コロナ禍でも楽しめるスポーツの場として、ゴルフの人気が集まっている。経済産業省の「特定サービス産業動態統計」によれば、2021年のゴルフ場利用者数は15.1%、ゴルフ練習場利用者数は17.8％の伸びを示しており人気は上昇の傾向にある。

福岡市西区にある株式会社サワライズが運営し、ゴルフ練習場として30年以上九州のゴルフ好きに愛されてきた『小戸ゴルフセンター』でも、2022年度は過去最高の入場者数を更新する見込みだ。

そうしたなか、同社はオーダークラブ制作会社、ゴルフイベント企画会社をグループ化し、ワンストップのゴルフ体験を提供する「サワライズゴルフプレミアム」を発表した。

業界でも例の少ないゴルフ事業会社3社での取り組みに至るまでの背景や今後の展望を、金融業界から転身し、小戸ゴルフセンターの立て直しと3社連携事業を主導したゴルフ事業 支配人の川上 義人に聞いた。

（ゴルフ場にて、所属プロ・井上沙紀選手と会話する川上）

18歳から始めたゴルフを61歳で仕事に

川上がゴルフと出会ったのは18歳のころ、高校を卒業して就職した百貨店の紳士服売り場の上司に誘われたのがきっかけだった。幼い頃から足が非常に速く、スポーツ万能で鳴らしていた川上だったが「最初はボールにもまともに当たらず、そこから火がついた」と練習を重ねると、2年目には社内でトップになった。

その後、金融会社に転職してもゴルフ熱は冷めず、あまり文化がなかったという会社の同僚も巻き込み盛り上げていった。

30年以上務めた58歳、責任者を務めていた支社に関わる統廃合が決まったタイミングで、川上は「十分やりきった」と早期退職を決断する。61歳を迎えて、次の仕事として選んだのがゴルフ練習場の支配人、一般応募から合格した。

「全てを変えた」立て直しで大幅な利用者増を実現

大好きなゴルフを仕事にした川上だったが、当初は何か具体的な野心があって入社した訳ではなかった。むしろ、プレーしたゴルフ練習場で支配人を見るたびに「楽でいいな」と思っていた。しかし、「入ったら全く違いましたね」と川上は振り返る。

小戸ゴルフセンターを運営する株式会社サワライズは福岡市西区や早良区などで不動産・飲食・介護・レジャー事業など、地域と暮らしに密着した幅広い事業を行っているが、当時のゴルフ事業は苦しい状況にあった。1989年5月の開場から30年以上運営をするなかで、近隣に競合する練習場が設立され、競争が生まれたことが要因だ。

地域に根付きサービス提供を行ってきたサワライズは、このままゴルフ場を絶やすことが地域の価値を下げると危機感を抱く。そうした状況を改善するべく、体制を一新する打ち手として川上が採用された。前職では責任者として複数の部署の立ち上げも経験していたことから、白羽の矢が立った形だ。2018年の入社後、それを聞いた川上は一念発起し、改革を進めていくことになる。

入社からここまでの5年間で「全てを変えた」と語る川上。いわゆる古い形の練習場から、現代に沿ったものへと一変させていった。

1. 打席機械・フロントシステム更新（プリペイドカード式からＩＣカード）
2. 施設の外装を高級感ある見た目へ
3. 打席内装の改良（清潔感が増し、モニターも付いた）
4. 自社のゴルフショップ開設（売り場面積も後から拡大した）
5. 待合室の拡張
6. 駐車場（台数の増加やアスファルトの補修など）
7. フェアウエイも天然芝から全面人工芝に変わった
8. 水銀灯からLEDへとフェアウエイ照明も更新された
9. シミュレーションゴルフ導入
10. トラックマンレンジ導入
11. レンジボールから本球（公認球）に変更

といった具合だ。

（フェアウェイの大きな変化が分かる）

（内装だけでなく、打席からも大きな変化が感じ取れる）

このような大きな変化もあり、川上の就任から平日は2.5倍〜3倍、土日休日も1.5倍の利用者増を達成した。

現在は、全60打席でトラックマンレンジを無料で使用できる奥行き180Yの練習場のほか、本格的な高麗芝のアプローチ練習場と人工芝のパター練習場も併設。ゴルフに必要な実践的かつ充実した練習環境、ゴルフシミュレーターや過ごしやすい待合室などの設備も多くの人が訪れる要因となっている。

