わかさクリニックグループは、埼玉県所沢市における「わかさクリニック」を中心に、埼玉県および東京エリアにてクリニックを展開する医療法人（本院：埼玉県所沢市、理事長：間嶋崇）である。これまでに国内に7院展開していたが、2023年8月1日に国内8院目として「わかさクリニック三軒茶屋」を開院。これまでの分院はいずれも新規立ち上げでの開院であったが、今回は当グループ初となる事業譲渡にて開院させた。これまでにない開院となった、その経緯と開院までに生じた課題を紐解いていく。

＜わかさクリニック所沢本院＞

東京23区への進出に向け見えてきた課題「医師の高齢化による閉院」

新たにクリニックを開院する際、「どのような患者さんに、何を、どのように」提供していくかといった方針を踏まえた上で、開業地の候補・決定を行っていく。今回は東京23区内への進出という方針は早い段階から決定していたため、そこから更にわかさクリニックグループが提供できる医療サービスに合致した場所はどこか、様々な角度からリサーチ・情報収集する必要のみが残っていた。その調査過程で見えてきた課題。それは、閉院していく開業医の多さであった。厚生労働省の統計資料によると、令和2年（2020年）12月31日時点の日本の医師数は33万9623名。この医師数を母数とし、医療機関や施設等の区別なく見ると、医師全体の平均年齢はおよそ50.5歳となる。

厚生労働省「令和2年度(2020)医師・歯科医師・薬剤師の平均年齢推移、

施設・業務の種別」より引用

2008年は平均年齢48.8歳だったが、2016年に50.0歳となり、ここ数年は平均年齢50代が続いている。（※データ：厚生労働省「令和2年度（2020）医師・歯科医師・薬剤師の平均年齢推移、施設・業務の種別」より引用）更にこのデータには続きがあり、前述の34万弱の医師のうち、診療所の開設者または代表者であるという医師は72,586人。年齢別にみると60〜69歳が29.7%（31,835人）、70歳以上が21.8%（23,322人）とベテラン年齢層が全体の半数以上を占めていたのである。

医師に定年退職というものは存在しない。しかし、一般企業の定年退職年齢65歳以上に該当する医師がそれだけの数存在し、該当する医師らは後継者探し（家族または別医療機関への事業譲渡）か、閉院という二択を迫られていても不思議はないのである。

閉院によってかかりつけ医を失う患者を減らしたいという思いから、クリニックの“新規立ち上げ”ではなく“継承”を選択

患者にとって、通院している医療機関の閉院というのは大きな問題である。患者は数ある医療機関・医師の中から、自分に合った医師を選択する。『話をしっかり聞いてくれる』『腕がいい』『検査や治療に関する説明を納得いくまでしてくれる』『待ち時間が少ない』など医療機関・医師を選択する基準は人それぞれ異なるだろうが、自分に合った条件に合致する医師を信頼するが故に通い続け、資本となる身体に関わる情報開示や方針を委ねるのである。そういった簡単にシフトチェンジし難い関係性にあった医療機関・医師がなくなり、診てもらえなくなったとき、患者はまた別の医療機関を探し、既往歴の開示や信頼関係を築いていかなければならない。

今、国の指針においても『地域包括ケアシステム』という、各地域の住民が健康で質の高い生活を維持できることを目的に設計された制度が推進されており、その制度において医療では「かかりつけ医」の重要性が強く謳われている。医師の高齢化による問題と国の指針を念頭に置き、より多くの地域の方に医療サービスを提供したいと医療展開を行っていたわかさクリニックグループでは、これらの問題を重く受け止め、新しい医療機関の立ち上げではなく、地域に根づいた医療機関を継承した開院という選択肢を選ぶこととなった。そこにあったのは、閉院によって医療サービスの享受ができなくなる人を作りたくない、という思いであり、それを実現するためには避けられない選択であった。

ながしまクリニックとの出会い

東京23区内・事業譲渡による開院を目指す、という方向性が定まった時に、入ってきたのが世田谷区・三軒茶屋で15年間クリニックを開院していた「ながしまクリニック」が事業譲渡先を探しているという話であった。「ながしまクリニック」は外来診療のみならず、サービス付き高齢者住宅の訪問診療も行っており、これまで7院にて訪問診療を展開してきたわかさクリニックグループの訪問診療における知識と経験があれば、充分に継承は可能である。逆に言えば、訪問診療の知識と経験がなければ、スムーズな継承は難しいと判断されるケースでもあった。

