「国体」の名で知られてきた「国民体育大会」。前回の開催地はどこだったかご存知でしょうか。では、次回は？

歴史ある大会であるにも関わらず、規模と価値に見合った認知度ではなくなっていることに、「もったいなさ」を感じていた佐賀県。「国民スポーツ大会」と名前が切り替わる、最初の大会である、2024年国スポ・全障スポ（SAGA2024）を「前例のない新しい大会」にするため、佐賀県は新たなチャレンジを行っています。

今回は、その象徴となる「佐賀県内外で活躍する実在のアスリートのピクトグラム化」について、佐賀県プロジェクトリーダーの宮原さん、ピクトグラムを手掛けたデザイナーの先崎さんに語ってもらいました。

左から）佐賀県文化・スポーツ交流局 スポーツ総括監　宮原耕史、株式会社テツシンデザイン代表 デザイナー　先崎哲進 氏

◆70年以上の歴史を持つ国体を、前例のない新しい「国民スポーツ大会」へ

宮原：国民体育大会（国体）から国民スポーツ大会（国スポ）へと名称が変わる初回が、SAGA2024です。先崎さんは、これまで国体にそれほどなじみがなかったのですよね？

先崎：ええ。この取組に関わるにあたって、その歴史や担ってきた意義を初めて知りました。

宮原：実は、国体には70年以上の歴史があるんですよね。戦後の荒廃の中で意気消沈している国民に、「がんばっていこう」ということで始まったものです。各都道府県が持ち回りで開催地を担うことで、道路が整備され、体育館など競技場も作られました。国民を活気づける役割を担う、社会的意義のある取組だったのです。

しかし、70年以上が経った今、社会状況は大きく変わりました。開催地や参加選手以外の人たちには、次の開催地がどこなのかもあまり認知されていないと感じられる。国体から国スポに名前が変わることすら知らない人も多いかもしれません。

そうした中、兼ねてよりスポーツで県を元気にさせるプロジェクトに取り組んできた佐賀が、名称の変更というタイミングの初回開催地になりました。「前例のない新しい大会にしたい」と、熱い思いを持って準備に取り組んでいます。

先崎：私は、佐賀県が取り組む「さがデザイン」をきっかけに、もともと県との繋がりがありました。クリエイターとして数ヵ月に1度、会議の場でいろんなアドバイスをしておりました。宮原さんとの出会いは、そのころからですよね。

宮原：ええ。私はこの「さがデザイン」の立ち上げメンバーでした。「さがデザイン」はクリエイターの持つデザイン思考やコンセプトを重視して、コトやモノをつくりあげる中で、プロジェクトそのものを磨き上げる仕組みです。一般的に、行政がデザインを要するものを作る場合、代理店に委託したり入札を行ったりして進めていきます。しかし、入札制度で重視されるのは金額であり、コンセプトやデザインでないことが多い。そこで、佐賀ではクリエイターと協働して共に作り上げていく進め方を5年ほど前から実践してきたんです。先崎さんは、そうしたクリエイターのひとりでした。

総括デザイナーを置いたのも、「さがデザイン」から佐賀が大事にしてきたコンセプト重視の視点からです。SAGA2024では、統一感を持たせたデザインで大会を作りたかったので、市町村ごとにデザインするのではなく、県で取りまとめることにしました。

先崎：ピクトグラムの他、コマ撮りしたさまざまなランナーの映像を繋ぎ合わせるものなど、いろいろなデザインを提案しましたね。

宮原：本格的に取組を進める前段階で、「スポーツを軸にコンテンツを考えること」といった価値基準が作られていきました。「スポーツ」を軸に、あらためて一つひとつ要不要を洗い出していったんです。

先崎：「マスコットキャラは作らない」などもそうですね。国体時代には必要であっても、スポーツにこだわる国スポにはそぐわないと感じるものもありました。

宮原：これまで、国体は前回開催地からデータを引き継ぎ、準備を進めてきたと聞いています。国スポに切り替わるタイミングで、ゼロから作り上げたいという気持ちが沸き上がったんです。

先崎：「体育」と「スポーツ」の違いについてもお話しましたね。

宮原：なかなか「これだ」という定義づけをするのは難しいのですが、体育は「体」の「教育」でエデュケーションからのアプローチがされるものである一方、スポーツはもっと自由で自発的なものだと我々は考えています。

