【岡山大学】遺伝子・ゲノムの改変で環境変動に適応した高品質なオオムギを作る

国立大学法人岡山大学

岡山大学は10学部・1プログラム、8研究科、4研究所、附属病院、附属学校を有する地域の中核となる総合大学型の国立大学法人です。
今回、最新の研究成果をわかりやすく紹介する「FOCUS ON」を2022年11月30日に発行しました。ぜびご覧ください!
2022(令和4)年 12月 20日
国立大学法人岡山大学
https://www.okayama-u.ac.jp/
 



<発表のポイント>
  • 遺伝子組換えやゲノム編集などの‘遺伝子改変技術’は、植物が持つ重要な特性の解明に不可欠であり、迅速な品種改良にも利用されています。
  • 岡山大学資源植物科学研究所(岡山県倉敷市)では、オオムギの遺伝子改変技術の精度を高め、産業上で重要な遺伝子機能の証明や農業特性の改良に取り組んでいます。
  • これらの技術によって、環境問題や食糧問題の解決に貢献するオオムギ品種の作出が期待できます。


◆発表者
 岡山大学資源植物科学研究所 准教授 久野 裕

久野 裕 准教授久野 裕 准教授


◆概 要
  オオムギは、食用、醸造用、家畜飼料用など、多くの用途で利用される重要な作物のひとつです。岡山大学資源植物科学研究所(岡山県倉敷市)の久野裕准教授の研究グループでは、遺伝子組換えやゲノム編集として知られる遺伝子改変技術を用いてオオムギの重要な遺伝子の機能証明や、農業特性の改良を進めています。

 植物の遺伝子改変技術は、品種によって成功率が異なり、ほとんどの品種では成功しません。久野准教授の研究グループでは、その理由を知るために遺伝学的な実験を行い、オオムギの遺伝子改変の効率を左右するゲノム領域を明らかにしました。

 一方で、ゲノム編集技術のひとつである CRISPR/Cas9法を用いたオオムギ遺伝子の精密改変を行っています。これまでに、種子休眠の長短を決める遺伝子の改変に成功し、オオムギの発芽の調節に成功しました。また、オオムギの環境応答遺伝子の改変、ミネラル輸送に関する遺伝子の機能証明、デンプンを蓄積する細胞小器官の蛍光可視化などにも成功しています。

 これらの成果は、環境変動に耐性を持つ作物や高品質な品種の開発に貢献します。


◆導 入
 遺伝子組換えやゲノム編集などの遺伝子改変技術は、研究のみならず医療や農業などの産業にも利用されています。遺伝子組換えは、1つまたは複数の目的遺伝子を導入して、対象の生物に新しい性質を付与する技術です。
 一方で、ゲノム編集は、もともと生物が持つ DNA配列の書き換えや特定の場所への遺伝子の精密挿入が可能な技術です。どちらも、生物の遺伝子の機能を明らかにするために必要な研究ツールであり、農業においては新しい品種改良の手段として注目されています。
 これまで、遺伝子組換え技術によって病気や害虫に強い作物品種が開発されてきました。最近では、高GABAトマトのような消費者にメリットのある品種がゲノム編集技術によって開発されています。
 岡山大学資源植物科学研究所では、これらの技術を利用して、オオムギの重要遺伝子の単離や機能証明を行っています。その成果は、環境変動に強い品種や高品質な品種の開発に大きく貢献します。


◆背 景
 オオムギは、食用、醸造用、家畜飼料用など、多くの用途で利用される重要な作物のひとつです。岡山大学資源植物科学研究所では、世界中から収集された多様なオオムギ品種・系統を保有し、重要な形質(性質)や遺伝子の研究に取り組んでいます。遺伝子の同定にはゲノム改変技術による機能証明が欠かせませんが、オオムギはそれらの技術の適用が難しい作物種で、利用できる品種も限られています。多様なオオムギ品種・系統の形質や遺伝子の素性を明らかにして農業生産の向上や品種改良に役立てるには、技術の適用範囲(汎用性)の拡大や成功率の向上が求められます。
 久野裕准教授の研究グループでは、オオムギ遺伝子の機能解明の迅速・効率化を目的として、遺伝子改変の効率を左右する遺伝子の同定を進めています。また、汎用性の拡大を目指して遺伝子改変技術の改良も行っています。


◆研究内容・業績
 オオムギの遺伝子組換えやゲノム編集は、品種によって成功率に差があり、ほとんどの品種では達成できません。久野裕准教授の研究グループでは、その理由を知るための遺伝学的な実験を行い、オオムギの‘遺伝子改変に成功するために必要なゲノム領域’の同定を試みました。
 研究の結果、7本あるオオムギの染色体のうち2番染色体と3番染色体の中に、その必要領域が3か所あることを発見し、transformation amenabilityTFA)と名付けました。現在は、いくつかの遺伝子の違いが組織培養の効率を支配していることがわかってきており、例えばオオムギのカルス(細胞の塊)の増殖に寄与する遺伝子の存在を明らかにしています(図1)
 


