【岡山大学】生き急ぐか? ゆっくり生きるか?~特殊害虫ミバエで実証した生物の分布を変える生き方の速さ~

2025(令和7)年 10月 12日
国立大学法人岡山大学
<発表のポイント>
-
生物の分布や発育の速さを決める指標として発育ゼロ点と有効積算温度は主に病害虫防除の重要な指標とされてきました。これは変温動物である昆虫などを異なる温度のもとで飼育し成長を比べることで、病害虫がどこまで分布を広げるのか、あるいはいつどこで害虫が発生するのかを見極める指標として、病害虫管理に欠かせない指標です。
-
これらの指標は従来は種ごとに固有と考えられてきましたが、遺伝的差異により集団内でも変動がみられることはわかっていました。しかし、これらの指標がどのような選択圧によって形成されるのかは研究が進んでいませんでした。
-
本研究では、特殊害虫に指定されたウリミバエ Zeugodacus cucurbitae の生活史形質に対する人為選択が進化的変化を引き起こすことで、これらの指標も世代を経て変化することを初めて示しました。生き方の速さ(=発育速度)と繁殖する齢に選択がかかると生物の分布域が拡大する、言い換えると進化によって変わる生物の分布を決める指標を見つけた研究です。
◆概 要
国立大学法人岡山大学(本部:岡山市北区、学長:那須保友)の学術研究院環境生命自然科学学域(農)の宮竹貴久教授は、東京大学 総合文化研究科 広域科学専攻 広域システム科学系の松村健太郎助教とともに、日本ではすでに根絶され、特殊害虫に指定されているウリミバエを材料として、発育期間の長短と、繁殖開始齢のタイミングに人為的に選抜をかけた系統から卵を採集して、5つの異なる温度で幼虫期間と発育期間を測定しました。
その結果、幼虫期間の発育ゼロ点と発育期間の有効積算温度は発育期間の長い集団と短い集団で有意な違いが見られました。
また繁殖するタイミングが異なる集団間でも有効積算温度に有意な差がありました。生活史形質に選択圧が働くと、世代の経過とともにこれらの指標が変化することを初めて実証できました。
この研究成果は、2025年10月6日午後1時(日本時間)、Wileyのオランダ国際昆虫学会誌「Entomologia Experimentalis et Applicata」にオンライン掲載されました。

◆宮竹貴久教授からのコメント
近年、地球温暖化による気流の変化やインバウンドによって、これまで日本に生息していなかった外来生物が次々と我が国に上陸し、農業と生態系への影響が大きくなっています。海外からやってきた生物がどこまで生息域を広げるのか、いつ発生するのかを予察するために、スマート化・効率化だけではなく、今回のような人手のかかる地道なデータを取得することも大切です。

◆論文情報
論文名:Artificial selections for life history traits affect effective cumulative temperature and developmental zero point in Zeugoducus cucurbitae
邦題名「生活史形質に対する人為選抜は、ウリミバエ Zeugodacus cucurbitae における有効積算温度および発育ゼロ点に影響を及ぼす」
掲載誌:Entomologia Experimentalis et Applicata
著 者:Takahisa Miyatake, Kentarou Matsumura
D O I:10.1111/eea.70019
U R L:https://doi.org/10.1111/eea.70019
◆研究資金
本研究はJSPS科研費JP25K09771の助成を受けたものです。
◆詳しい研究内容について
生き急ぐか? ゆっくり生きるか?~特殊害虫ミバエで実証した生物の分布を変える生き方の速さ~
https://www.okayama-u.ac.jp/up_load_files/press_r7/press20251006-1.pdf
◆参 考
・岡山大学 学術研究院 環境生命科学学域 昆虫生態学研究室(宮竹貴久教授)
https://sites.google.com/view/miyatake/home
・岡山大学農学部
https://www.okayama-u.ac.jp/user/agr/index.html
◆参考情報1
・昆虫の細菌感染密度に季節性 世界に先駆けて発見
https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id459.html
・“逃げるは恥”ではない!? 戦闘で負けた後に4日間逃げ続ける昆虫について動物の行動様式の進化を数理モデルで解析
https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id437.html
・LEDと性フェロモンを用いた環境・生産に負荷の少ない新型の害虫誘殺トラップを開発
https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id419.html
・ウォーキング・ブームが少子化を招く?~昆虫からの示唆~
https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id561.html
・死んだふりを制御する遺伝子群を世界に先駆けて発見!~ファーブルも注目した死にまねの仕組みを解明~
https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id669.html
・歩かない虫のオスは、より多くの子の父となる!~より歩かないオスのほうがメスをめぐる競争に勝つ~
https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id638.html
・大きな大顎を持つオスは死んだふりをしやすい?甲虫を用いた検証により世界で初めて明らかに
https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id802.html
・コーヒーは虫のオスにとって精力剤なのか~カフェインを飲んだオスは、求愛にせっかちになる!~
https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id774.html
・体内時計のリズムの振幅は北に行くほど小さくなる!昆虫を使った実証で発見
https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id806.html
・世界初! 天敵から逃れる戦略を制御するゲノムの特徴を解明 ~死んだふりを操る遺伝子の全貌を突き止めた~
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000337.000072793.html
・食われる側も工夫する:異なる天敵には違う捕食回避戦略を使う甲虫~フリーズか、それとも死を装うのか?~
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000497.000072793.html
・虫の求愛にもご当地の流儀があった!~婚姻贈呈に見られた地域差~
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000721.000072793.html
・死んだふりに見られた緯度クライン ~北の虫は死んだふりをよく行う~
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001335.000072793.html
・いつ、死んだふりから目覚めるべきか ~覚醒を早める集合フェロモンの存在を世界に先駆けて発見!~
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001663.000072793.html
・サツマイモの大害虫イモゾウムシはイモ苗のある場所に固執する ~環境にやさしい害虫根絶に役立つ世界初の発見!~
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000002023.000072793.html
・死んだふりしている場合じゃない!~オスは異性のフェロモンにより死んだふりから覚醒する事を世界で初めて発見!~〔琉球大学、岡山大学〕
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000002262.000072793.html
・雄間闘争で脚を噛まれて負けた甲虫のオスは、交尾のときに踏ん張れない~ライバルに脚を噛まれたオスは残せる子の数が減る!~
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000002371.000072793.html
・カフェインの殺虫効果を実証~飲んだ昆虫は死ぬ~
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000002929.000072793.html
・闘争の代償は精子の量~負けても戦いすぎてもオスはメスに精子を渡せなくなる~
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000003200.000072793.html
・捕食者との同居は死んだふりを長くする~5世代で見られた迅速な進化反応~
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000003263.000072793.html
◆参考情報2
・岡山大学広報「いちょう並木」 Vol.107を発行~ファーブルを超えて 世紀の発見を生む「昆虫博士」~
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000002742.000072793.html
・【岡山大学】宮竹貴久教授が「2025年度日本農学賞・読売農学賞」を受賞
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000003048.000072793.html


