「食料安全保障と栄養」最新報告書:2019年以来、新たに1億2,200万人が飢餓直面~現状SDGs達成困難か、変革努力が必須【プレスリリース】

青ナイル州から逃れてきた重度の急性栄養不良で1歳のマフディーちゃん。避難先の小児科病院で、すぐに食べられる栄養治療食(RUTF)を受け取り、食欲検査を受けている。(スーダン、2023年7月3日撮影) © UNICEF_UNI409652_Awad青ナイル州から逃れてきた重度の急性栄養不良で1歳のマフディーちゃん。避難先の小児科病院で、すぐに食べられる栄養治療食(RUTF)を受け取り、食欲検査を受けている。(スーダン、2023年7月3日撮影) © UNICEF_UNI409652_Awad

【2023年7月12日 ローマ/ニューヨーク/ジュネーブ発】


ユニセフ(国連児童基金)など国連の5つの専門機関が本日共同で発表した「世界の食料安全保障と栄養の現状(原題:The Latest State of Food Security and Nutrition in the World(SOFI)」報告書によると、パンデミックや度重なる天候ショック、ウクライナでの戦争などの武力衝突により、2019年以来、世界で1億2,200万人以上が新たに飢餓に直面しています。

 

報告書を共同で発表したユニセフなどは、このままではSDGs(持続可能な開発目標)の、2030年までに飢餓をなくすという目標を達成できないと警鐘を鳴らしています。

 

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飢餓との闘い、現状への警鐘

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            

北部コロゴにある保健センターで、赤ちゃんに母乳を与える母親。(コートジボワール、2023年3月9日撮影) © UNICEF_UN0800449_Dejongh北部コロゴにある保健センターで、赤ちゃんに母乳を与える母親。(コートジボワール、2023年3月9日撮影) © UNICEF_UN0800449_Dejongh

2023年版の報告書によると、2022年には6億9,100万人から7億8,300万人が飢餓に直面しており、その中間値は7億3,500万人でした。これは、新型コロナウイルス感染症の世界的大流行(パンデミック)前の2019年と比較して1億2,200万人の増加を意味します。

 

2021年から2022年にかけて世界の飢餓人口は横ばいでしたが、他方、世界各地には深刻化する食料危機に直面している場所が多数あります。アジアとラテンアメリカでは飢餓減少の進展が見られましたが、西アジア、カリブ海地域、そして2022年にはアフリカの全地域区分で飢餓人口が引き続き増加していました。アフリカでは世界平均の2倍以上の5人に1人が飢餓に直面しており、依然として世界最悪の状況にあります。

 

アントニオ・グテーレス国連事務総長は、ニューヨークの国連本部で行われた報告書発表会のビデオメッセージで、「いくつかの地域では2030年の栄養目標達成に向け順調に進んでいるので、希望の光は灯っています。しかし、世界全体としては、SDGsの達成には、集中的かつ緊急の取り組みが必要なのです。私たちは、紛争から気候変動に至るまで、食料不安を引き起こす危機や不測の事態に対するレジリエンスを高めなければなりません」と述べました。

 

国連5機関の長は、報告書の序文に以下のように記しました。「2030年までに飢餓をゼロにするというSDGsの目標達成が困難であるのは、間違いありません。実際、2030年にもまだ6億人近くの人々が飢餓に直面していると見込まれています。食料不安と栄養不良をもたらす主な要因は、私たちの "ニューノーマル"となっており、私たちには、農業食料システムを変革し、SDGsの目標2『飢餓をゼロに』のターゲット達成に向けてそれらを活用するという努力を倍加させる以外に選択肢はないのです」


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飢餓の克服に向けて

 

アツィモ・アンドレファナ県の遠隔地にある村を訪れたユニセフが支援する移動式栄養クリニックで、上腕計測メジャーを使った栄養検査を受け、重度の栄養不良と診断された2歳のミチンジュちゃん。(マダガスカル、2023年3月撮影) © UNICEF_UN0845991アツィモ・アンドレファナ県の遠隔地にある村を訪れたユニセフが支援する移動式栄養クリニックで、上腕計測メジャーを使った栄養検査を受け、重度の栄養不良と診断された2歳のミチンジュちゃん。(マダガスカル、2023年3月撮影) © UNICEF_UN0845991

2022年の食料安全保障と栄養の状況は、依然として厳しいものでした。報告書によると、世界人口の約29.6%に相当する24億人の人々が、中度または重度の食料不安により、食べ物を常に入手することはできませんでした。その中でも、約9億人が深刻な食料不安に直面していました。

 

一方、世界中で、健康的な食事を摂ることが難しくなっています。2021年には、世界で31億人以上(42%)が健康的な食生活を送ることができませんでした。これは、2019年に比べて1億3,400万人増えたことになります。