＜旧ながしまクリニック前にて　左：間嶋理事長　右：長島先生　2023年3月撮影＞

事業譲渡・開院に向けた4つの課題

長島先生に会い、長島先生の意向・思いを伺った上で「ながしまクリニック」の事業譲渡の締結に至った。2023年8月1日開院に向け、プロジェクトが本格始動したとき、クリアしなければ問題は【1.患者様からの理解】【2.地域医療機関・施設との関係性】【3.患者管理システムの情報移行】【4.従業員採用】の4点であった。

【1.患者様からの理解】【2.地域医療機関・施設との関係性】に関しては、長島先生をはじめ、かねてより「ながしまクリニック」に従事していたスタッフがそのまま勤めてくれることとなったため、大きな混乱もなくスムーズな受け入れと理解を得ることが可能であった。それどころか、施設からは皮膚科疾患への専門医による診察や、ポータブルレントゲンといったわかさクリニックグループだからこそ提供できる医療サービスに対して、喜んでいただくことも多かった。

【3.患者管理システムの情報移行】について。わかさクリニックグループでは、訪問診療契約中の患者様には夜間帯も医師が緊急対応を行っている。全クリニックの患者様情報を共有するには、同一システムでの管理が必要不可欠である。つまり「ながしまクリニック」から譲渡された患者様情報を共有するためには、同一システムでの管理が必要不可欠であったのだが、利用システムが異なったため、データ移行は手作業で行うほかなかった。先述のとおり、医療機関が有している情報はこれまでの信頼関係の上に成り立つ重大な個人情報であり、当然移行漏れや情報の不備を生じさせるわけにはいかない。8月1日開院という期限が設定されている中で、慎重を極める患者様のデータ移行は予想以上に担当者の負荷となった。

さらに【4.従業員採用】は困難を極めた。都内の医療機関であるため、募集対象は都内在住の看護師や事務員となり、一般的に考えれば母数は多いはずである。しかし、最寄駅より徒歩15分という立地からか、開院1ヶ月をきっても必要人数まで採用が決まらなかったのである。開院まで残すところ2週間ほどと迫ったところで、求人媒体数の増加などタッチポイントを増やし、どうにか希望人数までの採用にこぎつけた。開業まで数日というところであった。

＜わかさクリニック三軒茶屋院＞

＜医療＞と＜介護＞の連携を図りながら、地域の皆様とのコミュニケーションを大切に診療にあたっていきたい。〜三軒茶屋院スタッフより〜

この度、ながしまクリニックから引き継ぐ形で「わかさクリニック三軒茶屋」を8月1日に開院いたしました。開院前にも拘わらず、訪問診療に力を入れているわかさクリニックグループの開院を喜んでくださる方が想像以上に多く、そういったお声は開院準備をしているスタッフの励みとなりました。それは施設の方たちだけでなく、クリニック前を通る近隣住民の方が立ち止まって看板をご覧になって下さったり、質問を受けたり、近隣にお住まいの方と直接コミュニケーションをすることで感じることができました。

現在、旧ながしまクリニックの従業員3名と新規メンバー5名の計8名で運営しておりますが、日々、世田谷地域にお住まいの皆様の温かさを実感しながら診察にあたらせていただいています。これからも長嶋先生が大切にされてきた地域医療を継続していくと共に、これまでの経験と知識を活かし、＜医療＞と＜介護＞の2つを緊密に連携させながら24時間体制で皆様の健康と幸福のために尽力してまいります。

　今後ともご支援いただけますよう、何卒よろしくお願いいたします。

わかさクリニックグループの在宅医療について

住み慣れた場所で家族と共に暮らしながら療養・終末期を過ごしたい方、病気・障害などで通院が困難な方、さまざまな理由で在宅医療を選ばれる方が増えています。そういった患者様やご家族の希望を実現するため、当グループでは医療圏を更に拡大し、患者様の体と心のケアはもちろん、ご家族様の体と心の負担も少しでも軽くなるよう全力でサポートしていきます。また、国が掲げる「在宅医療の体制構築に係る指針」のうち、在宅医療の体制に求められる医療機能4項目（①退院支援②日常の療養支援③急変時の対応④看取り）にも対応すべく、365日24時間医師による緊急往診体制、グループ内における他職種連携も行っています。

今後さらに訪問診療の利用者数は多くの地域で増加し、2040年以降には二次医療圏の訪問診療利用者数のピークを迎えるとも言われています。「あなたのもとへ、必ず医療を届ける」このブランドメッセージのもと、これからも多くの方への医療提供に努めていきます。