東京23区マンション市場、人口動態無視の「常識破り」構造。港区に超顕著
東京都マンションマーケットにおける特異な構造
東京都のマンションマーケットは、全国的に見てもきわめて特殊な構造を示しています。人口動態や世帯数の増加、そして需給バランスによって価格が動くというのは、不動産市場における一般的な経済原理です。しかし東京都、特に都心部や湾岸部においては、この常識が当てはまらないエリアが存在し、マーケットの分析において重要な示唆を与えています。
まず、以下のグラフ1では、東京都23区それぞれの「世帯増加率」と「マンション価格の平均高騰率」を散布図で示しています。
グラフ1:東京都23区(全域):世帯増加率とマンション価格高騰率

この2つの指標の間には、全体では相関係数0.31と弱い相関しか見られません。通常であれば、世帯数が増加すれば住宅需要が高まり、価格も上昇するという関係が見込まれるため、低い相関は一見不可思議に見えます。
しかし、グラフ2のようにここから「港区」「千代田区」「新宿区」「江東区」「品川区」「目黒区」といった一部の区を除外すると状況は一変します。残りの区では相関係数が0.78と高まり、明確に「世帯増加率が高ければマンション価格の高騰率も上昇する」という需給関係が確認できます。つまり、多くの区では経済原理に即した市場構造が成立しているのです。
グラフ2:東京都23区(一部):世帯増加率とマンション価格高騰率

都心・湾岸部の特異性
一方で、除外されたこれら6区に加え中央区は例外的な動きを見せています。特に中央区は、世帯増加率と価格高騰率の双方で23区内トップであり、需要増と投資的な要因が相乗効果をもたらしています。港区や千代田区、新宿区、江東区、品川区、目黒区といったエリアは人口動態に依存しない価格形成が進んでいる点が特徴です。
これらの区に共通するのは、再開発と国際性です。都心・湾岸エリアでは、大規模再開発が相次ぎ、オフィス・住宅・商業施設が複合的に立地する都市空間が形成されています。さらに、複数路線の交通利便性や新幹線・空港アクセスといった広域交通ネットワークを持つことから、ビジネス拠点としての国際競争力も高いのです。その結果、国内外の富裕層や外資系企業、投資家の資金が流入し、世帯数の増減とは無関係にマンション価格が高騰しています。中央区はこれらに国内実需需要が加わるといった構造になります。
高価格帯物件と日経平均の連動性
グラフ3:2億円以上の中古マンション成約件数

さらに注目すべきは、これらの区における高価格帯マンションの動向です。以下の図では、2億円以上の中古マンション成約件数を示していますが、取引件数は中長期的に増加傾向にある一方、2024年8月と2025年4月には急落が観察されました。2024年8月は日経平均株価が史上最大の1日下落を記録した月であり、2025年4月も貿易摩擦の影響で数日間に11.6%の下落を経験しました。これらの時期に高価格帯成約件数が大きく減少していることから、日経平均の動向と富裕層の不動産取引が密接に結びついていることが明らかです。
言い換えれば、東京都心の高価格帯マンション市場は、株式市場の動向に直接的に影響を受けやすい層、すなわち投資家や資産家が主体となって取引しているマーケットだといえます。この性質は、地方都市や一般的な住宅市場とは大きく異なり、東京都のマンション市場の特異性を裏付けるものです。
港区の詳細分析:築年別動向
次に、港区に焦点を当ててみましょう。港区の世帯増加率は0.9%と23区中21位という低水準にもかかわらず、マンション価格の平均高騰率は中央区に次ぐ高さを示しています。これは、まさに需給だけでは説明できない特異な価格形成構造を表しています。
築年帯別の坪単価推移を見ると、2つの顕著な特徴が確認できます。
グラフ4:港区中古マンション築年帯別価格推移

第一に、1982年以前に建てられた築古マンションの価格が右肩上がりで上昇している点です。通常、旧耐震基準の築古マンションは資産価値が上がりにくいのが一般的ですが、港区では例外的に高騰しています。これは、エリアそのものの希少性や、立地に対する強い需要が背景にあります。
第二に、築浅マンションの価格上昇が他の築年帯を上回る速度で進んでいることです。グラフ5で示すように新築供給が減少傾向にある一方で、築古物件の割合が増加しているため、相対的に築浅物件の希少性が高まり、その価値が急騰しています。この傾向は今後も継続し、築年が浅い物件ほどプレミアム価格が付与されやすくなると予想されます。
グラフ5:港区新築分譲マンション棟数と築40年以上マンションの推移

港区の面積帯別動向
グラフ6:港区中古マンション面積帯別価格推移

さらに港区では、面積帯ごとの価格推移にも特徴があります。通常は広い面積帯のマンションほど総額が大きくなるため、坪単価は低めに抑えられる傾向があります。しかし港区では逆の現象が見られ、特に80㎡以上の広い面積帯のマンションが急激に高騰しています。
2018年1月時点では各面積帯の坪単価に大きな差はなかったものの、2025年7月には80㎡以上の物件が他の面積帯を大きく引き離す結果となりました。これは広い住戸を求める層が国内外の富裕層や投資家であることを示しており、彼らの購買力と希少性が価格を押し上げています。
今後の展望
このように、東京都心・湾岸部のマンション市場は、世帯数や人口増加に依存しない独自の価格決定メカニズムを持っています。グローバル資本の流入、再開発の進展、そして株式市場との連動性といった要素が絡み合い、従来型の需給分析では捉えきれない動きを生み出しています。
今後も港区や中央区をはじめとするエリアでは、再開発計画や国際イベント、交通インフラ整備などが続く見込みであり、資産性はさらに強化される可能性があります。一方で、株価や金利動向といったマクロ経済の影響も大きいため、投資対象としてのリスクとリターンを慎重に見極めることが重要です。
東京都マンション市場の特異な構造は、不動産投資家や居住検討者にとって大きな学びを与えてくれます。人口増加だけでなく、国際性や金融市場との関係を考慮することで、より精緻なエリア分析と資産価値評価が可能になるのです。
筆者プロフィール

福嶋 真司(ふくしましんじ)
マンションリサーチ株式会社
データ事業開発室
不動産データ分析責任者
福嶋総研
代表社員
早稲田大学理工学部経営システム工学科卒。大手不動産会社にてマーケティング調査を担当後、
建築設計事務所にて法務・労務を担当。現在はマンションリサーチ株式会社にて不動産市場調査・評価指標の研究・開発等を行う一方で、顧客企業の不動産事業における意思決定等のサポートを行う。また大手メディア・学術機関等にもデータ及び分析結果を提供する。
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