1982年、京都 北山の地に高級洋菓子店としてオープンした「京都北山 マールブランシュ」は、今年の10月に創業40周年を迎えます。創業当時から大切に守り続けている「モンブラン」や、京都土産の定番となりつつあるお濃茶ラングドシャ「茶の菓」とともに、これまで歩みを進めてまいりました。

ハレの日の贈り物需要として、そして京都土産となる観光需要としてのイメージが強いマールブランシュですが、昨年2021年にはオリジナルのキッチンカーを製作してケーキ移動販売の実施や京都大学医学部附属病院と一緒に考案したスイーツの販売、さらに現在東京国立博物館にて開催中の特別展「空也上人と六波羅蜜寺」での記念品として重要文化財「空也上人立像」とコラボレーションした茶の菓の販売など、ここ数年のコロナ禍でもチャレンジングな取り組みを数々行っています。

その立役者となるのは、マールブランシュを運営する株式会社ロマンライフの3代目、現常務取締役の河内 優太朗（かわうち ゆうたろう）と、現取締役の河内 康太朗（かわうち こうたろう）の2人。父親であり現代表取締役社長である河内 誠（かわうち まこと）の背中を追いながら、後継者としてマールブランシュのこれからを盛り上げるべく奮闘しています。本ストーリーでは、河内兄弟が見据えるこれからのマールブランシュの姿をお伝えいたします。

＜左：取締役 河内 康太朗（弟）、右：常務取締役 河内 優太朗（兄）＞

一軒の純喫茶からはじまった「西洋菓子の芸術座」

今から70年前、河内兄弟の祖父であり、現名誉会長である初代 河内 誠一（かわうち せいいち）がはじめた純喫茶「ロマン」が私たちマールブランシュの始まりです。1982年には2代目である現代表取締役社長 河内 誠が中心となり「おいしいコーヒーに合うおいしい洋菓子をつくりたい」という想いのもと、洋菓子店「京都北山 マールブランシュ」を開業いたしました。「西洋菓子の芸術座」をコンセプトとして、家庭では味わえない煌びやかな空間に色とりどりのケーキを揃えました。その中でもラム酒の香る「モンブラン」は、黄色い和栗のモンブランが主流であった当時としてはかなり斬新で、日本でいち早く茶色いモンブランを取り入れた洋菓子店として話題となり、創業当時から多くの方に愛され続けている私たちのスペシャリテです。

＜1951年　純喫茶「ロマン」開業＞

2007年には、お濃茶ラングドシャ「茶の菓」が誕生。京都 宇治白川をはじめとする宇治抹茶を使ったお濃茶のラングドシャにオリジナルのミルクチョコレートを挟んだお菓子です。約5年の年月をかけ、素材となる茶葉の選定から味わい、そしてしつらえまで、「京都クオリティ※」を掲げるブランドコンセプトの基、他にはない「ほんまもん」のお菓子を徹底的に追求いたしました。地元京都の方だけでなく、今や国内、さらには外国人観光客の方からも愛される京都土産として売り上げに大きく貢献する看板商品となりました。

※「京都クオリティ」…美味しさの原点である「素材」にこだわり、京都に根付いた匠の「技」を極める。そして日本人の求める繊細な「味」を四季と寄り添うおもてなしの「心」とともにお届けする、マールブランシュの美味しさの考え方。

＜創業当時からのスペシャリテ　モンブラン＞

＜お濃茶ラングドシャ「茶の菓」＞

「はじめはまったく継ぐ気がなかった」

ーーモンブランと茶の菓を中心に、40年間数多くのスイーツをお届けしてきたマールブランシュ。河内兄弟は幼い頃から父が運営するマールブランシュを近くで見てきました。大学生時代には、茶の菓の試作品が何種類も自宅のテーブルに並べられていて、毎日試食した感想を求められていたそう。身近な存在としてマールブランシュのスイーツと触れ合うことの多かった2人。しかし、自身が3代目として後を継ぐことは全く考えていなかったといいます。

優太朗：

はじめはまったく継ぐ気がなかったですね。もともと生クリーム系のケーキがあまり好きじゃなかったですし、周りから「ケーキ屋の息子！」と言われるのも嫌でした。就職活動をする時も、当社とは取引のない企業ばかり受けていました。大学卒業後は銀行で法人営業をしていたのですが、何気なくまわってきた新規取引先候補リストに挙がっていた当社の数字を見たのが入社のきっかけですね。あまりにも低いスコアにびっくりして、きっと自分が幼い頃はもっと厳しい数字だったんだろうと思うと、苦しい時期でもしんどい姿を見せずに育ててくれた両親に対して親不孝だなと思って、後を継ごうと決めました。

