東京都中古マンション市場に「階層別構造変化」超高額帯は堅調、高額帯は減速へ
東京都中古マンション市場に見られる構造変化
―価格帯別成約動向と再販市場の二極化―
東京都の中古マンション市場では、2024年以降、これまでの上昇基調からやや構造的な変化が見られるようになっています。新築価格の高騰や金利上昇の影響を受けつつも、依然として高額帯の取引が活発である一方、中間富裕層向けの価格帯では明確な減速傾向が確認されています。ここでは、価格帯別の成約数の推移と、再販市場の動きという2つの観点から、現在の東京都中古マンション市場の実態を詳しく見ていきます。
1億円以上2億円未満:高給与所得者層の活発な動き
グラフ1:東京都1億円以上2億円未満の中古マンション成約件数推移

まず、価格帯別の成約動向を見ると、1億円以上2億円未満の成約数が依然として上昇傾向にあります。この価格帯は、企業経営者や外資系勤務者、医師・弁護士などの専門職が中心で、金融機関の審査を通過できる属性を持つ層が多いのが特徴です。
2020年代前半までは、この価格帯のマンションは「憧れの高級住宅」という位置づけでしたが、現在では実需として選ばれるケースも増えています。特に、千代田区・中央区・港区・渋谷区では、坪単価700万円〜900万円クラスのマンションが珍しくなくなり、1億円を超える物件でも50㎡台前後の広さに留まることが一般的です。
つまり、「高級物件」というよりも、「都心で一定のクオリティを求める実需層の標準価格帯」として1億円〜2億円が定着しつつあるのです。
また、円安による海外投資家の日本不動産への資金流入、都心回帰のライフスタイル志向なども追い風となり、この層の購買意欲を底堅く支えています。特に2024年後半以降、住宅ローン金利がやや上昇したにもかかわらず成約数が減っていない点は、この層の現金購入比率が高いことを示唆しているといえるでしょう。
5億円以上:富裕層マーケットの顕著な活発化
グラフ2:東京都5億円以上の中古マンション成約件数推移

次に、5億円以上の超高額帯を見てみましょう。この価格帯は、いわゆる「富裕層マーケット」に該当します。
都内では、青山・麻布・一番町・代官山といった一等地におけるプレミアムレジデンスや、湾岸エリアの最上階ペントハウスなどが主な対象です。
成約件数の推移を見ると、年ごとのばらつきはあるものの、全体的には安定的に推移しています。特に2023年〜2024年前半にかけては、超富裕層による「実物資産の逃避先」としての不動産投資が目立ちました。株式や暗号資産といったリスク資産から、安定的に価値を保ちうる都心高級マンションへのシフトが進んだためです。
富裕層マーケットでは、価格そのものよりも「希少性」と「資産保全性」が重視されます。
そのため、取引件数は少なくとも、売り急ぐ動きは見られません。むしろ価格が上がる局面で「買える時に買う」というスタンスが取られる傾向にあり、結果として高額帯の成約は底堅く推移しているのです。
2億円以上5億円未満:中間高級帯の減速
グラフ3:東京都2億円以上5億円未満の中古マンション成約件数推移

一方で、2億円以上5億円未満の価格帯は、高い水準にあるもののここ1年ほどで成約件数の伸びが減退しています。
この層は、いわば「富裕層と高給与層の中間」に位置し、企業オーナーや役員クラス、上場企業の幹部などが中心です。しかし、マンション価格が上昇しすぎたことで、彼らの購買意欲が相対的に抑制されています。
理由の一つは、「価格に見合う面積・クオリティの物件が減っていること」です。
2億〜3億円という価格であっても、立地がやや外れると100㎡を超える物件は減少傾向にあり、逆に都心一等地では80㎡前後でこの価格帯に達してしまうケースも多く見られます。価格と満足度のバランスが崩れ、結果的に「買いたいが納得できる物件がない」状態に陥っているのです。
また、富裕層は価格が上がりすぎると新築や海外不動産に投資先を切り替える傾向があり、この層の流出も成約減の一因と考えられます。
再販市場の変化:撤退と戦略転換の二極化
グラフ4:東京都新規売出数に対する再販物件の割合

