車椅子eサッカーチーム「ePARAユナイテッド」の挑戦　-川崎フロンターレと共創するFOOTBALL TOGETHER-

プロジェクトの裏側

2023年6月30日 11時10分株式会社ePARA

バリアフリーeスポーツ・ePARAは、「本気で遊べば、明日は変わる。」を合言葉に、障害者がeスポーツを通じて自分らしく・やりがいをもって社会参加する支援を行っています。支援事業の一つとして、ゲームジャンルや障害特性に応じてユニットを組むバリアフリーeスポーツプロジェクト「Fortia（フォルティア）」を結成。練習会による技術向上やePARA主催イベントの運営、外部イベントへの参加など、多岐に渡る活動を行っています。

そのユニットのひとつ、車椅子eサッカーチーム「ePARAユナイテッド」。

実生活では動きにくさを感じながら暮らしているメンバーたちは、ゲームの中で自由にのびのびと駆け回ります。障害や性別、背景などあらゆる壁を超え、互いを尊重しあって挑む姿。そこから湧き上がる思い、見えてくる未来。

今回は、そんな「ePARAユナイテッド」が推し進める、J1の強豪チーム川崎フロンターレとの共創プロジェクトのストーリーをお伝えします。

▲2023年2月、11人制eサッカースタジアム　-車椅子イレブンがプロサッカー選手と創る『新しい景色』-にてePARAユナイテッド、ePARA Voiceほかスタッフの集合写真

ePARAユナイテッド誕生−キャプテンの思いを乗せて

「車椅子ユーザー11人でサッカーをしてみたい…！」

ePARAユナイテッドは、キャプテン「とりちゃん」こと鳥越勝選手のそんな希望の実現から始まりました。子どもの頃サッカー選手になる夢を抱きながらも、難病ベッカー型筋ジストロフィーによりサッカーを諦め、夢を語ることすら許されなかったとりちゃん。

「普段は車椅子の人たちが、ゲームの中では自由にピッチを駆け回るなんて、面白いに違いない」。そんな共感が生まれ、2022年4月様々な障害や難病を持つ車椅子ユーザー11名が集まりました。

▲とりちゃん（上段右から3人目）の声がけで集まった、SEASON1のメンバー。

デビュー戦「ePARA CARNIVAL 2022 SPRING」

「ePARAユナイテッド」の初舞台は、2022年5月に開催された障害×ゲームの文化祭「ePARA CARNIVAL 2022 SPRING」。ePARAユナイテッドの11人が、「EA SPORTS™ FIFA22」でAIのコンピューターと対戦する企画です。

デビュー戦に向けて練習を重ねる車椅子イレブン。当時のePARAユナイテッドには、サッカーゲーム未経験の人、サッカーの知識が少ない人、そもそも障害や難病のためチームスポーツもゲームも経験がない人もいました。そのため、ただでさえ連携が必要な難しいサッカーを、ゲームで11人でやるのは大変なことでした。それぞれ本業や別の活動の合間をぬってオンラインで集まり、ルール説明会や外部からのコーチングを受けながら、少しずつ知識を増やし、スキルを磨きます。

オンラインゲームをプレイする環境を整えるため、株式会社サイコムの厚いご支援をいただき、スムーズな動きや連携を可能にしました。

▲ePARAユナイテッドの活動を支えるサイコム社のゲーミングPC

イベント当日、一部はオンライン参加となりましたが、この日初めて車椅子イレブンが集合しました。たくさんの笑顔と笑い声。ePARAユナイテッドは大きな声援を受けて練習の成果を発揮し、会場を大いに沸かせました。

プレイレベル以上に熱気と一体感に包まれた空間に、参加者・関係者の目から光るものも。

「ゲームなら、Ｊリーガーとも同じフィールドで熱くなれると思う。」（ePARAユナイテッドキャプテン・とりちゃん　／　筋ジストロフィー）

▲笑顔でプレイするePARAユナイテッド(左から　羽飛、りょう、とりちゃん、あーりん)

夢を追いかけてー「川崎フロンターレ」との共創

デビュー戦を経て一丸となったePARAユナイテッド。次の大きな舞台は、J1の強豪チーム「川崎フロンターレ」との共演です。その背景には、一人のメンバーの思いと、そこから生まれたePARAユナイテッドと川崎フロンターレの様々な交流がありました。

小林悠選手とたけちゃんの出会い

ePARAユナイテッドの左ウィング「たけちゃん」こと石井健瑠選手。脳性麻痺で、足を使ってゲームを操作するパラeスポーツプレイヤーです。

時は遡り、2019年1月15日。「商店街に小林悠選手が来ているらしいよ。」

たけちゃんは、そんな噂を耳にし、母に連れられて近所の商店街に行きました。そこには小学生に囲まれる小林悠選手の姿。しかし車椅子のたけちゃんは近づくことができず、遠目で見ていました。すると小林悠選手とマネージャーさんは、そんなたけちゃんに気づいて声をかけ、一緒に写真を撮ってくれたのです。