康太朗：

学生のころは親の仕事を少し「手伝っている」という感覚だけで、自分が社会人としてそのまま働くというイメージは持っていなかったですね。大学卒業後は東京で就職しましたが、ライフイベントがきっかけで京都に帰ることにしました。ただ兄弟経営で失敗している企業の話をよく聞いていたので、入社前には将来について2人で話す機会を持ちましたね。兄がおもむろに取り出したノートに絵を書きながら、熱く語りあった思い出があります。

ーー2人が入社する前からブランディングに力を入れていたマールブランシュでしたが、ブランドの弱みとして少し足りない物を感じていたといいます。

優太朗：

働く「人」が見えにくいブランドだなと感じる部分がありました。これまでマールブランシュのブランディングをするにあたって、デザインやお店のしつらえ、制服などとお客様が見える範囲のことはきっちりと作り上げてきていましたが、心を込めてお菓子づくりをしているシェフやパティシエなど「マールブランシュの〇〇さん」というような人がなかなか見えていなかったように思えます。働く人たちの温かさや努力や汗などをもっと見せていきたいと思っていました。

康太朗：

マンパワーなところが多く、時代に合ったことができていないなと感じていました。アナログで情報のキャッチスピードも遅いなと。時代に合ったことをもっとしていかないと、進化はないなと思っていましたね。

ーーこれまで、お菓子の製造や販売、マーケティングなどそれぞれ各現場業務を経験。2018年にはお互い常務取締役、取締役に就任し、後継者として経営について学びながら、優太朗はひとつずつ課題を整理しながら、康太朗は人付き合いの良さを活かして、それぞれが変革のために新たな取り組みに挑んでいます。

優太朗：

特に2021年の夏に誕生したオリジナルキッチンカーでの移動販売は、大きな反響がありましたね。実は何年も前から移動販売がやりたいとずっと夢見ていて、企画会議に出したこともあったんです。マールブランシュはこれまで移動販売をしたことがなく、店舗での販売のみでしたが、より広い地域の方にも当社のスイーツを楽しんでもらいたいと思っていました。しかし、当時はただケーキを車に積み込むということだけの考えとなっていて、具体的にどのようにお届けするのか、お客様に何を伝えたいのかまでは詰められておらず、提案内容が中途半端だったことからなかなか同意を得られず実現に至りませんでした。

そんな数年来温めていた企画だったのですが、コロナ禍に入り外出が制限される中で「不安な毎日を過ごしておられる皆さまに、スイーツで少しでも心安らぐ幸せなひと時をお届けしたい」と再度提案したところOKが出ました。コロナ禍だから通ったということもあると思いますが、数年前の提案を今思い返すと、地味でインパクトもなかったですね。当時は調整しきれなかった車のデザインまで徹底的にこだわり、街で見つけた時に思わずワクワクするようなキッチンカーを大胆に作り上げようと、再提案しました。「なぜ移動販売を実施するのか」をより明確にしたことでクオリティの高いものを実現することができたのではと思っています。

美味しいスイーツをお届けすることはもちろんなのですが、社員それぞれが想いを込めてお菓子をつくり、届けていることも伝えていきたいと考えています。だからこそ、協力会社に販売を委託するのではなく、社員自らがお客様のもとに商品を届けることに決めました。移動販売だけではなくデリバリーサービスもコロナ禍をきっかけに始まりましたが、立ち上げ当初は私自身も率先して配達していました。移動販売やデリバリーサービスを利用された多くのお客様からいただくお喜びの声がなによりも嬉しく、とても励みになりますね。

＜オリジナルキッチンカーでのケーキ移動販売＞

優太朗：

また、「喜びをリレーする」という私たちの理念メッセージについて考えたことも僕にとっては大きいです。これまでも創業の心「誘われたロマンへ今日は誘ってる」という言葉や企業理念が存在していましたが、このコロナ禍そして2020年秋の「ロマンの森」オープンをきっかけに、改めて私たちのブランドはどうあるべきなのか、自分なりに整理をしました。

