組織変革はなぜ「元に戻る」のか──COSが組織の安定を「能動的に再生産される動的状態」として再定義
人的資本経営、1on1、エンゲージメントサーベイ、心理的安全性施策が一時的な行動変容に留まりやすい理由を、組織アトラクターと相互作用構造の観点から説明する。

複雑系科学と神経科学を基盤に、組織の「見えない相互作用構造」を観察し、設計する研究実践ファーム、株式会社DroR(本社:東京都渋谷区、代表取締役:山中真琴)は、国際学術誌『Frontiers in Psychology』で公開された論文『Clinical Organizational Science: An Integrative Framework for Structural Intervention in Complex Organizations』において、組織変革が一時的には進んでも、時間の経過とともに既存の相互作用パターンへ回帰していく現象を、臨床組織科学(COS)の観点から理論化しました。
■ 臨床組織科学(COS)の固定定義
臨床組織科学(Clinical Organizational Science, COS)は、複雑系科学・神経科学・組織心理学・行動科学を統合し、組織の安定状態を能動的に再生産する相互作用構造を理論化し、その構造に介入するためのフレームワークです。COSは、組織変革を「個人の行動変容」ではなく「組織アトラクターの遷移」として捉え、中核技法として Field Gradient Theory、Loop Conversion Design、Neural Base Design を提示します。個人の習慣化と組織レベルの変化をつなぐ概念として、emergence bridge(創発の橋)を提案しています。
■ なぜ、組織変革は元に戻るのか
組織変革の現場では、同じような現象が繰り返し観察されます。エンゲージメントサーベイを実施する。1on1を導入する。MVVを再定義する。心理的安全性を高めるプログラムを行う。リーダーシップ研修を実施する。一時的には会話が増え、雰囲気が変わり、行動も変わったように見える。
しかし、数ヶ月が経つと、会議は以前の空気に戻り、フィードバックは遠慮され、問題情報は共有されにくくなり、意思決定は従来のパターンへ収束していく。変革が失敗したというより、組織が元の安定状態へ戻っていくように見える。
COSは、この現象を「意識が足りなかった」「研修が弱かった」「リーダーのコミットメントが不足していた」とだけ説明しません。組織が元に戻るのは、組織の安定状態を日々再生産している相互作用構造そのものが変わっていないからだと捉えます。
EurekAlert!で配信された英語ニュースリリースでは、COSの中核的な問題提起を “structure, not only behavior” と表現しました。これは、組織変革を「個人の意識や行動を変える取り組み」としてだけ捉えるのではなく、日々の会議の進め方、フィードバックの与え方、確認応答の習慣、反復される組織ルーティンが、意図せず古い組織パターンを再生産している可能性に注目するという意味です。

■ 人的資本経営・1on1・心理的安全性施策との関係
この問いは、人的資本経営、1on1、エンゲージメントサーベイ、心理的安全性プログラム、MVV浸透施策など、多くの日本企業が取り組む組織変革施策にも関係します。
これらの施策は、それ自体が不要なのではありません。むしろ、多くの場合、重要な入口です。しかし、施策が「制度」「研修」「スローガン」として導入されるだけで、日々の確認応答、発言分布、問題共有、フィードバックの循環構造が変わらなければ、組織は既存の相互作用パターンへ戻っていきます。
COSは、こうした施策が一時的な行動変容に留まりやすい理由を、組織の安定状態を再生産する相互作用構造の観点から説明します。
■ 既存アプローチの盲点:安定を「惰性」として扱ってきた
従来の組織変革アプローチの多くは、組織の安定を「変化への推進力が足りない状態」として扱ってきました。この発想では、変革が定着しなかった場合、より強いトップメッセージ、より長い研修、より多くのコミュニケーション、より高い目標設定が処方されがちです。
しかし、COSは組織の安定を、単なる受動的な惰性ではなく、相互作用パターンの再帰的な再生産として捉えます。会議で誰が発言し、誰が沈黙し、問題が出た時に誰がどう反応し、フィードバックがどのように流れ、意思決定がどのように収束するか。これらの反復が、組織の安定状態を日々作り直しています。
したがって、変革が定着しない問題は、「人が変わらない」問題である以前に、「人の行動を生み出す相互作用構造が変わっていない」問題です。
■ COSが提示する3つの転換
本論文は、COSの独自性を以下の3つの転換として整理します。
1. 心理的安全性:文化的成果から構造的条件へ
心理的安全性を、漠然とした「良い雰囲気」や「育てるべき文化」としてだけでなく、相互作用構造の中に埋め込まれる条件として捉え直します。
2. フィードバック:対人スキルから循環構造へ
フィードバックを、個人の伝え方や受け止め方だけの問題ではなく、組織の中で批判、防衛、修正、承認がどのように循環するかというサイバネティック・アーキテクチャの問題として扱います。
3. 組織変革:行動変容からアトラクター遷移へ
組織変革を、個人の行動を変えるプロジェクトではなく、組織が戻ろうとする安定状態そのものを変えるアトラクター遷移として捉えます。
■ 既存理論を否定するのではなく、構造的介入として再配置する
COSは、既存の組織開発、心理的安全性研究、リーダーシップ開発、行動変容アプローチを否定するものではありません。むしろ、それらの知見を、組織の相互作用構造を変えるための条件として再配置します。
たとえば、心理的安全性は重要です。しかし、心理的安全性を「大切にしよう」と呼びかけるだけでは、会議での発言分布やネガティブ情報への反応は変わりません。フィードバックは重要です。しかし、フィードバック研修だけでは、批判と防衛が自己増幅するループは変わりません。
COSは、これらの重要概念を、組織の安定状態を再生産する構造メカニズムと接続し、介入可能な形へ翻訳することを目指します。
■ 本論文の位置づけ:概念分析としての理論提唱
本論文は、Conceptual Analysis(概念分析)として発表された理論提唱論文です。COSの各技法は、現時点で効果が実証済みであると主張するものではありません。既存の分散した科学的知見を統合し、組織変革を構造的介入の問題として捉え直すための理論枠組みと、今後検証・反証されるべき命題を提示するものです。
■ 代表・山中真琴コメント
組織変革が元に戻る時、多くの場合、現場の人が怠けているわけでも、経営者の想いが足りないわけでもありません。日々の相互作用の中に、元の状態を再生産する構造が残っているのです。
COSが提示したいのは、より強く人を動かす方法ではありません。人が自然に戻ってしまう相互作用構造を観察し、その構造に働きかける視点です。
人的資本経営、心理的安全性、1on1、エンゲージメント施策は、どれも重要です。ただし、それらを制度として導入するだけでは不十分です。組織の中で何が繰り返され、どのパターンが安定状態として再生産されているのかを見る必要があります。
■ 次回予告
本日5月7日16時に「組織は機械ではなく複雑適応系である」を配信します。COSが組織をどのようなシステムとして捉えるかを、Kauffman、Stacey、Prigogine、Bertalanffyの理論的系譜から詳述します。
■ 掲載誌『Frontiers in Psychology』について
本論文は、心理学分野の国際査読誌『Frontiers in Psychology』Organizational Psychologyセクションに掲載されました。同誌は心理学・認知科学・組織心理学などの研究を扱うオープンアクセス学術誌であり、本論文はConceptual Analysis(概念分析)として公開されています。
