建築費高騰時代に見直される「2000年代前半築」マンションの価値

マンションリサーチ株式会社

昨今、都心マンション価格の高騰が止まりません。かつては「郊外ならまだ手が届く」と言われていた東京都23区内のマンションも、いまや70㎡以上で1億円を超えることが珍しくなくなりました。とりわけ都心6区(千代田・中央・港・渋谷・新宿・文京)では、坪単価が1000万円を超える新築物件も珍しくなく、平均的な給与所得者にとって「新築マンション購入」はほぼ非現実的な選択肢になりつつあります。

背景にあるのは、建築費と土地価格の同時高騰です。建設現場では資材の値上がりと人手不足が続き、さらに建設用地の取得コストも上昇。これにより、新築マンションの供給数自体が年々減少傾向にあります。新築物件の「竣工棟数」が右肩下がりを続ける一方で、限られた供給に対して旺盛な購入需要が集中するため、価格は下がるどころか一段と上がりやすい構造になっています。

こうした供給不足が続く中、実需(居住目的)だけでなく、転売や再販を目的とした取得も増加しています。希少性が価格を押し上げ、その価格上昇がさらなる投資需要を呼び込む、まさに「価格が価格を呼ぶ」状況です。

「建築費の物価」を示す建設工事費デフレーターとは?

マンション価格の上昇要因を正しく理解するうえで、注目したい指標が「建設工事費デフレーター」です。

これは、建物を建てるために必要な費用の物価変動を数値化したもので、平たく言えば「建築費のインフレ率」を示すものです。コンクリートや鉄筋といった資材費、職人や監督の人件費、そして施工にかかる工事費など、マンション建設のあらゆるコストを総合的に反映しています。

たとえば、同じ規模・同じ仕様のマンションを建てる場合でも、デフレーターが上昇していれば、それだけ建築費が膨らんでいることを意味します。結果として販売価格も上がりやすく、いわば「建設コストの物価指数」が高いときほど、マンション価格の上昇圧力が強まる傾向にあります。

逆に、デフレーターが低下していた時期は、資材・人件費が抑えられていたため、デベロッパーがより質の高い仕様を採用しやすく、「価格のわりにグレードの高いマンションが多く誕生した時期」ともいえます。

デフレーターから見る「建築費の安い時代」

 グラフ1:建設工事デフレーターの推移

 出典:国土交通省

国土交通省が四半期ごとに公表しているデータを振り返ると、2000年以降の建設工事費デフレーターはリーマンショック後の2009〜2010年頃に一時的な下落を見せたものの、全体としては右肩上がりのトレンドを描いています。とりわけ2013年以降はアベノミクスによる景気刺激、東京オリンピック関連の建設需要、さらには人件費高騰などが重なり、上昇ペースが加速しました。近年では新型コロナ禍を経て、世界的な資材価格上昇や円安の影響もあり、建築費は過去最高水準に達しています。

その中で注目すべきは、2002〜2005年ごろの時期です。

この時期の建設工事費デフレーターは、観測期間の中でも最も低い水準で推移しており、まさに「建築費が安い時代」でした。建材価格が安く、職人の確保も比較的容易であったため、デベロッパーはコストに余裕を持ちながら、仕様や共用部デザインに力を入れられたのです。

「建築費が安く、競争が激しかった」=良質マンションが多い時期

グラフ2:東京都23区新築マンション竣工棟数推移

出典:福嶋総研

同時期、分譲マンションの竣工棟数も非常に多くなっていました。

2000年前後をピークに、2004年頃までは全国的に供給が活発で、都心部・湾岸部でも次々と大規模プロジェクトが進行しました。これは、建築費の低さに加え、地価もまだ抑えられていたことが要因です。

マンション建設は一般的に「請負契約」によって行われてきました。これは、デベロッパーが施工会社に工事を発注し、契約時点で金額を固定する契約形態です。竣工までには通常2〜3年を要するため、たとえば2005年に完成したマンションは、2002〜2003年ごろの建築費水準を反映しています。つまり、建設工事費デフレーターが最も低かった時期に契約された物件が、2004〜2007年あたりにかけて完成しているのです。