石井健瑠　「またゴール決めてくださいね」

小林選手「ありがとう。がんばるね」

▲川崎フロンターレ・小林悠選手とたけちゃんの最初の出会い

小林悠選手の優しさに触れ、憧れの気持ちを強くしたたけちゃん。小林悠選手の活躍を見るにつけ、「俺も夢を追いかけていいんだ！」と励まされながら前向きに生きてきました。ePARAは「その憧れを形にしたい。」と考え、川崎フロンターレとの交流を図り始めます。

川崎フロンターレサッカーゲームフェスティバルに参加

2022年6月に竹芝ポートホールで開催された「川崎フロンターレサッカーゲームフェスティバル」。ePARAユナイテッド3名が参加し、体験ゾーンでのプレイや様々な企画を楽しみました。取材メディアから、予定していなかった取材を受ける場面も。

おぎやはぎさん×山之内すずさんによるスペシャルトークショー＆ゲーム対戦も観覧。ステージで楽しそうにサッカーゲームをプレイする様子を見て、参加メンバーがつぶやいた一言。

「いつか、あっちでプレイしたい。」（ePARAユナイテッド・FW　羽飛〈つばさ〉　／　脳性麻痺）

▲川崎フロンターレサッカーゲーム・フェスティバルに参加したメンバー

11人制eサッカースタジアム　-車椅子イレブンがプロサッカー選手と創る『新しい景色』-

2023年2月7日、川崎市コンベンションホールにePARAユナイテッドの姿がありました。

たけちゃんの思いを形にするため、練習に励んできたePARAユナイテッド。企画に共感してくださった小林悠選手・川崎フロンターレの協力のもと、ゲームの中で小林悠選手を含めたイレブンを結成し、コンピュータチームと戦う企画が実現したのです。

この企画の裏には、様々なドラマがありました。

さまざまな参加者が困難を乗り越えて本番へ

まずは本企画の主役・川崎フロンターレの小林悠選手です。開催日の1ヶ月前に小林悠選手が練習中に左第5趾基節骨骨折、全治8～10週間と診断されました。間に合わないと一同が絶望しかけたところで、川崎フロンターレからイベントの実施にGOサインが。

それは紛れもなく、想定外の状況下でもePARAユナイテッドとの交流に価値を見出し、実現に向けて尽力して下さった川崎フロンターレ関係者の皆様、そして何より、自身が逆境の最中にも関わらず、企画を快諾して下さった小林悠選手のおかげ。メンバーの気持ちがいっきに高まった瞬間でした。

ePARAユナイテッド側にも復活劇がありました。右サイドのスマイルインフルエンサー・あーりん。筋痛性脳脊髄炎を患っていますが、2022年9月から食べると吐き気が止まらない症状に悩まされ、2022年12月には栄養を入れるために埋め込んでいたカテーテルから感染症を発症、緊急入院。

予想以上に長引いた入院生活は終わりが見えず、仲間たちが諦めかけたとき、誰よりも諦めなかったのはあーりん本人でした。メンバーが練習に励む姿に勇気と元気をもらいながらの入院生活。一方で、病院から音声アプリで練習に参加し、プレイできなくてもコメントを寄せ続けるあーりんの姿に、メンバーたちもまた勇気づけられ、実力を上げていきました。

そして当日、そこにはあーりんの姿が。なんとか前日に退院してイレブンの一人として参戦することができました。あーりんはブランクを感じさせない動きでピッチを駆け上がり、自慢の”あーりんクロス”を随所で披露。全身で復活の喜びを表していました。たくさんのスマイルでみんなを笑顔にしたことは想像に難くありません。

▲この日3試合すべてに出場し、前日に退院したとは思えぬ活躍を見せたあーりん

最後に、この公式戦がデビュー戦となった新メンバー「はる」をご紹介します。もともとは右利きだった彼女は、今は右半身に不自由を抱えています。

「私の左手はふつうの左手じゃないので、大丈夫です」そう語ったはる。高校1年の夏に右上肢が突然動かなくなったとき、持ち前のポジティブさと類稀なる努力で、その夏の間に利き手を左手に交換したという驚きのエピソードを持っています。

そんなはるの姿勢はePARAユナイテッドでも十分に生かされました。練習会には欠かさず参加し、監督やコーチ、先輩メンバーからの助言を書き込んだ”はるNOTE”を作成、海外メーカーに製作を依頼した特殊コントローラーも3日で使いこなせるようになるなど、努力を重ね、驚異的なスピードで上達していきました。意志の強さと謙虚さを持ち合わせた人柄もまた、ePARAユナイテッドのメンバーたちに温かく受け入れられ、馴染むのに時間はかかりませんでした。

▲"神の手"(左手)を持つはる

迎えた当日。

笑顔の裏に緊張と興奮を携えて入場した車椅子イレブン。はじめは皆緊張で思うようにプレイできませんでしたが、2試合目に小林悠選手が初ゴール。その瞬間に選手たちを覆っていた緊張が解け、徐々にチームワークも生まれ、流れに乗って勝利を収めました。小林悠選手はゴールを決めるたびに立ち上がり、渾身のガッツポーズで「めちゃくちゃうれしい」と笑顔。試合後には「初めてのeスポーツでしたが、その素晴らしさを感じました」とコメントをくれました。障害の有無や性別・年齢に関係なく喜びや感動を共創できるeスポーツの魅力を会場全体が体感し、誰もが「新しい景色」をその目で見た瞬間でした。

