r-GeO₂半導体のp型導電の可能性を示唆する電気特性を確認~複数の評価手法によるp型導電性実証計画を策定へ~
Patentix 株式会社(以下「当社」)では、次世代パワー半導体材料のルチル型二酸化ゲルマニウム(r-GeO₂)の成膜時にアクセプタ不純物のドーピングを行うことで、正孔が優勢な電気伝導が生じていることを示唆する結果が得られました。現時点ではp型伝導の完全な立証には至っていないものの、重要な技術的進展が確認されたことから、今後は電気特性評価を中心に複数の手法で極性評価を実施することで、r-GeO₂でのp型伝導を立証することを目指します。
【背景】
ルチル型二酸化ゲルマニウム(r-GeO₂)は、炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)と比べてさらに大きい、超ワイドバンドギャップ(4.68eV)を有する次世代のパワー半導体材料の候補です。さらに、他のウルトラワイドバンドギャップ半導体候補では困難な、不純物ドーピングによるp型とn型の両方を実現可能であると理論的に予測されたことから近年大きな注目を集めてきました。
当社はアンチモン(Sb)をドナー不純物としてドーピングすることで、世界で初めてr-GeO₂のn型伝導を報告しています。一方でp型伝導については未だ理論的に予測されている段階に留まっており、実験的にp型伝導を証明することは、r-GeO₂の研究開発において重要な課題として残されていました。
【成果】
今回、当社は独自開発した成膜技術であるPhantom SVD法により、ルチル型二酸化チタン(r-TiO₂)(001)基板上にアクセプタ不純物をドーピングしたr-GeO₂薄膜を作製し、その電気特性の評価に世界で初めて成功しました。
図1に今回、作製・評価したサンプルの外観を示します。アクセプタ不純物をドープしたr-GeO₂薄膜の上に、電気特性を測定するため電極を形成しています。

図1. アクセプタ不純物をドープしたr-GeO₂薄膜の電気特性測定用サンプル
形成した電極で容量電圧(C-V)測定を実施ところ、印加電圧を負電圧から正電圧側に掃引することで、測定される容量が低下する挙動を示しました(図2)。この測定結果は、アクセプタ不純物をドープしたr-GeO₂薄膜中で正孔による電気伝導が起きている、すなわちp型導電の可能性を示唆するものと考えられます。

図2. 作製したサンプルのC-V特性
本成果は、p型n型の両方を実現できる超ワイドバンドギャップ半導体r-GeO₂の実現に向けた重要な進捗です。しかしながら、具体的な正孔の移動度測定やpn接合形成による整流性の確認など、p型伝導の証明のために必要な実験はこれからになります。酸化物半導体は物理的にはn型伝導を示すものが多く、p型伝導を示すものはわずかです。さらに、バンドギャップが大きくなればなるほど、p型伝導の実現は困難になります。酸化物半導体におけるp型伝導の研究では、後に間違いであることが判明する性急な報告が多くなされてきた歴史があります。当社は今回の結果だけではp型伝導の証明としては未だ不十分であると考えており、今後Hall効果測定など別の評価手法でもp型伝導の実証に向けて研究を継続してまいります。
【将来展望】
今回の成果は、r-GeO₂のp型伝導の可能性を示唆するもので、次世代のパワー半導体材料であるr-GeO₂の実用化に向けた重要な進捗です。今後もp型伝導の確実な立証に向けて検討を行っていきます。具体的には、ゼーベック効果測定によるキャリア種類判定や、最も重要な正孔の移動度の測定を行い、酸化物半導体では困難であった不純物ドープによる有意な移動度をもつp型とn型半導体の作り分けに挑戦します。さらに、pn接合の形成によって整流性の確認を行い、p層の物理的な物性を解き明かして参ります。これらの成果は将来的なr-GeO₂によるパワーMOSFETやCMOSの実現につながる重要なものであり、慎重に進めて
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