"文化をまとう"という選択。V&Aと紡ぐ、フェアトレードとアートの新しい関係

V&Aコラボレーション

#V&Aコラボレーション #ピープルツリー #フェアトレード

2025年12月8日 13時00分フェアトレードカンパニー株式会社

アーカイブの名作を現代に。ピープルツリーとV&Aが8年かけて育んできた、静かで豊かなものづくりの物語。

ロンドンのミュージアムに所蔵されている、一枚の壁紙。

19世紀に描かれた花や葉のパターンが、時を経てインドの工房へと渡り、職人たちの手で布に写し取られる。そして、遠く離れた日本で、誰かのクローゼットに並ぶ。

フェアトレード専門ブランドピープルツリーとV&A（ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、ロンドン）のコラボレーションは、そんな静かな旅を続けてきました。2017年秋冬に始まったこの取り組みは、2025年で9シーズン目を迎えています。

ミュージアムのアーカイブが、日常の服になるまで

ロンドン西部に位置するV&Aは、1852年ヴィクトリア女王即位中に設立され、約280万点のアートやデザインから陶磁器、彫刻や写真など幅広いコレクションを所蔵する、世界最大級の工芸と装飾美術の博物館です。

創設時より「芸術を身近なものとする」ということを使命とし、現在でも、デザインを通して生活を豊かにし、想像力をかきたて、新発見や学習ができるミュージアムとなっています。

2025年春には、新施設「V&Aイースト・ストアハウス」が東ロンドンにオープン。

通常は見ることのできない収蔵庫や修復作業の現場を一般公開する画期的な試みで、世界的な注目を集めています。さらに2026年4月には「V&A East Museum」の開館が予定されており、V&Aは今、ますます進化を続けるミュージアムとして話題を呼んでいます。

そして2024年には、天皇皇后両陛下がV&Aをご訪問され、その文化的価値と国際的な信頼の高さを改めて印象づけました。

その膨大なアーカイブの中から、ピープルツリーは毎シーズンいくつかの図案を選びます。選ぶ基準はシンプル。自然や花をモチーフにした、暮らしに寄り添うデザインであること。そして、その図案を現代の色と素材で再構成し、フェアトレードのパートナー生産者とともに、一着ずつていねいに仕上げています。

今季は、サテンの艶に映える19世紀英国の柄を

2025年秋冬コレクションでは、ウィリアム・モリスの代表作「アップル」と「フローラ」をもとにしたシリーズが登場します。

ピープルツリーとV&Aのコラボレーションは、2017年秋冬の初回から一貫してオーガニックコットンサテンをメイン素材に採用してきました。

今季も、これまでのコレクションの流れを受け継ぎ、V&Aが提案する数あるデザインの中から、自然をテーマにした2つをセレクトしました。

2025 A/W　アップル

柳の葉、点描されたリンゴ、アカンサスの葉が織りなす繊細な模様。1877年にウィリアム・モリスが手がけたこのデザインは、豊かさと穏やかな生命の循環を感じさせるデザインとなっています。モリスの次女であり、刺繍芸術を牽引したアーティスト、メイ・モリスが自らのアトリエをこの「アップル」で装飾したことでも知られています。英国のアーツ・アンド・クラフツ・デザインの時代を超越した魅力と、ピープルツリーの上質な生地と美しいカッティングが融合したエレガントなモチーフは、控えめでありながら個性的なスタイルを提案しています。

フローラ

ゆるやかに流れる茎と花の繊細なパターンの「フローラ」は、ウィリアム・モリスが1891年に壁紙としてデザインしました。キャリアの晩年、モリスのテキスタイルへの情熱は壁紙デザインに反映され、フローラもその例外ではありません。モリス自身、このデザインをインテリアファブリックとして新しい配色でデザインし直したほどです。

2025年秋冬コレクション

Ｖ＆Ａオーガニックコットンサテンミディドレス <アップル柄>　¥26,400

Ｖ＆Ａオーガニックコットンサテンラウンドヨークブラウス <アップル柄>　¥16,500

Ｖ＆Ａオーガニックコットンサテンジャンパースカート＜アップル柄＞　¥24,200

Ｖ＆Ａオーガニックコットンサテンシャツワンピース＜アップル柄＞　¥26,400 現在は完売しております。

Ｖ＆Ａオーガニックコットンサテンロングワンピース <フローラ柄>　¥26,400

Ｖ＆Ａオーガニックコットンサテンフリルスタンドカラーブラウス＜フローラ柄＞　¥16,500 現在は完売しております。

Ｖ＆Ａオーガニックコットンサテンフレアスカート <フローラ柄>　¥18,700

※価格は全て税込価格です。

すべてGOTS（オーガニック・テキスタイル世界基準）認証を取得。GOTS認証は、原材料がオーガニックであるだけでなく、生地の生産・加工や保管・流通のすべての過程で環境的・社会的な基準を満たした商品に与えられる認証です。働く人の健康と環境に配慮した染料を使い、オーガニック素材でかつカラフルで繊細なプリントを実現しています。

