東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所 共同研究プロジェクト「子どもの生活と学びに関する親子調査2024」結果 10年間の縦断調査で子どもの「なりたい職業」の変化や進路探索行動を分析

「進路を深く考える経験」は学習意欲を高め、学習行動を促進

 東京大学社会科学研究所(所在地:東京都文京区、所長:宇野重規)と株式会社ベネッセコーポレーション(本社:岡山市、代表取締役会長兼社長:岩瀬大輔)の社内シンクタンクであるベネッセ教育総合研究所は、2014年に「子どもの生活と学び」の実態を明らかにする共同研究プロジェクトを立ち上げました。このプロジェクトでは、同一の親子(小学1年生から高校3年生、約2万組)を対象に、2015年以降10年間繰り返して複数の調査を実施し、12学年の親子の意識・行動の変化を明らかにしてきました。

 今回の分析では、この「子どもの生活と学びに関する親子調査」をもとに、同じ子どもの「なりたい職業」の変化や進路探索行動を分析しました。その結果、進路について深く考える経験をしている子どもは、学習意欲が高く、自らの興味・関心を広げて積極的に学習しているという結果が得られました。また、子どもが進路を深く考える経験には、教員や保護者の存在や働きかけが影響していることがわかりました。

 分析の結果からは、特定の職業を選ぶことではなく、さまざまな角度から自分の進路について考えることが重要であることがうかがえます。本プロジェクトでは今回の分析を手がかりにして、これからの進路選択のあり方について、子ども本人やその保護者、学校教員をはじめとする教育関係者の皆さまとともに考え、具体的な情報や支援策を発信していきたいと思います。

【調査結果サマリー】

1.進路を考える意義―進路を深く考える経験は学習意欲を高め、学習行動を促進する可能性

・「進路について深く考える」経験があった子ども(経験あり群)は、「勉強が好き」と答える比率が高く、「勉強しようという気持ちがわかない」の肯定率は低い。【図表1-1】

・「経験あり群」の子どもは、「ニュースに関心が強い」「興味を持ったことを、学校の勉強に関係なく調べる」の肯定率が高く、学習時間が長いなど、学習に積極的。【図表1-2】

2.進路を考えることに影響する要因―学校(教員)と家庭(保護者)が関連

・学校(教員)要因―「尊敬できる先生がいる」を肯定する子どもや、学校で探究的な学びに取り組んでいる子どもは、「進路について深く考える」経験をしている比率が高い。【図表2-1】

・家庭(保護者)要因―父母との会話が多い子どもは、「進路について深く考える」経験をしている。【図表2-2】

3.なりたい職業の個人変化の追跡―35.0%の子どもが小学生から高校生まで一貫した希望を持つ

・なりたい職業の記述について個人の変化を分析したところ、3人に1人(35.0%)が小5のときと同種の希望を高2まで持ち続けている。【図表3-1】

・なりたい職業が一貫している子どもは、「自分の進路について深く考える」「疑問に思ったことを自分で深く調べる」などの機会が少ないといった課題がみられた。【図表3-2】

【参考データ】子どもたちのなりたい職業(ランキング)

・なりたい職業No.1は、小4~6生では「プロスポーツ選手」、中学生では「プロスポーツ選手」と「教員」、高校生では「教員」だった。また、男女でなりたい職業は異なり、小4~6の男子は「プロスポーツ選手」、女子は「店員(花屋・パン屋など)」が人気。【図表4-1、4-2】

・中高生のなりたい職業No.1が「教員」であることは、この10年間変化なし。【図表4-3】

【調査結果詳細】

1.進路を考える意義―進路を深く考える経験は学習意欲を高め、学習行動を促進する可能性

  • 「進路について深く考える」経験があった子ども(経験あり群)は、「勉強が好き」と答える比率が高く、「勉強しようという気持ちがわかない」の肯定率は低い。【図表1-1】

  • 「経験あり群」の子どもは、「ニュースに関心が強い」「興味を持ったことを、学校の勉強に関係なく調べる」の肯定率が高く、学習時間が長いなど、学習に積極的。【図表1-2】

◆図表1-1 学習意識(進路を考える経験の有無別)


◆図表1-2 学習行動(進路を考える経験の有無別)

