3,000名参加の世田谷発・産業コミュニティプラットフォーム「SETAGAYA PORT」。様々な社会実証実験が生まれる背景とは。

プロジェクトの裏側

2023年7月6日 10時00分 dot button company　株式会社

dot button company株式会社は、「体験を開発する」を理念に掲げ、様々な社会問題をビジネスの手法で解決するプロジェクトを推進しています。これまで約60の市区町村と関わり、100を超える体験型イベントや地域の課題解決を図るプロジェクトを実施してきました。

2021年からは世田谷発の産官学連携のプラットフォーム「SETAGAYA PORT」を運営。社会や地域/ビジネスの課題を出発点に様々なプロジェクトを展開しています。本プロジェクト立ち上げの経緯や今までの取り組みについて、運営事務局（世田谷区経済産業部山本氏、dot button company 中屋）に話を聞きました。

行政の課題感から「SETAGAYA PORT」がスタート。新たな産業創出を目指す

「SETAGAYA PORT（セタガヤポート）」は、産官学連携で新しいビジネスやカルチャーを生み出すコミュニティプラットフォームです。SETAGAYA PORT誕生のきっかけを、世田谷区経済産業部の山本氏にたずねました。

――SETAGAYA PORTは、世田谷区内外の3,000名もの方々が参加登録しており、行政の取り組みとしてはこれまでにない新しさを感じます。このプロジェクトが生まれたきっかけはなんだったのでしょうか？

山本氏：世田谷区は人口も多く、地域課題に目を向ける方やNPO法人団体の数も多いです。しかし、私たち区職員が、地域課題に取り組む人、とりわけビジネスにしている人と接する機会は、少ない印象でした。また、区内の事業者だけでなく、若い世代や区外で働いている人などと、枠を超えてビジネス分野に関して広くコミュニケーションを取ることや、交流の機会の必要性に課題意識を感じていました。

そこで地域経済活性の課題に向け、「20代から40代を中心に学生・事業に勤める方・企業家・フリーランス・プロボノなど幅広い方々が交流でき、世田谷に新しい産業が生まれ、社会課題を解決する企業家を生み出す」ことを目的としたプロジェクトを立ち上げました。

位置付けとしては、産業施策の指針である『世田谷区地域経済の持続可能な発展条例』や『世田谷区の産業ビジョン』に基づいたプラットフォームです。これらの施策の理念を具現化していく中で、金融機関や民間業と強固に関係を作り、各産業分野が横断的な連携を構築するための“議論や交流の場”を創出するために、『せたがや産業創造プラットフォーム』を構築し、展開しています。

コミュニティプラットフォームの開発をスタート

本プロジェクトの開発・運営に当たったのが、世田谷区に拠点を置くdot button company（ドットボタンカンパニー）です。弊社は体験を通じて未来ある世の中をつくる会社です。私たちは、これまで約60の市区町村の方々と関わり、100を超える体験型イベントや地域の課題解決を図るプロジェクトを実施してきました。

dot button companyは以前、北海道で挑戦者を応援するプログラムを設計しており、その経験を生かして地元でなにかできないかと考えました。実際に社会課題などに関わりながら、区民の方とつながれる仕組みを設計し、＂世田谷らしいビジネスモデルの創造＂を目指しました。

山本氏：これまで区の施策に興味のなかった人たちの参画や、そういった方々へのアウトリーチも大切だと思っています。しかし、行政の行う施策の印象が固く、特に若い世代の方々には入りづらく感じさせている事があると考えました。SETAGAYA PORTでは、そういった課題解決も意識しています。

SETAGAYA PORTはオンラインでのコミュニティに加え、3つのメインプログラムを有しています。

SETAGAYAPORT HUB

ビジネス課題に対する、区内外の個人・事業者のスキルやビジネスマッチングを目指すことで、新たな事業展開のサポートや異業種連携による新プロジェクトの立ち上げを行う。

SETAGAYA SOSIAL LABO

地域課題にひもづく4つのテーマ「NEXT GENERATION（次世代に向けた取り組み）」「INCLUSIVE DESIGN（インクルーシブな考え方）」「FOOD AND LIVING（食と住の関係）」「GREEN ENERGY（自然環境の改善）」を軸に、世田谷からできることを考え、実践！

SETAGAYA NEW WAVE

あらゆる世代と業種が集い交わるイベントを通じて、世田谷に新たな波を引き起こす次世代の起業家やビジネスを応援し、産官学連携や地域活性を見据えたつながりを生み出す。

「楽しそう、ワクワクする」感覚の共有にフォーカスし、企画・設計をおこなった

――非常に幅広い層の方や、テーマに焦点を当てたプロジェクトですが、どのように設計したのでしょうか？

中屋：まずは、気軽に参加ができるLINEでのメンバー登録や、より双方向にコンタクトが取れるコミュニケーションツールを使おう、と型作りを進めていきました。

テーマが非常に幅広いので、全部網羅しようとすると伝わりづらくなります。まずトピックを6つに分類したものを、更に4つ（主に、教育・福祉・エシカル・防災）に絞り込みました。

また言葉が先行すると、普段から地域や社会課題に関心の高い方にしか伝わらないのでは、と思いました。導いた結論が、視覚的な印象をフックにして「なんだろう？」と興味関心を持ってもらえるコミュニケーション設計です。難しい表現を極力排除して、「楽しそう、ワクワクする」という感覚の共有にフォーカスして＂伝わる＂ということにこだわりました。実際、webサイトなどのデザインを見て興味を持ってくれる方も多いです。

