◆関西大学と関西医科大学の研究チームが、魚を食べることによる健康効果を科学的に実証◆ 魚由来タンパク質の摂取は加齢に伴う短期記憶低下を予防 ~腸内環境を整え、脳の炎症を抑制する~
このたび、学校法人関西大学(大阪府吹田市 理事長・芝井敬司、学長・高橋智幸)化学生命工学部・細見亮太教授・福永健治教授らと学校法人関西医科大学(大阪府枚方市 理事長・山下敏夫、学長・木梨達雄)医学部・衛生・公衆衛生学講座・村上由希講師との研究チームは、魚由来タンパク質の摂取が加齢に伴う短期記憶の低下を予防する効果についての研究成果を発表しました。
【本件のポイント】
・魚由来タンパク質の摂取は、短期記憶低下を予防する
・魚由来タンパク質の摂取は、腸内環境を改善する
・脳での炎症が抑制され、神経細胞の構造損傷を軽減する
本研究は、食事中のタンパク質源が腸内細菌のバランスを整え、加齢による認知機能の低下を防ぐ効果的な方法になり得ることを科学的に示しました。なお、本研究をまとめた論文が『Scientific Reports』(インパクトファクター:3.9)に2月13日(金)に掲載されました。

■ 研究背景
これまでの大規模なコホート研究【※注1】で日本食や地中海食を中心とした食生活が、認知症の発症リスクを下げることが分かってきました。特に日本食の中でも、魚をたくさん食べる人ほど認知症になりにくいことが明らかになっています。
魚が認知症予防によいのは、ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)といった「オメガ3系脂肪酸」という成分によるものと考えられてきました。この成分には血液をサラサラにしたり、血管の健康を守る効果があることはよく知られています。脳機能に対する有益な効果も報告されていますが、魚を摂取した際にみられる脳機能への効果がDHA・EPAだけで説明できるかはまだ明らかではありません。そこで本研究チームは、魚に含まれる脂肪酸だけでなく、主要栄養素の一つである「タンパク質」にも注目。これまでの動物実験では、脂肪酸よりもタンパク質摂取による短期記憶低下の予防効果が高いことを明らかにしてきましたが、魚タンパク質の摂取がどのように脳機能維持に関わっているのかは明らかになっていませんでした。
一方で、近年の研究から加齢に伴って腸内環境が悪化することで腸バリア機能が低下し、体全体に起こる炎症が老化に関係していることが注目されています。また体の炎症が脳にも炎症を引き起こし、認知機能の低下につながる可能性があることが分かってきています。
このことから、魚タンパク質の摂取が腸の機能にどのような影響を与えるのかを明らかにすることで、脳機能維持の仕組みが分かると考えました。
■ 研究の内容・成果
本研究では、老化が早く進むマウス(Senescence-Accelerated Mouse Prone8; SAMP8【※注2】と正常老化を示すマウス(Senescence-Accelerated Mouse Resistant; SAMR1)にスケトウダラ由来のタンパク質(Alaska Pollock protein; APP)を含んだ餌を5カ月間給餌し、Y字型迷路試験【※注3】によって短期記憶を評価しました。また腸内 環境を調べるために、糞便中に含まれる腸内細菌叢【※注4】の解析を行いました。さらに脳における炎症を調べるために、記憶に重要な海馬【※注5】における炎症関連細胞の組織染色を行いました。
Y字型迷路試験の結果、APPを食べたSAMP8マウスでは対照食を食べたSAMP8マウスに比べて、短期記憶が維持されていることが分かりました。またAPPを摂取したSAMP8マウスで腸内細菌叢が変化し、対照食を摂取 した群では、中枢神経の炎症を促進することが報告されているErysipelotrichaceae科【※注6】が有意でしたが、SAMP8+APP群では酪酸産生菌であるLachnospiraceae科【※注7】が有意になっていることがわかりました。また肝臓でのリポ多糖結合タンパク質 (LBP)【※注8】の遺伝子発現量が有意に低下していました。さらに脳での免疫組織染色を行った結果、脳で炎症に反応して活性化するミクログリアやアストロサイトの陽性反応がAPP摂取によってSAMP8マウスで有意に下がっていました。
以上より、老化促進マウスSAMP8において、魚タンパク質摂取は短期記憶の低下を予防しました。この仕組みには、「腸と脳の関連(脳腸相関)」による効果が関係していることが示されました。具体的には腸内環境を整え、脳における炎症を抑制することで、神経細胞の構造損傷を軽減し、老化に伴う短期記憶低下を予防している可能性を示しました。

(左) 交替行動率。連続でどれだけ違うアームに進入したのかを示す。
APPを摂取したSAMP8マウスでは、短期記憶の低下が有意に予防された。
(右) マウスが迷路内をたどった軌跡。
APP摂食SAMP8マウスは3つのアーム内を均等に移動したことが分かる。
■ 社会的な意義・今後の展望
本研究は、魚を食べることの健康効果について科学的根拠を示すものです。また、日本人にとって重要なタンパク質源の一つである魚の摂取が腸内細菌のバランスを整え、腸管バリア機能を高めることで、加齢による認知機能の低下を防ぐ仕組みの一端を明らかにしました。
■ 用語解説
注1 大勢の人を長期間追跡して、生活習慣などの様々な要因と疾患の関係を調べる研究方法
注2 通常のマウスよりも早く老化する特殊なマウスで、認知症研究によく使われる実験動物
注3 Y字型の迷路で、マウスは3つのアーム内を自由に移動できる。「さっきどこのアームに行ったのか」という短期記憶を調べる方法
注4 腸内に棲んでいる細菌が菌種ごとに塊となって腸壁に隙間なく張り付いている状態、腸内フローラ(お花畑)とも呼ばれている
注5 脳の奥にある新しい記憶を作る領域
注6 どちらかといえば悪玉寄りの日和見菌【※注9】。脂質の多い食事を摂取したマウスでは増加し、肥満や炎症性疾患との関連が報告されている
注7 どちらかといえば善玉寄りの日和見菌。健康な成人の腸内細菌の10〜45%程度を占める主要なグループで、腸のバリア機能を守る働きがある
注8 肝臓で作られる「細菌警報センサー」のようなもの
注9 腸内環境が整っている(善玉菌優位)時は無害だが、免疫力低下や悪玉菌の増加により、腸内の環境が悪い方へ加担して体に悪影響を及ぼす特徴的な腸内細菌
■ 論文情報
論文名: Fish (Alaska Pollock) protein intake attenuates age-related short term memory decline through gut microbiota modulation
著者名: Yuki Murakami, Ryota Hosomi, Genki Tanaka, Hirokazu Murakami, Ayaka Kanto, Takahiro Kimura, Yukio Imamura, Munehiro Yoshida, Kenji Fukunaga
掲載雑誌名: 『Scientific Reports』
公表日: 2026年2月13日
DOI: doi.org/10.1038/s41598-026-38717-y
URL: https://www.nature.com/articles/s41598-026-38717-y
▼本件の詳細▼
関西大学プレスリリース
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