次に、買取再販市場の動きを見てみましょう。東京都全体の新規売出数に対する「再販物件(リノベーション再販マンション)」の割合は、2023年末から減少傾向にあります。
これは、買取再販を手掛ける不動産会社にとって「仕入価格が高すぎる」ことが主な原因です。
リフォーム費用・登記費用・仲介手数料などを含めた総コストが上がる中で、十分な利益を確保できる出口価格を設定できず、結果として再販事業から撤退する事業者が増えています。
「売れないリスクを取るより、在庫を減らしてキャッシュを守る」という保守的な戦略が広がっているのです。
再販価格の上昇とその背景
グラフ5:再販物件の平均売出価格推移

一方で、再販物件の販売価格そのものは、2024年中旬頃からむしろ急上昇していました。
これは一見矛盾しているように見えますが、実は再販事業者の戦略が変化していることを示しています。
つまり、「数量を追わず、利益率を重視する方向」へ舵を切ったのです。
特に都心部やブランドエリアでは、「リノベーション済み+立地+管理状態良好」という条件の揃った物件を狙い撃ちし、再販価格を高めに設定しても需要があると判断する事業者が現れました。
この動きは、「高価格帯にまだ需要がある」という確信に基づくものです。
しかし2025年春以降、この上昇トレンドは鈍化し、販売価格は下落に転じています。
これは、高価格帯の需要が一巡し、再販事業者も慎重姿勢に戻ったことを意味します。
在庫滞留のリスクを警戒し、再び「薄利多売」から「選別型少数販売」への再転換が進んでいると見られます。
総括:東京都マンション市場は「二極化」と「適正化」の局面へ
以上の動きを総合すると、東京都の中古マンション市場は「二極化」と「適正化」が同時進行しているといえます。
1. 1億〜2億円帯の高給与層マーケットは依然堅調で、実需としての安定需要を支えている。
2. 5億円以上の富裕層マーケットも資産防衛・投資の観点から安定しており、超高額帯の成約は継続。
3. 2億〜5億円帯の中間層では、価格と内容のミスマッチによって取引が鈍化。
再販市場では、過熱した価格水準に耐えられない中小事業者が撤退しつつ、一部の選別型プレーヤーが高付加価値物件に注力している。
今後、金利上昇がさらに進む場合には、1億円未満のボリュームゾーンでも価格調整が進む可能性があります。しかし、高額帯市場においては「富裕層マネーの滞留」と「都心ブランドエリアの希少性」が引き続き支えとなり、全面的な下落局面には至らないと考えられます。
東京都中古マンション市場は、単なる価格上昇局面を超え、階層別に異なる構造変化を示す新しいステージへと移行しつつあるのです。
筆者プロフィール

福嶋 真司(ふくしましんじ)
マンションリサーチ株式会社
データ事業開発室
不動産データ分析責任者
福嶋総研
代表社員
早稲田大学理工学部卒。大手不動産会社にてマーケティング調査を担当後、
建築設計事務所にて法務・労務を担当。現在はマンションリサーチ株式会社にて不動産市場調査・評価指標の研究・開発等を行う一方で、顧客企業の不動産事業における意思決定等のサポートを行う。また大手メディア・学術機関等にもデータ及び分析結果を提供する。
福嶋総研発信リンク集
https://lit.link/fukushimasouken
メルマガ配信申込フォーム
https://forms.gle/bQizYbozk35QoMJ67
【マンションリサーチ株式会社その他サービスURL】
■全国14万棟 分譲マンション価格相場公開サイト『マンションナビ』
■不動産データクラウド
■ロボ査定
■分譲マンション、土地、戸建てデータ販売
https://mansionresearch.co.jp/re-data/
■マンション購入サービス『MATSUDAKE』
https://matsudake.me/lp_company/
【不動産市場解説動画チャンネル】
https://www.youtube.com/@mansionresearch/videos
【マンションリサーチ株式会社について】
マンションリサーチ株式会社では、 不動産売却一括査定サイトを運営しており、 2011年創業以来「日本全国の中古マンションをほぼ網羅した14万棟のマンションデータ」「約3億件の不動産売出事例データ」及び「不動産売却を志向するユーザー属性の分析データ」の収集してまいりました。 当社ではこれらのデータを基に集客支援・業務効率化支援及び不動産関連データ販売等を行っております。
会社名: マンションリサーチ株式会社
代表取締役社長: 山田力
所在地: 東京都千代田区神田美土代町5-2 第2日成ビル5階
設立年月日: 2011年4月
資本金 : 1億円
すべての画像