「SETAGAYA PORT」という名前は、世界中から人やモノ、文化が集まってくる港から着想を得ました。挑戦する人たちが、港に集まってきて、拠点を造り、HUBになる。そこでリミックスされて新しく出来たものがまた出航し、世田谷から世界へ羽ばたいてほしいと思ってネーミングしています。

安心感を前面に出すことで、多くの人に「伝わる」コミュニケーションを実現

――＂伝わる＂コミュニケーションへのこだわりについて聞かせてください。

中屋：弊社は、多世代が参加するコミュニティを北海道でも設計していました。その時に＂伝わる＂コミュニケーションのためには、その大切さを意識したクリエイティブチームの形成が最も重要だと感じました。排他的な空間にすることなく余白を感じさせる世界観は、多世代が参加するコミュニティの肝だと実感しています。

「あ、私も入っていいんだ」「いいコミュニケーションが出来そう」と直感的に感じたり、イメージして頂けるように、自分達の活動内容や、実際のイベント開催時の参加者のみなさんが写った写真を沢山公開しています。これは同時に、心理的安全性を感じて持続的に活動できるよう、関心を持ってくださった方とコミュニティとのマッチングを計る意図もあります。

――これまでのコミュニティ作りと「SETAGAYA PORT」で違った部分はありますか？

中屋：大きく違うのは、民間企業との仕事か行政とのお仕事かという部分です。区の事業だと、もちろん制限もありますが、公共の場所や福祉施設を使わせて頂けたり、例えば教育の部署と間接的にやりとりができるなど、民間ではなかなか難しい部分にまで関わることができるようになりました。区との取り組みという部分で区民の方々からの信頼を持って頂きやすく、よりコミュニティの活性に繋がっていると感じています。

本格稼働から2年間でメンバーは3,000名を突破。さまざまなイベントを実施してきた

2021年、SETAGAYA PORTは本格始動を開始しました。2023年6月末現在、SETAGAYA PORT公式LINE登録者数は約3,000名、オンラインコミュニティ参加者数は約680名です。メンバー属性は20代～40代がメインで、ソーシャル系への関心、産官学連携への関心が高い、世田谷区在住社会人、フリーランス、区内大学教授、区内事業者などが多く参加しています。

人・スキル・課題が交わる場「SETAGAYA PORT HUB」では、メンバー同士のカジュアルな出会いが生まれる交流会（年間30回実施）や、事務局がハブとなってメンバー同士のマッチング、学生を中心とした活動などをおこなってきました。

地域や社会の課題を学び、世田谷からできることをみんなで考える「SETAGAYA SOCIAL LABO」では、エシカルギフトマーケットや防災イベントのほか、福祉×クリエイターによる楽曲配信プロジェクトを実施。楽曲総ストリーミング再生は1万回を突破しました。

世田谷区内の新たなビジネスや若手起業家を応援することを目的に、ピッチイベントやフェス型イベントを開催する「SETAGAYA NEW WAVE」では、世田谷で挑戦する注目の事業者や若手起業家によるマーケットやトークセッションなどを実施しました。

取り組みに手応え。これからも、チャレンジを後押ししていきたい

――2023年4月で3年目となる「SETAGAYA PORT」ですが、これまでを振り返って得た成果や、運用していく上での難しさをお聞かせください。

山本氏：これまで区にリーチしていなかった若い世代の区民の方を中心に、コミュニティーツールの登録をしてもらえたのは大きな成果です。区からのお知らせを掲示板やホームページだけでなく、直接区民の方や区内事業者の方へ投げかけることができるようになりました。イベント開催やプロジェクトもコンスタントに実行しており、数多く存在する社会・地域課題解決に携わるビジネスに触れるきっかけを作り出せたのも、大きな成果だと考えています。

また、事業者さん同士の深掘りや、これまで意見を聞く機会のなかった方々のお話を聞く場所ができたのは貴重な事です。と同時に、行政的なやり方だと、カジュアルな交流空間を生み出すことが難しいことも改めて痛感しています(笑)

中屋：＂想い＂が強すぎると、コミュニティは排他的になってしまう難しさがあります。「SETAGAYA PORT」に参加してくださる方は、バックグラウンドも年齢も様々です。ありがたいことに、参加メンバーは平均すると月100名ほど増えていますし、交流する機会を年に30回以上創出し、多くの区民の方に参加して頂いています。コミュニティ内で発言しやすい空気づくりに磨きをかけて、自然とコミュニケーションが生まれる状況を目指しています。

――「SETAGAYA PORT」が目指す今後のビジョンを教えてください。

山本氏：今後は、たくさんの思いやアイデアを形にできるよう、新たな産業の創出を模索しながら展開していきたいです。土壌として、“チャレンジしたい事を後押しする”という形を作っていきたいです。

中屋：これまでの経験から、コミュニティの1つのハードルが10,000名を越えることだと考えています。より大きなインパクトを与えられるよう、個人的な目標として掲げています。今後は新しいビジネスモデルを創出し、より区民の参加者数が増加するよう、現在取り組んでいるプロジェクトの機運を高めていきたいです。

「SETAGAYA PORT」を通じて、世田谷で楽しいことをしてみたいなと思ってくださる方と沢山出会えたらいいなと思っています！