万が一、自動車で事故を起こした時、大半の方は、ディーラーや近隣の自動車修理工場に持ち込み、損傷箇所の修復を依頼するでしょう。そうした際に役立つのが、コグニビジョンが開発し、提供している事故車修理費見積りシステムです。システム上で車種を選択し、イラストで示される損傷部位や部品、塗装、各種費用をクリック操作などで入力していくだけで、簡単かつ迅速に見積金額を算出できます。損害保険会社と自動車修理工場の間の金額交渉もスムーズに行うことが可能で、使い勝手の良さから、全国の工場で導入が進み、多くの顧客から支持されています。

　その自動車を修理する現場にとってなくてはならないシステムの要となるのが、修理費算出のベースとなる、自動車部品のデータです。どの損傷部位にも対応できるように、修理に必要な多くの部品データがコグニビジョンの事故車修理費見積りシステムに収録されています。国産車のあらゆる車種を網羅して最新データが収録されているため、データ量は膨大です。

　では、そのデータがどのように構築されているかといえば、実は“人の手”によって作られています。膨大なデータ量かつ、ロジックが複雑なため、人の手による作成が必要不可欠なのです。メーカーごとに異なる部品名や項目を独自に規定した一定のルールに基づいて統一し、システムのデータベースに登録していくことで、どのメーカーのどの車種でも、素早く正確な見積金額を算出できる仕組みになっています。

　そうした事故車修理費見積りシステムにとって極めて重要なデータ開発部の一員となっているのが、2021年4月からコグニビジョンで働く入社3年目の武（たけ）です。彼女は新卒で入社した当時、車種や車の構造などの知識がほとんどない状態でスタートしています。それが3年目の今では、データ開発部のホープとして活躍しています。どのように育成がなされ、データ作成のプロフェッショナルになったのか。武と研修の指導員である堀田（ほった）の話を通じ、データ作成の裏側に迫ります。

独自のルールに基づき、膨大な量のデータを作成

人の手による地道な作成が現場の利便性を支える

　事故車修理費見積りシステムに収録する自動車部品のデータは、各メーカーが発行する部品カタログを参考にして登録していきます。「それならば、カタログのデータを転記すればいいだけではないか」と思われるかもしれませんが、事はそう単純は話ではありません。

　では、データ作成のプロセスを順を追って見ていきましょう。まず、自分が担当する車種が割り当てられます。最初に行うのが、その車種の部品カタログから修理に関係するパーツをピックアップしていくことです。自動車の部品はガソリン車で3万点、EV（電気自動車）で2万点と言われており、その中から修理関連のパーツを数千点抽出していくのです。

　その上で、メーカーによって名称や項目が異なるパーツを、独自のルールに基づいて統一化し、システムのデータベースに登録していきます。パーツにはカラーバリエーションがあるので、その情報も入力すると同時に、パーツの価格、修理に要する作業時間情報も登録していきます。作業時間情報は非常に複雑で、例えば、修理でバンパーを取り外す作業がある際に、車種によってはその前にヘッドライトも外す必要がある場合もあり、そうした細かい工程も資料から読み取り、情報を入力していくのです。

　つまり、パーツ数×カラー数×作業時間情報の掛け算の分だけ、登録するデータの数があり、それを1車種につき数千パーツ分行うわけですから、時間がかかる作業になります。こうやって、人によるデータ作成を1車種、1車種地道に行っているからこそ、現場ではどんな車種でも選択するだけで使われている部品が提示され、価格も工賃も自動的に算出されて、迅速に修理費の見積りが行える利便性の高いシステムが実現できているのです。

就職活動の説明会で社員の優しさに触れて好印象

アットホームな雰囲気を好感し、入社を決断

　そうした知識、スキル、ノウハウを求められ、現場での円滑な見積り作成を縁の下の力持ちのように支えているデータ開発部に、21年4月、新入社員として加入したのが武です。

　入社から遡ること1年数か月、武がコグニビジョンという会社を知ったのは、就職活動をスタートし、エージェントに自分のレジュメを登録した後のことでした。武は、「仕事と共にプライベートを充実させたい」といった項目にチェックを入れており、それらのニーズに応じてエージェント側がコグニビジョンを選定し、会社説明会の案内を送ったことがきっかけです。また、大学時代は「万葉集」を研究テーマとして、万葉集に出てくる単語1つ1つを調べながら論文を書いた経験があり、「ジャンルが違っても同じように調べながらコツコツと作業を行う仕事は向いているのではないかと感じた」と武は話しています。