とはいえ当社は何かとメッセージが多いので、さらに言葉が増えることに対しての反対意見も少しありましたね。これまで祖父や父が築き上げてくれたマールブランシュの過去を振り返りながら、今後目指す姿をたくさんの方とキャッチボールを交わしながら提案したことで、自分でも納得いくメッセージを作ることができたと思っています。

康太朗：

僕は「モンブラン再発見」と「チーム茶の菓」の企画が印象的ですね。マールブランシュは、パッケージデザインやお店のしつらえなど、ビジュアルのイメージが先行してしまっていてお菓子の本質的な美味しさが伝わりにくくなっているなと感じていました。

そのために「モンブラン」と「茶の菓」2つの看板スイーツの美味しさをさらに深堀りして、魅力を伝えるための取り組みを実行しました。「モンブラン再発見」では、フランスへ行き、マロンペーストを作るサバトン社、ネグリタ・ラムを作るバーディネー社など、モンブランの故郷を訪ね、改めて素材の美味しさを見つめなおした上でモンブランの味わいをブラッシュアップ。「チーム茶の菓」では、京都府宇治市をはじめとする合計8名の茶農家さんによる「土づくり」、茶鑑定士による茶の菓独自の「合組」、シェフによる「熱に負けないお濃茶の香り」と「オリジナルホワイトチョコレート」のバランスと、すべてにこだわり、込めた想いを発信しました。フランスには頻繁に行くことができませんが、京都の茶畑へは年に1回以上お伺いし、茶農家の皆さんと密にコミュニケーションをとることを大事にしています。

＜チーム茶の菓 茶農家の皆さん＞

＜フランス バーディネー社 見学＞

＜フランス サバトン社 クリストフ・サバトン社長と＞

どちらも企画するまではよかったのですが、実現までにたくさんの時間と労力をかけることになり、かなり大変でした。例えば「チーム茶の菓」での取り組みですと、お茶を専門にされる方々と一緒のレベルでお話できるように、まずはお茶の知識についてたくさん勉強しました。茶葉を育てるための環境づくりだけでなく、摘み取った生葉から荒茶となる工程、「合組（ごうぐみ）」と呼ばれる茶葉のブレンドなど…洋菓子業界の中でも僕が一番お茶に精通しているのでは、と自信を持って言えるほどここでは語りきれないぐらいたくさんのことを学びましたね。何度も茶畑に訪問し直接顔を合わせてお話をしながら、よりよい関係づくりに努めてきました。素材を見つめなおすことで、生産者さんが丁寧に育ててくださっているということを実感できましたし、僕たちのまだまだ知らないお茶のことをたくさん学ぶ機会となりました。この取り組みを通して「山の茶葉」「川の茶葉」と、特長の異なる茶葉があることを知ったのですが、「川の茶葉」をメインとした夏のお濃茶ラングドシャ「涼茶の菓」が誕生したなど、新たな商品の開発や販売に繋がりました。社内へのインナーブランディング、お客様への魅力発信にも繋がったと実感しています。

もうひとつ、マールブランシュではないのですが、僕が今責任者としてみているレストラン事業部の方で2020年4月にオープンさせた、うま味調味料専門店「京都祇園 うま味さん」の立ち上げもかなり挑戦的でしたね。ロマンライフ＝スイーツというイメージが強いことはもちろん、ロマンライフがつくる味に信頼を寄せてくださっているお客様の期待を裏切ることのないように、とことん美味しさにこだわりました。

＜京都祇園 侘家古暦堂 うま味さん＞

ライバルであり、1番のパートナー

ーー後継者として、トライアンドエラーを繰り返しながら共に歩みを進める河内兄弟。それぞれにお互いの関係性について伺いました。そして事業承継を目前に控えた今、マールブランシュをどのようなブランドに育てていきたいか教えていただきました。

康太朗：

兄は元々銀行で勤務していたこともあり、経営やお金の知識など自分には持っていないものを持っていて、よく面倒を見てもらっていることが多いです。兄としてはもちろん、常務取締役として活躍する姿を見るとちゃんとついていけるようにならないと…と焦ることもありますが、負けていられないと思う存在です。

優太朗：

僕も同じですね。肩書きに関係なく幅広い方々と交流を深めることのできる人付き合いの良さがあり、僕にはない天賦の才を持っています。お互いの感性や得意分野もそれぞれ違って、ときには意見がぶつかることもありますが、それでも河内家の兄弟として同じ想いをもっていると感じることも多々あります。いい意味でライバルであり、1番のパートナーですね。

