手や足に障がいのある方の日常生活をサポートする介助犬を育成する（社福）日本介助犬協会（以下、協会https://www.s-dog.jp/）。なんらかの理由で介助犬に向かないと判断した犬たちを、「キャリアチェンジ犬」として障がいがある児者のご家族へ譲渡する活動を「With Youプロジェクト」として積極的に行っています。（https://s-dog.jp/with-you-project/）障がいを持つ方・ご家族と候補犬のマッチングを丁寧に行い、譲渡後のフォローアップも行っています。また、コロナ禍のあおりを受けて、相談もできず悩みを抱えたり、外に出ることもままならないご家族が多くいらっしゃると思います。そのような状況を受けてか、キャリアチェンジ犬引き取りについてのお問合せはコロナ禍に入り、確実に件数が増えております。なかなか対面でこまめなご相談等させていただくことが難しい状況で、お電話やオンラインで面談・ご希望の聞き取り・お試し期間中のフォローアップ等、今できる形で、犬との暮らしをご希望されているそのようなご家族を少しでもサポートできれば、とWith Youプロジェクトにはこれまで以上に力を入れ取り組んでいます。

今回、2020年4月にあるご家庭に譲渡した元介助犬の訓練犬：オズとその譲渡先のご家族、そして譲渡の際にオズとご家族のマッチングを行った協会職員に話を聞きました。

　オズはもうすぐ2歳を迎える、ブラック（黒色）のラブラドールレトリバーです。そのオズと戯れる男の子、中学生のA君。一見どこのご家庭でも見られる風景のようですが、お母さんがオズとご家族の様子について教えてくださいました。

介助犬のキャリアチェンジ犬を家庭に迎え入れようと思ったきっかけを教えてください。

テレビでキャリアチェンジ犬について拝見し、我が家の子どもたちにとっても有益になるのではと考え、希望しました。我が家には息子が2人います。長男（ADHD（注意欠陥多動症）で、自尊感情が低く、自傷行為があります。泣き叫んで、床に頭を打ち付けたりします。ADHDは根本的に完治するものではなく、一生付き合っていく障害です。母である私は可能な限り子どもに寄り添う生活をしていますが、それでも大変なことが多くあります。そんな時に知人宅で犬と楽しそうに遊んでいる息子の様子を見て、生き物を飼い、一緒に暮らすことで情緒が落ち着くのではないか、と思いました。それだけでなく、子どもの不安定さで家庭内が暗い雰囲気になってしまうことを改善したいと思い、日本介助犬協会のキャリアチェンジ犬を希望しました。

キャリアチェンジ犬を迎え入れるまでに不安に感じたことはありますか？

あります。以前外で犬を飼っていましたが、吠える・散歩中に引っ張る等、飼うこと自体がとても大変でした。発達障害がある子どもがいる我が家として大型犬を飼うことに対して不安はありましたが、小さい仔犬の時期から飼うことに比べてオズは1歳を過ぎ、人との生活の基礎ができていたため、その不安は払拭されました。事前に協会の方が我が家に合いそうな候補犬を評価してくれていたこと、また生活で困ったことがあっても電話で職員さんからアドバイスをいただけるのも大変ありがたかったです。

オズとご家族のマッチングでは、どういった点に気を付けましたか？

協会の訓練部で、キャリアチェンジ犬の担当をしております柴原です。

当会では、犬とご家族、双方が幸せに生活できるように、登録いただいているご家族の家族構成や生活スタイル、犬との生活で希望されていることと、キャリアチェンジ犬の性格等を考慮してマッチングを行います。

ご紹介前にご家族とお話をする中で、犬の飼育が初めてで、日中はおばあさまがお世話をされることもあると伺っていたこと、そしてお子さんの障がいの特性を考え、どの世代のご家族とも暮らしやすく、お子さんが感情的に不安定になった時にも影響を受けにくい、大らかでマイペースなタイプの犬が合っていると考えていました。