　しかし、当初、武は業務内容に書かれていた「データ作成」という仕事について、明確なイメージを描けなかったと言います。

「会社説明会に参加し、自動車の修理に関するシステムを開発している会社であることは理解できたのですが、具体的にどのような作業を行うのかはやや未知数の部分もあったのです。ただ、業務や社風を説明する人事の社員や、デモンストレーションを行う社員の物腰が柔らかく、教え方がとても丁寧で、人間関係はとても良好な会社だということは分かりました」（武）

　そうした人の良さに惹かれて、追加で行われた説明会にも参加。「説明会では、座談会のような形で、入社2～3年目の社員と話をする機会もあったのですが、どんな質問にも優しく答えてくれて、非常に好印象でした。自分がデータ作成を行っていけるかどうか多少不安があったことは確かですが、それでもこうした親切な人が多く、アットホームな雰囲気であれば、自分でもやっていけるのではないかと思い、コグニビジョンに入社することに決めたのです」（武）

特殊な知識とスキルを身に付けるための丁寧な教育

指導員がしっかり付き、個々のペースに合わせて支援

　21年4月に入社し、武がまず安心したのが、先輩社員が説明会の時と変わらず、とても優しく接してくれたことです。一方で、驚いたこともあります。それは、データ作成の研修制度が非常に手厚いことです。入社1年目は集合研修を行った後、OJTによるデータ作成業務に取り組みます。指導員の先輩社員がそばにいて、わからないことはその指導員が説明して作成業務に慣れていきます。2年目以降も自身が作成するデータを増やしていくために、研修、OJTによるデータ作成を繰り返しながら業務を習得していきます。

　なぜ、そこまで時間をかけるのか。それは、データ作成という業務が特殊な知識やスキルを必要とするため、それを会得してひとり立ちするためには相応の訓練が必要だからです。「それぞれの登録のやり方について知識やノウハウが蓄積されていないと、作業を行うことはできません。したがって、教育に時間をかけるのは必然であり、コグニビジョンのデータ開発部に入ったからには、これは誰もが通る最初の関門となります」と、堀田は言います。

　ただし、最初のうちは、実際に商品がどのように使われているかなど全体像が見えない中で、1つ１つのデータ作成を行って実践的なスキルを修得することに注力するため、「多少困惑する部分もある」と堀田は話します。「私たちとしてはできるだけ早く作業ができるようになって慣れてもらいたいので、当面は全体像の理解は不要とあえて割り切っています。様々なことを詰め込み過ぎると混乱してかえって育成に支障をきたすからです。勉強して、実際に仕事でデータ作成をしていく中で、『こうした使い方をされている』『こんな風に役立っている』というのが後追いで分かってくればいいというのが私たちの考え方。そのため、全体像が見えずにつまずきそうになったら、それは後で必ず理解できるので、当初はデータ作成をすることだけに集中するようにと新入社員には伝えています」（堀田）

　では、実際にどのように研修を進めていくのでしょうか。具体的にいうと、1年目の教育期間は主に3つのパートに分けられます。入社後、初めに実施されるのが集合研修です。データ開発部に配属された同期社員と一緒に、マニュアルを見ながらデータ作成の基礎を学びます。新入社員1人～2人につき指導員が1人つき、マンツーマンに近い形で研修は行われます。

「当初はわからないことだらけでしたが、不明点はすぐに聞ける体制が整っていたので、置いていかれることなく、着実に知識を身に付けられました。また、私を含めてデータ開発部に配属された同期入社の社員が3人いて、同じレベルの理解度で進捗していったため、連帯感があり、学ぶ意欲につながりました。休憩中は雑談をして、それに指導員も加わって盛り上がったりして（笑）。メリハリを付けて進められたことも良かった点だと思いますし、私としては『楽しかった』というのが正直な感想です」（武）

　集合研修が終わると、実在する車種のカタログが支給され、データを作る実践形式の演習が始まります。毎日指導員の横で作業をするため、ここでも分からない点は即座に質問することができます。ただ、難しいのが、スケジュールの立て方です。作業量が膨大となるため、当初は終わりが見えずに焦りを感じることもあります。「それでも、演習で5車種のデータ作成を経験して十分に練習できるので、徐々にスケジュールの立て方も上達します。そこは手厚い研修期間でカバーできると考えています」（堀田）