康太朗：

今年の秋にマールブランシュは40周年を迎えます。これまで会長や社長が「お客様やスタッフを幸せにする」ためにと積み上げてきた進取果敢な気風を損ねてしまうと一気に古臭くなってしまうと感じています。これまで守り続けてこられたものをこれから兄弟2人で常にアップデートしながらパワーを発揮していく必要があります。そして京都の町にも貢献できるような活動をすることをこれからの夢として持っています。我々が中心ではなくとも、例えば他の企業さまと協同して新たな取り組みを行いながら、マールブランシュも京都の町を支えているんだと思えるようなことを行っていきたいですね。

優太朗：

これからのマールブランシュは守りに入ったらダメだと思っています。今まで以上に新しい「変化」をしていく必要がありますね。マールブランシュとしては40周年ですが、当社が運営するもう一つのレストラン事業部も今年で20周年。会社としても昨年70周年を迎え、これまで積み上げてきた経験からまだまだいろいろな可能性を秘めていると信じています。

そして「お客様の記憶に残るワンシーン」をたくさん作っていくことが私たちの使命だと思っています。美味しいお菓子をお届けすることはもちろんですが、その先のお客様がお菓子を召し上がられるシーンや大切な方にお渡しされるシーンなどが、ずっと心に残るようにお手伝いしていきたいです。マールブランシュのお菓子やサービスを通して「喜びをリレーする」感動体験をこれからもっと作っていきたいですね。私たちの想いを追求していくことで、よりクオリティが上がると思いますし、お客様の涙や感動を作っていくことができたらこれほど誇らしい仕事はないなと思います。

ーーお互いをよきライバル、そしてよきパートナーとして今後もマールブランシュのさらなる発展のために歩みを進める2人。最後に、今後控えている新たな挑戦について少し教えていただきました。

優太朗：

現在、マールブランシュの絵本を作ろうと取り組みを進めています。山科「ロマンの森」の店舗には380冊ほどの絵本が並べられていて、多くのお子様が絵本を読みながらスイーツを楽しまれています。僕も1冊ずつ読み進めているのですが、どれもメッセージ性のある素敵な物語ばかりです。内容についてはまだ未定ですが、マールブランシュ40周年の感謝の気持ちや私たちの「喜びをリレーする」のメッセージが伝わるようなお話になればと現在僕自身でストーリーを考えているところです。

康太朗：

先ほどお話した、うま味調味料専門店「うま味さん」と「マールブランシュ」の相互認知を高めるために、例えば商品開発など、事業部を越えた取り組みを積極的に行おうと動いております。既に「マールブランシュ ロマンの森カフェ」では、ランチメニューとしてうま味さんの商品を使ったスパイスケークを販売しており、お客様からも「これまでのマールブランシュとは違った新しい美味しさ！」と、嬉しいお声をいただいております。事業部は異なりますが、マールブランシュをより高めていく食の事業に取り組むことで、また新しい食の楽しさをお届けできるのではと考えています。

ーースイーツだけにとどまらない、新たな挑戦を続ける河内兄弟。マールブランシュは今後も「喜びをリレーする」ブランドとして、お客様に幸せなひと時をお届けできるよう歩み続けていきます。

【京都北山 マールブランシュ】

1982年10月25日創業の洋菓子店マールブランシュは、「京都クオリティ」というおいしさの考え方をもとに、四季折々の楽しみを大切に、京の美意識を活かした洋菓子をお届けしています。おいしさの原点ともいえる「素材」にこだわり、京都に受け継がれてきた匠の「技」を極める。そして季節の趣に寄り添う「心」でおもてなしをすることを大切に、京のスイーツをお届けしています。

公式ブランドサイト：http://www.malebranche.co.jp/

【京都祇園 侘家古暦堂 うま味さん】

2020年4月、祇園に開業したうま味調味料を販売する店舗。「うま味」と「縁起」をコンセプトとした店内には、「うま味増し粉うま味さん」を中心としたさまざまな調味料をご用意。

京の食文化に習い、味をかさねた「うま味さん」。どんなお料理にも振りかけるだけでお味がワンランクアップする万能調味料です。

公式オンラインショップ：https://umamisan-shop.com/