ChatGPTによる人的資本開示全件調査!生成AI×人間が上場企業4000社の人的資本開示を徹底レビュー
~#5 人的資本開示の課題とこれからの未来~
全体サマリ
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現状の人的資本開示の課題としては「必要最低限の開示に留まる企業の多さ」と「業界間の人的資本開示水準のばらつき」が挙げられる
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AIと人間が一致して高評価を与えた企業に共通する「具体性」「戦略との連動性」「独自性」は、今後の人的資本開示で大事な観点となる
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人的資本開示は単なる情報提供を超えて、投資家のみならず、社内外の様々なステークホルダーとのコミュニケーション方法として定着化していく。AI活用によって、ステークホルダーは瞬時に、その内容を把握できるようになる
はじめに
2023年に「人的資本経営の情報開示元年」を迎え、企業の情報開示において人的資本の重要性が認識されるようになりました。そして2年目の2024年、いよいよ本格的な開示が各企業で進みつつあります。過去4回に渡るレポートでは、2023年度の決算期にあたる有価証券報告書が出揃ったタイミング(2024年7月)を捉え、上場企業約4000社における人的資本情報開示の現状を多角的に評価しました。
今回の取り組みでは、AI(ChatGPT)とコンサルタント(人間)の両者が、それぞれ全件チェックを実施し、以下の5つの基準に基づき4段階評価を行い、100点換算でスコアを算出しました。
1. 人的資本KPIの網羅性
· 最低点:法定開示事項のみ
· 最高点:ISO30414に基づく11観点を網羅するKPI
2. KPIの年度カバー
· 最低点:当該年度のみの開示
· 最高点:過去から未来にわたる開示
3. 取り組みの具体性
· 最低点:具体施策の記載なし
· 最高点:対象者や施策の詳細、効果検証方法まで記載
4. 戦略との連動性
· 最低点:戦略との関係性なし
· 最高点:人的資本KPIと経営KPIのつながりを明示
5. 独自性
· 最低点:独自指標なし
· 最高点:独自指標を設定し、施策とその効果を定量的に示す
現在の人的資本開示は、開示の仕方そのものに対して良くも悪くもオリジナリティが認められているかつ、企業ごとの取り組みの成熟度に大きなばらつきが見られるため、特に「独自性」や「具体性」において顕著な差があります。そのため投資家にとっては比較が難しい一方で、企業の経営姿勢や戦略を深く理解する手がかりにもなる、読みごたえのある内容となっています。
本レポートの意義は、こうした人的資本情報の充実度を明確化することで、投資家にとっての有用な指標を提供し、さらに企業の開示姿勢の改善を後押しすることにあります。本レポートでは、AIと人間による評価結果を通じて見えてきた、現状の課題と今後の可能性について考察しつつ、AIを活用した今後の取り組みについて紹介します。
これまでのレポートで見えてきた課題と未来
これまでの分析から、人的資本開示における日本企業の課題と可能性が明確になりました。現状の課題を整理するとともに、未来の人的資本開示がどのように進化すべきかを考察します。
現状の人的資本開示の課題
今回の調査では、法定開示事項に留まる最低限の内容のみを開示している企業が全体の約半数を占めました。実際、人的資本に関する施策について「XXの人材(財)の育成と確保に取り組んでいる」といった概略的な記述に終始してしまっていることが多く、具体的な施策やその背景、効果まで言及している例は少数でした。このようなケースでは、投資家が企業の取り組みを深く理解することが難しくなっています。
また、人的資本開示の水準には、業界ごとに大きなばらつきがありました。例えば、銀行業や電気/ガス業、保険業といった業界は高得点を得る企業が多い一方、海空運業やサービス業、不動産業では開示水準が低い企業が目立ちました。このようなばらつきは、業界特性や競争環境、人的資本開示への意識の違いに起因していると考えられます。
これからの人的資本開示の未来
AIと人間が一致して高評価を与えた企業に共通する「具体性」「戦略との連動性」「独自性」の3点は、これからの人的資本開示における重要な観点となるでしょう。これらをきちんと踏まえた開示は、投資家が企業の経営姿勢や価値観を深く理解することに繋がっていきます。
