「賃上げと就業意識に関する定量調査」を発表 給与が“変わらない”は“下がる”と同等の離職リスクに
3年後の給与が「変わらない」と感じる層の継続就業意向は27.0%、「下がる」と感じる層(31.5%)と同水準
株式会社パーソル総合研究所(本社:東京都江東区、代表取締役社長:岩田 亮)は、 「賃上げと就業意識に関する定量調査」の結果を発表いたします。
物価上昇や労働力不足を背景に賃上げの動きが広がる中でも、実質賃金は3年連続で減少※しています。本調査では、49歳以下において、3年後の給与が「変わらない」と感じる層の継続就業意向は27.0%にとどまり、「下がる」と感じる層(31.5%)と同水準でした。賃上げが進む中で、将来に給与が「変わらない」と感じる層の“働き続ける意欲”は、実質的には「下がる」と同程度の離職リスクとなっていることが明らかになりました。
また、昇給期待の喪失や上司・部下の給与差の縮小がモチベーションや育成意欲の低下を招く一方で、給与決定方針の透明性や勤務時間の柔軟性といった「納得性」や「時間とのバランス」が、就業意欲を支える重要な要素であることが示されました。 ※ 厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和6年分結果確報」
本調査は、賃上げが働く人の意識やモチベーション、継続就業意向にどのような影響を及ぼしているのかを明らかにすることで、企業の報酬設計や人材マネジメントに求められる課題と示唆を得ることを目的に実施しました。

<主なトピックス> ※トピックスの詳細については「主なトピックス(詳細)」をご確認ください

【賃上げの実態】
1.年収が増えた人は約半数、若年層でも4割が横ばい:2024年に年収が増えた人は51.9%と約半数。3%以上の増加があった人は約4割にとどまり、20~30代の若年層でも約4割は年収が上がっていない。
2.年収が増えた理由は「賞与・ボーナスの増額」や「ベースアップ」が上位で組織要因の影響が大きい:2024年の年収が上がった理由のトップは、「賞与・ボーナスの増額」。次いで、「ベースアップ」。賞与の一部には個人評価が反映されているものの、全体としては組織要因の影響が相対的に大きい傾向が見られる。
3.処遇改定後で給与が増えたのは若年層が中心:40代以下の2~3割が部下・後輩との「給与差の縮小」とこの先の「昇給期待の喪失」を感じている。
【賃上げとモチベーション】
4.「ベースアップ」があっても半数はモチベーションが高まらず:自社でベースアップがあった人のうち、モチベーションが向上したのは約半数にとどまる。特に年代が上がるほど向上割合は低い。
【将来の見通し】
5.49歳以下では、3年後の給与が「変わらない」と感じる層の継続就業意向は27.0%、「下がる」と感じる層(31.5%)と同水準。 給与の将来見通しが就業意識を左右する。
6.40代以上の約半数が「将来の昇給に希望を持てない」:40代以上の約半数が「将来的な昇給に希望を持てない」と回答。さらに、「将来の生活に不安を感じる」人は年代が若いほど多く、世代を問わず将来不安が広がっている。
7.給与差の縮小や昇給期待の喪失で部下に対する育成意欲が低下:自身の給与が上がっていても、部下・後輩との給与差が縮まった場合は約4割、この先の昇給が期待できなくなった場合は約5割で育成意欲が低下。
【離職やワーク・エンゲイジメントへの影響】
8.「給与が上がらない」場合、20代の4割が転職を検討:給与が上がらない場合の行動として「転職」を挙げる人が26.0%。20代では38.3%に上り、若年層ほど転職志向が強くなる。
9.「時間とのバランス」「納得性とのバランス」が継続就業を支える:給与以外で継続就業意向やワーク・エンゲイジメントを高めるのは、休みのとりやすさ・勤務時間の柔軟性といった「時間とのバランス」、および給与調整方針の明示など「納得性とのバランス」。
<主なトピックス(詳細)>

【賃上げの実態】
1. 年収が増えた人は約半数、若年層でも4割が横ばい:2024年の年収を前年と比較すると、年収が増えた人は51.9%と約半数。3%以上の増加があった人は約4割。20~30代の若年層であっても、4割程度は年収が上がっていない。

2.年収が増えた理由は「賞与・ボーナスの増額」や「ベースアップ」が上位で組織要因の影響が大きい:2024年の年収が上がった理由のトップは、「賞与・ボーナスの増額」。次いで、「ベースアップ」。賞与の一部には個人評価が反映されているものの、全体としては組織要因の影響が相対的に大きい傾向が見られる。