 

依然として多くの5歳未満児が栄養不良の状態です。2022年には、1億4,800万人の5歳未満児(22.3%)が発育阻害、 4,500万人(6.8%)が消耗症、3,700万人(5.6%)が過体重でした。

 

生後6カ月未満の乳児の48%が母乳で育てられており、完全母乳育児率を2025年までに50%にするという国際的な栄養目標に近づいています。しかし、2030年の栄養不良削減目標を達成するためには、より一層の努力が必要です。


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新たなエビデンス:都市化が農業食料システムの変化を促す

 

ユニセフが支援する移動式保健・栄養チームのスタッフに身長を測ってもらう2歳のハイメちゃん。移動式保健・栄養チームは遠隔地の村を訪れ、子どもたちの栄養状態の確認や予防接種のサービスを提供している。(グアテマラ、2023年1月撮影) © UNICEF_UN07ユニセフが支援する移動式保健・栄養チームのスタッフに身長を測ってもらう2歳のハイメちゃん。移動式保健・栄養チームは遠隔地の村を訪れ、子どもたちの栄養状態の確認や予防接種のサービスを提供している。(グアテマラ、2023年1月撮影) © UNICEF_UN07

報告書はまた、都市化の進行がメガトレンド(巨大な潮流)となって、人々が何をどのように食べるかに影響を与えている、と分析しています。 2050年には10人に7人近くが都市に住むと予測されている中、飢餓、食料不安、栄養不良に取り組む政府やその他の人々は、こうした都市化の傾向を理解し、政策策定に反映させる必要があります。

 

とりわけ、農村と都市という単純な区分けの概念は、都市化がどのように農業食料システムを変容させているかを理解するには、もはや不十分なのです。人々が持つつながりの度合いと、都市と農村の間に存在するつながりのタイプの両方を考慮した、より複雑な農村・都市連続体という視点が求められるのです。

 

本報告書は初めて、この展開を11カ国にわたって体系的に記録しています。都市部の世帯だけでなく、都市中心部から遠く離れた場所に住む世帯を含む、農村・都市連続体の全体においても食品の購入が顕著であることが報告されています。また、一部の国では都市周辺部や農村部でも、高度に加工された食品の消費が増加していることを新たに指摘しています。

 

ラヒジュ県にある自宅で、母親にご飯を食べさせてもらう生後7カ月のサナドちゃん。重度の急性栄養不良のため2カ月間治療を受け、今は回復傾向にある。(イエメン、2023年5月撮影) © UNICEF_UN0852949_Alaa Noman - YPNラヒジュ県にある自宅で、母親にご飯を食べさせてもらう生後7カ月のサナドちゃん。重度の急性栄養不良のため2カ月間治療を受け、今は回復傾向にある。(イエメン、2023年5月撮影) © UNICEF_UN0852949_Alaa Noman - YPN

残念ながら、空間的格差は依然として存在しています。食料不安の影響を被るのは、農村部に住む人々の方が多いのです。中度または重度の食料不安に陥っているのは、農村部に住む成人の33%、一方、都市部では26%です。

 

子どもの栄養不良にも、都市部と農村部の特異性が表れています。子どもの発育阻害の割合は、都市部 (22.4%)よりも農村部(35.8%)の方が高いことが分かっています。消耗症は都市部(7.7%)より農村部(10.5%)で高く、過体重は農村部(3.5%)より都市部(5.4%)でわずかに多く見られます。

 

本報告書は、食料安全保障と栄養を効果的に促進するためには、農村・都市連続体と農業・食品システムの間の複雑で変化する関係を包括的に理解した上で、政策介入、行動、投資を導かなければならないと提言しています。


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本報告書の発表にあたり、ユニセフ事務局長キャサリン・ラッセルは次のコメントを寄せています。「栄養不良は、子どもたちの生存、成長、発達に対する大きな脅威です。栄養危機の規模は、栄養価の高い手ごろな価格の食事と必須栄養サービスへのアクセスを優先させること、栄養の乏しい超加工食品から子どもと若者を守ること、子ども向けの栄養強化食品や栄養治療食を含む食品と栄養のサプライチェーンを強化することなど、子どもに焦点を当てたより強力な対応を求めているのです」


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■ 報告書について

栄養価のある食事の作り方を学んだ後に、作ったご飯を受け取った女の子。(カメルーン、2023年6月14日撮影) © UNICEF_UNI405869_Dejongh栄養価のある食事の作り方を学んだ後に、作ったご飯を受け取った女の子。(カメルーン、2023年6月14日撮影) © UNICEF_UNI405869_Dejongh