　そして、演習が終わると1年目の総仕上げとして、実際にシステムに登録してユーザーに提供する“製品”となる「本番車種」を割り当てられ、指導員のサポートを受けながら、データ作成にトライしていきます。「データ作成は難解なこともありますが、こうやって指導員がしっかり付いて、個々のペースに合わせて教育を行います。皆さん、性格はそれぞれ異なりますので、その時々で教え方を変えて、伸び悩んでいる人には別の手法で行うなど、様々なアプローチを試します。こうしてきめ細かく教育を施すのがコグニビジョンならではの進め方です」（堀田）

　一方、データ開発部にはフレッシャーズサポートという制度も導入されています。年次の近い先輩が1人付き、備品の使い方から交通費の申請まで、業務以外の様々な社内ルールを教えてくれて、相談にも乗ってくれます。「私には入社3年目の先輩がサポーターとして付いてくれました。日々、先輩の方から声をかけてくれたり、わからないことがあれば私の方から聞いたり。気軽に話せる先輩が1人“確約”されている点は、大きな安心材料になりました」（武）

コツコツ作業を積み上げて最後に大きな達成感を味わえる

苦しい時には励まし合い、コミュニケーションも活発

　今では、武は3年目となり、既に10車種以上のデータ作成を経験し、一人前の作成者として活躍しています。「データ作成は地道な仕事です。基本的には1人1車種が割り振られ、1車種を終えるのには数か月かかります。言ってみれば、1人で少しずつタスクを積み上げていって、長い月日をかけて1つの成果を出していく業務です。確かに向き不向きはあるかもしれません。しかし、私にとってはこうしてコツコツ作業を進めて、最後に出来上がった時に大きな達成感を味わえるデータ作成の仕事に非常にやりがいを感じています。また、1人でやるといっても決して孤独を感じるわけではありません。周りには優しい先輩たちがいて、苦しい時は励ましてくれますし、日々コミュニケーションを取りながら業務に取り組めています」（武）

　最近では一定のスキルが認められ、収録部品の多い難しい車種の担当も任されるようになっています。また、今では、武自身もフレッシャーズサポートで新入社員をフォローしており、従来とは逆の立場でデータ開発部の新しいメンバーを支えるポジションを担っているのです。

ワークライフバランスを実現できる職場

男女の性別に関係なく活躍できる環境がある

　こうして業務内容を見ていくと、根を詰めた作業で残業も多くなるのではと思われるかもしれませんが、「その心配はない」と武は言います。「進捗が遅れている時は多少残業をすることもあります。しかし、リーダーに事前に残業が多くなりそうだと申告すると、作業を分担するなど調整してくれます。そうした周りのサポートが必ずあることもこの会社で働く魅力です」（武）

　ある程度自己裁量で業務を調整できるため、プライベートを充実させることも可能。武は入社前に思い描いていたワークライフバランスを実現させています。「私自身、平日の夜に太極拳の教室に通ってリフレッシュし、その他にも推し活をして、土日は友達とランチをするなど、充実した日々を送っています」（武）

　一方、データ開発部はどのようなメンバー構成になっているのでしょうか。同部署は女性社員が大半を占めています。データ作成を担当している男性社員は堀田も含めて2人です。こう書くと、「男性は働きにくいのでは」と感じるかもしれませんが、「決してそんなことはない」と堀田は話します。「データ作成という作業は当然のことながら性別は関係ありません。実力さえつけば立場は皆対等であり、女性だから、男性だからという意識はなく、互いに“同僚”として接しているのが基本です。要は、データ作成というコツコツと積み上げていく作業をどう思うかがポイントであり、それが苦手でなく、かえって自分の資質や力を発揮できると考えるのであれば、性別に関わらず活躍できる職場だと思っています」（堀田）

　そうしたデータ開発部の中で、武は自分の実力をより向上させることに力を注ごうと考えています。「現在は、最新車種の部品データを可能な限り早く事故車修理費見積りシステムに反映できるように、“早期発行”という取り組みを実施しており、その中で私も先輩から頼られる戦力となれるように努力していきたいと思っています」と、武は胸の内を語っています。