新井文月、現代アート「流れる宝石箱」オンラインショップスタート

創業ストーリー

2021年1月15日 18時30分株式会社アトリエ新井文月

現代アーティストとして活動する新井文月は、いまアート界で注目を集める一人だ。

画面には躍動感ある線が流れ、それが宇宙のように広がりを持つ。通常絵画はキャンバンスを使用するが、新井は下地に自ら撮影した光を配置し、和紙を何層も重ねてその上に描く。時間と技術を要するが、完成したアートは画面全体が宝石のようにキラキラと輝く。

新井は東日本大震災からアートによるボランティア活動を続けてきた。2014年には無機質な空間をポジティブにする活動としてニューヨーク展を開催。翌年、Arab Week Art Exhibitionに出展した作品は主催国のオマーン／パレスチナ大使より日本アラブ友好感謝賞を授与された。

そしてコロナ禍で完成された『流れる宝石箱』シリーズは、オンラインショップで販売が開始された。2021年、元旦にアップした作品はわずか10分でSNSを通じて完売。新井は当初から活動を見守る経営者や、ドバイの外交官など周囲の人達に支えられている。

《火のワーク》　2021　アクリル絵具

いまでこそ順風満帆にみえるが、これまで新井は社会と適合しているとはいえなかった。美術大学卒業後、ダンスに没頭した新井はダンサーとして活動を続ける。チームで活動も続けたが、このまま続けても表現には限界があった。

その後、デザイナーとして東証一部上場のIT会社に勤務するが、仕事にも身が入らない。アーティストを試みるも、家族にも反対される日々だった。ストレスで鼻血がでるほど苦悩し、2015年には会社を退職。アトリエを設立し、残りの命をアートに捧げることに決めた。

ただ作品はほとんど収入にならない。家族と子供２人の未来を考えると、不安な日々が続いた。日本では美術学部から毎年１万人が卒業する。しかし作家として活動を続けるのはそのうち100名程度だろう。さらに生計を立てていくのはごく一握りである。

どうすれば作品が売れるのかばかり考えていたが、それ自体がアートの本質からそれていた。思考は焦り・愚痴・不平不満・なきごと、ネガティブなものばかりになっていった。

ちょうどその時期、家族が寝た後に、ひとり自分のためだけに絵を描くようになる。それは闇の感情を吐きだす絵だった。

毎晩、思いのたけを絵の具にのせ、キャンバスにぶつけていった。技術的にも恥ずかしいので売ろうとも思わず、その先に何も期待していなかった。幾度もキャンバスは上書きされ、画面はドス黒くなった。そのうち闇の中に、わずかな光が表れるようになる。

《闇の絵》2018 ミクスドメディア

絵を描いているあいだ、様々なことに気づいた。この世の相反するもの。成功／失敗。勝ち／負け。幸せ／不幸せ。自分は子供の頃、足の病気だったが、おかげで絵ばかり描いていた。治ってからは踊ることが楽しかった。画家としては相当なまわり道をしたが、ダンスの経験は流れる線に活かされた。デザイン技術はアナログでは出せない色の階層を生んだ。いちど失敗に見える現象というのは、自分が決めただけで、時がたてば結果的に丸くおさまるのかもしれない。

それに気づくと、線は自然な流れで踊るかのように描き出された。ふりかえると岐路に立った時が、最高に成長した時かもしれない。これらの気づきは絵にメッセージとして込め、人と繋がりたいと思った。そのため新井は日々アトリエで制作を続ける。

《闇の絵　アルルカン》2021　和紙、アクリル、写真

Information

アトリエ新井文月

代表の新井文月は、幼い頃、足の病気で歩くことができず、空想の絵を描く日々を過ごす。絵を描くうち足は治癒し、多摩美術大学に進学しストリートダンスに出会う。ダンサーとして活動する傍ら、目に見えない力と流れを意識するようになる。2011年、東日本大震災では被災地での似顔絵制作をきっかけにアートボランティア活動を開始。2012年には石巻市の仮設住宅の壁に70mの龍をボランティア100名と一緒に描き、再生の象徴とした。2014年には「Flower Project」展（在ニューヨーク日本国総領事館）を開催。2015年には「Arab Week 2015 Art Exhibition」に出展し日本アラブ友好感謝賞を受賞。2020年より作品『流れる宝石箱』シリーズをオンラインショップで展開。