ぐるなび・東京科学⼤学「ぐるなび⾷の価値創成共同研究」論⽂発表 漬物由来の乳酸菌が持つ「免疫機能を調節する力」を解明
―機能性食品等への応用が期待されるLactiplantibacillus属の比較ゲノム解析で明らかに―
株式会社ぐるなび(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:杉原章郎)は、東京科学⼤学(旧・東京工業大学)と「ぐるなび⾷の価値創成共同研究」として、⽇本の⾷⽂化を⽀える発酵をテーマとした共同研究を2016年より⾏っています。この度、2025年4⽉29⽇(火)に発酵漬物から得た乳酸菌の研究に関する論⽂を発表したことをお知らせいたします。
要点
◎日本の漬物から分離された乳酸菌の「免疫機能を調節する力」に注目
◎2種のLactiplantibacillus 属の「免疫機能を調節する力」の違い、新たな比較ゲノム(全遺伝情報)解析パイプラインにより明らかに
◎植物性食品のプロバイオティクス応用や健康機能の解明に貢献
【概要】
本研究では、日本の漬物から分離された乳酸菌であるLactiplantibacillus plantarumおよびLactiplantibacillus pentosusの免疫機能を調節する能力の違いに注目し、比較ゲノム解析を行いました。その結果、Lactiplantibacillus plantarumが持つ、免疫調整を担うIL-10とIL-12の誘導能が株特異的であることを明らかにし、誘導能に関わる遺伝子「TagF2遺伝子」を特定しました。この遺伝子は、細菌の生存戦略などに関与するポリグリセロール-3-リン酸型壁タイコ酸(poly-GroP WTA)の合成に不可欠な酵素の産生に重要な役割を果たしています。
これにより、乳酸菌が私たちの健康に与える影響を遺伝子レベルで理解する手がかりが得られました。このことは、植物性ヨーグルトなどへの応用や、新たな機能性食品の開発にもつながる可能性があります。本研究は、「ぐるなび 食の価値創成共同研究」の研究成果を基とし、東京科学大学 生命理工学院の山田拓司准教授、博士課程学生の劉伊婷らによって行われました。
本研究成果は2025年4月29日付の「mSystems」に掲載されました。
【株式会社ぐるなび 文化事業推進グループ 澤⽥和典よりコメント】
この研究は日本の伝統的な食文化に根差した漬物から得られる乳酸菌を題材として、「外敵を攻撃する働き」と「過剰攻撃を鎮める働き」を乳酸菌がどのように促すのか、遺伝子の視点から明らかにしようと取り組んだものです。
免疫の仕組みはとても複雑ですが、この研究によって関連する遺伝子を探し出す新しいアプローチが生まれ、乳酸菌の持つ能力をさらに深く理解できる可能性が広がりました。伝統的な食文化と科学技術が融合し、優れた機能を持つスター乳酸菌や健康をサポートするスーパーフードといった新たな価値を生み出したいと考えています。

●背景
東京科学大学と株式会社ぐるなびは2016年より、日本の食文化を支える発酵をテーマとした共同研究「ぐるなび食の価値創成共同研究」を行っています。この共同研究では発酵過程や発酵に関わる微生物を科学的に解析することで、和食が持つ新たな価値を発見し、ブランド価値向上につなげることを目指しています。日本の伝統食品である漬物には、独自の乳酸菌が多く存在し、これらの菌の持つ機能を科学的に解明することが求められています。乳酸菌は腸内環境を整える「善玉菌」として知られており、近年、「免疫力を高める効果」が注目され、食品だけでなく医療や健康分野でもその応用が期待されています。
●研究成果
日本の伝統的な漬物から単離された2種の乳酸菌、L.plantarumおよびL.pentosusの61株が持つ、ヒトの免疫細胞に対する効果を調べたところ、免疫調整因子であるIL-10とIL-12の誘導能が株ごとに違っていました。そこで新たに開発した手法で比較ゲノム解析を行った結果、誘導能の差に関与する遺伝子としてTagF2遺伝子を同定することができました。この遺伝子は、細胞壁成分(ポリグリセロールタイコ酸)の合成に不可欠な酵素をコードしていることから、免疫細胞はこの細胞壁成分を介して微生物の存在を検知し、免疫調整因子の産生が誘導されるのではないかと考えられました。TagF遺伝子を持つ乳酸菌を動物に投与しても免疫調整因子の誘導が確認されたことから、TagF遺伝子と免疫調整因子の誘導能との関連がさらに強く示唆されました。この成果は新たな比較ゲノム解析手法が有効であることを示すものです。




●社会的インパクト
漬物由来の乳酸菌が健康に与える影響を遺伝子レベルで明らかにしたことで、今後の機能性食品開発や植物性ヨーグルトなどへの応用が期待されます。また、本研究は、日本の伝統食品に潜む「微生物資源」の価値を再評価する新たな手法を提示しています。
●今後の展開
より多くの漬物由来乳酸菌のゲノム解析を進め、食品ごとの機能性の違いや免疫応答への影響を詳細に調べていく予定です。また、本研究で開発した比較ゲノム解析手法が食品や製薬における機能性評価や製品開発にも応用されることを期待します。
●付記(助成事業名はこちらに記載)
本研究の一部は内閣府「研究開発とSociety 5.0との橋渡しプログラム」(通称BRIDGE)による研究助成を東京科学大学が受け実施しました。
【用語説明】
•乳酸菌:糖を分解して乳酸を作り出す細菌。腸内環境を整える働きがあることで知られる。
•プロバイオティクス:体に良い働きをする生きた微生物のこと。腸内環境の改善や免疫力の向上に役立つとされている。
•ゲノム:生物が持つすべての遺伝情報のこと。
•比較ゲノム(全遺伝情報)解析 :複数のゲノムを比較してその類似点と相違点を明らかにする解析。具体的には、ゲノム配列や構造、遺伝子機能などを比較検討し、共通の遺伝子または独自の遺伝子を同定することで、それぞれのゲノムの代謝の特色や進化の過程を考察できる。
•免疫調節:体の免疫反応を適切にコントロールする働き。過剰な炎症反応を抑えたり、感染に対する防御を強めたりする。
•IL-10 (インターロイキン10):抗炎症性サイトカインとして知られ、体内の情報伝達物質として働く。炎症反応を抑制し、免疫の過剰な応答を抑えるように免疫系を調整する。
•IL-12 (インターロイキン12):炎症性サイトカインとして知られ、体内の情報伝達物質として働く。免疫応答を誘導し、病原体に対する防御を強化するように免疫系を調整する。
•ポリグリセロール-3-リン酸型壁タイコ酸(poly-GroP WTA) :乳酸菌などグラム陽性菌の細胞壁にある成分で、ペプチドグリカンにポリグリセロール-3-リン酸が結合した構造を指す。細胞の形を維持、外敵から守る役割があり、菌が厳しい環境下でも生き延びるのに欠かせない。病原性や抗菌薬への反応にも関わることがあるため、研究の対象となっている。
【論文情報】
掲載誌:mSystems
論文タイトル:Comparative genome analysis of the immunomodulatory ability of Lactiplantibacillus plantarum and Lactiplantibacillus pentosus from Japanese pickles
著者:Yiting Liu, Kazunori Sawada, Takahiko Adachi, Yuta Kino, Tingyu Yin, Naoyuki Yamamoto, Takuji Yamada
このプレスリリースには、メディア関係者向けの情報があります
メディアユーザー登録を行うと、企業担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など様々な特記情報を閲覧できます。※内容はプレスリリースにより異なります。
すべての画像