▶︎デザイナーコメント

2025年秋冬は、アーツ・アンド・クラフツ運動の主導者であるウィリアム・モリスがデザインした「フローラ柄」と「アップル柄」をセレクトしました。

どちらも自然界から着想を得たオーガニックなモチーフで、天然素材やシンプルなデザインを大切にしたモリスの思想に通じています。このテーマは、これまでのコレクションでも多く取り入れられ、長く愛されてきました。

オリジナルのデザインをデジタル化する際には、模様のスケールや色数を調整し、ファッションテキスタイルとしての完成度を高めています。スタイルは、プリントの雰囲気に合わせて、クラシックでフェミニンなラインを意識しました。

今回ピープルツリーでは、この時代を超越したデザインに敬意を表しながら、秋冬のコーディネートにふさわしい彩りを添え、アーツ・アンド・クラフツ運動のエッセンスを取り入れた繊細な色合いで新たに表現しました。

どちらも、V&Aのアーカイブに残る19世紀の壁紙図案をもとに、フェアトレードの生産者によって、なめらかで上品な光沢をもつオーガニックコットンサテン生地にていねいにプリントされています。サテンの艶が図案の細やかなラインを引き立て、光の角度によって豊かに表情を変えるたび、140年以上前に生まれたアートが今に息づいていることを感じさせます。

19世紀のアーツ・アンド・クラフツ運動を代表するこれらのデザインは、産業化が進む中で「美しいものを日常に」という思想から生まれました。その精神を今に引き継ぎ、人と自然をつなぐピープルツリーならではのコレクションとして再構築しています。

さまざまな技法で表現してきた、アートと手仕事の出会い

ピープルツリーでは、シーズンごとに多彩な技法で、アートを日常に届けてきました。

プリントを軸にしながら、職人の手彫りによるブロックプリントや、手織り・手刺繍など、クラフトの魅力を生かしたコレクションも展開してきました。

そのひとつが、2022年春夏「フローラルタイル」と「ペアーズ＆チェリーズ」。19世紀のテキスタイルや壁紙をもとに、果実を描いた「ペアーズ＆チェリーズ」と幾何学柄の「フローラルタイル」を、現代的で爽やかな色合いにアレンジしました。インドの職人が手彫りした木版を使い、一枚ずつ染め上げるブロックプリントの工程が印象的でした。

2022年春夏「フローラルタイル」「ペアーズ＆チェリーズ」

機械プリントでは表現できない、わずかなかすれや色の濃淡。それが、かえってぬくもりのある表情を生み出していました。

また、2024年春夏には、人気だった図案を色違いで再登場させるなど、お客さまの声に応えながら、少しずつコレクションを育ててきました。

アーカイブに受け継がれる、V&Aコラボレーションの魅力

長年にわたり続くV&Aとの協働からは、印象的なアーカイブが数多く生まれました。過去の人気柄やアーカイブコレクションも、V&Aとの協働の歩みを物語っています。

V&A オーガニックコットンサテンミディドレス〈ヤスミン柄〉

V&Aが所蔵する19世紀ペルシアのテキスタイルコレクションに着想を得たデザイン。黒地に鮮やかなブルーの花が咲く華やかなプリントが印象的。

V&A オーガニックコットンサテンギャザーブラウス〈エスター柄〉

古い綿織物の断片に残された小花柄を現代の色彩で再構成。

落ち着いたグレーに可憐な青い花が映える、上品なサテン素材のシリーズ。

V&A 手織りオーガニックコットンコレット柄手刺繍スカート

アール・ヌーヴォーの連続図案を手刺繍で再現。1909年の内装用綿布に描かれたプリント柄をもとに、バングラデシュの〈タナパラ・スワローズ〉が一針ずつ仕上げた、手仕事の美しさが息づくシリーズ。

V&A オーガニックコットンサテンフリルドレス〈マージー柄〉

19世紀初頭のインテリアメーカー「Miles & Edwards社」による繊細な小花柄を再現。オーガニックコットンサテンに、時代を超えて咲く庭の花々を思わせるプリントがほどこされています。

