厚生労働省のデータによると、美容師の離職率は1年で50％、3年で80％、10年で92％と言われています。高い離職率の原因として、①給料が安い　②長時間労働　③休日が少ない　④人間関係のストレス　⑤キャリアアップに時間がかかると、いった美容業界の問題点が挙げられます。

そんな中、美容師を雇って美容サロン「頭皮と肌の専門店～希翠（きっすい）～」をオープンし、4年で美容業界ではまだ珍しい「健康経営優良法人(中小企業部門2020」を取得、7割ママでもオープン当初から客単価2倍・売上400％アップを達成したフェリコ株式会社の代表取締役：赤羽亜希（あかばねあき）に話を聞きました。

Q1:スタッフの皆さんはまだ30代がほとんどで、健康診断も問題ないと思うのですが、なぜ健康経営に取り組もうと思ったのですか？

A:「オープン時スタッフは2名体制で、お客様に認知されるまでは休憩もきちんと取れていたのですが、だんだん忙しくなってくるとサービス業なのでやはり予約優先になってしまいます。そうすると夕方になってようやく休憩が取れる、忙しい日は１日通して休憩がきちんと取れないということもありました。そのようなことが続くとやはり若いスタッフでもカラダに不調が出てきますよね。誰かが体調不良で欠勤や早退になると、予約をカバーするために他の人に負担がかかり、その人も疲れが溜まるという負の連鎖が起こります。 福利厚生で「出張ヘッドスパサービス」を始めた際、美容と健康のアドバイスを行うスタッフが不健康だと説得力がないと思い、「健康経営」の取り組みを始めました。」

Q2:具体的にはどんなことを行ったのですか？

A:「食事・運動・睡眠の3つのバランスがきちんと取れていると健康状態が良くなると思いますが、弊社の場合は特に「食事」に課題がありました。

スタッフは毎日休憩中にインスタント食品やエナジードリンクなどを摂取ししていたのです。そうすると血糖値が急に上がるので食後は眠くなります。お客様がリラックスして施術中に寝ていただくのは良いのですが、施術しているスタッフが寝たら困りますよね。そこで、管理栄養士監修の国産無農薬のお弁当を福利厚生で導入し、毎月食事のリテラシーを上げるセミナーも行いました。スタッフの中には自らInstagramのアカウントを開設して、毎日食べるものを記録するようになった者もいます。

次に、運動に関してはタイムカードで出退勤管理をしていたのですが、「すこやか出勤」というシステムを導入しました。スタッフに活動量計を配布し、出退勤時にアンケートを入力することにより、意識や行動変容を促すツールです。アンケートは毎月変えていまして、健康に関するものだけでなく、何度言っても忘れてしまいがちな業務内容に関することも設定しています。*「ナッジ理論」を上手く使ったツールなので、継続して使っていると、こちらから何も言わなくてもスタッフが自ら動くことができるような効果も出てきました。

*ナッジ理論とは「文章や表示方法を少し変えることで相手に選択の余地を残しながらも、相手が自発的により良い選択をするように導くアプローチ」。

行動経済学の理論の一つ。　　　

他には、毎月MTGの際にウォーキングの講師や腸内環境の先生、保健師さんなどをお呼びし、運動や睡眠・受動喫煙に関するセミナーを行いました。」

Q3:実際スタッフの方に何か変化はありましたか？

A:「とても変わったと思います。実際、ずっと不妊治療をしていたスタッフも意識が変わり、食事を変えた結果自然妊娠をしましたし、以前は私が指示して動く感じでしたが、何よりスタッフの方から自発的に前向きな提案もしてくれるようになりました。今はコロナ禍で営業時間も2時間短縮しているので残業代は少なくなりましたが、金銭面においても特に大きな不満もないと直近の面談でも話してくれました。これは以前に比べると大きな変化です。」

Q4:他に何か取り組んでいることはありますか？

A:「弊社では、入社の時からどのような働き方がいいのか、本人の意向を尊重しています。今は正社員6名（うち2名育休中）、パート4名（うち1名育休中）、アルバイト2名（在宅勤務）、業務委託1名、という雇用形態になっています。

世間では「働き方改革」と言われていますが、弊社は単に残業を減らすことや副業を解禁するといった取り組みだけではなく、本質は「そこで働く人が働きやすい環境を作る」ことだと思っています。女性は結婚や出産、育児などでライフステージが大きく変わりますから、その度に正社員からパートやアルバイトまたはその逆を選択しても良いですし、他の会社の仕事にも関わりたいのであれば業務委託という選択もできます。

せっかくご縁があって一緒に働くことになったのであれば、選択肢を狭めてそのスタッフが辞めてしまうのはもったいないと思うのです。健康経営も最初はこれでうまくいくのか不安や疑問に感じたりもしましたが、今はスタッフが働きやすい環境で長く健康に働いてくれるのが企業にとっては一番の財産だと考えています。」

Q5.今後の目標を教えてください。

今は感染対策のため、ベッド数も１つ減らしていますし、営業時間も２時間短縮していますが、おかげさまで徐々に売上は戻ってきています。

今後は健康経営を続けながら、一人ひとりのパフォーマンスを向上させ、さらにお客様にも長く通っていただけるようなサービスを提供できるサロンにすることですね。

■代表取締役社長：赤羽亜希プロフィール

商社に勤めた後、結婚・出産を経て3人の子育てをしながらブライダルエステやヘッドスパの専門店の立ち上げ、スタッフ100名の管理・育成に10年間従事。

せっかくキャリアを積みながらも結婚や出産を機に美容業界を離れてしまう女性があまりにも多いと感じ、結婚・出産後でも仕事と家庭を両立出来て、女性が活躍できる会社の運営を目指して2015年11月起業。

◼会社概要

商号  ： フェリコ株式会社

代表者： 代表取締役社長　赤羽亜希

所在地： 東京都世田谷区三軒茶屋1-37-13オアシス三軒茶屋ビル３階

設立 ： 2015年11月

事業内容： 美容サロン「頭皮と肌の専門店～希翠（きっすい）～」の運営

URL ： https://felico.co.jp/