かつてのように尾瀬に咲き誇る水芭蕉の原風景を取り戻したいという想いで、永井酒造が新たに取り組みをスタートした「尾瀬の水芭蕉再生プロジェクト～心に花を咲かせましょう～」。

昨年9月、新しい価値観の日本酒「MIZUBASHO Artist Series〜水芭蕉アーティストシリーズ〜」の発売と同時に創設したプロジェクトに、売り上げの5%を寄付して水芭蕉を復活させるための活動に取り組んでいます。このプロジェクトについての想いを、永井酒造株式会社の代表取締役社長であり6代目当主の永井則吉(以下N)と、取締役でありMIZUBASHO Artist Series プロジェクト・ディレクターの永井松美(以下M)が語ります。

尾瀬に咲く花、水芭蕉から命名した永井酒造のメインブランド

N: 永井酒造のメインブランドである「水芭蕉」の名は、もともと尾瀬に咲く花、水芭蕉から取っています。商標については昔から持っていましたが、私の当時の記憶では、その名がついた商品は、尾瀬の山小屋でお土産として売られている大衆的なイメージの日本酒でした。しかし、会社の社運をかけて蔵を建て替え、酒造りから商品展開まですべてを大きく180度方向転換をした際に、新たな水芭蕉ブランドとして生まれ変わらせます。1992年のことでした。以来、今のような永井酒造の主力商品となります。

尾瀬についても、なんとなく聞いたことがあり、だいたいの場所がわかっている程度で、詳しく知っている方は少ないのではないでしょうか。私は群馬県のなかでも尾瀬をキーワードに、酒造りと米作りを行っています。尾瀬にほど近い田園風景が広がる環境で、自然を意識した酒造りです。我々の日本酒は人が手をかけて造るのではなく、自然の美しさや恵みを積み上げて出来上がったものだと考えています。

N:自然界にも、酒造りにもその中心には「良質な水」の存在が欠かせず、そこには深い繋がりがあります。

永井酒造は、初代当主が群馬県川場村に流れる水に惚れ込んで日本酒を造り始めた歴史を持つ酒蔵です。何代にもわたり守り続けてきた水を仕込み水に使い、水の味が日本酒の骨格を形成しているといっても過言ではありません。その水源を守るために、東京ドーム10個分にあたる裏山の森林を保有しています。自然を守り続けることで、日本酒の味を次の世代へと継承し続けてきました。だからこそ、永井酒造で作られる日本酒は、自然から生まれた日本酒だと言えるのです。

地球温暖化の影響による水芭蕉の激減とプロジェクトの創設

N: 自然豊かで美しい原風景が広がり、そして裏山には日本酒に適した上質な水の源泉があり、初代から酒造りの地として拠点を構えた川場村は、自然を身近に感じることができる非常に恵まれた環境にあります。

同じように群馬が誇る尾瀬の大自然も身近に感じる距離にあり、尾瀬国立公園は私が幼少期から30回以上訪れている思い出の地でもあります。そのため、毎年5月中旬から6月中旬にかけて、たくさんの水芭蕉が咲き誇るのを見てきました。ところが、3年前のことです。大切なお客様を連れて久しぶりに尾瀬を訪れた際、例年であれば咲き誇っているはずの水芭蕉がなくなっていたのです。その時のショックは非常に大きいものでした。

かつて、尾瀬国立公園の表玄関とされる大清水湿原には2万株の水芭蕉がありました。しかしそれらの水芭蕉がほぼ壊滅に近い状態となってしまっていました。調べてみると、地球温暖化の影響によって、雪が解け、山にいた鹿が湿原まで降りられるようになったため、水芭蕉の芽を食べてしまったからということが分かりました。

N: 2018 年から、村が柵を作って鹿が入らないようにするなどの対策を始めており、私は尾瀬の自然を守ろうという村の姿勢に感動しました。あまりよく知られていないと思いますが、水芭蕉は4分の1が根付かず、また種から育てて開花するまで、3 年という長い時間をかけて育つ植物です。私たちは、水芭蕉再生に対して持続可能な取り組みができないかと考えました。ちょうどその頃、日本で唯一、自然環境科がある群馬県立尾瀬高等高校が水芭蕉を育てている事を知りました。そこで、ともに尾瀬の水芭蕉を復活させることを提案し、プロジェクトを立ち上げることになりました。

M: そして昨年、新しい日本酒「MIZUBASHO Artist Series〜水芭蕉アーティストシリーズ〜」の発売に併せて、尾瀬の環境問題に取り組むための「尾瀬の水芭蕉再生プロジェクト～心に花を咲かせましょう～」を創設しました。このシリーズの売り上げの5%をプロジェクト資金として寄付しています。ボトルのラベルには、プロジェクトに賛同いただいた片岡鶴太郎氏が手がけた水芭蕉の絵をあしらいました。

