住宅内でたくさんの方がケガをしているのは知っていますか？

　家族とくつろぐ場所などと考えられている住宅には実は危険がたくさんあるのです。

そんな住宅の中でケガした患者さんを数多く担当してきたのが、株式会社HAPROTの代表をつとめる作業療法士の満元 貴治です。

　「ケガをしてもすぐ治るから問題ない」という言葉も多く聞かれますが、現実は歩けなくなった、介護が必要になった、場合によっては命を落としたという方が多く存在します。

　そして、これは自分だけでなく、大切な家族にも起こり得る話なのです。住宅内での事故は本人だけでなく、周りの方の人生も一変させてしまいます。

　そんな世の中を変えたいと思い、満元は病院を一念発起で退職、医療従事者から住宅業界に驚きの転身を遂げました。本ストーリーでは、その挑戦の裏側をお伝えします。

怪我をした患者の多くは、住宅内の事故が原因だった

　大切な人を守る安心・安全な間取り設計である「安全持続性能」は現在、業界紙で取り上げられるだけでなく、行政や大学、企業にと講演依頼が殺到し、この度初の書籍を発売し、住宅業界と医療業界を巻き込んでいます。

地域医療・介護従事者向けの講演会には

約100名が参加

　満元は、小学5年生の時に骨折したことをきっかけに医療分野の道に進むことを決意しました。理由は「リハビリを教えてくれた先生のように人を救いたい」でした。

1年目のリハビリ病院時代

　小学生の頃からの夢であるリハビリの先生になった満元はリハビリ病院、総合病院などで3000人以上の患者に携わり、様々な経験をしていくことになります。その中で芽生えた気持ちが「無力感」。

　重傷のケガを負った患者が手術後のリハビリに難渋し、後遺症が残るケースや、ケガにより歩けなくなり、介護を必要としたケース、家に帰れなかったケースなどを経験しています。

ケガした人をたくさん担当した総合病院時代

「誰も助けられない」

　人を救いたいと想い、飛び込んだ医療の世界では残酷な結果も多く存在しています。

特にケガした患者の多くは「住宅内事故」によって発生していたのです。

「安全持続性能」という新たな基準をつくることを決意した

　「もしかしたら、住宅内での事故を減らせば、ケガによって苦しむ人を救えるのではないか？」という考えが起こるものの、満元は実際にどうすればいいのか分かっていませんでした。

そんな時に、建築実務者から言われた一言。

「満元くんの基準を作ったらどうか？」

2021年に実施した建築実務者への説明会

　バリアフリーという言葉が一般化されていますが、これは高齢者・障害者の移動しやすさ、介助しやすさに主眼が置かれており、住宅内事故を防止することが目的ではありません。また、住宅内事故は高齢者が割合として多いものの、子どもや妊婦など社会的に不利になりやすい人も事故の発生場所は住宅内が最も多いのです。

　そこで満元は、「全世代が安心・安全に住み続けられる間取り」の基準を作成することを決意。そこで誕生したのが「安全持続性能」なのです。

全29ページにわたる基準は申込みが800件以上

　そして、この安全持続性能を住宅業界のあたりまえ、世の中のあたりまえにするべく、一念発起で病院を辞めて住宅業界に転身することを決意します。

　家族に病院を辞めて住宅業界に転身することを伝えます。その当時、満元は2人の子どもと、妻のお腹の中にはもう一人の命が宿っていました。

そんな状況下で妻が発した一言。

「辞めたらいいよ！お金のことなら大丈夫！やりたいことをやるのが1番！」

　この言葉に背中を押され、誰もやったことがなかった医療業界から住宅業界に転身し、新しい基準を広めるチャレンジが始まりました。

いつも支えてくれる家族

「なぜ」を伝え続けることで、住宅業界で少しずつ知られるようになった

事業を立ち上げた直後は懐疑的な言葉を投げかけられることもありました。

「誰も必要としていない」

「病院に戻った方がいい」

「病院で働いていないあなたに価値はあるのか？」

　もちろん満元はこれらの言葉に屈することなく、オンラインでの講演会、SNSなど様々な場所で発信し続けました。

まずは建築実務者に対しての発信。

　作業療法士の満元は家づくりを行なう人々を巻き込み、「なぜ住宅内事故を防ぐことが必要なのか？」「何が住宅内で危険なのか？」を伝え続けることで、少しずつ住宅業界で知られる存在となっていきました。

建築実務者向けの講演会は60名以上が参加

　住宅業界紙からの取材、企業や行政からの講演依頼が舞い込んできて、満元とともに安全持続性能を採用した家づくりを行なう住宅会社も全国に増えていったのです。

現在は、全国で20社を超える住宅会社と共に「安全持続性能の家」を普及させています。

次は医療業界に向けての発信。

　作業療法士としての経験などを通して安全持続性能が必要なことを発信することで、医療関係者から共感、賛同の声が大きくなってきました。そして、大学からも特別講義の講師として医療従事者の卵たちに話す機会が増えてきています。

広島大学医学部保健学科での特別講義

　そして、2023年9月には建築系出版社である学芸出版社から初の書籍「作業療法士が伝えたい ケガをしない家づくり～住宅内事故を防ぐ50の方法～」が発売され、建築実務者だけでなく、医療関係者が手に取るという前例がない売れ方をしています。

Amazonランキング1位を獲得

（住宅建築、建築文化部門）

建築実務者と連携を強め、全国に「安全持続性能の家」を増やしたい

満元は「これは自分の人生の役割」と話します。

　医療従事者時代に感じた無力感、人を救いたいという気持ちが安全持続性能の基になっています。安心・安全な間取りの家は、本人だけでなく、家族を守ることができます。だからこそ今後は、建築実務者と連携しながら全国各地に「安全持続性能の家」を増やしたい考えです。

　最後に「30年後、40年後にこの家で良かったと思ってもらえたら嬉しい」と満元は語っています。

・書籍「作業療法士が伝えたい ケガをしない家づくり～住宅内事故を防ぐ50の方法～」

https://www.amazon.co.jp/dp/4761528672

・講演、取材依頼は下記よりご連絡（土日祝日も対応）

yoshironoie@gmail.com

◆プロフィール

満元 貴治（みつもと たかはる）

株式会社HAPROT 代表取締役

作業療法士、安全な家づくりアドバイザー

臨床現場で11年勤務。2021年に独立。以降、広島県主催の講演会講師、広島大学医学部保健学科の特別講義講師など務めている。講演会は他多数。初の書籍「作業療法士が伝えたい ケガをしない家づくり～住宅内事故を防ぐ50の方法～」（学芸出版）が全国書店、Amazonなどで好評発売中。SNSの総フォロワーは1.7万人（2023年10月現在）。3児の父親。自身も住まいづくりを2016年に経験