2020年前期、新型コロナウィルス（COVID-19）の感染拡大により、世界中の国々が大きな影響を受けています。

なかでも多数の感染者・死亡者数が発生した米国ニューヨーク。

そのニューヨークで、2020年1月に海外進出第1号店のオープン直後にロックダウンによる営業停止となった日本発のヘアサロンがあります。

今回は、現地のスタイリストやスタッフと共にロックダウンを乗り越えた、日本人スタイリストの物語をご紹介します。

北米での事業拡大を目指して待望の海外進出

日本最大級のヘアサロングループであるAgu.グループ。

美容師の環境改善に取り組み「スタイリストファースト」を掲げながら、現在、日本国内最大級となる480店舗以上を展開しています。

Agu.グループの誕生から約11年。日本国内1,000店舗、そして北米での事業拡大を目指す彼らが、待望の海外進出第1号店となる「A GRAND UNION」をオープンしたのは2020年1月のことでした。

その立ち上げから携わったのがスタイリストの安井優騎（やすいゆうき）です。

安井は2009年から単身渡米し、現地の複数店舗でスタイリストとしての実績をあげていたトップスタイリスト。北米最大級の美容アワード「The North American Hairstyling Awards (NAHA)」において、ヘアカット部門で優勝する実力の持ち主です。

Agu.グループがニューヨーク出店を決めた際に、現地で活躍していた安井をスカウト。

グループが持つ「スタイリストファースト」の考え方や、海外展開する際の「日本方式の店舗展開の持ち込み」ではなく「ローカライズを幹に日本のスパイスを入れた店舗展開」という方針に共感し、ジョインした一人です。安井は、Agu.グループにジョイン後、さらに「A GRAND UNION」でトップスタイリストとして腕を磨くつもりでした。

しかし、そんな安井に一つ目の試練が訪れます。

現地のマネジメント候補者が、諸事情により立ち上げから外れざるをえなくなったのです。もともとマネジメントではなく、トップスタイリストとしての道を歩むつもりだった安井。

しかし、決意します。「自分がこの店を立ち上げるしかない」と。

海外事業の担当役員である江木とともに、オープンまでの準備に取りかかることになりました。

一番こだわったのは、スタッフの採用だったと言います。

数百通におよぶ応募から選考する中で、安井は何を重視したのでしょうか。

安井「もちろん技術やキャリアといった実力は重視していましたが、それよりも大切にしていたのは人柄や人間性でした。Agu.グループは日本から進出してきたばかりで、米国では無名のサロンです。一緒に楽しんで地元住民から愛される店づくりをしてくれる人物であることを一番重視して採用しました」

その採用方針が功を奏し、採用されたスタッフがさらに人間性の素晴らしいスタッフを紹介してくれたことにより、優秀かつ人柄も最高なスタッフを揃えることができました。

そして、2020年1月10日、ニューヨークのマンハッタンに「A GRAND UNION」はオープンしたのでした。

オープンをお知らせしたプレスリリース

オープン2ヶ月後にロックダウンによる営業停止。スタッフの生活を第一優先に考えた

オープン後、新規顧客も徐々に増え始めスタートは順調な滑り出し。海外第1号店は成功に向かって始動したかのように見えました。

しかし、オープン直後から流れ始めた新型コロナウィルスのニュースが、安井に二つ目の試練の始まりを告げます。

米・ニューヨーク州で最初の感染者が確認されたのは3月1日のこと。

その後、爆発的に感染者が増え続け、州による非常事態宣言の発令後、3月21日からは理髪店やヘアサロンも営業停止の行政命令が下されました。

オープンから2ヶ月で「A GRAND UNION」は営業停止を余儀なくされたのです。

すでに顧客もつき始め順調なスタートを切っていたところに、行政からは営業停止の期間も発表されておらず、まったく先の見えない状況に安井もスタッフも皆、不安を募らせます。

安井「当初は、ここまで感染が拡大することは想定していませんでした。あっという間に拡がったウィルスに僕たちはなすすべもなく、営業停止の行政命令に従うしかありませんでした」