※図1-1,1-2ともに、小4~6生2,916名、中学生2,846名、高校生1,990名を分析。検定の結果、有意な差があった箇所に矢印をつけた。

2.進路を考えることに影響する要因―学校(教員)と家庭(保護者)が関連している

  • 学校(教員)要因―「尊敬できる先生がいる」を肯定する子どもや、学校で探究的な学びに取り組んでいる子どもは、「進路について深く考える」経験をしている比率が高い。【図表2-1】

  • 家庭(保護者)要因―父母との会話が多い子どもは、「進路について深く考える」経験をしている。【図表2-2】

◆図表2-1 進路を考える経験(尊敬する先生の有無/探究活動の有無別)


◆図表2-2 進路を考える経験(父母との会話別)

*図2-1,2-2ともに、小4~6生2,916名、中学生2,846名、高校生1,990名を分析。検定の結果、有意な差があった箇所に矢印をつけた。

3.なりたい職業の個人変化の追跡―35.0%の子どもが小学生から高校生まで一貫した希望を持つ

  • なりたい職業の記述について個人の変化を分析したところ、3人に1人(35.0%)が小5のときと同種の希望を高2まで持ち続けている。【図表3-1】

  • なりたい職業が一貫している子どもは、「自分の進路について深く考える」「疑問に思ったことを自分で深く調べる」などの機会が少ないといった課題がみられた。【図表3-2】


◆図表3-1 なりたい職業の個人変化(小5から高2までの追跡)

*2015~18年調査で「なりたい職業」の記述があった小5・2,991名を、2021~24年調査の高2まで毎年追跡。


◆図表3-2 進路選択にかかわる行動(なりたい職業の一貫性による違い)

*2015~18年調査で小5だった子どもを、2021~24年調査の高2まで追跡。小5と高2のいずれの時点でも職業名の記述があった950名を分析。

*同じ子どもで小5と高2のなりたい職業の職業名の記述が一致しているか、一致していないかで2群に分けて分析した。各項目の数値は、高2時点のデータ。

【参考データ】子どもたちのなりたい職業(ランキング)

  • なりたい職業No.1は、小4~6生では「プロスポーツ選手」、中学生では「プロスポーツ選手」と「教員」、高校生では「教員」だった。男女によって、なりたい職業には違いがある。また、男女でなりたい職業は異なり、小4~6の男子は「プロスポーツ選手」、女子は「店員(花屋・パン屋など)」が人気。【図表4-1、4-2】

  • 中高生のなりたい職業No.1が「教員」であることは、この10年間変化なし。【図表4-3】


◆図表4-1 なりたい職業【2024年データ】(学校段階別)

*2024年調査の結果。「あなたには、将来なりたい職業(やりたい仕事)はありますか」という質問に「ある」と回答した者に、「あなたが一番なりたい職業 (やりたい仕事)を、具体的に教えてください」とたずねた結果(自由記述)を分類した。

*なりたい職業が「ある」と回答したのは、小4~6生1,872名、中学生1,403名、高校生1,100名。

*★印は同順位(同数)であることを示す。


◆図表4-2 なりたい職業【2024年データ】(学校段階☓男女別)

*同上。


◆図表4-3 なりたい職業【2015年データ】(学校段階別)

*2015年調査の結果。なりたい職業が「ある」と回答したのは、小4~6生2,595名、中学生1,997名、高校生2,031名。

【解説】

子どもたちの「なりたい職業」からみえる、進路を考えることの意味――10年にわたる追跡調査から

  • 調査の意義:デジタル化、グローバル化、働き方の多様化が進む現代社会では、子どもたちが将来をどのように描き、進路を考えるかが重要なテーマとなっています。学習指導要領(中学校総則編)でも、子どもたちが「社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる資質・能力を身に付けていく」ことの重要性が強調される一方で、「生徒の進路や職業に関する情報を必ずしも十分に得られていない状況」があると指摘されています。子どもたちがどのような未来を描いているのかを把握することは、彼らの進路形成を支える第一歩となります。

  • 調査の特徴:今回紹介するのは、東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所が2015年から2024年まで10年間にわたって実施してきた「子どもの生活と学びに関する親子調査」の結果です。この調査は、同じ子どもを継続的に追跡するパネル調査で、職業観や進路意識がどのように育ち、変化していくのかを明らかにできる貴重なデータです。

