パナソニック ホームズは2023年、創業60周年を迎えました。創業来こだわってきたテーマの一つが「空気質」です。空気質がもたらすそこに住む人への健康や暮らしの質への効果をふまえながら、「空気質」をさらに高めるための開発者の想いについて前編後編の2回に渡ってご紹介しています。後編では、創業来、自然活用と高効率機器を組合せながら進化を遂げてきた「空気質」について、当社ならではの独自性を追求し続ける若き開発者をご紹介します。

「換気・空調関連技術」に関する競争力でトップに

パナソニック ホームズはアスタミューゼと共同で2023年3月、当社が保有する「換気・空調関連技術」に関する特許競争力の調査・分析を行った結果、国内ハウスメーカーの中で、総合的な競争力が1位であることを明らかにし、その結果を公表しました。

調査は、国内の主要ハウスメーカーが2010年以降に出願した換気・空調関連の特許について、各特許が持つ他社への脅威度（他社の特許を査定する際に、特許にならない拒絶理由として何回引用されたか）や、権利の地理的範囲（同じ発明を何カ国に出願したか）などを総合的に判断し、それぞれの特許の競争力を測定しました。

その結果、当社が2017年に発売しすでに累計 約4,200棟で導入されている、HEPAフィルターを採用した全館空調システム「エアロハス」を支える３つの技術で特に競争力が高いことがわかりました。

3つの技術の１つ目は、「家屋内の快適性を保つ」こと。具体的には、日当たりなどの影響で各居室間の温度差が生じた場合にも、効率的な制御システムにより各居室の安定した温熱環境を調整でき、どこにいても快適に生活することができる技術です。2つ目が、「安心の空気環境を実現する」こと。具体的には、空気清浄機などに広く使われている高性能な空気フィルター（HEPAフィルター）を用い、外気を取り込む過程で有害な物質を効率的に除去し、安心して生活できる空気環境を提供する技術です。3つ目が、「高い省エネ性」。具体的には、空調機の負荷を低減させたり、地冷熱を有効に活用したりすることで省エネを実現する技術です。

＊ご参考：2023年3月23日発表リリース

重要な役割を果たすHEPAフィルター

R&Dセンター環境技術研究室の平谷 瑞希（ひらがい みずき）は今回の調査の狙いについて「パナソニック　ホームズは創業来、自然の活用と高効率機器を組み合わせ空気質にこだわって進化を続けてきました。かつては当社の独自性ある取り組みゆえに、国が定めていた指針の対象として考慮いただくための活動が必要で、苦労が尽きなかったと先輩の研究者から聞いています。当社の取り組みを認知してもらうためには、高い空気質を実現する先進性、独自性を技術的に深掘りしながら取り組む必要があると考え、結果として生まれた技術の特許申請・取得にも戦略的に取り組む姿勢が育まれています。今回、そのようにして当社が取り組んできたことが他社と比べて優れているのか、劣っているのかどうかを客観的に知ることで次へのステップにつなげていくことができるのではと考え、調査を実施しました」と語ります。

平谷 瑞希

そして今回の調査結果については「当社が戦略的に知財に取り組んできたことがしっかりと成果につながっているということを客観的に確かめることができました。この結果に満足するのではなく、今回対象とした空調、換気に関する技術だけではなく、自社の立ち位置を理解したうえで、他の技術についても磨きをかけ、幅を広げていく必要があると考えています」と述べます。

空気質を高めるための条件を追い求める

平谷は、大学時代、住宅の床下の地熱を利用した換気システムについての研究を行っていました。パナソニック ホームズに入社してからは、国が定めるZEH（ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス）の水準を満たす断熱性能をより様々なプランにおいて合理的に満たすための検証作業に携わってきました。「エアロハスなどの優れた設備を有効に生かし、広くお客様に採用頂くためには、建物の躯体性能にもこだわる必要があります。そのために断熱材の厚みを変えたり、天井や開口部のスペックを変えたりします。ただ、変えたことでコストが跳ね上がらないよう、いかにコストを抑えながら性能を高めるかを考えていかなければいけないところが難しいところでした」と苦労を語ります。

断熱性能を調べる際にはシミュレーションを活用します。例えば外気の温度が0℃、室内の温度が20℃の時に構成する材料のどの部分から熱が入り込み、どのように室内で熱が伝わるのかを把握することも可能です。その結果を踏まえ、熱が伝わりやすい部位の断熱材の収め方などを工夫し、それによってどのように変化するかをシミュレーションすることができます。ただ机上でシミュレーションを行うだけではなく、実際の建物への納まりを再現した試験検証も並行して行い、商品の改善に生かしていきます。