◆アスリートのピクトグラム化に込めた想い

宮原：先崎さんより「佐賀県内外で活躍する実在のアスリート一人ひとりの写真からピクトグラムを作り、その方のプロフィールやスポーツにかける想いも共に紹介する」とのアイディアを頂戴し、進めていくこととなりました。あらためて、このコンセプトに込めた想いをお聞かせいただけますか？

先崎：みんなで作り上げるプロジェクトにしたいという想いから、SAGA2024では「する」「観る」「支える」の3つをキーワードとして掲げています。みんなが主役になって作っていく象徴として、まずピクトグラムがあるのではと考えました。

私自身、これまで国体には誰が出ているのかもよくわかっておらず、はじめは「高校生が出ているのかな？」といったぐらいの認知だったんですよ。それが、あらためて知ると「これは国際的なスポーツイベントと同等だ」と。スポーツには、人に喜びや感動を与える力があります。国スポは、ふだん知られる機会の少ないスポーツが脚光を浴びるきっかけにもなる。本来のスポーツの力を、あらためて表現し直したいとの気持ちがありました。

宮原：先崎さんも、国体を観に行かれたこともあるんでしたよね。私も観に行ったんですが、正直、そのポテンシャルの高さに驚かされた。

先崎：ええ。多くの人が関わって開催されている、本当に大きなイベントなのだと知りました。

宮原：それなのに、もし、その盛り上がりが参加選手と開催地に留まってしまっているとしたら、これはもったいないことだと感じましたね。

先崎：私たちが国スポに取り組む責務や意義は、この価値のあるポテンシャルを多くの人に味わってもらうところにあるのだと思っています。

宮原：実際にピクトグラムの作成を行ってみて、いかがでしたか？

先崎：ピクトグラムの作成自体よりも、その前段階である各団体への依頼が大変だったのではないかと思います。ここは県の担当者さんが苦心してくれました。一カ所でも「うちは嫌です」という団体がいたら意味をなさない取組でしたからね。

宮原：前例のない取組なので、必ずしもすぐに理解が得られた訳ではありません。担当者からは、何度も丁寧に意図を説明し、「提供できる写真がない」という団体には自ら写真を撮りに行ったとも聞いています。

先崎：デザインに関しては、単に写真をシルエット化するのではなく、デザイン性を持たせるところに注力しました。躍動感や多様さ、感情を動かす動きをピクトグラムで感じてもらいたかったんです。色はブルーも含め、複数のビビッドカラーを使いました。

宮原：「イシンブルー」ですね。明治維新150年を機に、佐賀で使用した青色です。

先崎：そうです。できあがったピクトグラムに対し、お見せした団体さんからはどのような反応がありましたか？

宮原：「かっこいい」との声が寄せられていると担当者から聞いています。依頼当初はネガティブな反応だったところからも、ポジティブな反応をいただいているようです。団体としてこのピクトグラムを使いたいとの声もありますよ。

先崎：それは嬉しいです。やはり、実物を見てみないことには狙いが伝わりにくい部分があったのでしょうね。

◆ピクトグラムに表されたアスリートの裏側まで知ってほしい

先崎：私を含め、なぜ国体があまり注目されてこなかったんだろうと不思議に思っています。プロスポーツも甲子園も、そのスポーツをやったことがない人が見るじゃないですか。今回、国スポに変わるタイミングでみんなに「日本で一番のスポーツイベント」として知ってもらえたらと思いますね。

日本を盛り上げる一つのきっかけにならないかなと。今回のピクトグラムには、それぞれにアスリートのストーリーがあります。今後、HPにも公開していくので、ぜひアクセスしてみてほしいです。一つひとつのピクトグラムに血の通った選手の物語が詰まっていると知っていただき、そこからスポーツへの興味に繋げていただけたら嬉しいですね。

宮原：「前例のない新しいチャレンジ」の中で、ピクトグラムは大きな一つの取組です。通常、ピクトグラムは無機的なものですが、今回は裏側に物語がある。どこか別世界でやっている大会ではなく、もっと近い世界で選手が想いを持って取り組んでいると感じてもらえる象徴になってくれたらいいですね。スポーツの意義にまで想いを馳せてくれたらなと思っています。

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