▲左から スパークリング酒（食前酒）、スティル酒（食中酒）、デザート酒（食後酒） 

M:永井酒造として何ができるかを考え、継続して資金が募れるような仕組みを新商品の発売とともに構築しました。昨年の寄付金は、苗目を作ったり、ポットを植え替えたり、根付くまでの3年間に必要な資材の購入に使われました。また、今年の6月上旬には、初めて尾瀬高等学校の生徒たちと関係者が一堂に集まり、一緒に作業を行う試みを実施しました。花から採った種を小さなポットに1つずつ入れ、1年後に成長したら一回り大きなポットに移し替えていく、という地道な作業です。

私たちは、単に寄付して終わるのではなく、その活用先も見えて、ともに活動できるスタイルを目指しています。

「尾瀬の水芭蕉プロジェクト」は永井酒造株式会社、東京パワーテクノロジー株式会社、三条印刷株式会社の３社がチームを組んで取り組んでおります。

目標は2030年までに2万株

M: このプロジェクトはまだスタートしたばかりですが、新しい知創造の機会を作りたいと思っています。

また、今後は次世代教育の一環として、子供たちにも伝えていきたいです。私たちの世代だけでなく、次世代の子供たちが自然を守っていくことを自覚して欲しいと願っています。

当面の目標は1万株を育てることです。現在、この活動を始めてから定着した水芭蕉がようやく2000株に達しました。毎年続けて植え足していきながら、2030年までに2万株以上の水芭蕉を咲き誇らせることを目標としています。

その為には、とにかく持続的な活動が重要であり、このプロジェクトへ共感してくれる人を増やし、どれだけ仲間を集めることができるかが鍵となってきます。永井酒造が旗を振り行動を起こすことで、共感する仲間を集めてムーブメントを作りたいです。

種を植え、苗を育て、自然と触れ合うことは精神的に良い影響をもたらす行為だと思います。今は大勢で集まることが難しいですが、世の中が落ち着いたらぜひご家族やまたは企業単位で社員教育の一貫として、この活動に参加していただきたいです。

▲(左から)三条印刷株式会社　代表取締役　渋谷政道様、永井酒造株式会社 代表取締役社長　永井則吉, 東京パワーテクノロジー株式会社　尾瀬林業事業所長 小暮義隆様

国際環境デーに合わせて独自で決めた環境月間と今後の取り組み

M: 国連が定めた6月5日の国際環境デーがありますが、今年から永井酒造では独自の環境月間を6月と7月の2か月間で設定しました。永井酒造がある川場村周辺は自然豊かな田園風景が広がり、上質な水が流れる水源がある森林がすぐ裏にあり、とても恵まれた環境にいると自覚しています。今まで当たり前のように過ごしていましたが、この恵みに感謝し、何か恩返しができないか、という想いからこのプロジェクトはスタートしました。会社全体で、社員一人一人が環境について考え、できることから実践していこう、という取り組みです。

水芭蕉が激減した現状を知り、自然保護プロジェクトを立ち上げて活動していく中で、自分自身も大きく考え方が変わったと感じています。

N: これらの活動は永井酒造が代々受け継いでいる酒造りの姿勢とも繋がっています。個性で勝負するものではなく、自然から得た素材を大切にした日本酒を造り続けているからです。

酒蔵としては珍しい自然に恵まれた環境を大切に受け止め、3年前からはお米作りにも挑戦しています。亡くなった父が村長を勤めていた約30年前に、里山の原風景を残し続けようと景観条例を作りました。その中のひとつに田んぼを勝手につぶさず残すための規定もありました。しかしながら、昨今は高齢化が進み農業従事者が減り続け、田んぼを維持していくのは容易なことではありません。そこで少しずつですが米作りを初めて、地元で作った食用米を使った日本酒造りも始めるようになったのです。

そして、このような地元への想いと行動から自然と生まれた次のステップが、水芭蕉プロジェクトでした。

村長だった父は政治家として常に30年先を見ていました。ヨーロッパ型の巡回システムを目指し、持続可能な農業プラス観光の村として川場村を育ててきました。私も物心ついた時から父の取り組みを見て、その精神性を感じてきたので、そこを引き継ぎながらこの土地の宝を守っていきたいと考えています。いずれ酒造りだけではなく、米作りも地元の農家に認めてもらえるような規模を目指していきます。

M: そのような永井酒造の持続可能な取組みの一環として、2030年までに尾瀬の大清水湿原に二万株植え付け、原風景を取り戻す目標を掲げました。少々気が遠くなりますがコロナ禍にも関わらずパートナー企業と手を繋ぎ良いスタートをきれた事がとても感慨深いです。そして、これからが持続可能なプロジェクトとしてチャレンジのスタートです。

MIZUBASHO Artist Seriesは気軽に、お洒落に、楽しみながら社会貢献に参加できますので、引き続き尾瀬の環境保全の応援をどうぞお願い致します。

MIZUBASHO Artist Series 公式サイト

https://mizubasho-artist.jp

尾瀬の水芭蕉プロジェクト:

https://mizubasho-artist.jp/japanese/wp-content/uploads/Oze_no_Mizubasho_Project.pdf