■ 論文情報
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タイトル: Clinical Organizational Science: An Integrative Framework for Structural Intervention in Complex Organizations
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和題: 臨床組織科学:複雑組織における構造的介入のための統合的フレームワーク
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著者: Makoto Yamanaka, Masaya Nakamori (両名とも株式会社DroR所属)
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掲載誌: Frontiers in Psychology, Section: Organizational Psychology, Volume 17 (2026)
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論文種別: Conceptual Analysis(概念分析)
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DOI: 10.3389/fpsyg.2026.1827324
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公開日: 2026年4月30日
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査読: 編集者および査読者による国際的な査読プロセスを経て採択
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ライセンス: Creative Commons Attribution License (CC BY) ※オープンアクセス
■ 株式会社DroRについて
株式会社DroRは、複雑系科学と神経科学を基盤に、組織の「見えない相互作用構造」を観察し、設計する研究実践ファームです。臨床組織科学(COS)を理論的支柱とし、高度専門BPO(財務・HR・PM)、組織開発、ウェルビーイング、DX支援を統合的に提供しています。BPO契約を通じて組織内部に継続的に関与する「臨床的」スタンスにより、研究と実践を分離せず、現場から理論を生み、理論を現場へ返す循環を重視しています。
DroRでは、代表取締役・山中真琴を中心に、組織実践・社会実装・対外発信と、論文執筆・理論構築・研究開発を往復させることで、研究と実践を分離しない体制を構築しています。
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会社名: 株式会社DroR(ドロア)
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所在地: 〒150-0021 東京都渋谷区恵比寿西2-4-8 ウィンド恵比寿ビル8F
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代表: 代表取締役 山中真琴
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設立: 2023年8月
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資本金: 10,000,000円
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事業内容:
- 組織ディープテック:複雑系科学×神経科学を基盤とした組織OSの設計・実装
- 高度専門BPO:財務・HR・PMなど企業の核となる業務の伴走・代替
- 組織開発/ウェルビーイング:MVV・文化醸成・1on1設計・コーチング
- DX支援/補助金・認証支援:IT導入補助金、レジリエンス認証 他 -
認証: 国土強靱化貢献団体認証(レジリエンス認証)、経済産業省 IT導入支援事業者
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パートナー: 株式会社マネーフォワード
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コーポレートサイト: https://dror.co.jp
■ 公式情報ページについて
株式会社DroRでは、臨床組織科学(COS)の定義、論文情報、用語集、FAQ、研究倫理、検証可能命題を整理した公式情報ページを順次公開予定です。公開後、本リリースおよび関連リリースの関連リンク欄に追記し、PR TIMES上の解説シリーズとDroR公式サイト上の正典ページを接続していきます。
本シリーズは、単発の論文掲載告知ではなく、COSの中核概念、既存理論との位置関係、国内組織論との接続、境界条件、独立検証への招待を段階的に公開する解説シリーズとして設計されています。
■ 関連リンク
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論文(Frontiers in Psychology): https://doi.org/10.3389/fpsyg.2026.1827324
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英語ニュースリリース(EurekAlert!): https://www.eurekalert.org/news-releases/1126874
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Makoto Yamanaka ORCID: https://orcid.org/0009-0001-4198-2296
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Masaya Nakamori(共著者)ORCID: https://orcid.org/0009-0009-2288-3688
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株式会社DroR コーポレートサイト: https://dror.co.jp
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note(株式会社DroR | 臨床組織科学): https://note.com/dror
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山中真琴 X(旧Twitter): https://x.com/makoto_shukan
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臨床組織科学研究会: https://cos-research.org
■ 本件に関するお問い合わせ
株式会社DroR 広報担当
Email: press@dror.co.jp
取材・掲載・共同研究に関するお問い合わせは、上記メールアドレスまでご連絡ください。
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