 一方、久野准教授らは2014年から内閣府主導の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」に参画し、ゲノム編集技術のひとつである CRISPR/Cas9 法を使ってオオムギの種子休眠性遺伝子への標的変異導入に取り組みました。その結果、オオムギの種子休眠性遺伝子Qsd1Qsd2の改変に成功し、種子発芽を抑制することが出来ました(図2(右))。この成果を利用することにより、穂発芽による農業被害の低減に貢献することが期待できます。
 また、国内外の研究者との共同研究で、オオムギの遺伝子改変技術を適用して、高温耐性、茎の成長速度、カドミウム蓄積、リン輸送などに関する遺伝子の機能解明やデンプンの蓄積に係る細胞内小器官の蛍光可視化(図2(左))に貢献しました。これらの成果によって、温度ストレス耐性品種、ミネラルストレス耐性品種、新規素材用品種などの開発や種子の高品質化が期待できます。
 



◆展 望
 現在、オオムギの種子に機能性成分を効率よく蓄積させる研究、品種改良のスピードを上げるための育種法の改良、組織培養における細胞小器官の成り立ちや機能変化に関する研究などを行っています。これまで培ってきた遺伝子改変技術を組み合わせることにより、付加価値の高いオオムギ品種の開発、植物由来成分の効率的な生産、急激な環境変動に対する迅速な品種改良法の開発などを目指し、環境問題や食糧問題の解決へ向けて貢献したいと考えています。


◆用語説明
<ゲノムとゲノム編集>
 ゲノムは、生物が生命活動するために必要な遺伝情報の1セット、またはDNA全体のことを指します。ゲノム編集は、特定の DNA 配列を切断するように設計された酵素等を用いて、ゲノム上の目的の箇所を切断することにより突然変異を人為的に誘発する(遺伝子を改変する)技術です。従来行われてきた放射線などによる人為突然変異技術ではランダムに変異が誘発されますが、ゲノム編集技術では特定の DNA 配列を狙って変異導入できます。

<CRISPR/Cas9法>
 ゲノム編集技術のひとつで、DNA配列を切断する役割の Cas9タンパク質と目的DNA配列に相同でガイドの役割の一本鎖RNA (ガイドRNA)を組み合わせることで、目的のDNA配列に変異を誘発する手法です。CRISPR/Cas9によるゲノム編集法を開発したエマニュエル・シャルパンティエ博士とジェニファー・ダウドナ博士は、2020年にノーベル化学賞を受賞しました。

<組織培養とカルス>
 組織培養は、人工的に作った栄養培地上で植物等の組織を無菌的に育て増殖する技術です。培地の組成や植物ホルモンの量を変えることで、カルスと呼ばれる細胞の塊を増殖させたり、そのカルスから植物を再生させたりすることができます。組織培養によって、植物のクローン苗を作ったり、ウイルスに感染した植物からウイルスを除去した植物を作ったりすることも可能です。

<種子休眠と穂発芽>
 種子休眠は、生育に適さない環境で発芽しないよう、多くの植物が持つ生存戦略のひとつです。種子休眠が長いオオムギ品種は、収穫してしばらくの間は発芽に適した環境(温度や水分)でも発芽しません。一方で、休眠が短い品種では穂に種子がついたまま発芽してしまう「穂発芽」が発生しやすくなります。穂発芽したオオムギ種子は品質が劣るため、麦芽や食用に利用できなくなります。

 

◆参 考
・岡山大学資源植物科学研究所(IPSR)
 https://www.rib.okayama-u.ac.jp/
・岡山大学資源植物科学研究所ゲノム多様性グループ
 https://www.rib.okayama-u.ac.jp/barley/index.sjis.html


◆参考情報
・【岡山大学】ゲノム編集技術によってオオムギの種子休眠の長さを調節することに成功!~ビール醸造に適した穂発芽に強いオオムギの開発に期待~
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000277.000072793.html


◆参考情報:FOCUS ON
・【岡山大学】全身性エリテマトーデスで免疫力が低下する原因分子を同定
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000419.000072793.html
・【岡山大学】酵母が必要としている栄養素を酵母に語らせる技術を開発
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000516.000072793.html
・【岡山大学】神経内分泌腫瘍治療への新しい挑戦 ~新しい放射線治療の導入~
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000582.000072793.html
・【岡山大学】岡山大学病院麻酔科蘇生科におけるAcute Pain Serviceへの取り組み ~手術を受ける患者様への安全・安心・満足度向上を目指して~
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・【岡山大学】フェイクコンテンツの真偽判定技術 ~AIによるウソ発見器~
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・【岡山大学】謎に満ちたヒト脳の解明に挑む! ヒト脳の多階層な機能を計測できる革新的な脳イメージング技術 〜7テスラ超高磁場レイヤーfMRI〜
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000945.000072793.html

   



◆本件お問い合わせ先
 岡山大学資源植物科学研究所 准教授 久野 裕
 〒710-0046 岡山県倉敷市中央2-20-1
 TEL:086-434-1243
 FAX:086-434-1243
 https://www.rib.okayama-u.ac.jp/barley/index.sjis.html

<岡山大学の産学官連携などに関するお問い合わせ先>
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 〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中1-1-1 岡山大学津島キャンパス 本部棟1階
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国立大学法人岡山大学は、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」を支援しています。また、政府の第1回「ジャパンSDGsアワード」特別賞を受賞しています国立大学法人岡山大学は、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」を支援しています。また、政府の第1回「ジャパンSDGsアワード」特別賞を受賞しています

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上場
未上場
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1949年05月