◆本件お問い合わせ先
岡山大学 学術研究院 環境生命自然科学学域(農) 教授 宮竹貴久
〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中1-1-1 岡山大学津島キャンパス
TEL:086-251-8339
FAX:086-251-8388
https://sites.google.com/view/miyatake/home
https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id1444.html
<岡山大学病院との連携等に関する件(医療関係者・研究者の方)>
岡山大学病院 研究推進課 産学官連携推進担当
〒700-8558 岡山県岡山市北区鹿田町2-5-1
TEL:086-235-7983
E-mail:ouh-csnw◎adm.okayama-u.ac.jp
※ ◎を@に置き換えて下さい
http://shin-iryo.hospital.okayama-u.ac.jp/medical/
<岡山大学の産学官連携などに関するお問い合わせ先>
岡山大学研究・イノベーション共創機構 産学官連携本部
〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中1-1-1 岡山大学津島キャンパス 本部棟1階
TEL:086-251-8463
E-mail:sangaku◎okayama-u.ac.jp
※ ◎を@に置き換えて下さい
https://www.orsd.okayama-u.ac.jp/
<岡山大学の研究機器共用(コアファシリティ)などに関するお問い合わせ先>
岡山大学研究機器の共用の体制・整備等の強化促進に関するタスクフォース(略称:チーム共用)
〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中1-1-1 岡山大学津島キャンパス 本部棟1階
TEL:086-251-8705
FAX:086-251-7114
E-mail:cfp◎okayama-u.ac.jp
※ ◎を@に置き換えて下さい
https://corefacility-potal.fsp.okayama-u.ac.jp/
<岡山大学のスタートアップ・ベンチャーなどに関するお問い合わせ先>
岡山大学研究・イノベーション共創機構 スタートアップ・ベンチャー創出本部
〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中1-1-1 岡山大学津島キャンパス 本部棟1階
E-mail:start-up1◎adm.okayama-u.ac.jp
※ ◎を@に置き換えて下さい
https://venture.okayama-u.ac.jp/
岡山大学メディア「OTD」(アプリ):https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000011.000072793.html
岡山大学メディア「OTD」(ウェブ):https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000215.000072793.html
岡山大学オリジナルグッズ Online Shop:https://okadaigoods.official.ec/
岡山大学統合報告書2024:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000002801.000072793.html
岡山大学SDGsホームページ:https://sdgs.okayama-u.ac.jp/
岡山大学SDGs~地域社会の持続可能性を考える(YouTube):https://youtu.be/Qdqjy4mw4ik
岡山大学Image Movie (YouTube):https://youtu.be/pKMHm4XJLtw
岡山大学地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS):https://j-peaks.orsd.okayama-u.ac.jp/
産学共創活動「岡山大学オープンイノベーションチャレンジ」2025年10月期共創活動パートナー募集中:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000003423.000072793.html


国立大学法人岡山大学は、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」を支援しています。また、政府の第1回「ジャパンSDGsアワード」特別賞を受賞しています。地域中核・特色ある研究大学として共育共創を進める岡山大学にご期待ください
-
岡山大学 文部科学省「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」に採択~地域と地球の未来を共創し、世界の革新の中核となる研究大学:岡山大学の実現を加速とともに世界に誇れる我が国の研究大学の山脈を築く~

すべての画像