＃開発ストーリー　＃ポリ乳酸　＃PLA　＃サステナブルファッション

世界で生産される洋服などの布地のうち、約6割がポリエステルなどの化石由来の原料からできている。夏に速乾性や冷却効果を期待できる生地もそうだし、シルクっぽい風合いを気に入って購入したお気に入りの一枚ももしかしたらポリエステル製かもしれない。

そんな布地の世界に一石を投じたのが、最近、アパレルや雑貨などでにわかに注目を集める、トウモロコシ由来のポリ乳酸（PLA）繊維だ。

「化石由来の繊維が生み出す便利な機能をそのままに、原料を植物由来などのサステナブルな素材にしたい」。化学の専門商社であるハイケムが約3年前に抱いたこの想いは、現在多方面でその成果が見え始めている。

2021年にはハイケムのオリジナル素材ブランド「ハイラクト®（HIGHLACT®）」を発表。そして、2023年の春夏コレクションでは、SHIPSやメゾンスペシャルを始めとする14ブランドがハイラクト®（HIGHLACT®）を採用した。

今日は、なぜ、化学専門商社のハイケムがアパレルの改革に乗り出すのか、また今後の歩みについて、ハイケムのファッション・アパレル部門を管轄するサステナベーション本部の高裕一本部長に語ってもらった。

ハイケム株式会社　サステナベーション本部　本部長　取締役　高　裕一

きっかけは中国での生分解性プラスチックの生産拡大

2020年中国各地で、ポリ乳酸（PLA）を始めとする、生分解性プラスチックの大増産計画が持ち上がっていた。中国当局が環境保護を目的に使い捨てプラの使用禁止方針を出したことに端を発するこの事象は、日本と中国の間で化学品の輸出入を得意とするハイケムもいち早く察知した。

中国出身の高潮社長の人脈で、現在、世界最大の中国のポリ乳酸（PLA）メーカーの豊原集団（安徽豊原集団）と事業戦略パートナーシップ契約を締結。ハイケムは日本でもポリ乳酸（PLA）の市場開拓に乗り出すことになった。

なぜ、化学専門商社のハイケムが、ファッション・アパレルに取り組むのか

社内で特別プロジェクトが立ち上がり、様々な領域への営業活動が開始された。そしてポリ乳酸（PLA）の課題が浮かび上がってきた。化石由来のプラスチックや衣服がこんなに大量に世の中に出回っているのには訳があった。価格と品質において化石由来のプラスチックが圧倒的に優位なのだ。

その時、浮上した案がポリ乳酸（PLA）をファッション・アパレル向けに提案していく案だ。ポリ乳酸（PLA）は耐熱性が低いのが弱点、繊維には絶対にできないと業界内では結論付けられ、社内でも大きな反対の声が多数あがった。それでも高裕一本部長は繊維の開発に踏み切った。

「ポリ乳酸（PLA）に取り組む中で様々な課題が出てきたけど、やっぱり最大の課題はコストです。10年前に日本で開発されていたのに、ポリ乳酸（PLA）がなぜ普及しなかったかというと、やはり物性がポリエステルとほぼ同じであるのに対し、コストが10倍も20倍もしてしまうから。

近年は世界的なカーボンニュートラルや中国の量産化の流れを受け少しずつコストが下がってきていますが、まだまだコストの課題はついて回ります。

そんな中、ポリ乳酸（PLA）に付加価値をつけて展開していこうとしたときにアパレルというのは一つの良質なコンテンツだった。」

さらに、ファッションの可能性についてこう語る。

「ファッションというのは生活と日常の中に当たり前にあって、でもただ消費されるだけの袋やストローやペットボトルとは違って、みんなが自分という人間の生き方や考え方、価値観の体現の手段としている。

そういうものは実はそんなに多くないし、そこにはただ消費されて捨てられるものにはない、だからこそ大きな事業としての価値がある。」

「古くて新しい」ポリ乳酸（PLA）繊維とは？

ここで、ポリ乳酸（PLA）繊維とはどのような特性を持つのかについて、少し解説しておきたい。

ポリ乳酸（PLA）繊維とは生育過程でCO2を吸収する、とうもろこしなどの植物を原料としているためカーボンニュートラルな性質を持つ素材だ。また、使用後は一定の条件下で、微生物により水とCO2に分解される生分解性も併せ持っている。

これゆえ、20年以上前から日本の大手メーカーが研究開発を進め、事業化されていた。しかし、PLAは通常のプラスチックと比べると強度や耐熱性が低いという欠点が指摘され、特にアパレル分野においては、染色において圧倒的に不利であるとされ、事業化が断念されていた。

当社のアパレル・ファッション部門でプロダクトマネージャーを務める藤原は、当時の様子をこう語る。

「ポリ乳酸（PLA）は高温に弱いという特徴があって、高温での処理が難しいため、濃い色がうまく染まらないというジレンマがあった。だから、「黒はポリ乳酸（PLA）では表現できない」というのが長い間の業界の固定概念だった。ファッションとしてポリ乳酸（PLA）が普及しなかった最大の理由は染色にありました。」

