私たち日本介助犬協会は、手足に障害のある方の自立と社会参加促進を目的とした介助犬の育成を行なっています。介助犬は欧米で盲導犬よりも50年以上後発の1990年代に始まった分野です。欧米では、日本のような障害者手帳の制度はなく、また補助犬法のような公的な認定制度もありません。そのような制度がないことで、障害者ではない人が「This is my service dog!」と主張して店舗や飲食店、飛行機やホテルに犬を同伴し、その犬の管理が悪いことで受け入れた店舗等が迷惑を被った事例や、Emotional Support Dogと主張される犬が、盲導犬や介助犬、子供を襲って怪我をさせたという大きな問題も起きています。一方で新たなる分野が拡がるメリットも大きいといえます。昨今、欧米では「サービスドッグ」として軍人さんが社会復帰するためのPTSDサービスドッグ、精神障害者を助けるサービスドッグ、管理者は保護者である発達障害があるお子さんのためのサービスドッグ、糖尿病発作や心臓発作を知らせるメディカルアラートサービスドッグ、てんかん発作が起きた際のサポートをするサービスドッグ等々　新たなる個々人の障害に対する犬へのニーズを満たす分野が拡がっています。また、我が国でも拡がりつつある動物介在療法や動物介在活動、動物介在教育等の分野、動物介在介入と呼ばれる分野では、医師や看護師、理学療法士、作業療法士、臨床心理士等の専門職が、適性犬のハンドラーとなり、治療やリハビリテーション、カウンセリングの場に必要に応じて犬を介入させ、治療効果やリハビリ効果を上げる取り組みも拡がっています。当協会から聖マリアンナ医科大学病院に貸与している勤務犬モリスも2代目のハンドラーである看護師が研修を受け、病院ではなくてはならない存在として定着しています。このような分野で専門職と共に活躍する犬のことはファシリティドッグと呼ばれています。

＜聖マリアンナ医科大学病院にて＞

＜聖マリアンナ医科大学病院にて＞

そして、また、ファシリティドッグの新たなる分野として、アメリカを中心に司法の場で活躍する犬（アメリカでは「コートハウスファシリティドッグ」と呼ばれています）が増えているそうです。虐待や性被害を受けた児童が、面接や法廷の場で証言をすることは、同じ傷を再び経験するのと同じ、とても辛い経験になることは想像に易いです。大人を信じることが出来なくなる経験をした中で、証言することは再び三度と傷を負うことに等しいほど辛いことです。そんな時に、温かく柔らかな身体でそばに寄り添い、ひたすら共に時間を過ごし、身体を預けてきてくれる存在、それがコートハウスファシリティドッグで、日本では「付添犬」と呼んでいます。我が国でも性被害や虐待を受けた児童を支援する活動の中で、アメリカのコートハウスファシリティドッグのことを知り、日本でも導入をしたいという熱い想いを持った児童精神科医、獣医師、弁護士、人と動物の関係学の専門家らが集まっての取り組みが始まっていました。NPO法人神奈川子ども支援センターつなっぐの活動です。3年前、同法人理事である児童精神科医の新井先生と獣医師の吉田先生が当会に来訪され、どのように協力できるかを考えながら、情報交換を経て提携協力をするに至りました。

　当協会には寄り添うことが大好きな犬と、犬それぞれの適性を理解し、犬にストレスがないように個々の特性を活かしたかたちで人とつなぐ経験あるトレーナーがいます。日本でも、いずれはアメリカのように司法の専門職である裁判官や検察官、弁護士がハンドラー研修を受けて司法場面での付添犬の活躍の場が増えることを願いますが、当面の間は、私たちが介入をすることで、付添犬が活躍し、児童の支援になることを目指しています。

＜付添犬の様子（イメージ）＞

＜付添犬の様子（イメージ）＞

　私たちは司法の場としては完全なる第三者として、被害の状況を深く知ることはありませんが、硬く暗い表情をしていたお子さんが、犬を触るうちに表情が柔らかくなり、弁護士さんから「犬と会うのを楽しみにしている」、「ハッシュ（付添犬の名前）がいてくれるなら、頑張って話してみる」と聞くことが出来ました。そのお子さんにとって、少しでも温かくやさしく、穏やかな時間を感じることが出来たなら、それほど嬉しいことはありません。

　残念ながら、コロナ禍で児童が受ける性被害や虐待が増えていると聞きます。犯罪予防が第一なのは間違いありません。が、一方で被害にあった児童を支援する１つの方法として、そして、とても有効かつ温かい方法として、付添犬の活躍を求められた際にはすぐに出動できるように、これから益々私たちのプロフェッショナルな力を研鑽して行かなければと感じています。