光の回廊をL字に配したNEW「カサートプレミアム」にもシミュレーションが活かされた

平谷と関谷が案内説明してくれたNEW「カサートプレミアム」。どの空間でも快適な室温ときれいな空気が保たれていた

平谷が所属するR&Dセンターでは、戦略的に技術や工夫を知的財産化することを意識して研究に取り組んでいますが、平谷自身も「空気質を改善するための技術や工夫を特許として申請したり、論文で発表することで第三者に評価されれば、自分の考えたことに独自性があったということを確認できる機会になり、ひいてはそれがお客様の健康にも貢献できるという実感を得ることにもつながります」と知財化することの意義を語ります。

「エアロハス」導入効果を検証しリフォーム用商品開発へ

パナソニック ホームズの全館空調システムはこれまで新築住宅のみで導入を進めてきましたが、2023年５月、既築住宅向けに「リフォーム用全館空調」を新たに発売しました。同じプライム ライフ テクノロジーズグループのトヨタホームと連携した初の融合商品で、トヨタホームのオリジナル全館空調システムと、パナソニック ホームズのエコナビ搭載換気システム「HEPA＋（ヘパプラス）」を組み合わせることで商品化が実現しました。

「リフォーム用全館空調」は、各階に室内機を設置することでワンフロアだけの空調も可能にしたほか、吹出口の計画的な配置、循環経路の確保などの設えにより冷暖房された空気がフロア内を循環しやすくし、冬のヒートショックの原因となる部屋間の温度差を少なくします。また、「HEPA＋（ヘパプラス）」を採用することにより、浄化された空気を室内に循環させることができます。地熱を活用し、外気と比べて夏は涼しく、冬は暖かい床下空間の空気を給気することで冷暖房効率を向上させ、省エネ性も高めています。

『リフォーム用全館空調』イメージ図

平谷はこの「リフォーム用全館空調」の発売に先駆けて、実際の既築物件で導入し、検証を重ねたうえで細部を改善し、商品化につなげました。

現在、平谷は、既築物件のお客様に対して全館空調システムを導入するに当たって、営業担当者がその導入効果を説明しやすくするツールの開発を進めています。「既築物件の場合、全館空調を導入するには断熱性能のスペックを向上させる必要があります。その前提として現状の住宅の断熱性能がどの程度のスペックかをまず調べなければなりません。当社物件の場合、お客様が建てたお住まいの間取りや壁・床・天井などの構成のデータが残っていることに加え、住宅づくりが工業化されているがゆえに壁などのピッチ間隔が決まっており計算がしやすいという特性があります。その数字をもとに現在の基準に照らし合わせて断熱性能を容易に計算できるツールを開発しているところです。それが把握できるようになれば、断熱改修のためのアドバイスもできますし、断熱改修や設備更新により、その前後で光熱費がどれほど変わるかの比較についても提示することができます。営業担当者がツールを活用しながらお客様との対話が円滑にできるようになり、当社の断熱改修技術や設備技術が広まる後押しにつなげられると考えています」。

60周年を機にトレードオンに挑戦。さらなる高みを目指す

インタビューの最後に平谷は「エアロハスをさらに進化させていくことはもちろんのこと、導入コストを抑えることによってエアロハスが実現する空気質をより多くのお客様にとって当たり前の環境になるようにしていくことが、ひいてはより多くのお客様の健康や暮らしの質の向上に寄与できると考えており、エアロハスの普及に向けた研究についても取り組んでいきたい」と今後の開発についての思いを話してくれました。

2017年に、パナソニック ホームズがエアロハスを開発した時の原点は、住宅メーカーとして、住居内でのヒートショックによる死亡事故件数を減らしたいという想いに基づくものでした。エアロハス発売前の調査では、既存の全館空調をご使用されている方々において「電気代が高い」「部屋ごとの温度調整ができない」などの不満を感じていることがわかり、ヒートショックの解消に加え、各部屋の温度差をできるだけ少なくする、ランニングコストをできるだけ抑える、ことも併せて開発テーマに掲げ、エアロハスが誕生したという経緯があります。

これまで工業化住宅においては、何かを優先すれば何かをあきらめないといけないという「トレードオフ」が避けられないものでしたが、パナソニック ホームズは、60周年を経て、健康・快適と省エネ、毎日と万一、高品質だが制約もある工業化住宅、という相反するテーマをあきらめることなく両立させ、「トレードオン」に変える挑戦を続けていきたいと考えています。

スッキリ収納されているエアロハスの基幹システム

▶”空気質編”　前編

次号は、松下 幸之助創業者が大切にした「共存共栄」の取り組みをご紹介します。（2023年7月28日公開予定）

◎パナソニック ホームズ株式会社について

パナソニック ホームズ 創業60周年特設サイト：https://homes.panasonic.com/60th/

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