オズは他の犬と遊ぶのが好きなため介助犬よりも家庭犬の方が向いていると判断しましたが、とても暮らしやすく、マイペースな性格だったため、このご家族に合うのではないかと考えました。

オズを実際にご家庭に迎え入れてみていかがですか？

家庭内の雰囲気、そして様子は大きく変わりました。オズが来てくれてからは、それまで月一回のペースで起きていた長男の癇癪が一度も起きていません。感情を出すことが多くなかった長男ですが、オズと接する際には感情を込めた声がけをすることもできるようになりました。兄弟2人とオズで、それまでできなかったお留守番もできるようになり、私も1人の時間を少しずつ作ることができるようになりました。私の感情の落ち込みも軽減し、今オズは私にとっても心の拠り所となっています。

オズを候補犬とし、譲渡までに至ったことについて協会としてどう思いますか？

（協会：柴原）譲渡までに一定の「お試し期間」を設けています。With Youの対象のご家族の場合は通常の１~2週間より長い期間の「お試し」を行っていただいています。オズは介助犬からはキャリアチェンジとなりましたが、「マイペースでおっとり」した性格を活かして活躍できる場があればと考えていましたので、今回ご家族に迎え入れていただくことができ、本当によかったです。お試し中にも何度もご連絡をとり、その時疑問に思われていることや不安を感じられていることについてお話しできたことで、安心して譲渡日を迎えていただけたのではないかと思います。

オズについてご家族の気持ちを聞かせてください

帰宅した時にお迎えにきてくれるのが嬉しい。オズの目が可愛い。公園で、一緒にボールで遊ぶのが楽しい。学校から、オズがいる家に帰って来るのが楽しくなった。

A君：癇癪が起きて記憶がなくなることが少なくなかったが、癇癪を起こさずに落ち着けるようになった。

オズと一緒にこれからやってみたいことはありますか？

コロナが落ち着いたらオズとセラピー活動に挑戦してみたいです。

ご家族にとってオズの存在を一言で表すと？

お母さま：救世主。

息子さん：家族の一員。

介助犬だけじゃない

コロナ禍で人と人との接触だけではなく、つながりも少なからず減っており、悩みや孤独を抱えられているご家族も増えていらっしゃると思います。オズのご家族のように、犬との出会いを通じて一人でも多くの方が笑顔となれるよう、そして協会の犬たち一頭一頭がそれぞれ適性にあった、幸せな道に進めるよう、活動を続けてまいります。

オズのように、介助犬ではなく別の道で輝く犬たちはたくさんいます。それぞれの犬の個性や適性を見て、厳しい目で評価を行うからこそ、介助犬の道を進む訓練犬の割合は決して高くありません。こうした「介助犬にならない犬たち」は、イベントや講演活動で介助犬のお仕事紹介を行うPR犬、介助犬候補犬の安定的確保を支える繁殖犬などとして活躍する場合があります。他にも、当会は、PR犬を連れて病院を訪問する「動物介在活動」や、特定の患者さんに対して医師からの依頼の元実施する「動物介在療法」などのDog Intervention(DI)活動にも力を入れています。国の認定を受け、一部自治体から育成に対し補助金がある介助犬と異なり、こうした「介助犬にならない」犬たちには公的補助が一切ありません。「介助犬になれない」ではなく「介助犬にならない」からこそそれぞれの道で輝く犬たちの育成支援を、ふるさと納税である「ふるさとながくて寄附金制度」を活用し、支援を募っています。犬を通して一人でも多くの方を笑顔にできるよう、協会は活動を続けてまいります。皆様のご支援をよろしくお願い致します。

●ふるさとながくて寄附金

https://www.city.nagakute.lg.jp/soshiki/somubu/zaiseika/1/1/hurusatonagakutekihukinn/939.html

・募集期間：～2020年12月末日

●キャリアチェンジ犬引き取り・With Youプロジェクトについて

https://s-dog.jp/with-you-project/

社会福祉法人日本介助犬協会

https://www.s-dog.jp/

TEL:0561-64-1277

info@s-dog.jp