発売から四半世紀以上、ピアノメーカーからお届けするソフトウェア　開発の軌跡と未来

開発の裏側

2021年7月5日 17時00分株式会社河合楽器製作所

　新製品が生まれては消えていくスピードの速いソフトウェア業界にあって、誕生から25年以上のロングセラーである楽譜認識＆楽譜作成ソフト「スコアメーカー」。2021年5月26日より学校向けの製品をバージョンアップし販売を開始した。

黎明期からスコアメーカーに向き合い続けている（株）河合楽器製作所コンピュータミュージック室室長岡雅章に話を聞いた。

スコアメーカー誕生の経緯

　そもそも、“スコアメーカーとは何か？”ですが、最初は楽譜をスキャナで読み取って「音が出る」というところから始まりました。並行して楽譜を作るためのソフトウェア「音楽帳」も開発しており、スコアメーカーと音楽帳はともに1995年に学校向けのソフトウェアとして発売しました。音楽帳は発売当初、学校のニーズにマッチして順調に売れていきました。一方、スコアメーカーは音楽帳の陰に隠れた存在が続きました。音楽帳の学校需要が一段落した頃、スコアメーカーの楽譜認識性能も上がってきましたので、音楽帳の楽譜作成機能を搭載した、“楽譜認識機能”と“楽譜作成機能”を兼ね備えた１つのソフトウェアとして、1997年に個人ユーザーに向けて発売し、現在の「楽譜認識＆楽譜作成ソフト」となりました。

楽譜認識機能

スキャナ・スマートフォンからの画像、PDF楽譜から取り込んだデータを読み取り

パソコン上で演奏したり歌わせたりすることができる。作成や編集も可能。

学校でのニーズをどう見ているか？

　学校版は小学校・中学校はもとより、音大や音楽科のある高校で複数本購入していただいたり、自治体単位でご購入いただいたりしています。前任校で使用していた先生から、異動した学校にないので導入したいというお問合せも多くいただきます。教材作成のためのツールとして活用してくださっているということだと思いますので、有難いですね。

口コミで広がるスコアメーカー

　今はコロナ禍で出展の場があまりありませんが、全国の小中学校の音楽の先生の研究会などで展示しますと、先生から「使っていますよ」と言ってくださることがあります。合唱コンクールや楽器フェアなどでの展示でも、声をかけてくださる方も大勢いらっしゃいます。先生も、合唱をされている方も、横のつながりの口コミで、スコアメーカーが広がっているという実感があります。

学校版では、授業で習うリコーダーや鍵盤ハーモニカの運指もリアルタイムで示すことができる

ユーザーの声がスコアメーカーの方向性を決定した

　スコアメーカーは楽譜認識の性能は早いうちから評価をいただいていましたが、楽譜作成機能は今一つという声もありました。購入者アンケートを定期的に取っていくうちに、スコアメーカーは他社の同等の製品とは使い方が違うことがわかってきたのです。他社の製品を使用している方は「楽譜を作成する」ことが目的という場合が多いのですが、スコアメーカーは『楽譜を使う人』が圧倒的に多いことがわかりました。『楽譜を使う人』というのは合唱や合奏などの自分のパートを抜き出したり移調譜（楽器の音域や、自分の声にあうように元の曲の調とは異なる調に移した楽譜）を作ったりして練習する人です。それからは『楽譜を使う人』にフォーカスを当てた機能を追加していきました。

2017年に搭載したボーカル音源は、ボーカル音源で作品を作るというより、ボーカル音源が自分のパートを歌うことで自分のパートのイメージがより分かりやすくなることが評価されました。楽譜を使うことにフォーカスを当てているから、学校での用途にも合っていると思います。スコアメーカーは学校でも、教材として楽譜を取り込んで身近な「道具」として使っていただいていると感じています。

バージョンアップを続けていく中で大変なところや、特に力を入れていること

　やはり楽譜認識性能の向上には特に力を注いでいます。楽譜を認識できることが最初から武器でしたし、開発の難しさからこの分野から撤退していくメーカーが多い中でも当社は地道に続けています。ユーザー様が普段お使いになっている楽譜は、かすれや折り目などのある状態の楽譜ですので認識がなかなか100％とはならない中、100％にどれだけ近づけていくかが課題です。他の機能の改良は、積み重ねや、機能追加で良くすることは可能ですが、認識機能は、3歩進んで2歩下がるようなところがあって、何かできるようになったら今までできたことができなくなったりします。2018年頃から一部にAIを取り入れるなど様々な試みをしていますが、認識機能の向上は永遠のテーマです。

1997年頃　　　　　　　　　 2006年頃～　　　　 2016年頃～

音楽帳の楽譜作成機能を追加　基本エンジンを刷新　販売方式にダウンロード販売を追加

これからの目標は？

　ボーカル音源についてはこの先の可能性を感じています。技術提供をしていただいている（株）テクノスピーチさんには、当社がボーカル音源についての技術を探して声をかけました。すると、先方もスコアメーカーのことは気になっていたそうです。当社の目的はボーカル音源で楽譜を正確に歌わせること、テクノスピーチさんは、楽譜データだけでどれだけ自然に歌わせるか、ということが肝でした。ですからこの組み合わせはベストマッチングでした。現状は自動で「自然な歌声で歌うこと」だけですが、今後は技術を発展させユーザーが理想とする歌い方もできるように改良をしていきたいと思っています。他にも構想はたくさんありますが、まだ秘密です（笑）。楽しみにしていてください。

製品サイト

スコアメーカー学校版　https://cm.kawai.jp/sc/products/smsc/

スコアメーカーZERO　 https://cm.kawai.jp/products/smz/