V&A ブロックプリントコットンサテンベルスリーブブラウス〈ブロッサム柄〉

イギリスの画家ジョージ・チャールズ・ハイテ（1905年）による図案をもとに、手彫り木版で染め上げたプリントシリーズ。花と葉のシンプルなモチーフを、優雅な線で表現しています。

美しいものを、日常に届けるということ

ピープルツリーが大切にしているのは、「五感と向き合う機会を提案すること」。

柔らかな肌ざわりのオーガニックコットン。サテンのなめらかな光沢。そして、歴史あるアートが身近にある心地よさ。V&Aとのコラボレーションは、そんな日常の豊かさを提案する取り組みでもあります。

アーツ・アンド・クラフツ運動がめざしたのは、生活の中に美しさを見いだし、芸術を日々の暮らしに溶け込ませること。その思想は、ピープルツリーが長年大切にしてきた健やかな暮らしへの想いと自然に重なります。

このように、V&Aのアーカイブから生まれた図案は、時を超えて人の手を経て布に映し出され、現代の暮らしに寄り添う装いとして息づいています。

素材が語る、もうひとつの物語

このコレクションに使われているオーガニックコットンには、環境と人を守る意味が込められています。

有機栽培は、慣行農業に比べて多くの温室効果ガスを土壌に固定し、土壌や水質の安全、生物多様性を守る栽培方法です。化学肥料や農薬を使わないことは、栽培する人の健康を守り、経済的な安定にもつながります。

オーガニックコットンを選ぶことは、遠い国の畑で働く人たちの暮らしと環境を守り、持続可能なものづくりを支えることでもあるのです。

だからこそ、ビジネスによって貧困問題と環境問題を解決する活動「フェアトレード」の専門ブランドであるピープルツリーは、積極的にオーガニックな素材を取り入れています。オーガニックの認証の中でもGOTS認証にこだわるのは、すべての過程で環境面だけでなく社会的な基準があり、目的を同じくしているからです。

つくる人と着る人をつなぐ

オーガニックコットンサテンのコレクションを手がけているのは、インドのムンバイに拠点を置く「クリエイティブ・ハンディクラフト」です。

1984年、ムンバイのスラムで貧困に苦しむ女性たちの経済的自立を目指して設立されたこの団体は、カーストや性、宗教の差別のない、持続可能なコミュニティづくりを目標にしています。女性たちに訓練の場を提供し、衣服や生地の生産方法から市場の仕組みまで教える。仕事の機会を提供するだけでなく、縫製の技術指導、託児所の運営、子どもたちへの奨学金のサポートなど、家族全体を支える活動を続けています。

V&Aとのコラボレーションでは、技法によって異なる生産者団体と協働してきました。オーガニックコットンのコレクションはクリエイティブ・ハンディクラフトが中心となり、ブロックプリントシリーズでは職人の手彫り技術を持つインドのサシャ・ハンディクラフトが、また刺繍を用いたアイテムではバングラデシュのタナパラ・スワローズが、それぞれの伝統技術を活かして制作に携わってきました。

ピープルツリーは、世界18ヵ国約145の生産者団体と協働し、生産背景の透明性を保ったものづくりをしています。手仕事を活かすことで、途上国の社会的・経済的に立場の弱い人々に、継続的な収入の機会を提供してきました。

手仕事は、大規模な設備投資や電力を必要とせず、現地のインフラ環境に則した方法です。そして、地域に根付いた伝統的な技法を、次の世代へと継承することにもつながります。フェアトレードは、支援ではなく共創です。対等な関係の中で、それぞれが持つ技術や文化を尊重し合いながら、一緒に良いものをつくっていく。

ミュージアムのアーカイブに眠るアートが、遠い国の職人の手を経て、日本の誰かのもとへ届く。それは、ファッションを通して文化と人をつなぐ、静かで確かな営みです。

▶︎デザイナーコメント

秋冬2017の最初のコレクションから、V&Aとのコラボレーション企画に携わってきました。V&Aが発信する展示会情報や、毎年更新されるトレンドテーマにヒントを得ながら、毎シーズン、コラボレーションのデザインを選定しています。

V&Aの専門スタッフの方々からは、いつも的確なアドバイスをいただきながら、コレクションをともに作り上げています。V&Aとの協働を通じて、アーカイブデザインの魅力を最大限に引き出し、現代のファッションとして新たな命を吹き込むことを心がけています。

アーカイブに残る図案の美しさを、現代の職人たちの手によって、フェアトレードの現場でていねいにかたちにしています。その一枚一枚が、時を越えて愛される服になることを願っています。