3.処遇改定後で給与が増えたのは若年層が中心:処遇改定があったことによる給与額や部下・後輩との給与差、将来の給与の伸びへの期待の変化を確認した。給与額が上がった人の割合は、年代が高いほど低い。一方で、 40代以下の2~3割が部下・後輩との給与差が小さくなっている。また、30代以下の約2割、40代以上の約3割が、この先の給与の伸びが期待できなくなったと感じている。

【賃上げとモチベーション】
4.「ベースアップ」があっても半数はモチベーションが高まらず:自社でベースアップがあった人のうち、モチベーションが向上したのは約半数にとどまる。年代別に見ると、ベースアップでモチベーションが向上した人の割合は、 20代で6割弱。年代が高いほど、モチベーションが向上した人の割合が低い。自社でベースアップがあっても半数以上はモチベーション向上につながっていない。

【将来の見通し】
5.49歳以下では、3年後の給与が「変わらない」と感じる層の継続就業意向は27.0%、「下がる」と感じる層(31.5%)と同水準:未来不安の影響が強く見られる40代以下の層において、3年後の給与見込みと継続就業意向との関係を見た。3年後の給与が上がると思っている人の継続就業意向は高く、下がる/変わらないと思っている人の継続就業意向は低い。3年後の給与が「変わらない」見込みの場合、継続就業意向は27.0%に留まる。

49歳以下の層について年代別に、3年後の給与見込みと継続就業意向との関係を見た。特に30代で3年後の給与が変わらない見込みであると継続就業意向が低い。

6.40代以上の約半数が「将来の昇給に希望を持てない」:40代以上の約半数が「将来的な昇給に対して希望が持てない」と感じている。また、「将来の生活を考えると、現在の給与水準では不安を感じる」「今の会社で、将来的に十分な給与や退職金を得られるとは思えない」人は年代が若いほど多い。

7.給与差の縮小や昇給期待の喪失で部下に対する育成意欲が低下:給与差の縮小やこの先の給与の伸びに対する期待喪失があると、部下や後輩に対する育成意欲の低下が顕著である。自身の給与が上がっていても、部下や後輩との給与差が縮まった場合は約4割、この先の給与の伸びが期待できなくなった場合は約5割の人で育成意欲の低下が見られる。

【離職やワーク・エンゲイジメントへの影響】
8.「給与が上がらない」場合、20代の4割が転職を検討:この先給与が上がらない場合の行動として多いのは、「支出の見直し」(36.5%)。次いで、「投資」(28.2%)、「転職」(26.0%) 。「昇進・昇格」や「資格取得・スキルアップ」といった社内での躍進を目指すよりも、社外での手段を検討する人の方が多い。特に20代・30代では、転職が上位の選択肢になりやすい。

9.「時間とのバランス」「納得性とのバランス」が継続就業を支える:給与不安がある中で、給与以外でどのような要素が継続就業意向やワーク・エンゲイジメントと関係するかを分析した。休みのとりやすさや時間外労働の削減、勤務時間の柔軟性といった「時間とのバランス」、および、給与の調整方針の透明性や外部比較水準の透明性、目標の透明性といった「納得性とのバランス」が特に継続就業意向やワーク・エンゲイジメントとプラスに関係している。

① 継続就業意向に影響する主な要素<年代別>:具体的にどのような要素が継続就業意向に影響しているかを年代別に見た。時間とのバランスとしては、「休みのとりやすさ」や「時間外労働の削減」といった労働負荷の軽減が継続就業意向とプラスに関係する。また、納得性とのバランスとしては、給与の「調整方針の透明性」が継続就業意向に影響する。年代別に見ると、20代では、給与の「決定方針の透明性」、40代では「昇進・昇格の透明性」がTOP3に入ることが特徴。20~30代では、「昇進・昇格の透明性」は関係していない。

② ワーク・エンゲイジメントに影響する主な要素<年代別>:具体的にどのような要素がワーク・エンゲイジメントに影響しているかを年代別に見た。時間とのバランスの中でも、「勤務時間の柔軟性」がワーク・エンゲイジメントとプラスに関係する。また、納得性の中でも、「外部比較水準の透明性」や「目標の透明性」がワーク・エンゲイジメントに影響する。年代別に見ると、20代や40代では、給与の「決定方針の透明性」、60代では給与の「調整方針の透明性」が関係していることが特徴。「昇進・昇格の透明性」はワーク・エンゲイジメントと関係していない。

