【岡山大学】ゲノム編集技術によってオオムギの種子休眠の長さを調節することに成功!~ビール醸造に適した穂発芽に強いオオムギの開発に期待~

国立大学法人岡山大学

2021(令和3)年 10月 3日
国立大学法人岡山大学
https://www.okayama-u.ac.jp/
 

 



<発表のポイント>
  • ゲノム編集技術(CRISPR/Cas9法)により、種子発芽を促進する遺伝子Qsd1およびQsd2が働かない変異オオムギを作成しました。
  • 変異オオムギは野生型(元の品種)に比べて発芽が抑えられるので、種子の休眠が長くなっていることが示されました。
  • 本研究成果は、ビール醸造に適した品種や収穫前に発芽してしまう「穂発芽(ほはつが)」に強い品種の開発に貢献します。


◆概 要
 国立大学法人岡山大学(本部:岡山市北区、学長:槇野博史)の資源植物科学研究所(IPSR)の久野裕准教授、農研機構(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)およびドイツ・ライプニッツ植物遺伝作物学研究所の国際共同研究グループは、ゲノム編集技術CRISPR/Cas9(クリスパー・キャスナイン)法によって種子休眠性遺伝子への変異導入に成功し、種子休眠が長くなったオオムギを開発しました。

 これらの成果は、2021年8月29日、英国の植物バイオテクノロジー専門誌「Plant Biotechnology Journal」のResearch Articleとしてオンラインで早期公開されました。

 ビールやウイスキーの原料となる醸造用オオムギは、種子休眠が短く一斉に発芽する品種が選ばれてきました。一方で、日本などの収穫期に雨の多い地域では、休眠が短い品種が収穫前に発芽してしまう「穂発芽」が発生し、品質低下などの農業被害が出てしまいます。

 オオムギの生産や醸造業にとって、種子休眠のバランスは非常に重要です。本研究成果によって、ゲノム編集技術を活用してオオムギの種子休眠の長さを調節する可能性が示され、穂発芽に強く醸造にも適した品種の開発が期待されます。
 

図1.ゲノム編集技術によりQsd1およびQsd2に導入された変異の種類の例
「野生型」は元の品種のDNA配列(太字)、「変異1~3」はゲノム編集技術によって作成された変異体のDNA配列で、赤で示した文字は塩基の挿入(T:チミン, A:アデニン)または塩基の欠失(-)を示しています。DNA分子はT, AのほかにG:グアニンとC:シトシンによって構成されています。
 

図2.野生型オオムギ(左)およびゲノム編集オオムギ(右)の発芽試験の様子
野生型オオムギはほぼ発芽していますが、ゲノム編集オオムギは全く発芽していません。すなわち、ゲノム編集オオムギは休眠が長くなっていることを示しています(写真は吸水から7日目の様子)。
 

図3.野生型オオムギおよびゲノム編集オオムギ(変異体)の4℃での発芽率の推移
発芽率が高いほど休眠が短いことを示しています。野生型(青と水色)は吸水後10日目でほぼ100%発芽していますが、変異体はどれも発芽が遅れており、休眠が長くなっていることが判ります。特にQsd2の機能を失った変異オオムギ(qsd2)は最も発芽が遅くなりました。
 

図4.野生型オオムギおよびゲノム編集オオムギを用いた穂発芽試験の様子
野生型オオムギは容易に発芽しますが、ゲノム編集オオムギ(変異体)はいずれも発芽しませんでした(写真は湿らせた土の上に置いて11日目の様子)。


◆久野裕准教授からのひとこと
 国内で初めてオオムギのゲノム編集に成功しました。最初は失敗続きで心も折れそうになりましたが、研究支援員、共同研究者そして様々な研究費によって長年支えて頂きました。この場を借りて感謝申しあげます。
 研究室では大学院生を募集しています。岡山大植物研(倉敷)は、研究するには最適の場所です。私たちと一緒に研究しませんか?

久野裕 准教授久野裕 准教授


◆論文情報
 論 文 名:Regulation of germination by targeted mutagenesis of grain dormancy genes in barley
 掲 載 紙:Plant Biotechnology Journal
 著  者:Hiroshi Hisano1(責任著者), Robert E. Hoffie 2, Fumitaka Abe3, Hiromi Munemori1, Takakazu Matsuura1, Masaki Endo4, Masafumi Mikami4, Shingo Nakamura3, Jochen Kumlehn 2, Kazuhiro Sato1
     1 Institute of Plant Science and Resources, Okayama University, Japan (岡山大学資源植物科学研究所)
     2 Leibniz Institute of Plant Genetics and Crop Plant Research (IPK), Germany (ドイツ・ライプニッツ植物遺伝作物研究所)
     3 Institute of Crop Science, NARO, Japan (農研機構・作物研究部門)
     4 Institute of Agrobiological Sciences, NARO, Japan (農研機構・生物機能利用研究部門)
 D O I:10.1111/pbi.13692
 U R L:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/pbi.13692


◆詳しいプレスリリースについて
 ゲノム編集技術によってオオムギの種子休眠の長さを調節することに成功!~ビール醸造に適した穂発芽に強いオオムギの開発に期待~
 https://www.okayama-u.ac.jp/up_load_files/press_r3/press20210929-2.pdf


◆参考情報
・岡山大学資源植物科学研究所(IPSR)
 https://www.rib.okayama-u.ac.jp/
・岡山大学資源植物科学研究所ゲノム多様性グループ
 https://www.rib.okayama-u.ac.jp/barley/index.sjis.html
 

岡山大学資源植物科学研究所(倉敷市)岡山大学資源植物科学研究所(倉敷市)


◆本件お問い合わせ先
 岡山大学資源植物科学研究所 准教授 久野 裕
 〒710-0046 岡山県倉敷市中央2-20-1
 TEL:086-434-1243
 FAX:086-434-1243
 https://www.rib.okayama-u.ac.jp/barley/index.sjis.html

<岡山大学の産学連携などに関するお問い合わせ先>
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 〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中1-1-1 岡山大学津島キャンパス 本部棟1階
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未上場
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設立
1949年05月