特に、今後は有価証券報告書に含まれる情報量は膨大になるため、AIを活用して効率的に分析・評価する手法が一般化する可能性が高いと考えられます。そのため、AIが情報を正確に理解し、高評価を出せるような開示の「わかりやすさ」や「体系的な構造化」が求められるようになるでしょう。「行間を読んでください」「裏側にある事情を察してください」といったことは良い意味で通用しなくなっていくのです。
具体的には、以下のようなポイントが「新しい基準」として企業に求められると考えられます。
· 具体性の徹底:単なる施策の概要説明ではなく、目標、実施方法、効果検証の詳細を示し、投資家に取り組みの実態を伝える。
· 戦略との連動性の明確化:人的資本施策が企業全体の成長戦略にどう寄与するのかを具体的に説明し、全体の関連性を視覚的に示す。
· 独自性の強調:他社との差別化要因となる独自KPIや施策を設定し、戦略実現のための独自性を前面に押し出す。
AIと人間の両者が共に高評価をつける企業とは、こうした「新しい基準」に基づいて、情報の精度と戦略との連動性を兼ね備えた開示を行う企業です。これからの時代、人的資本開示は単なる情報提供を超えて、投資家のみならず、社内外の様々なステークホルダーとのコミュニケーション方法として定着化していくと考えられます。これにより、人的資本経営の徹底による人的資本価値の向上を社会全体に、これまで以上に広まっていくことが期待されます。
今後の取り組み
今回のレポートでは、比較的文字情報が抽出しやすい有価証券報告書にフォーカスし、AIと人間の協働による評価と分析を行いました。この調査を通じて、人的資本開示が企業経営において重みを増していくことになると同時に、投資家をはじめとしたステークホルダーとのコミュニケーションを深める手段としての可能性を秘めていることが改めて明らかになりました。
しかし、企業の価値創造や経営方針をより深く理解するためには、有価証券報告書だけではなく、より投資家向けに図表を駆使してまとめられている統合報告書も重要な情報源となります。生成AIのPDFファイルのテキスト分析技術は日々向上しており、今後は統合報告書を含む、ホームページ上に開示される複数の資料を横断的に分析し、企業の全体像をより包括的に評価していく取り組みが進んでいくものと考えられます。今回の執筆者チームとしても、このテーマに継続して取り組んでいく予定です。
バックナンバー
第1回:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000145475.html
第2回:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000145475.html
第3回:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000145475.html
第4回:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000145475.html
著者情報
岡本 努(株式会社人的資本イノベーション研究所 代表取締役、J.P.コンサルティング株式会社 エグゼクティブアドバイザー)
デロイトトーマツコンサルティング合同会社における25年間のコンサルタントとしての経験を経て、2024年4月、人的資本イノベーション研究所を設立し、代表を務める。一貫して組織・人事にフォーカスした経営コンサルティングに従事し、最近では、人的資本経営、人的資本イノベーション、Well-beingなどに注力している。
小野 裕輝(J.P.コンサルティング株式会社 代表取締役)
外資系コンサルティングファームにおけるディレクター職を経て、現在はJ.P.コンサルティング株式会社の代表取締役を務める。クライアントのことをクライアントよりも考え、CHRO代行などの戦略領域から業務・システム領域までの包括的サービス提供に強みをもつ。2014-2018年はシンガポールへ駐在し、アジア全域の日系企業を支援。
山岡もす(J.P.コンサルティング株式会社 シニアコンサルタント)
SNSマーケティング会社での経営管理業務を経て、現在はJ.P.コンサルティング株式会社にて人事コンサルタントとして、人事制度設計および基幹システム構築に従事。ここ最近は、生成AIを通じた業務効率化支援にも注力している。
問い合わせ先
J.P.コンサルティング株式会社
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