アイ・オー・データ機器は、2023年8月から、LinuxベースOSの法人向けNAS(Network Attached Storage)製品であるランディスク（HDL- XA、XABシリーズおよびHDL-HA、HABシリーズ）に、新しい「引っ越し機能」を追加されます。この機能はNASをリプレイスする際、古いNASから新しいNASへのデータ・設定移行をこれまで以上に簡単にし、エンドユーザーだけでなくIT機器の保守などを担当するシステム系企業の負担を大幅に軽減します。今回は、引っ越し機能を開発した担当者の方々に、導入メリットや開発までの道のりについて話をうかがいました。

◆データ移行中でもファイル編集可能な新しい「引っ越し機能」を開発

――はじめに、アイ・オー・データ機器のNAS製品における、貴社ならではの特徴や採用している技術について教えてください。

稲田　当社のNAS、ランディスクのもっとも特長的なもので、「拡張ボリューム」という機能が挙げられます。この機能は独自技術の「仮想ファイルシステム」を活用しており、HDD2台を1組のペアとして使い「ファイル単位の複製」を行うことで冗長化を実現します。従来の冗長化技術であるRAIDを採用した弊社の従来製品では、同時に複数のHDDが故障してしまい、RAID崩壊となってしまうことがありました。同時に複数のHDDが故障してしまう要因の一つとして、同じ頻度でHDDへアクセスしていることが考えられましたので、拡張ボリュームではアクセスの頻度を変える工夫によって、このRAID崩壊のリスクを低減しています。

ほかにも、クラウド型ランディスク遠隔管理サービス「NarSuS（ナーサス）」や「データ移行パック」などのサービスも提供しています。

株式会社アイ・オー・データ機器

企画開発部　企画3課 リーダー

稲田 宗太郎　氏

――ではNASのデータ移行、引っ越しに関するサービスは以前から提供していたのですね。

稲田　当社は10年以上NAS製品を提供してきており、そのなかでさまざまなサービスを開発、提供してきました。今回、ようやく、これまでのデータ移行サービスで解決できなかった課題をクリアした新しい引っ越し機能を開発しました。

この機能はシステムドライバとして8月からHDL-XA、XAB(ミドルレンジ)およびHDL-HA、HAB(ハイエンド)各シリーズのファームウェアに同梱しています。なおこの機能は現在特許出願中です。

アイ・オー・データ機器のランディスク（HDL- HABシリーズ）

――簡単にいうと、新しい引っ越し機能とは、どんな機能なのでしょうか。

武石　これまでのデータ移行では、古いNASから新しいNASへとデータをコピーしている間にユーザーがファイルを編集してしまうと、編集後の最新データが移行先に正しく反映されず、データ移行がすべて終わってから、差分データを改めてコピーする必要がありました。

これがかなりの手間であると同時に、何度も古いNASの中のデータを更新することになるので、ただでさえ経年劣化しているHDD内のデータを更新することによって、HDD故障の発生リスクを高めてしまう恐れがありました。今回開発した引っ越し機能では、こうした差分コピー作業を行う必要はありません。

株式会社アイ・オー・データ機器

企画開発部 開発3課 シニアリーダー ソフトウェア担当

武石 尊之 氏

――データ移行を担当する人にとっては、大きなメリットですね。

武石　エンドユーザーのお客様をサポートしているSIer様の場合だと、お客様先で移行の準備をし、その後コピーが終了するタイミングで改めてお客様先へ訪問し、差分コピーの作業を行い、同時にネットワークとホスト名の切り替え作業を行って、新しいNASをユーザーが利用できる状態にする必要があります。コピー終了後、早いタイミングで切り替え作業をしなければ、エンドユーザーはしばらく古いNASにアクセスしてデータを編集し続けますから、差分コピーの作業が増えていってしまいます。

――新しい引っ越し機能を活用すれば、こうした手間がなくなるわけですね。

武石　データ移行の間、誰もNASの中のファイルを編集しないということは、その間は作業がストップせざるを得ません。データの量にもよりますが、移行には平均で3日～4日かかります。しかし、新し引っ越し機能を使えば、NASの設定移行を数十分から1時間程度かけて行い、、その後すぐにネットワークとホスト名の切り替え作業に進んで、あとはデータ移行させていくだけです。

移行中にファイルを編集しても最新データとして引っ越し先のNASに反映されるので、差分データのコピーの作業は必要ありません。また設定移行後、設定の確認作業中のみ若干、エンドユーザーにはファイルアクセスをストップしてもらいますが、それ以外は基本的にファイルのアクセスをストップする必要はありません。

――これまでのデータ移行では、ネットワークとホスト名の切り替え作業は、データのコピーが完了した後だったわけですが、新機能だと、コピーを始める前に切り替え作業も含めて細かな設定作業をすべて完了させることができるわけですね。では、データの引っ越しが済んだあとは、任意のタイミングで古い機器を処分するか、場合によっては、お客様にお任せするという方法もとれますね。

武石　そうですね、データ移行のために休日を使わないといけない、というスケジュール調整から解放されるでしょう。社内の担当者がITインフラの設定などを行っている場合でも大きなメリットになります。外部の企業様でも、休日に作業が集中するということがなくなります。

◆ダウンタイムを最小化しながらユーザーの手間を減らしたいという思いから開発

――今回の引っ越し機能の最大の特長は、なんといってもデータ移行中にファイルを編集しても最新データが引っ越し先に反映できるということですね。その仕組みを簡単にご説明いただけますか。