2社のグループインによって生まれる新しい価値

ゴルフ練習場としての人気を取り戻しながら、成長を続ける小戸ゴルフセンター。そうしたなかで、2022年11月1日に九州地方のトップアマゴルファーが出場するイベントなどを運営するゼロゴルフ株式会社、12月1日に広島のオーダークラブの制作やゴルフ用品販売等を事業とする株式会社オキコバランスの2社がサワライズへ加わった。このグループインを通じ、3社連携でのゴルフレジャー事業である「サワライズゴルフプレミアム」が生まれている。

この取り組みは、支配人である川上の『小戸ゴルフセンター』を改善する中で描いた構想がきっかけだ。当時のサワライズにおけるゴルフ事業は、練習場の売上がメインだった。この1本柱という状況ではおぼつかないという危機感から、川上は店内ショップのオープンも行なってきた。店舗における販路拡大や高級志向であるお客様へのサービス向上を考えていたという。その中で、グループインとなったのは株式会社オキコバランスだった。

株式会社オキコバランスは、独自のフィッティング理論を基にオーダーメイドのゴルフクラブを制作・提供している。広島県と福岡県に店舗を持ち、多くのプロゴルファーにも支持される。

（フィッティングを説明しているオキコバランス 沖社長）

小戸ゴルフセンターとして提供できる幅を広げたいと考えている中で、オキコバランス社とであれば更に良いシナジーを生むことができると考え検討へ進んだ。

同時期に話が進んでいたのは、ゼロゴルフ株式会社のグループインである。同社は福岡周辺地区を中心に、「最強ダブルススクランブル決定戦」などアマチュアゴルファー向けのゴルフ大会を開催している九州最大のゴルフ大会運営会社だ。

川上自身もトップアマとして大会等へ参加することも多かったことから、ゼロゴルフの社長とは関係性があった。ゼロゴルフの運営するイベントは、本当にゴルフが好きで技術を高めてきた人が集まるため、この顧客層が『小戸ゴルフセンター』とマッチすると考えたのである。川上は「これはすごいことになる」と当時感じたことを振り返る。

更なる技術を高めるための練習場、そして次の柱として運営するショップに地クラブが置かれていると販売網も広がる。

「『地クラブ』の製造・販売などでゴルフ場とクラブ制作会社が連携したり、ゴルフ場と共同での企画・イベントなどの例はあるが、こうした業態が違いネームバリューもある3社が一体で行う事業は珍しく、価値があるのではないか」と川上は語る。

ゼロゴルフ株式会社が主催するゴルフの大会や愛好家としての付き合いの中で、以前より関係性があったという3社であったが、それぞれの事業の主な顧客層も一致しており、「それぞれが持つお客様により大きな価値を提供できるほか、福岡・九州のゴルフ愛好家にワンストップでゴルフレジャーをサポートできるようになる」という。

日本一のゴルフ練習場へ

事業としての具体的な企画やパッケージについては策定を進めている段階だが、相互送客の仕組みなどは既に仕掛けている。特に、サワライズゴルフプレミアムの中でオリジナルの地クラブが受け取れることは最大の魅力だ。ゴルフの愛好家に向けて、最大級のサービス提供が可能となる。

連携事業化によるシナジーを最大化するために、考えられることは多い。「今まで福岡一、九州一のゴルフ場を目指してきたが、今回の連携事業化をきっかけに日本一のゴルフ練習場を目指す」と川上はこの先を見据えた。

また、企業スローガンに「Rise Your Life.」を掲げるサワライズは、会社全体を通して福岡の住民が0歳から100歳までイキイキしていける街づくりを目指している。ゴルフ人口が最も多いのは40代以降となるが、若年層でも輝くことができる『サワライズカップジュニアゴルフ大会』というイベントも実施しており、3月28日には第2回を開催する予定だ。地域の活性化にも繋がり、ゴルフ業界全体の活性化にも貢献する。

今後も、更なる挑戦を通じて新しい街づくりを行い、熱意ある人（仲間）を増やしていきたいことが伝わる。61歳からの転身と社内での経験を重ねて熱意を持った川上のように、サワライズは挑戦者へ活躍する場を提供し、良いサイクルを回していく予定だ。