「世界の食料安全保障と栄養の現状(原題:The Latest State of Food Security and Nutrition in the World(SOFI)」は、国連児童基金(ユニセフ)、国連食糧農業機関(FAO)、国際農業開発基金(IFAD)、世界食糧計画(WFP)、世界保健機関(WHO)が共同で作成する年次報告書です。

 

1999年以来、報告書は、飢餓の撲滅、食料安全保障の確保、栄養の改善に向けた世界の進捗状況を監視・分析しています。また、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の文脈において、これらの目標を達成するための重要な課題についても詳細に分析しています。本報告書は、政策立案者、国際機関、学術機関、一般市民など、幅広い人々を対象としています。

 

今年のテーマは国連総会の「新都市アジェンダ」に沿ったものであり、2023年7月の国連ハイレベル政治フォーラムでの議論ーーとりわけ持続可能な都市とコミュニティ(SDGs目標11)に関する議論および7月17日から19日まで3日間にわたって開催される閣僚級フォーラムでの議論ーーそして9月に開催されるSDGサミットに向けた議論を補完し、導くものです。

 

■ 主な用語

[急性食料不安(Acute food insecurity)] 特定の時点で特定の地域に見られる食料不安で、原因、状況、期間に関係なく、生活または生計、あるいはその両方を脅かす深刻さのもの。深刻な急性食料不安を予防、緩和、削減するための短期的な目標に焦点を当てた行動に、戦略的な指針を与えることと関連性がある。この指標は、「食料危機に関するグローバル報告書2023(食料安全保障情報ネットワーク〈FSIN〉 および食料危機に対するグローバルネットワーク(Global Network against Food Crises: GNAFC〉で用いられている。


[飢餓(Hunger)] 食事から摂取するエネルギーの不足によって引き起こされる、不快なまたは苦しい感覚がある状態。本報告書では、飢餓は慢性的な栄養不足と同義で用いられており、栄養不足のまん延率(PoU)によって測定される。

 

[栄養不良(Malnutrition)] 主要栄養素および/または微量栄養素の摂取不足、偏った摂取、または過剰摂取によって引き起こされる異常な生理的状態を指す。栄養不良には、栄養不足(子どもの発育阻害や消耗症、ビタミン・ミネラルの欠乏)のほか、過体重や肥満も含まれる。

 

[中程度の食料不安(Moderate food insecurity)] 人々が食料の入手について不確実な状況に直面し、お金やその他のリソースが足りないために、年に何回か、消費する食料の質および/または量を減らさざるを得ないようなレベルの食料不安の深刻さを表す。これは、食料を安定的に入手することができない状況を指し、食事の質を低下させ、通常の食事の摂取パターンを阻害する。「食料不安の経験尺度」を用いて測定され、SDGsのターゲット2.1(指標2.1.2)に向けた進捗状況の把握に寄与する。

 

[深刻な食料不安(Severe food insecurity)] 1 年のある時点で、食料が不足し、人々は飢餓を経験し、最も極端な場合は 1 日以上食べ物を口にせずに過ごすような食料不安の深刻さのレベルを指す。食料不安経験尺度で測定され、SDGsのターゲット2.1(指標2.1.2)に向けた進捗状況の把握に寄与する。

 

[栄養不足(Undernourishment)] 個人の習慣的な食料消費量が、通常の活動的で健康的な生活を維持するために必要な食事エネルギー量を賄うには不十分な状態。低栄養のまん延率は、飢餓状況とSDGsのターゲット2.1(指標2.1.1)に向けた進捗状況を測定するために用いられる。


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■ ユニセフについて

ユニセフ(UNICEF:国際連合児童基金)は、すべての子どもの権利と健やかな成長を促進するために活動する国連機関です。現在約190の国と地域※で、多くのパートナーと協力し、その理念をさまざまな形で具体的な行動に移しています。特に、最も困難な立場にある子どもたちへの支援に重点を置きながら、世界中のあらゆる場所で、すべての子どもたちのために活動しています。ユニセフの活動資金は、すべて個人や企業・団体からの募金や各国政府からの任意拠出金で支えられています。 https://www.unicef.or.jp/

※ユニセフ国内委員会(ユニセフ協会)が活動する33の国と地域を含みます

 

■ 日本ユニセフ協会について

公益財団法人 日本ユニセフ協会は、33の先進国・地域にあるユニセフ国内委員会の一つで、日本国内において民間で唯一ユニセフを代表する組織として、ユニセフ活動の広報、募金活動、政策提言(アドボカシー)を担っています。 https://www.unicef.or.jp/

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会社概要

公益財団法人日本ユニセフ協会

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業種
官公庁・地方自治体
本社所在地
東京都港区高輪4-6-12 ユニセフハウス
電話番号
03-5789-2016
代表者名
赤松良子
上場
未上場
資本金
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設立
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