稲田　わかりやすく説明すると、データ移行が開始されると直ぐに引っ越し元のファイルデータは、全て引っ越し先にコピー完了したように見えます。そして、引っ越し先のNASのファイルにアクセスすると、必要に応じて引っ越し元のファイルデータをバックグラウンドで取得しつつ、既にデータ移行が終った場合と同様に動作します。これにより、引っ越し先のファイルの編集を可能にしています。最初に述べましたランディスクの「拡張ボリューム」と同じ「仮想ファイルシステム」を利用しています。

アプリケーションレベルではなく、仮想ファイルシステムドライバを開発、適用させることで、エンドユーザーには、あたかも新しいNASをすぐに利用できるように見せ、ファイルの編集もスムーズにできるようにしていますが、実は、データ移行は裏側で進行しているわけです。

武石　ネットワークとホスト名の切り替え作業は最初の段階で済ませているので、エンドユーザー様からは、

データコピーが始まる段階で、従来どおりにアクセスすると新しいNASにアクセスすることになります。仮想ファイルシステムを使うことで、移行していないファイルかどうか気にせず、直接編集を行っていただくことが可能です。

移行していないファイルの場合は、「仮想ファイルシステム」によって、移行元からファイルデータが読み出されますが、一度読み出されたデータや編集したデータは、移行先に書き込まれます。こうして、古いNASの中のファイルを移行中に何度も読み出したり、編集することによって壊してしまうリスクも軽減されます。

中林　拡張ボリュームではHDD2台を1組のペアとして使いますが、今回の引っ越し機能でも新旧2台のNASを1組のペアにする、と考えてもらえばいいのではないでしょうか。イメージとしては、ペアになった1つの空間のなかで、上層に新しい移行先のNAS、下層に古い移行元があると考えてください。

移行中は下層にあるデータが吸い上げられていって、上層に移行が終わると新しいNASのファイルとして編集することが可能です。一方、まだ下層にあるファイルを編集する場合は、上層から下層を呼び出して編集を行い、編集後のファイルは上層に格納します。つまり下層にあるディスクに対しては呼び出しをかけるだけで、下層のディスク内で編集はしないので、データが壊れるリスクが少ないし、差分が発生してあとから再度コピーするといった手間がないのです。

エンドユーザー様のみならず、NASの設置サービスを行う事業者様にとっても、機器の入れ替えは面倒な作業です。今回の引っ越し機能により、データ移行や設定移行における手間を大幅に軽減するとともに、リスクを抑えながら、安全に、確実にデータ移行できるようになるのです。

株式会社アイ・オー・データ機器

企画開発部 開発3課 リーダー ソフトウェア担当

中林 健太 氏

◆ユーザービリティを重視し、非エンジニアでも簡単に操作できるようなUI設計に強くこだわる

――この画期的な引っ越し機能を開発するには、苦労した部分も多かったかと思います。例えば、どのような点をこだわりましたか？

中林　UI(ユーザーインタフェース)周りでは、5～6回ほど大きな変更を繰り返しました。より汎用的な機能として利用していただくために、非IT人材の方にも協力してもらい、設定手順のフロー全体を理解しやすいものに改良していきました。

例えば、当初はネットワーク関連の一部の作業は設定フローには入れず、別建てで、エンジニア向けのドキュメントにしていたのですが、誰が操作するにせよ、すべての手順をひとまとめにしておくべきだという意見が取り入れられ、1つのフローで完了できるようにしたのです。

シンプルかつ一目で操作がわかるように、何度も調整を繰り返したという

――新機能は移行先となる新しいランディスクにドライバとして組み込まれるわけですが、移行元となる古いNAS製品はさまざまなものがあるわけでしょうから、それらとの検証も大変ではなかったでしょうか。

武石　基本的には当社のランディスクのみの対応となりますが、それでも、製品によってはうまく動作しないケースもあり、その対応に追われました。しかし現在は、その問題にも整理がついて、ユーザーの皆様にも安心して利用していただけるようになっています。

　開発担当として、今後は、この引っ越し機能を発展させて、メインシステムがダウンした場合のデータ復旧に役立てるといった機能開発も手掛けていきたいですね。

――引っ越し機能はランディスクのリプレイス需要を活発化させるのではないでしょうか。

稲田　当社はクラウドを通じてお客様の当社製品のご利用状況を把握させていただいています。その中でいえば、長年、同じ製品をお使いいただいていることが分かっており、買い替え需要は今後、顕在化していくものと十分考えられます。クラウド活用が当たり前の時代になっても、身近なビジネスデータを手元に保管しておくことの重要性は変わりません。新しい引っ越し機能によって、ランディスクのデータ移行をスムーズにさせることで、経年によるデータ破損といった事故を防げます。

中林　改正電子帳簿保存法でも、文書の保存期間は、法人で基本7年となっています。それを考えますと、法令を遵守した形で、正しくデータを保存しておくために、そろそろNASのリプレースを、と考える企業様も多いことでしょう。エンドユーザー様、SIer様、いずれのお客様にとっても、ランディスクの引っ越し機能はさまざまな移行ストレスを解消させるはずで、ぜひ、検討ブランの1つに加えていただければと思います。

――本日はありがとうございました。