グラフ3:建設工事費デフレーターと23区築年帯別坪単価の推移

出典:福嶋総研が国土交通省のデータを参照して作成

これを踏まえると、「2002〜2007年築」のマンションは、建築コストに対して品質が高く、最もコストパフォーマンスに優れた時期の産物であると考えられます。実際、この時期には「設計・施工・素材・デザイン」にこだわった名作マンションが数多く誕生しました。いま市場で人気が高い築20年前後の物件の多くが、このタイミングで竣工しているのは決して偶然ではありません。

中古市場で見える“2000年代前半築”の強さ

グラフ4:建設工事費デフレーターと23区築年帯別坪単価の推移

出典:福嶋総研が国土交通省のデータを参照して作成

さらに興味深いのが、中古市場における築年別の価格動向です。

東京都23区で2019〜2020年に取引された中古マンションを築年ごとに見ると、2003〜2005年築の物件が特に高い平均坪単価を示していることが分かります。築浅(2010年以降)よりも価格水準はやや下がるものの、築20年前後の物件としては明らかに頭ひとつ抜けた評価を受けています。

理由は複合的です。

まず、当時の建築コストの安さが生んだ高品質なつくり。外壁タイル、二重床・二重天井、ゆとりある共用空間など、現在の新築では採用しづらい仕様が多く見られます。

次に、立地の良さ。この時期は再開発が始まる直前の都心・湾岸エリアでも土地取得が容易だったため、いまでは手に入らない好立地に建つマンションも少なくありません。

また、2000年代前半のデベロッパーは、販売競争が激しく差別化が求められたため、設計・設備・デザイン面で各社がしのぎを削っていました。

いまのように「建築費が高いからグレードを落とす」のではなく、「コストが安いからこそ仕様を高められた」時代だったのです。

なぜ「築20年前後」がいま再評価されているのか

2020年代に入り、リノベーション技術の進化や長期修繕計画の整備が進んだことで、「築20年前後でも安心して住める」マンションが増えています。構造体の耐久性に問題がなければ、内装や設備を更新することで、新築同様の快適さを得られるのが中古市場の強みです。

さらに、管理状態が良好で修繕積立金が適正に運用されているマンションは、築年が経っても資産価値が落ちにくい傾向にあります。特に2003〜2005年築のマンションは、建築コストが安く質が高く、立地も良く、かつ築年もまだ許容範囲という“バランスの良さ”から、今後も需要が続くとみられます。

まとめ:建築費の安い時代に建てられたマンションは「資産性の宝庫」

マンションの資産価値は、立地・広さ・管理状況といった基本要素に加え、「建てられた時代の建築コスト水準」という観点からも評価すべきです。

建築費が安い時期に竣工したマンションは、同じ販売価格でもより高い品質を実現できており、その“つくりの良さ”が中古市場で再評価される大きな要因となっています。

特に、2002〜2007年築のマンションは、

・建設工事費デフレーターが最も低水準

・建設競争が活発で高グレード物件が多い

・立地の良い土地がまだ取得できた

という三拍子が揃った黄金期の産物です。

今後、建築費が下がる見込みは乏しく、土地の供給も限られている以上、新築価格は高止まりが続くと見られます。その中で、「質」と「価格」のバランスが取れた中古マンションを見極めることが、今後の住宅購入戦略の鍵となるでしょう。

つまり、「2000年代前半築の良質マンションを見直すこと」は、

これからの東京の住宅市場において最も現実的で賢い選択のひとつなのです。

筆者プロフィール

福嶋 真司(ふくしましんじ)

マンションリサーチ株式会社

データ事業開発室 

不動産データ分析責任者

福嶋総研

代表研究員

早稲田大学理工学部卒。大手不動産会社にてマーケティング調査を担当後、

建築設計事務所にて法務・労務を担当。現在はマンションリサーチ株式会社にて不動産市場調査・評価指標の研究・開発等を行う一方で、顧客企業の不動産事業における意思決定等のサポートを行う。また大手メディア・学術機関等にもデータ及び分析結果を提供する。

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会社名: マンションリサーチ株式会社

代表取締役社長: 山田力

所在地: 東京都千代田区神田美土代町5-2 第2日成ビル5階

設立年月日: 2011年4月

資本金 : 1億円

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本社所在地
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代表者名
山田 力
上場
未上場
資本金
1億円
設立
2011年04月