半導体封止材の不具合低減に貢献する新総合的分析・解析サービスを開始
―熱硬化性樹脂の「固まる過程」を見える化し、反り・クラック対策を支援―
【要旨】
株式会社東レリサーチセンター(所在地:東京都中央区日本橋本町一丁目7番2号、代表取締役社長:真壁芳樹、以下「TRC」)は、サンユレック株式会社(所在地:大阪府高槻市道鵜町三丁目5番1号、代表取締役社長:永井 孝一良)と共同で、代表的な熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂の硬化過程を、分子レベルから材料全体の特性まで総合的に解析する手法を開発し、本手法を活用した分析・解析サービスの提供を開始しました。本手法は樹脂の種類による制限はなく、多くの熱硬化性樹脂に対して適用可能と考えています。
本サービスでは、樹脂が硬化する際に起こる反応の進み方や材料特性の変化に加え、半導体チップを熱・水分・衝撃から保護するため封止材に添加されているフィラー(充填材)と樹脂の界面の状態を捉えることができます。
これにより、これまで個別に理解されることが多かった硬化現象を総合的に解析できるようになり、半導体封止材で問題となる反り、クラックの原因解明や、熱硬化性樹脂材料の設計高度化、製造プロセスの最適化に貢献できます。
【背景と課題】
熱硬化性樹脂は、半導体封止材、電子部品用接着剤、複合材料、塗料など、耐熱性や機械特性、長期信頼性が必要な製品に広く使用されています。特に半導体封止材では、デバイスの小型化・高密度化が進む中で、樹脂が固まる際の挙動が、内部応力による反りや割れといった不具合に大きく影響することが分かってきています。
一方、熱硬化性樹脂の性質は、分子同士が結びつく化学反応と、完成した材料の硬さや弾性、耐熱性などが複雑に関係しています。さらに、多くの実用材料にはフィラーが大量に含まれており、フィラーの表面状態や樹脂との境界面の状況が、硬化の進み方や最終的な材料特性に影響します。このように、「どのように反応が進み、どのような構造ができ、それがどの特性につながるのか」を一貫して理解することは難しく、材料設計やプロセス条件の検討は経験に頼る部分が少なくありませんでした。
こうした背景から、TRCはサンユレック株式会社と共同で、実験による測定とコンピュータシミュレーションを組み合わせ、熱硬化性樹脂の硬化過程を総合的に分析・解析できる新しいアプローチの確立に取り組みました。
【今回の成果とその重要性】
本解析サービスの最大の特長は、熱硬化性樹脂が固まる過程を、「反応の進み方」、「材料の中身(分子構造)」、「フィラーとの境界部分」という複数の視点から、それぞれバラバラではなく相互の関係として理解できる点にあります。
まず、実際の成形プロセスを想定した急速な加熱・冷却条件のもとで、硬化反応がどのような速度で進行し、それに伴って材料特性がどのように変化していくのかを、時間の流れに沿って把握できるようになりました。ここでは、樹脂の硬さの目安となるガラス転移温度(*1、以下「Tg」)に着目し、その変化を追うことで、硬化の進行状況や材料特性発現の過程を捉えています(図1)。
次に、硬化反応に伴う分子構造の変化に着目することで、架橋反応の進行度や分子構造の特徴を把握でき、どのような分子構造がガラス転移温度や最終物性に寄与しているのかを明確にできるようになりました。さらに、フィラーと樹脂が接する境界部分に注目し、樹脂とフィラーの境界面近傍における分子の分布や相互作用を解析することで、フィラーが硬化挙動や材料特性に及ぼす影響を分子レベルで理解できるようになりました(図2)。
なお、本解析は、高速カロリーメトリー(*2、以下「FSC」)、質量分析法(MALDI-MS(*3)、TOF-SIMS(*4))といった分析技術と分子動力学(MD)シミュレーション(*5)を組み合わせることで実現しています。
また、本解析アプローチは、半導体実装分野の国際学会でも高く評価され、IMAPS Symposium 2025(*6)への招待講演や、ICEP-IAAC 2025(*7)でのYoung Award受賞につながっています。これらは、本手法が学術的な新規性だけでなく、産業応用の観点からも有用であることを示すものです。


【今後の展望】
本解析アプローチは、今後、以下のような分野での活用が期待されます。
・半導体封止材・電子部品用材料の信頼性向上
・フィラーと樹脂の組み合わせを考慮した材料設計
・成形条件の最適化による不具合低減
・実験とシミュレーションを組み合わせた効率的な材料開発
TRCは今後も、「高度な技術で社会に貢献する」という基本理念のもと、分析・解析技術と計算科学を融合した材料評価技術の高度化を進め、お客様の材料開発および課題解決を強力に支援してまいります。
【用語説明】
(*1)ガラス転移温度(Tg:Glass Transition Temperature)
高分子材料が、硬く脆いガラス状の状態から、分子運動が活発なゴム状の状態へと転移する温度。熱硬化性樹脂では、硬化反応(架橋構造の形成)が進行するにつれてTgが上昇するため、Tgは硬化反応の進行度や物性発現の指標として広く用いられている。本解析では、Tgの時間変化を追跡することで、硬化過程を定量的に測定している。
(*2) FSC(Fast Scanning Calorimetry):
高速カロリーメトリー。試料を非常に高速(~数万 ℃/秒)で加熱・冷却しながら、硬化反応や相転移に伴う熱的変化を測定する手法。実際の成形プロセスに近い急速な温度変化条件を再現でき、硬化反応の進行やガラス転移温度の時間変化を測定できる。
(*3) MALDI-MS(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization-Mass Spectrometry):
マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法。試料をマトリックスと混合し、レーザー照射によってイオン化した分子を質量分析する手法。比較的大きな分子の分析に適しており、熱硬化反応に伴う反応生成物の変化を把握することができる。
(*4) TOF-SIMS(Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry):
飛行時間型2次イオン質量分析法。試料表面にイオンビームを照射し、放出される2次イオンを飛行時間型質量分析計で測定する表面分析手法。材料最表面の化学組成や官能基情報を高感度に取得でき、フィラー表面の化学状態や界面特性の評価に有効である。
(*5) MDシミュレーション(Molecular Dynamics Simulation):
分子動力学シミュレーション。原子や分子の運動を時間発展として計算機上で追跡し、構造、分布、相互作用の変化を解析する計算手法。樹脂-フィラー境界面など実験では直接観察が困難な領域において、分子レベルでの挙動や反応性を理解するための有力な手段である。
(*6) IMAPS (International Microelectronics Assembly and Packaging Society) Symposium
マイクロエレクトロニクス、半導体実装技術に関する世界最大級の国際学会。材料、設計、プロセスなどを対象に、産業界・学術界の最新研究成果が発表・議論される。半導体実装分野における技術動向を示す重要な国際的発表の場として位置付けられている。
(*7) ICEP(International Conference on Electronics Packaging)
半導体実装技術の国際会議。日本を中心に、アジア・欧米の研究者および技術者が参加し、材料、設計、プロセスなどに関する研究成果が発表される。半導体実装分野における国際的な情報発信・交流の場として高い認知度を有している。
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