【岡山大学】柿の花が解き明かす「植物の揺らぐ性」の進化 ~作物の性別を制御して効率的な作物生産や品種改良につながる技術へ~

国立大学法人岡山大学

2022(令和4)年 3月 22日
国立大学法人岡山大学
https://www.okayama-u.ac.jp/
 



<発表のポイント>
  • 性別(オス・メス)を持つ柿の花が、性別のない両性花へ先祖返りする仕組みを解明しました。
  • 柿の両性花を生み出す新規遺伝子「DkRAD」を発見しました。
  • 農業にとって重要な「作物の性別」を自由に制御する技術へと発展していくと期待されます。


◆概 要
 「性別」は生物の多様性を維持するのに重要な仕組みです。植物の「性」は個体としてのオス・メスだけではなく、雄花、雌花、そして両者が共存した「両性花」などの状態を揺らがせて、多様な花の性別を表現しながら進化してきました。しかし、植物の性に関する研究は100年以上も続いているにも関わらず、その揺らぎを決めている仕組みは謎に包まれていました

 国立大学法人岡山大学(本部:岡山市北区、学長:槇野博史)の学術研究院環境生命科学学域(農)赤木剛士研究教授は、これまで柿やキウイフルーツを材料として植物の性別の研究に取り組んでおり、世界に先駆けて植物個体のオス・メスを決定する遺伝子群やその進化の過程を解明してきました。このたび、増田佳苗大学院生(大学院環境生命科学研究科博士後期課程3年)と、赤木研究教授は性別を持つ柿の花が、祖先である両性花へ先祖返りする仕組みの解明と、その中心的な働きを担う新しい遺伝子「DkRAD」の発見に至りました。

 この遺伝子は、赤木研究教授らの研究から既に見つかっていた性別決定遺伝子「OGI」「MeGI」とは全く異なる遺伝子であり、野生の柿では機能せず、栽培されている柿でのみで働く遺伝子であることが明らかになりました。また、オス化したモデル植物に本研究で発見したDkRAD遺伝子を働かせることで、両性花への先祖返りを人工的に再現することに成功しました。これは、植物進化の中で繰り返されている「揺らぐ性別」の仕組みを解明したものであると同時に、作物の性別を自由に制御し、安定的生産や新しい育種を可能にする技術に発展していくと期待できます。

 本研究成果は、日本時間の2022年3月18日午前1時(英国時間:3月17日午後4 時)に、英国の科学雑誌「Nature Plants」に掲載されました。

 なお本研究は、岡山大学資源植物科学研究所、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、京都大学大学院農学研究科、カリフォルニア大学デービス校との共同研究として行われました。
 

図1:栽培柿における両性花への先祖返り
本来は性別(オス・メス)のみを示すが、まれに雄花から両性花への先祖返りが起こり、揺らぐ性を示す。
 

図2:柿の遺伝子進化から見えてきた「植物の揺らぐ性別」の成立過程
カキ属植物の野生種は祖先である両性花からMeGI遺伝子・OGI遺伝子を作り出し、オス・メス個体(性別)を進化させてきた (赤木ら 2014 Science, 2016 Plant Cell, 2020 PLOS Geneticsにて解明)。一方で、六倍体の栽培柿では雄花から両性花への先祖返りを起こすが、この進化過程には新しい遺伝子 (DkRAD) の応答が関与していた。


◆研究者らからのひとこと
 私たちのチームでは柿やキウイフルーツなどの果実作物を使って、植物における「花の性別決定」の仕組みを研究してきました。もし、みなさんの身の回りにも不思議な性別を見せる植物を見つけたら、ぜひ教えてください。

増田佳苗大学院生と赤木剛士研究教授(右)増田佳苗大学院生と赤木剛士研究教授(右)



◆論文情報
 論 文 名:Reinvention of hermaphroditism via activation of a RADIALIS-like gene in hexaploid persimmon
 掲 載 紙:Nature Plants
 著  者:Kanae Masuda, Yoko Ikeda, Takakazu Matsuura, Taiji Kawakatsu, Ryutaro Tao, Yasutaka Kubo, Koichiro Ushijima, Isabelle M. Henry, Takashi Akagi
 D  O  I:10.1038/s41477-022-01107-z
 U  R  L:https://www.nature.com/articles/s41477-022-01107-z


◆詳しいプレスリリースについて
 柿の花が解き明かす「植物の揺らぐ性」の進化~作物の性別を制御して効率的な作物生産や品種改良につながる技術へ~
 https://www.okayama-u.ac.jp/up_load_files/press_r3/press20220318-1.pdf


◆参 考
・キウイフルーツが紐解く「植物が性別を手に入れた進化の仕組み」
 https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id652.html
・AIが見抜く「柿」の内情~「人工的なプロ」から学ぶ果実選びのコツ
 https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id788.html
・「柿」の全ゲノム解読 ~ 植物における「性の進化」のヒント
 https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id701.html
・赤木剛士准教授(農)が文部科学大臣表彰を受賞
 https://www.okayama-u.ac.jp/tp/news/news_id8529.html
・大学院環境生命科学研究科の赤木剛士 准教授が「日本農学進歩賞」を受賞
 https://www.okayama-u.ac.jp/user/agr/release/release_id46.html
・【岡山大学】赤木剛士准教授に岡山大学「研究教授」の称号を付与しました
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000393.000072793.html
・【岡山大学】AIが覗き込むトマトゲノム:果実の遺伝子の動きを見抜く~果実が「熟れる」仕組みの緻密なデザイン~
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000560.000072793.html


◆参考情報
・岡山大学農学部
 https://www.okayama-u.ac.jp/user/agr/
・岡山大学大学院環境生命科学研究科
 https://www.gels.okayama-u.ac.jp/
・岡山大学大学院環境生命科学研究科 農産物利用学分野
 https://www.gels.okayama-u.ac.jp/profile/kouza/areas05_plant.html
・岡山大学資源植物科学研究所
 https://www.rib.okayama-u.ac.jp/
 



◆本件お問い合わせ先
 岡山大学 学術研究院 環境生命科学学域(農) 研究教授 赤木剛士
 〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中1-1-1 岡山大学津島キャンパス
 E-mail:takashia◎okayama-u.ac.jp
      ※◎を@に置き換えて下さい
 https://www.gels.okayama-u.ac.jp/profile/kouza/areas05_plant.html

<岡山大学の産学官連携等に関するお問い合わせ先>
 岡山大学研究推進機構 産学官連携本部
 〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中1-1-1 岡山大学津島キャンパス 本部棟1階
 TEL:086-251-8463
 E-mail:sangaku◎okayama-u.ac.jp
     ※ ◎を@に置き換えて下さい
 https://www.orsd.okayama-u.ac.jp/

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