組織の「見えない構造」を捉える──COSがアトラクター概念を組織観察の道具として再定式化

組織文化や組織風土では捉えきれない、組織の動的な復元力を記述する概念。コミュニケーション応答潜時、発言分布、ネガティブ情報への反応という3つの観察指標を提示。

ドロア

組織が一時的な変化を受けても元の安定状態へ戻ろうとする力を、アトラクターという概念から捉える。

複雑系科学と神経科学を基盤に、組織の「見えない相互作用構造」を観察し、設計する研究実践ファーム、株式会社DroR(本社:東京都渋谷区、代表取締役:山中真琴)が国際学術誌『Frontiers in Psychology』で公開した論文は、組織を観察する中核概念としてアトラクター(attractor)を再定式化しています。

■ 臨床組織科学(COS)の固定定義

臨床組織科学(Clinical Organizational Science, COS)は、複雑系科学・神経科学・組織心理学・行動科学を統合し、組織の安定状態を能動的に再生産する相互作用構造を理論化し、その構造に介入するためのフレームワークです。COSは、組織変革を「個人の行動変容」ではなく「組織アトラクターの遷移」として捉え、中核技法として Field Gradient Theory、Loop Conversion Design、Neural Base Design を提示します。個人の習慣化と組織レベルの変化をつなぐ概念として、emergence bridge(創発の橋)を提案しています。

■ COSにおけるアトラクターとは

COSにおけるアトラクターとは、組織が外部からの働きかけや一時的な変化を受けた後でも、時間の経過とともに戻ろうとする安定的な相互作用パターンを指します。


たとえば、会議で新しい発言ルールを導入しても、しばらくすると発言者が上位者に偏る。心理的安全性の研修後は問題共有が増えたように見えても、数ヶ月後にはネガティブ情報が再び伏せられる。1on1を導入しても、最終的には報告と確認だけの時間に戻る。これらは、組織が特定の安定パターンへ戻ろうとする例です。

アトラクターは、組織文化や組織風土と同義ではありません。文化や風土が、価値観、信念、知覚、雰囲気を記述する概念であるのに対し、アトラクターは、組織が外力を受けた後にどの状態へ戻ろうとするかという動的な復元力を記述する概念です。

アトラクター概念図。組織状態は状態空間内の既存アトラクター(attractor)に引き寄せられ、摂動(perturbation)を受けても同じ吸引域では回帰する。一方、十分な構造変化が生じると、別の安定状態へアトラクター遷移(attractor transition)する。観察指標は、その安定状態や遷移を外部から捉える手がかりとなる。

■ アトラクターを観察する3つの指標

アトラクターは理論的構成概念であるため、実践者が何を観察すればよいのかを明確にする必要があります。本論文は、組織のアトラクター状態を観察する候補指標として、以下の3つを提示しています。

観察指標

内容

見えてくるアトラクター

コミュニケーション応答潜時

メッセージを受け取ってから確認応答が返るまでの時間。自発的に応答するか、催促されてから応答するか

他者を待たせない関係性か、個人の応答ペースが優先される関係性か

集団場面での発言分布

会議や対話の場で、誰が発言し、誰が沈黙し、誰が自己検閲するか

役職階層に発言が集中するか、役割を超えて声が分散するか

ネガティブ情報の開示への反応

失敗、問題、エラー、悪いニュースが共有された時、防衛的反応が出るか、共有問題として扱われるか

脅威増幅アトラクターか、共同解決アトラクターか

これらの指標は網羅的な測定体系ではありません。論文では、将来の実証研究に向けて検証されるべき候補的指標として位置づけています。しかし、実践者が組織の「見えない構造」を観察する入口として、再現可能なカテゴリを提供します。

■ 「文化を変える」と「アトラクターを変える」は何が違うのか

組織文化を変えるという表現は、多くの企業で使われています。しかし、文化はしばしば価値観、信念、理念、雰囲気として語られます。そのため、文化変革は、理念浸透、メッセージ発信、ワークショップ、研修へと展開されがちです。


一方、アトラクターを変えるという発想では、問いが変わります。

  • どの相互作用パターンが、現在の安定状態を再生産しているのか

  • どの応答規範が、問題共有を抑制しているのか

  • どの会議構造が、発言分布を固定しているのか

  • どのフィードバックループが、防衛や沈黙を増幅しているのか

つまり、アトラクター概念は、組織の「状態」ではなく、組織が元に戻ろうとする復元の構造を見るための概念です。

■ アトラクター遷移としての組織変革

COSは、組織変革をアトラクター遷移として捉えます。これは、外部から一時的な刺激を加えて行動を変えることではなく、組織が戻ろうとする安定状態そのものが別の状態へ移ることを意味します。


一度アトラクター遷移が起これば、新しい相互作用パターンが自然に再生産されるようになります。たとえば、問題共有が「リスク」ではなく「信頼の表明」として受け止められるようになる。フィードバックが「批判」ではなく「共同修正」として流れるようになる。確認応答が「面倒な義務」ではなく「相手を待たせない関係性」として習慣化される。


ただし、COSはアトラクター遷移を完全に設計・制御できるとは主張しません。複雑適応系としての組織では、介入は遷移の確率を高めることはできても、結果を決定することはできません。

■ COSは決定論ではなく「原理的確率主義」を採用する

組織を複雑適応系として捉えることは、「組織は予測も介入もできない」という意味ではありません。同時に、「正しい介入をすれば必ず狙った結果が出る」という決定論でもありません。