<調査結果からの提言>

横並び水準よりも給与の未来展望を ー インフレ時代の離職防止には“賃上げの伝え方・見せ方”が鍵である
インフレが進む中、給与の現状維持は実質的な減給と同等に捉えられる。今回の調査結果からは、20代では給与が変わらない場合、約4割が転職を検討することが明らかになっており、人材流出のリスクが大きいことが懸念される。こうした状況において、離職防止や仕事への前向きな関与の維持に重要なのは、他社や業界との横並び(ヨコ比較)ではなく、自社の給与の未来展望というタテ比較である。特に40代以下では、将来の給与に対する不安が継続就業意向やワーク・エンゲイジメントの低さと密接に関わっており、この不安を放置すれば企業の持続的成長を阻害しかねない。

したがって企業には、給与の未来展望を描けるよう自社の給与決定・調整方針を明確に示した上で、非金銭的報酬も含めたトータル・リワードによる報酬設計を行うことが求められる。その上で、従業員の将来不安を軽減し、定着を支えるためには、賃上げの伝え方・見せ方にも配慮する必要がある。こうした考え方を具体的に実践する上では、以下の3つの視点を重視することが重要である。
① “いま”より“伸びしろ”を示す
今回の調査では、“給与が変わらない”層でも離職リスクが高まる傾向が確認された。特に、近い将来、直近5年以内の給与の伸びが重視されている。したがって企業は、給与の現状水準や将来の昇進による昇給だけでなく、この先数年で給与が上がっていくという期待を従業員に持たせる経営判断が重要である。横並びで他社と比較して「いまの水準が妥当か」を問うことや、将来の昇進可能性でモチベートすることではなく、「数年間で給与がどのように伸びるか」を業績と結びつけて明示する姿勢が求められる。
② 「納得性とのバランス」を重視する
給与を「どこと比べて・なぜ・どのように」決めるのかを従業員に明示することが不可欠である。特に、給与・報酬に関する方針の明確化および継続的な情報発信は、従業員の納得感を高め、将来の処遇に対する理解を促して主体的なキャリア形成を支援するための重要な基盤となる。現状では、これらの取組みを実施している企業は4割未満にとどまっており、今後は各企業における取組みの導入・強化が望まれる。右肩上がりの給与とデフレ環境の下では報酬の不透明さも許容されてきたが、インフレと給与フラット化が進む現在、給与の決定・調整方針を明示し、確実に実行することが離職防止の鍵である。
③ 「時間とのバランス」を確保する
給与の伸びが見込みにくい時代においては、時間とのバランスを“報酬の一部”と捉える視点が求められる。給与の伸びが見込みにくい場合、従業員が働きやすさを求めるのは合理的である。したがって、休暇取得の容易性や時間外労働の削減といった労働負荷の軽減を進めることが、継続就業意向を高める有効な手段となる。
●本調査を引用いただく際は、出所として「パーソル総合研究所」と記載してください。
●調査結果の詳細については、下記URLをご覧ください。
URL:https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/wage-increase/
●報告書内の構成比の数値は、小数点以下第2位を四捨五入しているため、個々の集計値の合計は必ずしも100%とならない場合があります。
■調査概要

■【株式会社パーソル総合研究所】<https://rc.persol-group.co.jp/>について
パーソル総合研究所は、パーソルグループのシンクタンク・コンサルティングファームとして、調査・研究、組織人事コンサルティング、人材開発・教育支援などを行っています。経営・人事の課題解決に資するよう、データに基づいた実証的な提言・ソリューションを提供し、人と組織の成長をサポートしています。
■【PERSOL(パーソル)】<https://www.persol-group.co.jp/>について
パーソルグループは、「“はたらくWell-being”創造カンパニー」として、2030年には「人の可能性を広げることで、100万人のより良い“はたらく機会”を創出する」ことを目指しています。
人材派遣サービス「テンプスタッフ」、転職サービス「doda」、BPOや設計・開発など、人と組織にかかわる多様な事業を展開するほか、新領域における事業の探索・創造にも取り組み、アセスメントリクルーティングプラットフォーム「ミイダス」や、スキマバイトアプリ「シェアフル」などのサービスも提供しています。
はたらく人々の多様なニーズに応え、可能性を広げることで、世界中の誰もが「はたらいて、笑おう。」 を実感できる社会を創造します。
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