  • 進路を考えることの意味:今回の調査では、「進路を深く考える」経験をした子どもは、そうでない子どもに比べて「勉強が好き」と答える比率が高く、「勉強しようという気持ちがわかない」と答える比率が低いことがわかりました。また、「ニュースに関心が強い」「興味を持ったことを、学校の勉強に関係なく調べる」といった学習への積極性も高く、学習時間が長い傾向がみられました。このように、「進路を深く考える」経験は、学習意識や行動にプラスの影響を与える可能性があります。これまでに本調査では、子どもたちの学習意欲が低下していることを示してきました(参考:2022年リリース)。「進路を深く考える」経験は、主体的に学習に取り組む姿勢をつくるのにも有効と言えそうです。

  • 周囲の大人はどうかかわるか:子どもが進路を考えるためには、学校と家庭の支援が欠かせません。調査では、「尊敬できる先生がいる」といった教員との良好な関係や、「グループで考える」「討論する」「ふりかえる」といった探究的な授業のスタイルが、「進路を深く考える」経験と関連していました。また、家庭では、「将来や進路」「社会のニュース」といった話題を親子で話すことが、子どもが進路を考えるきっかけになっているようです。

  • 個人の変化の追跡:本調査の特徴を生かして同じ子どもの変化を追跡したところ、およそ3人に1人(35.0%)が小5で希望した職業と同種の職業を高2でも希望していました。ただし、そのように職業希望が一貫している子どもは、「進路を深く考える」経験が少ない傾向にあることも明らかになりました。希望が明確であるがゆえに、他の可能性を探るきっかけが少なくなっているのかもしれません。夢を持ち続けることは大切ですが、重要なのは早期になりたい職業を明確にすることではありません。さまざまな選択肢に触れ、柔軟に進路を考えることも、これからの時代にはより重要になると考えられます。

  • さいごに:子どもたちの進路は一人ひとり異なり、多様です。私たち大人にできるのは、子どもを型にはめるのではなく、考えるきっかけを与え、選択肢を広げ、ともに悩み、応援することです。今回の調査結果が、子どもたち自身が未来を考えるうえでの契機となり、周囲の大人がその過程を支えるためのヒントとなれば幸いです。

 ベネッセ教育総合研究所のホームページから、調査結果をまとめたレポートをダウンロードできます。

https://benesse.jp/berd/special/datachild/datashu08.html

【調査概要】

名称:「子どもの生活と学びに関する親子調査2015-2024」(第1-10回)

調査テーマ:

【子ども調査】 子どもの生活と学習に関する意識と実態

【保護者調査】 保護者の子育て・教育に対する意識と実態 ※小1~3生は保護者のみ実施

調査時期:各年7~9月

調査方法:2015年は郵送調査とWEB調査の併用。2016~20年は郵送調査、2021年は郵送調査とWEB調査の併用、2022~24年はWEB調査

調査対象:全国の小学1年生~高校3年生の子どもとその保護者(小1~3生は保護者のみ回答)

*本研究プロジェクトの調査モニター対象。以下は、各年のサンプルサイズ(親子ペア)。回収率は%。

「子どもの生活と学び」研究プロジェクトメンバー(所属・肩書は2025年5月時点):

  • プロジェクト代表者

 藤原翔(東京大学教授)、野澤雄樹(ベネッセ教育総合研究所所長)

  • プロジェクトメンバー

 耳塚寛明(お茶の水女子大学名誉教授)、秋田喜代美(学習院大学教授、東京大学名誉教授)、松下佳代(京都大学教授)、大野志郎(東京大学特任准教授)、木村治生(ベネッセ教育総合研究所主席研究員)、松本留奈(同主任研究員)、岡部悟志(同主任研究員)、朝永昌孝(同研究員)、小川淳子(同研究員)、佐藤昭宏(同主席研究員)

  • ワーキンググループメンバー

 小野田亮介(山梨大学大学院准教授)、数実浩佑(龍谷大学准教授)、猪原敬介(北里大学講師)、豊永耕平(近畿大学講師)

  • アドバイザリーボードメンバー

石田浩(東京大学名誉教授・客員教授)、佐藤香(元東京大学教授)、香川めい(大東文化大学准教授)、大﨑裕子(日本社会事業大学准教授)

  • スタッフ

中島功滋(ベネッセ教育総合研究所主任研究員)、大内初枝(同スタッフ)、渡邉未央(同スタッフ)

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会社概要

URL
http://www.benesse.co.jp/
業種
教育・学習支援業
本社所在地
岡山県岡山市北区南方3-7-17
電話番号
086-225-1165
代表者名
岩瀬 大輔
上場
未上場
資本金
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設立
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