▲失敗して悔しがるあーりんと笑い合うメンバーたち

「そして今度はフロンターレイレブンと試合が出来たら最高だと思いました。僕はもちろんePARAユナイテッドチームで笑」（川崎フロンターレ・小林悠選手）

関連動画はこちら：【フロンターレ × ePARA】eスポーツでみんな笑顔に。

新たな舞台へー「2023ファン感謝デー特別企画　FOOTBALL TOGETHER Powered by eFootball™️」に出演

7月16日、川崎フロンターレの恒例イベントであるファン感謝デーで実施される「特別企画FOOTBALL TOGETHER Powered by eFootball™️」。ePARAユナイテッドが企画・協力・出演するイベントです。

8人で協力してeFootball™をプレイします。8人のプレイヤー（選手、クラブスタッフ、ファン・サポーター代表、ePARAユナイテッド）が応援団の力強い声援を受けながら、心をひとつにコンピュータチームに対して「勝利」を目指します。

本イベントには、前回イベントに引き続き小林悠選手、カタールＷ杯でSBとして出場した山根視来選手、谷口彰悟選手から背番号５を受け継いだ佐々木旭選手、ほか３人のコーチも登場します。

【企画概要】

◆日時：2023年7月16日(日)16:30開始

◆会場：等々力陸上競技場　内　『メインスタンド1階　記者会見室および記者控室』

◆出場(川崎F)

TEAM YU：小林悠選手／戸田光洋コーチ／篠田洋介コーチ

TEAM MIKI ：山根視来選手／佐々木旭選手／寺田周平コーチ

◆出場・出演(ePARA)

出場：車椅子eサッカーチーム「ePARAユナイテッド」より3名×2チーム　計6名

出演：ePARAユナイテッドより１名、ePARA Voiceより2名

◆観覧方法

観覧希望の方は、フロンターレ後援会MY PAGE　よりお申し込みください。（申込締切：6月30日(金)、抽選）　※川崎フロンターレ後援会に入会していることが条件となります。

◆主催：川崎フロンターレ

◆協力

株式会社コナミデジタルエンタテインメント

株式会社ePARA

ePARAユナイテッド（車椅子eサッカーチーム）

※"eFootball"、"eサッカー"、および"eFootballロゴ"は、株式会社コナミデジタルエンタテインメントの登録商標または商標です。本イベントにおいては株式会社コナミデジタルエンタテインメントの許諾を得て使用しています。

川崎フロンターレ選手・コーチを含むファン感特別チームが『eFootball™』で共闘！　みんなの青援で、チームを勝利に導こう！！

6月某日。ePARAユナイテッドのとりちゃん・たけちゃん・羽飛・はるの4名は、川崎フロンターレの麻生グランドを訪問しました。『eFootball™』内でチームメイトとして闘う選手・コーチの方々と練習を行うためです。最初こそ緊張した面持ちだったePARAユナイテッドのメンバーも、ゲームが始まれば笑顔が溢れ、熱気に満ちた時間になりました。

▲ゴールを喜ぶ山根視来選手とハイタッチ

▲川崎フロンターレ・佐々木旭選手と一緒に飛び入で練習に参加した高井幸大選手

（左から二番目）

▲3点目のゴールに歓喜する川崎フロンターレ・佐々木旭選手と高井幸大選手

▲DFを鼓舞する川崎フロンターレ・小林悠選手

▲ゴールを喜ぶ川崎フロンターレ・寺田周平コーチ、戸田光洋コーチ、篠田洋介コーチ

終わりに

「思いっきり走り回りたい」という思い。

Jリーガーを応援し励まされてきた思い。

「晴れ舞台に上がってみたい」という思い。

「FOOTBALL TOGETHER Powered by eFootball™️」はそんな思いを体現するひとつの「舞台」です。これをきっかけに今後も拡げていく川崎フロンターレとePARAユナイテッドとの共創は、川崎フロンターレの理念「FOOTBALL TOGETHER」を大切にし、障害の有無に限らずより多くの方々とeサッカーを通じた交流を深め、さまざまな思いや夢を叶えるための「舞台」づくりを行って参ります。

「ePARAユナイテッド」の活動に共感・背中を押してくださっているYogibo様、日々の練習や今大会運営にあたり高性能のBTOパソコンをご提供くださっているSycom様、本企画の共創に尽力下さる川崎フロンターレ関係者・サポーターの皆様、ほか数多くのスポンサー企業様やパートナー企業様、謹んで御礼申し上げます。

「ePARAユナイテッド」は、今後もeスポーツを通じて、障害・難病の有無や性別、年齢、地域などを超え、高みを目指し、励まし合い、解り合い、喜び合うことの素晴らしさを伝えていくとともに、選手個々が持つ無限の可能性を披露することができる舞台を創り上げていきたいと思います。