COSが採用する立場は、principled probabilism(原理的確率主義)です。すなわち、組織の安定を再生産する構造メカニズムを理解することで、特定の構造的遷移が起こる確率を高める条件を設計することはできる。しかし、その方向や内容を完全に決定することはできない、という立場です。

この慎重さは、COSの実践上の重要な前提です。COSは組織を「操作する」理論ではなく、複雑な組織システムに対して、構造的に確率を変える条件を設計する理論です。

■ 本論文の位置づけ:概念分析としての理論提唱

本論文は、Conceptual Analysis(概念分析)として発表された理論提唱論文です。COSの各技法は、現時点で効果が実証済みであると主張するものではありません。既存の分散した科学的知見を統合し、組織変革を構造的介入の問題として捉え直すための理論枠組みと、今後検証・反証されるべき命題を提示するものです。

■ 代表・山中真琴コメント

アトラクターという概念を組織に使うことには、慎重さが必要です。物理学や複雑系科学の概念を、そのまま社会システムに移植することはできません。


ただ、現場で組織に入り続けていると、組織が同じパターンに戻っていく力を何度も目にします。会議の空気が戻る。意思決定の癖が戻る。問題共有の反応が戻る。この『戻る力』を観察可能にするために、アトラクターという概念を使っています。


COSの目的は、抽象的な理論語を増やすことではありません。何を見れば組織の安定状態がわかるのか、何が変われば組織が違う状態へ移るのかを、構造的に問えるようにすることです。

■ 次回予告

5月11日10時に「COSは神経測定をしない──神経科学という説明層」を配信します。COSにおける神経科学の役割と、組織神経科学・神経リーダーシップとの違いを明確にします。

■ 掲載誌『Frontiers in Psychology』について

本論文は、心理学分野の国際査読誌『Frontiers in Psychology』Organizational Psychologyセクションに掲載されました。同誌は心理学・認知科学・組織心理学などの研究を扱うオープンアクセス学術誌であり、本論文はConceptual Analysis(概念分析)として公開されています。

■ 論文情報

  • タイトル: Clinical Organizational Science: An Integrative Framework for Structural Intervention in Complex Organizations

  • 和題: 臨床組織科学:複雑組織における構造的介入のための統合的フレームワーク

  • 著者: Makoto Yamanaka, Masaya Nakamori (両名とも株式会社DroR所属)

  • 掲載誌: Frontiers in Psychology, Section: Organizational Psychology, Volume 17 (2026)

  • 論文種別: Conceptual Analysis(概念分析)

  • DOI: 10.3389/fpsyg.2026.1827324

  • 公開日: 2026年4月30日

  • 査読: 編集者および査読者による国際的な査読プロセスを経て採択

  • ライセンス: Creative Commons Attribution License (CC BY) ※オープンアクセス

  • 掲載URL: https://doi.org/10.3389/fpsyg.2026.1827324

■ 株式会社DroRについて

株式会社DroRは、複雑系科学と神経科学を基盤に、組織の「見えない相互作用構造」を観察し、設計する研究実践ファームです。臨床組織科学(COS)を理論的支柱とし、高度専門BPO(財務・HR・PM)、組織開発、ウェルビーイング、DX支援を統合的に提供しています。BPO契約を通じて組織内部に継続的に関与する「臨床的」スタンスにより、研究と実践を分離せず、現場から理論を生み、理論を現場へ返す循環を重視しています。
DroRでは、代表取締役・山中真琴を中心に、組織実践・社会実装・対外発信と、論文執筆・理論構築・研究開発を往復させることで、研究と実践を分離しない体制を構築しています。

  • 会社名: 株式会社DroR(ドロア)

  • 所在地: 〒150-0021 東京都渋谷区恵比寿西2-4-8 ウィンド恵比寿ビル8F

  • 代表: 代表取締役 山中真琴

  • 設立: 2023年8月

  • 資本金: 10,000,000円

  • 事業内容:
    - 組織ディープテック:複雑系科学×神経科学を基盤とした組織OSの設計・実装
    - 高度専門BPO:財務・HR・PMなど企業の核となる業務の伴走・代替
    - 組織開発/ウェルビーイング:MVV・文化醸成・1on1設計・コーチング
    - DX支援/補助金・認証支援:IT導入補助金、レジリエンス認証 他

  • 認証: 国土強靱化貢献団体認証(レジリエンス認証)、経済産業省 IT導入支援事業者

  • パートナー: 株式会社マネーフォワード

  • コーポレートサイト: https://dror.co.jp

■ 公式情報ページについて

株式会社DroRでは、臨床組織科学(COS)の定義、論文情報、用語集、FAQ、研究倫理、検証可能命題を整理した公式情報ページを順次公開予定です。公開後、本リリースおよび関連リリースの関連リンク欄に追記し、PR TIMES上の解説シリーズとDroR公式サイト上の正典ページを接続していきます。
本シリーズは、単発の論文掲載告知ではなく、COSの中核概念、既存理論との位置関係、国内組織論との接続、境界条件、独立検証への招待を段階的に公開する解説シリーズとして設計されています。

■ 関連リンク

■ 本件に関するお問い合わせ

株式会社DroR 広報担当
Email: press@dror.co.jp

取材・掲載・共同研究に関するお問い合わせは、上記メールアドレスまでご連絡ください。

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会社概要

URL
https://dror.co.jp/
業種
サービス業
本社所在地
東京都渋谷区恵比寿西2丁目4番8号 ウィンド恵比寿ビル8F
電話番号
-
代表者名
山中真琴
上場
未上場
資本金
1000万円
設立
2023年08月