さらに、生活への不安を感じるスタッフも多くいました。

当時、美容業界内でも解雇されるスタイリストが多く、事実、米国では失業者率が過去最高というニュースも流れ始めていたのです。

そこで安井は、日本にいる江木とすぐに連絡を取り合い、動き出します。

まず、Agu.グループが取り組んだことは「スタイリストの生活を守ること」でした。

このスタッフだからこそ乗り越えられた休業期間

休業期間中、安井は刻一刻と変わる現地の情報を収集し、江木と連日オンラインで打ち合わせを続けました。

その頃、日本でも感染が拡大しはじめ、Agu.グループ店舗では感染拡大防止対策が練られており、その防止策を安井にも伝え、同様の対応をニューヨークでもできないかと模索することになったのです。

さらに、世界中のサロンで使われている消毒薬「BARBICIDE®︎」の資格講座をスタイリスト全員がオンラインで受講して正しい消毒方法を学んだほか、日本から教えてもらった対策方法をもとに、現地でできることは徹底的にやっていきました。

＜店舗での衛生強化対策＞

・スタイリストおよびスタッフのマスク・フェイスシールド着用の徹底

・はさみなどのツールや椅子などは、お客様使用ごとに清掃および消毒の徹底

・タオルはクリーニング済みのものを個包装して各席に設置

・お客様入店時のマスク着用のお願いと体温測定

・各席6フィート（約1.8m）の距離確保と収容人数50%以下の徹底

・スタッフ全員、2週間ごとのPCR検査実施

そして、スタッフも自ら行動に出ます。

自分が担当する顧客にメールやメッセンジャーなどでコミュニケーションを取り、お互いの安否を確認しながらも忘れられない努力を続けたのです。

お互い不安な状況の中でも明るい話題で励ましあい、お客様からは「支援が必要だったら遠慮なく言って欲しい」というあたたかいメッセージに、スタッフも安井も感激したと言います。

安井「営業再開が可能になった際にはすぐにオープンできるよう、スタッフみんなで意見を出し合いながら方針を決めていきました。

店舗内の消毒やお客様への対応など細かい作業が増え、スタッフには負荷がかかりますが、みんな積極的に協力を申し出てくれたんです。さらに、自発的にスタッフがお客様と連絡を取り合う姿を知って、このスタッフなら一緒に乗り越えられると確信しました」

ロックダウンを乗り越えた店内には、再開を待ちわびたお客様の笑顔があった

当初は、営業停止期間は4月末までと目されていました。しかし、ロックダウンは一斉解除とならず、段階的に解除され、ヘアサロンや理髪店の営業再開が認められたのは6月22日。営業停止から実に3ヶ月間もの休業期間を経て再オープンとなったのです。

3ヶ月間、ヘアサロンを利用できなかったニューヨークでは、営業再開を待ちわびる顧客がたくさんいました。ようやく髪の手入れができる喜びと共に、休業期間中に連絡を取り合っていた担当スタイリストに再会できる喜びも相まって、営業再開後の店内には顧客の笑顔があふれます。

その様子は、「yelp」でのユーザーレビューからも伝わってきます。

★yelpのユーザーレビュー（一部引用）

“I got my hair cut by Payton at A Grand Union yesterday and it was such a great, and safe experience! The cut looks amazing!! I was very hesitant because of Covid but they had the door open with a lot of airflow and the staff have been trained and certified in Covid precautions.”

訳：昨日、A Grand Unionでペイトンに髪を切ってもらったけれど、とても素晴らしくて安全だったわ！カットは見違えるほど素敵だった！！コロナの影響でお店に行くのをためらっていたけれど、店舗のドアは換気のためにオープンになっていたし、スタッフはみんな、コロナ感染予防についてちゃんと教育を受けていたわ。

安井「先の見えないロックダウンの状態から、無事に営業再開ができて正直ホッとしました。さらに、来店するお客様がみな笑顔で、再開を待ちわびていたと言ってくれて、スタッフも僕も本当にうれしかったです。

しかし、まだウィルスが収束したわけではありません。引き続き、安全対策を徹底して少しでもリスクを取り除き、お客様が安心してサロンを利用していただけるように努力し続けていきます」

A GRAND UNIONサイト

Agu.グループサイト