高倉工芸は岩手県九戸村で現在まで箒を作り続け、今年7月で28周年を迎えます。

高倉工芸の作る南部箒は”穂先の縮れ”が特徴で、全国各地を探しても他にはない独特の箒です。

この縮れの秘密は、高倉工芸が位置する九戸村の環境にあります。

九戸村では、春から夏にかけて太平洋から冷たい風＝「やませ」が上がってきます。

箒草の穂先が成長する初夏に「やませ」が吹くことで成長の速度が遅くなり、独特の穂先の縮れを生み出します。その縮れは、強くなるほど穂先にコシが出て、畳や絨毯の隙間にしっかりとくい込むことで、細かいゴミまで掻きだすことができます。

このような条件下で自然が偶然作り出した穂先、それが南部箒ができる最大のきっかけであり、強みとなりました。

■最初は失敗だと思った

代々引き継がれてきた農家を営んでいた先代・高倉徳三郎は、農閑期に作っていた箒を、やがては後世まで伝わる確実な産業にできないかと考えていました。そこで、すでに産業として定着していた鹿沼箒の技術を学び、その際に譲り受けた箒草の種を自身の畑でも育てました。

そして、その際育てた箒草が、先ほどの「やませ」が原因で穂先が縮れたのです。

当時はまっすぐな箒草しか知らないため、縮れてしまった穂先を見て、失敗したと思ったそうです。

そのため、最初は周りの親戚に使ってもらっていました。

やはりこの環境では同じ様に作ることは出来ないのだ…

先代はそう思っていた矢先、思いがけない連絡をもらいました。

「こんなにゴミの取れる箒は使ったことがない！」

不出来だと思った穂先は、これがなければ南部箒ではないくらい、高倉工芸の南部箒にとって欠かせない特徴となりました。

▲その当時から変わらない形の巴箒

■時代に合わせて変化していく南部箒

そこからは、よりお客様の環境にあった、より使いやすい箒を目指して色々な商品を試しながら作ってきました。

▲ロングセラー長柄箒

少し手軽にお掃除できることを目指し作られた小箒は、今でも一番の人気物です。

▲縮れが大きいほどカーペット掃除に最適

また、「カーペットについた毛が良く取れる」というお話を聞かせていただき、それならばセーターなどの毛足の長い服や、和洋服の生地を整えるのにもいいのではないか、と開発された和洋服箒も高倉工芸の代名詞の一つとなっています。

▲お出かけ前ささっとコートの毛を掃えます

最近では、南部箒をお使いの方が「箒でうちのペットを撫でるととても喜ぶ」ということを教えてくださり、それがきっかけとなって癒しほうきが出来上がりました。

▲一番新しい癒しほうきですが、すでにたくさんのお客様にご愛用いただいています

その他、箒の可能性をもっと探りたい！そんな気持ちで、テーブル箒、携帯用箒等、色々な箒にも挑戦しています。

このように、思いがけず出来た縮れた箒草から始まり今に至るまで、南部箒を使ってくださるお客様の声が箒を進化させてきた一つの大切な要素です。

■高倉工芸が大事にしてきた、お客様の声を聞ける展示会

中でも、お客様の声を直接聞ける展示販売は高倉工芸の創作の源でもあり、今も全国各地、ギャラリーや百貨店等で「南部箒展」を開催しております。

お客様にとっても、実際にこの箒がどのようなものなのか目で見て試して感じていただき、不安なことや疑問を直接聞いていただける良い機会となっています。

高倉工芸の南部箒は、昭和40年代に隣町の二戸の荒物屋で販売したのがきっかけでした。その後盛岡でも販売するようになり、そのうち岩手県の物産展の担当者に声をかけてもらい、全国の岩手物産展に参加するようになりました。

当初は、日本の経済状況も良く岩手物産展も盛況で、多くの方に購入していただきましたが、岩手のみならず地域の物産展は時代の流れもあり売り上げが低下。その次にできたのが工芸展でした。

工芸展も最初の頃は成果があったものの、一時は注目度が低くなり、さらに職人の高年齢化が進んだりなどで徐々に離れていく方もあり、高倉工芸としてお客様に目に留めてもらいづらい状況がありました。

このような中で、幸運にも百貨店の方から「南部箒展」として開催しませんかというお誘いがあり、平成12年あたりから全国の有名百貨店や伝統工芸品を扱うギャラリーで、南部箒に特化した展示会をさせてもらえるようになりました。

2020年からはコロナで開催が難しいこともありましたが、おかげさまで南部箒をよりじっくりとご紹介し、そしてお客様からの反応もしっかりといただけています。

さらに現在は、できるだけ多くのお客様に南部箒の存在や魅力を知ってもらうために、インターネットを使った広報にも力を入れています。南部箒をより長く愛用してもらうために、取り扱いの注意点やお手入れ方法などの説明を映像で紹介したりなどもしています。

■日本だけではなく世界中の方に南部箒を使っていただきたい

高倉工芸は、日本国内だけに留まらず、海外の方にも実際に南部箒の良さを試して感じていただきたい想いで、海外展開も積極的に模索しています。

きっかけは二代目高倉清勝社長がずっと抱いていた、欧米の農業への興味でした。

平成4年にイギリス・ドイツ・オランダ・フランスの4か国で開催した農業研修に参加し、その際に「ここでも南部箒を広めていきたい」と感じたのがはじまりです。

その後は、イギリス・フランス・スペインで開催された伝統工芸の展覧会や研修などにも参加し、ヨーロッパの市場動向を探ったり、商品のデザインやブランディングなどを学んだりしてきました。

特にどのような場所やイベントなら南部箒の魅力をうまく伝えらえるのかという明確な出口は、大きな課題として今でも残っています。また、文化が違う海外の人たちにどうすれば使っていただけるかということについても、どんどんコミュニケーションをして、海外でも通用する商品展開と販売力を磨き上げる必要があると感じています。

一方で、ありがたいことに現在はインターネットで商品を紹介したり購入できる環境が整ってきているので、展示会のみならず英語版WEBサイトを公開することで、今では海外からのお問合せもいただくほどになりました。

現在はコロナ禍で難しいですが、ゆくゆくは現地へ足を運び先ほどの課題を少しずつクリアしながら、その地域それぞれに併せての商品開発や販売展開など、まだまだ可能性は無限大です。

最先端の技術に注目が集まりがちですが、その一方で昔から伝わる一つのものを突き詰めていく良さもあります。

高倉工芸はこれからも、お客様の声に寄り添いながら、いつの時代も良いものを作り続けていきたいと思っています。

■オンラインショップURL

https://nanbuhouki.official.ec/

■日本語版HP

https://nanbuhouki.jp/

■英語版HP

https://nanbuhouki.jp/en/

■高倉工芸連絡先

代表：高倉清勝

〒028-6612 岩手県九戸郡九戸村戸田第９地割１１５

TEL. 0195-43-2826 / FAX. 0195-43-2052

MAIL. info@nanbuhouki.jp