100年の歴史を持つ日本の老舗繊維メーカーとの協業を開始

それでは、どのようにしてポリ乳酸（PLA）の繊維化に成功し、2021年にハイラクト®（HIGHLACT®）を上市したのか。

ハイケムはもともと化学の専門商社、繊維に関するノウハウは全くのゼロからのスタートだ。そこで、協業したのが、いずれも100年の歴史を持つ老舗のテキスタイルメーカーだ。2021年には欧州のラグジュアリーブランドなどにも生地を供給する小野莫大小工業、2022年には1751年創業の老舗の繊維商社タキヒヨーと業務提携を結んだ。

「ポリ乳酸（PLA）の弱点はやっぱり、糸の強度と耐熱性が低いこと。ポリ乳酸（PLA）は繊維にしてはいけない素材だと言われていたわけです。それが、ポリ乳酸（PLA）100％のフィラメントで当初は無理だといわれていた、フォーマルブラックが表現できるようになりました。これが実現できたのは、やっぱり小野莫大小工業さんやタキヒヨーさんのような、日本で長い間培われてきた技術力がなせる技なのです。」

完成したポリ乳酸（PLA）100％のフィラメント「フォーマルブラック」

ファッションの本場ヨーロッパへの挑戦の端緒として、ミラノでの見本市に出展

そして、2023年9月にファッションの本場ミラノで開催される国際的な糸とテキスタイルの見本市フィーロに出展。ヨーロッパを中心とするテキスタイル産業全体では、サステナブルが不可欠な要素になっている。

「実際にヨーロッパの展示会などでは、ポリ乳酸（PLA）は、ほとんど知られていません。サステナブルな繊維では、リサイクルポリエステルぐらいしかないというのが現地の共通認識です。」

更に、ヨーロッパ市場の魅力についてこう語る。

「アパレルの事業というのはヨーロッパのハイブランドが起点。まず彼らの特徴として糸一つ買うにしても値段よりはストーリーやコンセプトで買う。なぜならブランド価値を毀損することが彼らの最大のリスクであって、多少の原料の価格差などそれにくらべればたいしたことではないからです。

そして今、カーボンニュートラルという価値をアパレルの世界に浸透させようとしています。彼らのいうカーボンニュートラルをかなえていくためにはコンテンツを生み出す力というのももちろんそうなのですが、ちゃんと生活に根付いていけるくらいのコストとスケールを兼ね備えた新しい素材を開発し発信していくということが重要です。」

CO2からポリエステル原料を製造する、最新鋭のサステナブル素材の開発

化学をバックグラウンドに持つハイケムは、まったく新しい分野のサステナブル素材の研究開発にも力を入れる。ハイケムでは、2020年からNEDOの受託事業として、日本の大手企業や大学と共同で、CO2からポリエステル原料を生産する技術開発を行っているのだ。

　CO2からポリエステル原料を生産する際に用いる、ハイケムが開発した工業触媒

「CO2からポリエステル原料を生産する技術開発が進めば、温暖化の主な要因となっているCO2を直接取り込んで衣服としてリサイクルすることができる。これぞ、究極のサステナブル素材といえます。服を買うことでCO2の削減に貢献できる。そんな、未来はもうすぐそこまできています。」

商品情報・プロジェクト情報URL：

■ハイラクト®関連情報

ハイラクトオフィシャルHP：https://highlact.com/

ハイケムプレスリリース(2021/12/1)：ハイケム、次世代のサステナ素材HIGHLACT™（ハイラクト™）を発表

https://highchem.co.jp/topics/highlact/

ハイケムプレスリリース（2023/3/30）：PLA100%のフィラメント糸 日本初の製品化　ハイファッションブランド『メゾンスペシャル』に採用

https://highchem.co.jp/topics/maisonspecial_hl/

ハイケムプレスリリース（2023/4/24）：SHIPSが2023年春夏コレクションに　PLAの新素材「HIGHLACT®（ハイラクト®）」を採用！

https://highchem.co.jp/topics/hl_ships/

ハイケムプレスリリース(2023/8/31)：日本発の新サステナブル素材「ハイラクト®」がグローバル展開を加速　ミラノ開催の国際的な糸とテキスタイルの見本市“Filo”に出展！

https://highchem.co.jp/topics/60thfilo/

■CO2を原料とするパラキシレン製造に関する情報

ハイケムプレスリリース（2020/7/14）：CO2を原料とするパラキシレン製造に関する開発に着手

https://highchem.co.jp/topics/2020-07-14/

ハイケムプレスリリース（2023/3/10）: CO2を原料とするパラキシレン製造

～パイロットプラントにおいてパラキシレンの製造、単離に成功～

https://highchem.co.jp/topics/pxylen/