物性能、共用施設などから高い評価を受けてきた一方、価格上昇局面では投資対象としても注目されてきました。
その結果、価格水準そのものが大きく上昇した物件も少なくありません。
ところが、金利上昇や住宅取得コストの上昇が進むと、これまで成立していた価格と買い手の購買力とのバランスが変化します。売り手が過去の価格上昇を前提として価格を設定しても、その価格で購入できる層が限られてくれば、成約までの時間は長くなり、結果として市場に残る在庫が増加することになります。
築浅マンションの在庫増加は都心だけではない
2006年以降築の在庫増加は、都心3区だけに限定された現象でもありません。
新宿区、渋谷区をはじめ、その周辺に位置する江東区、目黒区、品川区などでも明らかな上昇傾向が見られます。
一方で、同じ築年帯で明確な在庫減少傾向が確認されたのは足立区でした。
この違いからも、「東京23区の中古マンション市場」という一つの括りで市場を判断することには注意が必要だと言えます。
同じ東京都内であっても、価格水準、住宅需要、投資需要、世帯構成、交通利便性などは大きく異なります。さらに同じ区内であっても、駅距離やマンション規模、専有面積によって売れ行きは変わります。
したがって、今後の中古マンション市場を分析する上では、「東京の価格が上がった」「東京の在庫が増えた」というマクロな指標だけではなく、どのエリアの、どの築年帯の、どの価格帯で流動性が変化しているのかを見る必要があります。
一方で1983~2005年築は在庫減少エリアも多い
さらに興味深いのが、1983年~2005年築のマンションです。
この築年帯では、世田谷区、杉並区、大田区、板橋区、足立区、江戸川区などで、比較的明確な在庫減少傾向が確認できます。
もちろん、在庫が減少しているからといって、それだけで需要が強いと断定することはできません。売却物件の供給そのものが減っている可能性もあるためです。
しかし、少なくとも「すべての中古マンションで流動性が低下している」という状況ではないことは、この築年帯の動きからも読み取ることができます。
むしろ現在の東京23区市場では、築年数によって売買環境に大きな差が生じている可能性があります。
「東京の需要減少」と単純に考えてはいけない理由
ここで重要になるのが、在庫増加の意味です。
東京都23区では、築年の浅いマンションが全供給戸数の約37%を占めています。この大きなシェアを持つ築浅マンションの流動性が低下し、それ以外の築年帯については全体として比較的安定しているのであれば、築浅マンションの在庫増加だけでも市場全体の在庫を大きく押し上げることになります。
つまり、現在の東京都における在庫増加を、そのまま「東京の中古マンション需要が減少した」と解釈することには注意が必要です。
特に都心部の新築マンションでは、実需だけでなく、これまでの価格上昇を背景とした投資・投機的な需要も流入してきました。しかし、こうした物件の中には、実際に居住するためではなく、将来的な値上がりを期待して取得されたものも少なくありません。その結果、購入された物件が実需として消化されないまま、売却市場に滞留するケースが増えていきました。
その結果として、現在の中古マンション市場で顕在化しているのが、「在庫の増加」という現象です。
今見るべきなのは「価格」よりも「流動性」
現在の中古マンション市場を考える上で重要なのは、単純な価格上昇率や在庫数だけではありません。
どの物件がどの程度の期間で売れているのか、値下げを何回行っているのか、在庫が増えているのか減っているのかといった「流動性」を見ることで、初めて市場の実態が見えてきます。
同じ1億円のマンションであっても、短期間で成約する物件と、半年、1年と市場に残り続ける物件では、その市場価値を同じように評価することはできません。
特に現在のように価格水準が高く、金利も上昇している局面では、「いくらで売り出されているか」だけではなく、「その価格で実際に売れているのか」を確認することが重要になります。
複雑化する市場を読み解くために
今回の築年帯別の在庫推移から見えてくるのは、東京23区の中古マンション市場が一枚岩ではなくなっているということです。
築浅マンションでは在庫が増加している一方、築年の古いマンションでは横ばい、あるいは減少しているエリアもあります。
これは、価格上昇、金利上昇、投資需要、実需、住宅ローンの借入可能額、そして売り手と買い手の価格認識の変化など、複数の要因が同時に市場へ作用している結果と考えられます。
したがって、「在庫が増えたから東京のマンション需要がなくなった」と結論づけるのではなく、どのマンションの流動性が落ち、その背景に何があるのかを細かく分解していく必要があります。
今後のマンション市場を読み解く鍵は、単純な「価格の上昇・下落」ではありません。
どのマンションに買い手が残り、どのマンションから買い手が離れているのか。その違いを在庫、販売日数、値下げ回数などのデータから追っていくことで、現在のマンション市場で起きている変化を、より正確に捉えることができるはずです。
筆者プロフィール

福嶋 真司(ふくしましんじ)
マンションリサーチ株式会社
データ事業開発室
不動産データ分析責任者
福嶋総研
代表研究員
福嶋総研代表研究員。早稲田大学理工学部卒。大手不動産会社にてマーケティング調査を担当後、
建築設計事務所にて法務・労務を担当。現在はマンションリサーチ株式会社にて不動産市場調査・評価指標の研究・開発等を行う一方で、顧客企業の不動産事業における意思決定等のサポートを行う。また大手メディア・学術機関等にもデータ及び分析結果を提供する。
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【マンションリサーチ株式会社について】
マンションリサーチ株式会社では、 不動産売却一括査定サイトを運営しており、 2011年創業以来「日本全国の中古マンションをほぼ網羅した14万棟のマンションデータ」「約3億件の不動産売出事例データ」及び「不動産売却を志向するユーザー属性の分析データ」の収集してまいりました。 当社ではこれらのデータを基に集客支援・業務効率化支援及び不動産関連データ販売等を行っております。
会社名: マンションリサーチ株式会社
代表取締役社長: 山田力
所在地: 東京都千代田区神田美土代町5-2 第2日成ビル5階
設立年月日: 2011年4月
資本金 : 1億円
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